脅威を感じると“爪”で身を守る、ウルヴァリンフロッグ

ハンク・グリーン氏:引っ込められる爪を持つ動物はたくさんはいませんが、自然界ではさほど珍しくはありません。その代表格はネコで、何世紀もの間その爪を駆使し人間の家具に破壊の限りを尽くしてきました。

同様のタイプの爪を持つ動物は、必要に応じて爪を出し、用が済めば引っ込めます。それは淡々とした作業で痛みも伴わず、自らの体を傷つけることもありません。しかし、引っ込められる爪を使うために、恐ろしい代償を支払わなくてはならない生き物がいるのです。その生き物は、爪を皮膚の下に隠し持っています。つまり、いざ使うにあたっては、たいへん不快な目に会うことになります。

では、ご紹介しましょう。アフリカモリアオガエルです。

別名「ウルヴァリンフロッグ(wolverine frog)」としても知られるこのカエルを一目見れば、その名の由来がわかることでしょう。「毛むくじゃらのカエル(hairy frog)」という英語名は、繁殖期のオスの脚に生える毛状の繊維から来ています。変わっているのはそれだけではありません。

アフリカモリアオガエルは身を守るために爪を使います。これは別段珍しいことではありません。問題は、その爪が変わっていることです。厳密に言えば、これは爪ですらありません。そもそも爪とは「ケラチン」というタンパク質でできており、角やくちばし、人間の指の爪などを形成しています。

アフリカモリアオガエルの「爪」は、ケラチンではなくて実は「骨」です。つまり、足の骨なのです。そしてその利用法はだいぶ変わっています。

爪のように尖ったこの骨は、通常の骨と同様、表皮の下に隠れています。そのため、アフリカモリアオガエルが脅威を感じた時には、身を守る方法はただ一つ。表皮を突き破って、表に出てくる必要があるのです。どうです、ぞっとするでしょう!

“爪”を出すために払う、多大なコスト

ハーバード大学の研究チームは、標本を使ってこの不思議な「爪」が働く仕組みを調べました。すると、この「爪」は骨の結節の結合組織に付随していることがわかりました。カエルが身の危険を感知すると、「爪」は結節から外れて、表皮を突き破って飛び出します。

カエルが普通に跳ね回っても、跳ねる時に縮む屈筋に阻まれるため、「爪」は飛び出すことはありません。しかし、いざ「爪」を出せば、外敵を蹴って相手に多大なダメージを負わせることができます。しかし「爪」を出すには、多大なコストを払う必要があります。自分の体を傷つけることになりますし、かなりの大怪我です。

カエルがどうやって「爪」を引っ込めるか、どのように怪我が治るかを調査するのは、少々困難です。研究対象が生きたカエルではないため、引っ込める仕組みを調べようがないのです。生きたカエルは、「爪」を足から出したり引っ込めたりできるようですが、果たして自由意思なのか反射的なものかもわかりません。さらに、「爪」を引っ込めた後に表皮が治癒するかも不明です。

しかも、実際にカエルが「爪」を出し入れする様子を観測した研究者はいません。「爪」が骨の結節に元どおりに結合するか、「爪」を再度出す時に再び自傷することになるかどうかもわかっていません。

研究をさらに難しくしているのが、他に同じような構造を持つ生き物がいない点です。近い仲間では、危険が迫ると肋骨が皮膚を突き破って出てくるイモリがいるのみです。

つまり研究して比較検討できる生き物もいないのです。皮膚の「下」に爪を隠し持っている生き物は、わかっている限りではアフリカモリアオガエルだけです。