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第一部:パネルディスカッション(全2記事)

組織の慣性が生む「従わなきゃ…」に勝つための“群れ”の形成 「やりたいこと」を同調圧力に屈して変えない“大きな塊”の意義

事業環境の変化、生活者ニーズの多様化やDXによるビジネスプロセスの変化など、多くの企業で「変革」が求められる昨今。過去の成功体験がものをいう時代から変わりつつある現代社会において、変革を実現するヒントは「現場」にあります。ただ、現場の生産性・創造性・働きがいを高め、変革を実現する組織カルチャーづくりを推進する施策の一環で1on1を導入する企業が増えていますが、「対策として1on1を行うが、なかなか組織の状態が改善されない。」「ただでさえ多忙なミドルマネジャーは疲弊をしている」「部下からもネガティブな意見が上がっている」といった、葛藤を抱える企業は少なくありません。そこで、変革を実現する組織カルチャーづくりを推進してきた、日本たばこ産業株式会社・古川将寛氏とヤマハモーターエンジニアリング株式会社・村松浩義氏に、エール取締役 篠田真貴子氏が「現場のコミュニケーション改革と1on1活用の実態」などについて話を伺うイベントから、本記事では第一部:パネルディスカッションの模様を公開します。

1on1で「話を聴かれた機会」が養う「聴く力」

榎本佳代氏(以下、榎本):今回はお申し込みの段階から、さまざまな課題を掲げてお越しいただいた参加者の方が多数いらっしゃいます。(スライドを指して)その課題を一部抜粋して載せております。

一番ご要望として多いのは「組織開発」や「風土改革」について。(「組織開発」については)「社内での信念対立をどうすれば良いのか」「『背中を見せて育てるスタイル』を上司の方々が取っていて、なかなか(難しい)」「業務の効率化が進んで技術を伝える機会が減ってしまった」。

「教える仕組みが作りづらい」「若手は褒め合うことや、個性を認めることを求めてきている中で、現場の上司は黙って命令に従うことを望み、自分たちもその中で育ってきたためどうすれば良いのかわからない」などのお話をいただいています。

「組織風土改革」としては、「人事・企画・総務などではなく、現場からどういうふうに起こしていけば良いのか」といった課題も寄せられております。

また「1on1スキル」について、「スキルのバラつきである」「自分自身がきちんとできているかどうか不安だ」「1on1スキルについて知りたい」などのご意見もいただいています。さらに「ビジョン浸透」「新規事業推進」等々で、課題や悩みをお持ちの方もいらっしゃいますので、本日は少しでもヒントをお持ち帰りいただければと思っています。

会に先立ちまして、本日のウェビナーを主催しております当社、エールの説明をさせていただきます。私たちは、オンラインで1on1を実施するサービスを行っております。社外の副業人材が、各会社さまの社員の方々と週に1回、30分の1on1を行っていきます。

業務と関係ない第三者に自分についての話をすることが、今持っている仕事を抽象化し、目的を捉えなおす機会となるんですね。そしてこの「聴かれた機会」が「聴く力」を養い、組織のレジリエンスを高めていく。私たちは、利害関係のない第三者との1on1が、目的を理解して当事者意識を養う「抽象化力」と「対話力」を養うと考えております。

この「抽象化力」と「対話力」があれば、「ミッション・ビジョン・バリューの浸透」「D&Iの促進」「対話文化の醸成」「自律人材の育成」といった、さまざまな組織の課題に対応していけると思っております。

その中でYeLLは、主に「管理職の1on1の向上」「組織変革の推進」「自律人材の育成」などの目的でご利用いただくことが多いです。

「個の力を引き出す組織づくりと『1on1』」

榎本:今日は、日本たばこ産業株式会社の古川さん、そしてヤマハモーターエンジニアリング株式会社の村松さんをゲストにお呼びしまして、篠田さんのモデレートの下、「個の力を引き出す組織づくりと『1on1』」というテーマでお送りします。

第一部では、現場の生々しいお話をリアルにお話しいただきます。そして第二部は、みなさまのお話を踏まえた上で、(エール株式会社 代表取締役の)櫻井(将)さんがあらためて「今、求められる組織の1on1とは」といったテーマでまとめていきます。

では、本日のゲストをご紹介します。日本たばこ産業株式会社の古川さんは、たばこ事業で営業や商品開発、グループ経営管理や経営戦略策定に携わった後、たばこ事業全体の人事チームで組織開発やリーダー育成のプログラムをリードされてきました。

