「きっかけがピュアじゃなきゃいけない」という社会の風潮

沼田尚志氏(以下、沼田):やったことないことをやるって、めちゃくちゃ素敵だなーと思っていて。(だから髪色を)ピンクにしちゃったんですよね。

成澤俊輔氏(以下、成澤):そうですよね。

沼田:朝起きたらピンクだったんです。

成澤:(笑)。

沼田:ピンクだとめちゃくちゃ目立つから、居酒屋に行った時に私のことが一発でわかるんですよ。

成澤:そうですよね。

沼田:すごいなと思って。そんなことは想像してなかったのに、ピンクにするといろんな副産物が……ピンクの話、大丈夫?(笑)。

成澤:なんでピンクにしようとしたんですか?

沼田:理由はないんですよね。興味が湧いただけ。

成澤:こういうSDGsの話もそうですが、「きっかけがピュアじゃないといけない」という、社会のバイアスや雰囲気があるじゃないですか。「なんでNPOの経営をやってたんですか?」「なんでアフリカ行くんですか?」とか。

今の沼田くんの答えじゃないですが、人の中にある遊び心というか、無目的であること、ノリみたいなもんだなと思ったりするので。澤田くんがやっている「ゆるスポーツ」にも極めて近いかなと思ったりするんだけど。こういうテーマには、きっかけを問いすぎないことも大事な気がしますけどね。

近藤:そうですね。先ほど沼田さんからも「とりあえずやってみる」という話があったと思うんですが、特に大企業はいろいろと考えすぎちゃって、なかなか次につながっていかないことも思うんです。

「目標設定」よりも先に、まずは「アクション」を起こすことから

沼田:大企業に限らず、日本人全員だと思うんですが、すぐに目的や課題とか言い出すんですよね! ……あんまりよくない入りでした。すみません、もう一度入り直します。

成澤:(笑)。

澤田智洋氏(以下、澤田):心拍数上がった。ちょっとだけね、ドキドキしちゃった。

沼田:目的や課題を真剣に考えると、1歩目のアクションが重くなるんですよね。

成澤:そうだよね。

沼田:アクションをし続けることで見えてくる目的や課題があるから、最初にやるべきはアクションなんです。最初に目的や課題を考えると、だいたい一歩目が重たくなるんです。アクションし続けるとステージが上がって、ステージが上がると新しい課題や新しい目的が見つかって。その繰り返しだと思うんですよね。

よく飛行機に例えるんですが、飛行機は地上を走るようにできていないから、滑走路を走ってる時って機体にストレスがかかるんですよ。乗り心地が悪い。

成澤:おもしろい。

沼田:フライト直後のアクションしたての時も、ガタガタ揺れるんですよ。でもアクションし続けると雲の上に出るから、雲の上に出るとわりと快適になって、すごいスピードで目的地に行くんです。だから最初にやるべきはアクションだなと思います。

澤田:おもしろい。沼田さんのdisりポイントとしては、みんな滑走路にいるということですね?

沼田:(笑)。

成澤:なんでそこをフューチャーした?(笑)。

澤田:今日は、沼田さんと聞いている人のプロレスなのかな?(笑)。でも、すごく大事ですよね。SDGsがいいきっかけになって飛び立てる人もいると思うから、それもいいと思うんです。SDGsがアクションの入りの人もいいと思うし、ちっちゃく動いてったら結果的にSDGsになった、みたいなこともありますよね。(アクションをし続けていった)結果、障害者理解につながったとか。

堅くなりがちなSDGsに足りないのは「遊び」

澤田:でも結局、SDGsはもっと遊んだほうがいいと思う。SDGs絡みの打ち合わせやセミナーに呼ばれるんですが、やっぱりみんなすごく堅い。「どうせこういう展開になるでしょ」「八百長じゃん」みたいに、この後どんな議論が交わされるかが全部読めちゃうから、「結論が決まってるスポーツじゃないか」と思っちゃうんですよね。

さっき成澤さんも言ってたけど、僕は遊びを重要視していて。結果として人権理解とかにつながることはすごく大事にしてるけど、まずは遊びを入り口に添えています。なぜかというと、人類には遊びが必要で、遊びは日常のルールと反してるんですよね。スポーツで言うと、殴っていい、蹴っていい、投げていいとかあるじゃないですか。

