LINEが実施している2タイプの「ユーザーリサーチ」

寶野結斗氏:では、発表を始めたいと思います。私からは、プロトタイプを使ったオンラインUXリサーチの試行錯誤についてお話しさせていただければと思っています。

まず簡単に自己紹介させていただきますと、寶野結斗と申します。2018年にLINE株式会社に入社して、現在はLINE企画センターでPMをしています。これまでいろいろなサービスを担当してきましたが、最近リリースされた機能としては、トーク内でやり取りしているメッセージに絵文字でリアクションできる機能のPMを担当しました。本日はよろしくお願いいたします。

コンテンツとしては、前半でLINEで実施しているユーザーリサーチについて簡単に紹介し、後半でコロナ禍でのプロトタイプを使ったUXリサーチについてお話しします。

LINEで実施しているユーザーリサーチは2種類あります。「定期リサーチ」と「プロジェクトリサーチ」です。定期リサーチはチーム単位で行っているものと、組織単位で行っているものの2種類あります。弊社ならではのところでいくと、LINEはグローバルサービスなので、日本以外のタイ・台湾・インドネシアを対象にした「グローバルユーザーリサーチ」を年に1回実施しています。

プロジェクトごとに実施しているリサーチとしては、下のようなプロダクト開発サイクルがあると思いますが、企画・デザイン・そして分析フェーズでリサーチを取り入れています。

これらのリサーチは、社内のリサーチチームと協業するものもあるんですが、先ほどのプロジェクトの中で取り入れているような小中規模なリサーチは、PMが必要と判断したタイミングで主体的に実施しているのが特徴的です。

コロナ禍で直面した、オンラインUXリサーチの必要性

UXリサーチの手法は、「ゲリラインタビュー」「フォーカスグループインタビュー」「一対一インタビュー」の3種類のインタビューをしています。クイックにやるものから、より課題を深堀るものまで、用途によって使い分けている状況です。

コロナ前まではこういったオフラインでのリサーチをしていたんですが、コロナの到来によってオフラインでの実施が難しくなりました。ただ一方でプロジェクトを進行していく上では、UXリサーチが必要不可欠なので、オンラインへの移行を模索しました。

コロナ前までは、オンラインユーザーリサーチはほとんどしたことがなかったので、社内の環境が整っていなくて、小規模なものから大規模なものまで、本当にさまざまな課題に直面してきました。1年半くらいかけて、これらの課題について対応しながら、社内環境の整備を進めていったんですけども。

本日はこれらの課題の中から、検索してもあまり出てこなかった「オンラインでプロトタイプを使ったリサーチをどうやってやっているのか」について、LINEが模索してきたことと、学んだことをお話ししようと思います。

ルールの整備を進めつつ、苦肉の策で試みた手法

オンラインユーザーリサーチをする上で必要なオンラインツールですね。例えばプロトタイプツールのリンクをユーザーさんに共有したり、Zoom画面のリモート操作機能のようなオンラインツールはこれまでルールがなかったので、まずルールの整備が必要でした。

その整備は時間がかかる一方で、プロジェクトを進行していく上でのタイムラインとは合わないため、整備するまではオフラインでのルールに従って、オンラインでのユーザーリサーチをどうやるのかを模索してみました。

苦肉の策ですが、ファーストトライとして試したものは「Screen sharing method」と呼ばれるものです。どういうものかというと、インタビュアーがプロトタイプを画面共有して、口頭で操作を指示してもらう方法になります。

ユーザーさんが実際に手元で操作するわけではないので、果たしてこれでユーザビリティの検証ができるのか、とても不安でした。ただ実際にやってみると、シンプルなUI/UXについては、これでも十分評価可能かなというのが感想になります。

シンプルなUI/UXがどういうものを指しているのかというと、例えば要素の少ないUI画面のボタンの位置を変えたり、UIの方向性が違うAパターン・Bパターンについて、どちらの方向性が良いのかというものです。これらに関しては、評価可能かなと感じています。

一方でユーザーが自分の意志で自由に触れることはできないので、複雑なUI/UXの検証や、Aパターン・Bパターンの「Aパターンでいきます」となった場合に、そのAパターンをよりブラッシュアップするためのUIの課題の発見に関しては、向いていないことがわかりました。

