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「儲け」よりも「楽しむこと」伝統企業『能作』の挑戦 -年商15億円 ”踊る町工場”の「しない」経営(全4記事)

伝統産業は「守る」のではなく、「攻める」からこそ維持できる 創業105年の老舗メーカー社長が貫く、独自の経営スタイル

海外からも注目されている、富山県の老舗鋳物メーカー、株式会社能作。「儲け」よりも「楽しむこと」を優先させるその経営スタイルは、伝統産業、職人、日本の町工場のイメージに新たな風を吹き込んでいます。能作の社長である能作克治氏が登壇したイベントでは、日本企業が成長し続けるためのヒントを探ります。本記事では、伝統産業でありながらも能作が「攻め」の経営姿勢を貫く理由を語っています。

「儲け」よりも「楽しむ」、創業105年の鋳物メーカー

能作克治氏(以下、能作):みなさんはじめまして、能作と申します。よろしくお願いいたします。本当は東京に行って話したほうがよかったんですけど、私もZoomにだいぶ慣れてきたということもありますし、今回はZoomでやらせていただこうかと思っております。

まず、本講座のタイトルで「儲け」よりも「楽しむ」という言い方をされていましたが、確かにそうなんですね。楽しいことをどんどんやっていきたい、というのがうちの会社の取り組みで、何でそんなことを始めたかなどを現状やっていることも含めて、だいたい1時間半くらいお話をさせていただきたいと思います。

まず、うちの会社は創業が1916年。ちょうど今年で105年を迎えます。本社は富山県高岡市にあるんですが、東京は千代田区の丸の内のパレスホテルに小さな事務所とお店を出させていただいています。

現在は国内に直営店が13店舗あり、東京にも4店舗あります。日本橋三越店と、路面店のコレド室町テラス店、それからパレスホテル東京店、松屋銀座さんと、今は東京に4店舗を持っております。コロナでかなり影響はあったんですが、影響があったぶん他でがんばったので、ほとんど売り上げを落とすことなく来れました。

会社の規模のわりに直営店が多い理由は、やはり伝統のものづくりを伝えて販売したいという気持ちからなんですね。直営店にはうちの社員が立ちますから、伝統のこととか、富山県高岡の地域のこと、職人の気持ちなどを製品にすべて付けて説明して買ってもらう売り方をしています。

司会者:本日の参加者の方から、「何度も東京のお店を訪問させていただいています」と、さっそくコメントをいただきました。

能作:最近は東京でお酒を飲もうと思ってお店に入ると、かなりの確率でうちのビアカップやぐい呑があるので、非常にうれしいんですね。

司会者:実は私も買わせていただきました。ビアカップは持っていないですが(笑)。

高岡市で鋳物産業が盛んになった、歴史的な背景

能作:高岡は昔から鋳物が盛んだったかというと、実はそうではありません。石川県の金沢、かつての加賀藩の二代藩主の前田利長が高岡にお城を築きに来られた時に、高岡にはぜんぜん産業がなかった。なので大阪から鋳物師(いもじ)を7人連れて来て、特権階級を与えて根付いたのが鋳物の産業。高岡銅器と言われたものです。

ですから、高岡は富山県の西のほうに存在しているんですが、文化的には石川県と同じですね。加賀藩の古い伝統がそのまま受け継がれている場所になります。左上にある写真は、富山県で唯一の国宝の瑞龍寺。その下は鋳物で作られた高岡大仏です。

これは日本の三大仏の3番目と言われているんですが、実は全国に3番目の大仏がたくさんありまして、そのうちの1つだろうと思っていただいていいのかなと思います。

富山県でも西の地区は、伝統産業もたくさんあるし歴史文化もあるんですが、富山市など東のほうに行くとお殿様が違うので、文化がまるで違う地域なんですね。

うちの会社がやっているのは鋳造という鋳物の仕事です。「鋳物って何ですか?」と聞かれることがよくあるんですが、溶けた金属を型に流し込むことを「鋳造」、できたものを「鋳物」と言うんですね。

高岡銅器と言うぐらいなので、高岡で一番多いのは真鍮(しんちゅう)。だいたい1,200度で流し込んでいます。最近うちで非常に好調なのが錫(すず)なんですね。

真鍮は煙も上げているので迫力があるんですが、錫は見たとおりドロンとしているだけなんです。どっちかというと“ターミネーター風”な感じで、融点も非常に低いんです。231度で溶けちゃう。それが錫の100パーセントの特性なんですね。

花が倍近く長持ちする、抗菌作用のある錫の花瓶

能作:現在作っているものは、こういうふうにデザインを取り入れています。真鍮製の風鈴、それから「そろり」という花入れなんですが、実はこれは平安時代から使われていた形なんです。

もともとは真っ黒な色だったものを、あえて真鍮色と銀メッキに変えました。そうすると、昔は売れなかったものがいろんな環境に合うということで、今、製品として蘇っています。これを「リ・デザイン」と言います。