今年(2021年)の秋からはグローバルのコーポレートコミュニケーションを担当されていらっしゃいます。今日はジュネーブからご参加いただいていて、今、朝の5時だということです。本業の傍ら、JT社員のさまざまな挑戦を後押しする有志団体も立ち上げていらっしゃいます。延べ1,000人を超える有志団体で、社内外のさまざまな人と人とをつなぎながら、個人の挑戦を組織知に還元していく実践をされています。

もう1人、村松さんはヤマハモーターエンジニアリング株式会社でモーターサイクルや船外機、産業用無人ヘリコプターなどのエンジン開発のプロジェクトを担当されています。エンジン設計のグループリーダーとして開発部門のマネジメントを現場で行いながら、数年前より「やりがいナンバーワン」の職場を目指して組織開発、人材育成などに注力されています。

お話を聞く中で、「現場から変えていくんだ」という思い(が強く感じられます)。そして、数年前から始められた取り組みによって、「今の(自分が)あるんだ」と話してくださいました。この村松さんの取り組みを、今日はみなさまお持ち帰りいただければと思います。

それでは篠田さん、古川さん、村松さん。パネルディスカッションを開始してください。

約45名のチームである、エンジン開発部門のグループリーダー

篠田真貴子氏(以下、篠田):榎本さん、ありがとうございます。村松さん、古川さん、よろしくお願いいたします。

村松浩義氏(以下、村松):お願いいたします。

古川将寛氏(以下、古川):よろしくお願いします。

篠田:ご参加のみなさま、ありがとうございます。あらためまして、エールの篠田です。今日はヤマハエンジニアリングの村松さんと、日本たばこ産業の古川さんをお迎えしました。(お二人は)現場にかなり近いところで組織変革を進められて、たくさんの打ち手の1つとして「YeLL」も活用くださっています。

エールの話にフォーカスするよりも、全体像を中心にお話をうかがっていきます。これによって、今日ご参加のみなさまが持ち帰ることができる知恵を、一緒に見つけていきたいと思っています。お二人の所属や関心、ご活動に関しては先ほど榎本さんからお話がありました。その一歩手前に戻りまして、そもそもご所属の部署は、どういう事業を行っているのかを教えていただきたいと思います。

まず、村松さんからお願いできますか? エンジニアリングとは何をやっている会社で、このグループは何をやっているところと理解すれば良いでしょうか?

村松:社名にもあるように、我々はヤマハ発動機、オートバイなどを作っている会社のグループ会社で、100パーセント、エンジニアリングの会社になっています。

工場などは一切持たずに、ヤマハ発動機さんから開発の業務を請け負って、オートバイや船外機、ちょっと変わり種で無人ヘリコプターなんかもやっています。名前のとおり、私はエンジンの開発部門のグループリーダーとして開発の推進などをしております。

篠田:ありがとうございます。今グループにはどれくらいの人数がいらっしゃるんでしょうか?

村松:会社全体としては450名ぐらいで、私のエンジン設計グループはだいたい、派遣の方も含め45名ぐらいですかね。

篠田:じゃあ今日お話しくださるお取り組みは、基本的にこの45人のチームとしてなさっていることなんですね?

村松:はい。

幅広い業種の方々が対象とした、たばこ事業全体の人事

篠田:ありがとうございます。では古川さん。「たばこ」というものはみんな知っていると思いますが、「たばこ事業って何をやっているの?」というところは、意外とわからないと思います。まずはそのあたりから教えていただけますか?

古川:弊社の場合は、バリューチェーン全部を持っているような状態になっていまして。研究開発から原料の調達、そこからたばこを作っていくところ。そしてそれを、マーケティングなどをしながら配送して、お店に・お客さまに届けるというところまで、すべてを持っております。

私は今ちょうど海外にいますが、JTの場合、海外子会社とはまた別のかたちになっているので、これは日本国内に限定した話とご理解いただければと思います。

篠田:ありがとうございます。古川さん、そのバリューチェーン全体の人事をやっていらっしゃったと。

古川:そうですね。たばこ事業全体の人事をやっていました。

篠田:なるほど。そうすると、かなり幅広い業種の方々が対象となりますよね。

古川:本当に研究開発の方もいれば、テクニカルエンジニアといって工場の製造機などを扱う方もいれば、外回りで営業をするような方もいる。本当に多種多様です。

篠田:ありがとうございます。そういった意味で、村松さんと古川さんは(お取り組みの)対象にされている事業、現場が違いますよね。村松さんのところは、どちらかというと専門家集団といった色合いが強いんでしょうか?