ユーザーの指の動きだけでは発見できない課題

複雑なUI/UXの検証をするには、やはり手元の様子も見ることが必要不可欠とわかったので、改善を行いました。この改善の段階では、プロトタイプのリンク共有は社内のセキュリティ審査が通って使えるようになったので、セカンドトライとして「kakaekomi method」というものを試してみました。

これはプロトタイプのリンクを共有して、ユーザーさんが操作をしている様子をご自身のPCのインカメで写してもらう方法になります。名前の由来は、左下の実際に操作している様子から取りました。

実際にやってみての感想なんですが、やはり指の動きがわかるので精緻なチェックが可能になります。ユーザビリティチェックという観点だと、8割くらいは評価できるのではないかと思っています。

一方で、ユーザーの表情が見られないことはけっこう大きな課題でした。例えば「指の動きが止まった」「誤タップをした」といった、明確なユーザビリティ課題はこれで発見できます。ただ、オフラインの時に発見できていたような「指は動いているけどユーザーの表情が曇っている」という場合は、ユーザーが迷っているので、ユーザビリティという観点では良くないと思うんですね。

これまでオフラインで見つけられていた、ユーザーの表情から読み取るようなユーザビリティの課題が抜け漏れてしまう部分は課題かなと思っています。

環境を揃えることが限定的というところで、PCとスマホの両方が必要になるので、そもそもこのユーザーテストに参加できる人は限定的です。さらにPCを持っているユーザーになるので、リテラシーの偏りも出てきてしまうのではないかと考えています。

正解がないなら、完璧でなくても動き出すことに意味がある

ここまでがトライした内容にはなるんですけども、その内容を一旦まとめたいと思います。トライした感想としては大きく3つあります。1つ目がとても重要な内容だと思うんですが、完璧じゃなくても動き出すことに意味があるなと思いました。

というのも、オンラインでのユーザーリサーチ環境を整えてからリサーチする方法もあったと思うんですね。ただ、コロナ禍でのオンラインユーザーリサーチはこれまで誰も経験したことがなく、かつ明確なベストプラクティスを知っている人は誰もいないと思うんですね。

そういったものに関しては環境を揃えてやるよりは、まずは動き出してみる。そこから改善していくやり方のほうがとても学びがありますし、長期的に見た時に効率的なのではないかと感じました。

学んだ内容としては、オフラインで実施していたようなリサーチは、オンラインに完全に移行して検証することはできないと思うんですね。ただ、検証したい内容によってはオンラインでも十分リサーチ可能だとわかったのは、とても大きな学びでした。

一方で、非言語コミュニケーションの役割の大きさに改めて気づかされました。ここをどうクリアしていくのかが今後の課題だと思っています。

オンラインとオフラインを組み合わせた課題解決策を模索

それを踏まえた上で、これからやってみたいことを最後に紹介します。内容としては、セカンドトライで出てきた課題です。「ユーザーの表情を見ることができない」「環境を揃えられる人が限定的」という課題になります。

オンラインでこれらの課題を解決できるベストプラクティスは、今のところ見つかっていませんが、コロナが収束に向かっている今、オフラインとオンラインを組み合わせることによって、この課題を解決できるのではないかと思っています。

最後にサードトライとして、「Hybrid method」を紹介します。これは、リサーチルームにユーザーだけに入ってもらって、インタビュアーはユーザーの表情とプロトタイプの操作の様子が映し出された画面を見ながら、Zoomで質問するやり方です。

この方法を取り入れることで、プロトタイプを操作している時の手元だけではなく、表情を確認できます。あとは、インタビュイーのデバイス環境に依存しないので、ユーザーのリテラシーの偏りも下げられます。

コロナ禍における重要な要素として、ユーザーの安全の確保があります。この場合はリサーチルームにいるのはユーザーさんだけで、対面での接触もないので確保できるかなと思います。LINEでは今、四谷オフィスにリサーチルームを準備中です。準備ができたタイミングで、最後のハイブリッドメソッドを試してみたいなと思っています。

ということで、最後に。本日はLINEで実施しているオンラインUXリサーチの方法について共有させていただいたんですが、このあとみなさんが試してみたオンラインUXの手法についても、ぜひ教えていただければなと思います。ご清聴ありがとうございました、以上になります。