成澤:確かに(笑)。

澤田:それは全部「日常でやっちゃダメよ」ということを、遊びで是とされるんですよね。日常のルールやお作法は完璧ではなく、ストレスが溜まったりするから、日常で発揮できない人間性を回帰するために遊びが必要です。

スポーツやエンターテイメントって、遊びを通じてしか得られない人間関係やゴールがあるんです。だから、もっと日本人をドライブさせるためには、やっぱり遊びしかないと思っていて。みんなが「SDGsプレイヤー」としてプレイしていく、という感じになれればいいと思います。

成澤:人は正しさより楽しさについてくるので、遊び(が課題解決の入り口には重要)だよなと思います。

いい会社には部活がある

成澤:「遊び」をもっと具体的に言うと、世界中の会社で経営の伴走をしていく中で、いい会社には部活があるなと思っているんですよね。部活って、遊びのニュアンスを上手に捉えられるなって。

もっと人材育成っぽいことで言うと、Willの話だと思うんですよね。Canで生きてきた人たちが、できることをどんどん積み上げていくのも大事だけど、「できそうなこと」ができたとして褒められても、条件付きの愛情じゃないですか。この時代は、できることよりも「やりたいこと」をやっていこうやと。そっちのがラストワンマイル、火事場の馬鹿力が出るし、自分で選んだ心地もある。

じゃあ、いきなり「やりたいことをやろうよ」「副業バンザイ」と言ってもけっこうハードルが高いので、「ちょっと部活をやりませんか?」みたいな。社内、部署、業界の壁を超えて、人の中にある遊び心やテーマを部活が結びつけるなと思ったりもするので。

それこそ、沼田くんがやっているイノベーションな活動は最強の部活動で、それがアカデミーだろうが飲み会だろうが、部活作りの達人なんじゃないかなって。この時代は部活が大事だなと思ってます。

澤田:確かにな。沼田さんは事業を作っているんじゃなくて、部活を作っていますよね。

成澤:そうそう。絶対にそうですよ。

沼田:飲みサーですね、飲みサー。

澤田:飲みサー!? 一気に軽くなっちゃった(笑)。

沼田:飲みサーを作ってます(笑)。

「日本のイノベーションを阻害しているのは建前」

成澤:事業は既存の正解・不正解を追い求める手段で、部活動はさっきの澤田くんで言う「非日常」というか。たぶん部活動では、「結果出せよ」とはあんまりならないと思うので。そうなると、(部活では)ふだん「やりたいな」と思ったことをちょっとだけやることもできるかなと思う。そういう要素がありそうな気がしますね。

澤田:今日のテーマかもしれないですが、日本のイノベーションを阻害しているのは建前だと思っていて、本音トークは超重要だと思っています。例えば、僕はよく官僚の方と打ち合わせをするんですが、誰かを傷つけるのをすごく恐れて、めちゃ遠回しに説明されることがあるじゃないですか。

60分ぐらいお話をうかがって、「あぁ、そういうことですか。早く言ってよ」「いいからもう結論から言ってくださいよ」みたいな。だから、建前だけ言っていてもしょうがない。SDGsに取り組む企業や社員も同じだと思っていて、今はもう全部が建前に聞こえちゃうじゃないですか。

でも、100パーセント建前でやっている人のほうがレアです。みんな「(世間的に)SDGsをやってるけど……」と言ってるけど、自分のパーパスとも重ね合わせて、そこには本音も入っているはずじゃないですか。それを教えてほしい。本音と本音という“音”を奏で合うコーラスが必要というか、「DGsには建前は要らんってめちゃくちゃ思います。

「日本中のパン屋は全部ぶっ潰れろ」と語る沼田氏

沼田:こないだ、チームのミーティングでプレゼンする機会があって。どんなプレゼンテーションでもいいんですが、タイトルが「日本中のパン屋はぶっ潰れろ」っていう。

(一同笑)

近藤:その話、大丈夫ですか?(笑)。

沼田:大丈夫、ギリ大丈夫。

澤田:パン屋さん、4人ぐらい聞いてるかも知れないのに(笑)。

沼田:「日本中のパン屋は全部ぶっ潰れろ」という話をしたんですが、まず「私の好きなパンは何でしょう?」と聞くんですね。私はメロンパンが好きなんですけど、メロンパンを買えないんですよ。