村松:はい。そうですね。

「今の課題を解決するには、自分が動かないといけない」

篠田:ありがとうございます。今日の主なテーマは「組織開発」「組織風土の改革」ですが、お二人に、この課題が出てきた背景をおうかがいしたいと思います。

会社全体のオフィシャルな(課題)というよりも、それぞれがご覧になって(個人的に)「これはちょっと手を付けたいな」と思われたご状況とはどういうものだったのか。また村松さんからうかがってもよろしいでしょうか?

村松:ちょっと長くなっちゃうかもしれないですけど。

篠田:どうぞどうぞ。

村松:10年ぐらい前から世間一般で「働き方改革」がスタートして、我々の職場でもやはりそういった取り組みを始めました。最初は「時短」とか「労働生産性向上」などを目指してやっていました。

でもそれだとどうしても、ある程度経ったところでギスギスしてきてしまいまして。お恥ずかしい話ですが、メンタル不調者なども出てきてしまったりして「このままじゃいけないかな」というところで方向性を少し変えました。

個々の特色を活かしたり「それぞれモチベーションを得るものが違う」ということを理解した上で、それを積み上げてやりがいを高めていく。この方向に舵を切ったのが、だいたい5年ぐらい前で。そこからのスタートになっています。

篠田:今おっしゃった「個々に着目しないといけないな」と方向を変えられたのは、村松さんがそうお考えになって、ご自分のチームに実践しようとされたんでしょうか? それとも全体としてだったんでしょうか?

村松:そうですね。当時、実はもうちょっと人数は少なかったんですが、ほぼ1人で組織を見ていたので、(いろいろな課題が)全部が自分のところに来てしまう部分もありまして。そうですね、私が「今の課題を解決するには、自分が動かないといけないかな」と感じたということですね。

当時の現場は自分の言葉で説明できず、目の輝きもあまりない状態

篠田:ありがとうございます。古川さん、今のお話を聞かれていかがですか?

古川:「(自分と)同じような境遇でやり始めたんだな」って思いました(笑)。

篠田:村松さんのお話のどのあたりで、そうお感じになったんでしょうか? 

古川:最終的に「個」に行き着くのが、「そうだな」とすごく思いました。また、上から言われたからではなく、もうちょっと内発的に村松さんがお考えになってやっていったというところも「まさにだな」と思いまして。

篠田:では古川さんの中で「内発的な何か」とか、「個を見なきゃ」といった問題意識が芽生えたご状況をうかがっても良いでしょうか?

古川:JTって、まあまあ大きい会社なんです。

篠田:すごく大きいイメージがあります(笑)。

古川:けっこう上からいろいろと、大きなビジョンというか「戦略はこうだ」というものが落ちてきたりするんです。それを浸透させるための施策も、よく本やネットに書かれてるような話はだいたい試しているんですね。

ですが当時現場にいた私から見て、社員のみんなが元気というわけではないんですよね。自分の言葉で説明できないし、何がやりたいのか(もわからず)目の輝きもあまりないような状態でした。「どうにかしなきゃアカンな」と思ったのが、大きなきっかけですね。

篠田:古川さんは大きな事業部の人事という場所にいて、周りを見た時に今お話しくださったようなことを感じられたと。

古川:あと、先ほどの私の紹介でもありましたが、有志団体みたいなものを立ち上げていまして。それは「人事だったから」というよりは、私が営業の現場にいた時に有志団体を立ち上げて、2016年頃からやり続けていたことが、今のエールさんとの取り組みにつながった感じですね。

篠田:そういう意味でいくと、着手された時期も(村松さんと)近いですね。

古川:そうですね(笑)。

まず第一歩として「お互いを知る、理解すること」が必要だった

篠田:今「会社全体としてもそういう方針があった中で」と古川さんがおっしゃっていました。村松さんのところも健康経営には、かなり力を入れていらっしゃいますよね?

村松:そうですね。ここ数年の流れや風潮もありますので、そう(健康経営に注力していると、周りから)言われております。

篠田:あくまで外から見た印象ですが、両社とも会社全体の取り組みとして、わりと「組織」とか「人」というところに、かなりコミットされる会社ですよね。

でも実際に現場にいたお二人は「ちょっとこれではな」というギャップを感じられたんだと思います。その状況の中でお二人は、言ってみれば「力のおよぶ範囲の中でやることをやろう」とされたんだと思います。

村松さんは、浜松にある組織開発の支援をする会社を招いて、さまざまな取り組みに着手されたと以前おっしゃっていました。実際「こんなことをやりました」という事例をいくつかお教えいただけますでしょうか?