今は海外展開もやっているんですが、おもしろいのが、外国人の好きな色と日本人の好きな色がぜんぜん違うところです。日本人は銀色、それから黒と白が大好きなんですね。お葬式の色が大好きなんです。海外の方は金、赤、青。結婚式の色が好きなんですよ。

100パーセント錫のうちの錫製品は、柔らかい金属なので曲がってしまいます。ですからあえて曲げて使えるということで、これはKAGOという製品で、鍋敷きみたいなものを上に引っ張り上げるとかたちが変わるようになっています。

錫の特性としては抗菌作用があるので、このようにフラワーベースを作ったりもしていますね。どうしてかというと、お花の切り口に雑菌が付かないんですね。なので、「花が倍近く持ちました」という言葉も頂いたことがあります。そういう特性のある金属です。

40代以上の日本人女性に多い、原因不明の病

能作:最近はもう1つ、医療機器の開発もやっています。これは6~7年前に始めたんですが、最初は医療機器製造業登録証を取得して作ったんです。でも、医療器具の製造免許だけだと、商社さんと話をしても名前が出ないわけですよ。完全に下請けとしてのOEMになってくる。

能作というブランドで作りたいと思ったものですから、4年前に第三種医療機器販売製造業許可証を取得しました。左側の製品が初めて能作ブランドで作った「ヘバーデン リング」というものです。このヘバーデン リングが能作の医療機器第1号なんです。

これは何のために作ったかというと、40代以上の日本人の女性に非常に多い、ヘバーデン結節という病気の方のためです。指の第1関節が曲がってきたり腫れたりして痛い病気です。

なぜか40代以降の女性に多く、原因もわかっていないんです。だけど痛いので、装具を着けて痛さを取ってあげるために作ったのがヘバーデン リングで、今年はGマーク(グッドデザイン賞を受賞したことを示すシンボルマーク)を取りました。初めて自分のデザインでGマークを取れたのが自慢ですね。

いかにヘバーデン結節が多いかというと、実は一昨年、某有名なテレビ番組で取り上げてもらった時に、ビアカップなどのうちの製品がいっぱい並んでいたんですよ。でも一番反響が大きかったのが、このヘバーデン リングでした。

女性から電話があって、「私、第1関節が痛くて曲がっているんだけど、ヘバーデン結節っていう病気だと知らなかった」という人がかなりおられまして、これがたくさん売れた。現在もよく売れている製品です。

司会者:病気を知っていただくきっかけにもなったと。

能作:そうなんです。

司会者:なるほど。

能作:これで味をしめて、ちゃっかりと今度は第2関節の病気の人のためのブシャール リングというのも、つい先日発表したばっかりなんです。曲がるから全部フィットできるんですね。それと金属なので水洗いしても大丈夫だから、手を洗ったりできるという特性があります。

伝統産業は「守る」よりも「攻める」チャレンジを

能作:先ほど言ったように、高岡の特徴は、前田利長二代目藩主が根付かせた産業ですね。ですからアルミや銅器の生産額は日本一なんです。アルミで言えば、例えば三協立山アルミ(三協立山アルミ、三協マテリアル、タテヤマアドバンスは統合し、現在は「三協立山株式会社」)さんですね。

ここは本社が高岡にありまして。もともとはみなさん銅器の製造から始まった人が枝分かれして、アルミをやっている人、鉄をやっている人、あるいは着色をする人とか、加工する人というふうに分かれていったのが高岡なんですね。

高岡では授業で伝統産業に親しんでもらおうということで、小学校の5年生、6年生、中学1年生に年間カリキュラムを組んで、「ものづくり・デザイン科」という授業を続けています。

全国でも高岡しかこういうことをやっていなくて、うちの会社は見学コースになっていまして、1年間に1,500~2,000人の地元の子どもたちがやってきます。高岡では高岡漆器と高岡銅器という2つのルートがあるので、主にこれを勉強するというかたちでやっています。

伝統産業の人たちって、すぐ「守る」と言うんですね。何でもそうですが、守っているとどんどん衰退するわけですよ。そのスピードが速いか遅いかはともかく。新しいチャレンジをどんどんして、「攻める」伝統をやっていかないと持たないだろうという思いで、創業105年になりますが、昔から現在もこの気持ちで取り組んでいるのがうちの会社です。

富山県高岡の伝統産業だけでなく、日本の伝統産業ってすべてが分業体制なんですね。なので、うちは「錫屋さん」という立場で鋳造して形を作るのが役目なんですね。

色を付けるのは着色屋さんが別にあって、あるいは加工する人もいて、それを束ねる産地問屋さんという人もいるわけですね。うちは、その産地問屋さんに向けて製品をずっと作ってきていたわけです。ですから、完全に下請け的な要素で仏具とかお茶道具、それから華道具を永らく作ってきたんですね。

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