村松:(はじめに)個々を尊重し、許容する力が必要だなと思って、「ダイバーシティー&インクルージョン」について、いろいろ調べていきました。

そこで「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見など)」というワードを初めて知りまして。その言葉をつてにいろいろたぐっていくと、ある浜松の会社さんのところに行き着きました。そして、まずはアンコンシャス・バイアスというものをあらためて知ることから取り組ませてもらいました。

あとはやはり「対話」をテーマに、コミュニケーションすることの重要性にフォーカスした研修などを実際にやってもらったりしています。

篠田:「アンコンシャス・バイアス」とか「コミュニケーション」は、「D&I」の文脈から入る概念だと思うんですが、D&Iというテーマが気になるようなご状況だったんですか?

村松:そうですね。先ほどメンタル不調者の話も出しましたが、単純に職場の課題・問題だけではなく、ご家庭の都合やいろいろな(事情があったり)……。

言葉が適切かわかりませんが“訳あり状態”な話がいっぱい出てきまして。(ご本人たちも)そういったことを公言しづらい状況も、やっぱりあったと思います。受け入れる側もそういうものを特異な目で見ないようにするために、(社内風土を)まず変えていく必要があるのかなと思いました。

篠田:なるほど。

村松:そういう人たちは、やっぱり仕事も早く切り上げて帰らなきゃいけない。でも、周りの人たちに負荷がかかるので、バランスも整えなくてはならない。だからまず第一歩として、お互いを知る、理解することが必要だと感じました。

篠田:なるほど。一般にD&Iに関心がいく理由は「女性の比率を上げよう」とか「外国人の仲間が増えたから」ということが多いんですが、そうではなく、本当に具体的な職場の課題を目にして、解決策としてD&Iの手法を調べていったと。

「失敗が許されない」「経験を積めない」といった大きな課題

篠田:もう1つ。冒頭に、今日ご参加のみなさまの課題の紹介がありましたが、その中に技術の伝承として「上司にあたる方々はまさに『俺の背中を見て覚えろ』方式で育ったけれども、若手はそうではない」というお話がありました。村松さんの職場でもそういうご状況が見られたんでしょうか?

村松:そうですね。若干はありますが、そこまで極端な感じはなかったと思います。でもやはり、どんどん開発のプロセスはスリムになっていますね。

今は「効率を上げましょう」と、どんどん失敗が許されなくなっている。この「失敗が許されない」「経験を積めない」などが、ここ数年ではなく、10年近く大きな課題だと感じています。

我々の時代では経験できた、極端に言えば「物を作っては壊す」みたいなことを、どうやって若いメンバーに伝えるか。これがなかなかできないものですから。「どうやって擬似的に体験させよう」だとか「どうやって我々の経験知を伝えようか」といった取り組みは、また組織開発とは別で行っていますね。

篠田:なるほど。そういった仕事環境の違いが、当然、組織のありようにダイレクトに響いてきますね。「失敗してOK」と言われるか「ダメ」と言われるか。これはかなり大きな違いですよね。

JTさんは、かなり若手に着目したお取り組みをされてきたと思いますが、古川さんがその考えに至ったプロセスをお聞かせいただけますか?

古川:弊社の人口動態上、何回かリストラをしていたりするんです。それで、今、会社のそれぞれの部署の中枢を回している人たちは、だいたい30~40歳ぐらいの人なんですね。このあたり(の層)が脂がのっていて、メインで活躍していますね。

なので、その人たちの内発的な行動変容が起こることによって、会社が変わるんじゃないかなという考えがありました。それが考えのプロセスになります。

あと、村松さんのお話がおもしろ過ぎて「そうだよな」と思いながら聞き入ってしまいました(笑)。

アンコンシャス・バイアスに負けないための「群れ」の形成

篠田:(笑)。古川さんにとって、村松さんのお話のどのあたりがおもしろかったんでしょうか?

古川:いや「アンコンシャス・バイアスへいくのか」と思いまして。本当にそうですよね。僕もめっちゃ勉強したんですよ。

篠田:そこをちょっと聞かせていただけますか? やっぱり「そうですよね」って感じになるんですね。

古川:なりますね。アンコンシャス・バイアスって、少し前に流行り始めて。そこからみんな勉強していますが、なかなか広がらないんですよね。絶対に認知しなきゃいけない前提条件で、会社にちゃんと浸透させなきゃいけないんだけど、それがなかなかうまくいかなくて。

「アンコンシャス・バイアスだよ」ってカタカナを言ったって誰も聞きはしないので、それこそまさに、対話をしながら個を尊重しながらやっていかなきゃいけないなと思っています。

篠田:なるほどですね。

古川:特にそれがアンコンシャス・バイアスかどうかはわからないですけど、ある意味、日本人特有というか、同調圧力みたいなものがやっぱりある。どうしても組織の慣性が働いて(同調圧力が)起きてくるんですね。

さっき村松さんも「健康的じゃない」とおっしゃっていましたが、「健康経営」だとか「人の話を聞くんだ」とか「忍耐で最初の10分は人の話を聞け」とか、さんざんやっているんです。でも、やっぱり心の底で同調圧力に負けるというか、従わなきゃいけないみたいなのがすごく働いていて。

そこには組織の同調圧力だけじゃなくて、それこそジェンダーだったり、ご家庭の事情だったり、いろんなことがさらに混ざってくる。

先ほど「個々の尊重」の話がありましたが、弊社の場合は「群れ」を作らせているんですね。アンコンシャス・バイアスを知ったとしても、やっぱり負けちゃうので。弊社では「それだったら群れろ」と言っているんです。

篠田:「群れ」。

古川:要は「自分がやりたいことが、アンコンシャス・バイアスに負けないように、川に流されないように大きな塊となってせき止めろ」と。

篠田:なるほど。例えて言うならば、一粒一粒の砂だと流されてしまうけれど、みんなでスクラムを組んで岩になれと。

古川:そうです、そうです。

篠田:その場合のアンコンシャス・バイアスは、先ほどありました世代間のお話ですか? 言ってみれば「若手はまだまだである」とか「若手の提案が軽んじられる」とか、そういった年齢バイアスだと理解すれば良いですか?

古川:そうですね。あと、実際に現場で見ていて思うのは、若手が上の人に流されちゃうんですね。実際のところ、流されてちょっとホッとしている若手もいるんです。

篠田:なるほど。

古川:さっき村松さんが「経験が積めない」「失敗ができない」とおっしゃいましたが、弊社でも同じような状況が生まれています。「経験を積んで良いよ」「失敗して良いんだよ」と上の人たちが言ったとしても(若手は)別に積もうともしない。

いや、積もうとするような“ふり”はするんです。“ふり”って言い方はちょっと失礼なんですが、実際に若手は行動しようとはしても、アクションにまでいかなかったり。アクションしたとしても続かない、みたいなことがけっこうあるんですよね。

ハンデや“訳あり”を、チーム内でどれだけ共有・カバーできるか

篠田:なるほど。今のお話を聞いて、村松さんはいかがですか?

村松:そうですね。若手に関してはすごく同感です。冒険しない場面はけっこう多いですよね。顔色をうかがいながら「これで良いですね?」と聞いてきますので。

古川:(笑)。

村松:そこらへんはその都度、場合によっては突き放したりも含めて、いろんなさじ加減でやっていますね。先ほど「群れ」とおっしゃったのは、やっぱりチームという意味合いですか? それとも……?

古川:グループみたいなものですね。部門や所属など関係なしに「自分がやりたい」「自分がこういうことに挑戦したいんだ」というような旗を立てて、その旗にみんなが群がってくる方式ですね。

村松:そういうのができるとすごく理想的ですね。我々はどうしてもエンジン・車体みたいな壁があったり、設計・実験みたいな壁もあったりするので、なかなかそういうことが仕事の流れ的にも難しいんです。だからそういったものはすごく、憧れってわけじゃないですけど「できたら良いな」と思ったりしますね。

我々はどちらかというとアンコンシャス・バイアスというか、ハンデや訳ありをチーム内でどれだけ共有・カバーできるかみたいなところが大きくて。

やっぱりすごくうまくいっているチームはそういった、下手をするとあまりしゃべりたくないような内容でもお互い共有して、限られた人同士だけかもしれないですが、うまく仕事も融通を利かせながらやっているんですね。その意味では、少しずつそういった投げ掛けも効いてきているのかなと思う場面も、たまに出くわしたりしますね。

古川:村松さんがおっしゃっている、同じエンジン設計グループ45名の、縦のつながりというかワンチームみたいなところ。その縦のファイバーと我々がやっているような横のファイバー(両方必要なんですよね)。ファイバーたっぷりだと、言い方は悪いかもしれないですけど、ウェッティーな組織だったりする。

ウェッティーというのは、より対話が生まれたり、(お互いに)本当に尊重するという意味です。やっぱり「どれか1つ欠けても型落ちなんだろうな」と今、うかがいながら思いまして。

たぶん、全部一緒にやっていかないといけないんですよね。「日本企業は、いろんなことをやっても組織がうまくいかない」とよく言われますが、「全部やらないとうまくいかないんでしょうね」と今思いました。

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