なぜなら、パン屋の入り口ってだいたいトレーとトングがあって、両手を使わないとメロンパンが取れない。でも私は左手しか使えないから、トングしか使えないんです。誰かに「トレーを持ってください」って言うのもあれだから、パン屋に行かないんですよ。

その視点はたぶん私にしかなくて、みんなはそんなことがあるとは思ってない。そこにある種の摩擦が生まれるというか、「こういうことがあるんだな」ってみんな考えるんですよ。すごく壮大な話のようですが、それが人類を前に進めるってことなんです。

成澤:オチがあった。

沼田:本音で話をしたほうがいいんです。ぶつかり合って摩擦を起こして、それで世の中を前に進めるのが、私のやりたいことなんですよね。

成澤:おもしろい。

沼田:「日本中のパン屋はぶっ潰れろ」って思ってます。

個人の些細な不満から、SDGsに取り組むきっかけに

成澤:出張へ行ったり、経営、アートなどのいろんなことをやりますが、沼田くんで言うパン屋を目の見えない僕で言うと、サウナや温泉に入るのかがなりムズいんですよね。

高級感を出すためと、みんなが裸なのもあると思うんですが、温泉って暗いじゃないですか。僕にとってはあの暗さがダメなんですよね。単一色なので段差もわからないし、だからって杖をつきながら温泉に入れるかと言ったら、それもムズいじゃないですか。

じゃあ杖なしで入ろうとして人にぶつかった時、町中で歩いてる時にぶつかるのと、温泉で人にぶつかるのってぜんぜん違うので。温泉やサウナすら、1人で入るのは難しいなって。これは些細な違和感なんですが、今の沼田くんのパン屋の話とけっこう近いなと思いましたね。

澤田:SDGsって、単一の大きな物語にみんなを巻き込もうとしているじゃないですか。だけど、今のパン屋の話も温泉の話も、すっごく小さな物語ですよね。「ローマに通ずる」じゃないけど、SDGsの素晴らしいところは、すべての小さな物語が、実はSDGsに通ずるものになっているところだと思っています。

成澤:(身近な小さい体験談も、SDGsの)17個のどこかの章にはつながっている。

澤田:どこかには絶対に合流するじゃないですか。であれば、SDGsという“海”にダイブするんじゃなくて、まずはそこに続いていくであろう“小川”に入ってみることが大事です。

それを沼田流に言うと「多様な友だちを作ろう」で、パン屋さんでトングしか持てない人がいるよ、温泉も入れない人がいるよ、というところから興味を持って泳いでいくと、世界にはそういう人が何万もいて……という気づきにたどり着きますよね。

視覚障害者にとって「バス停」は最悪な場所

澤田:僕も息子に障害があるんですが、障害のある方たちから得ている学びがすごく多くて、どんどん世界の解像度が高くなる。例えば、目が見えない友人とバス停で待ってると「もう最悪」って。「なんで?」と聞くと、「バスってさ、今来たバスがどこ行きか言ってくれないからわかんないでしょ。だから、めちゃくちゃ緊張するんだよね」って。

成澤:めっちゃわかる。

澤田:誰かにとってはバス停が、本当にドキドキする場所である。目が見えている人として、僕にはそんな世界がぜんぜん見えてなかった。でも、それでいろんな人の視点を自分の中に取り入れることで、普通に街を歩いていても、細かいところが全部目につくようになった。解像度が上がっているんですよね。

これを僕は「ソーシャル視力」と呼んでいて、自分と違う目を持っている人の目を取り入れるごとに、自分のソーシャル視力が上がっていく。左目と右目は位置が違うから、2つの目で見ることによって視界が立体化されるじゃないですか。それを視差(パララックス)と言いますが、多様な人の目線を取り入れることは視差を広げることです。

成澤さんに例えるのも恐縮なんですが、もともと持っていた僕の右目に加えて、沼田さんの左目が加わることによって、すごく世界が立体視されるというか。

だから、一人ひとりが多様な目をもっと取り入れて行くと、すごく遠くにあった(SDGsの)17個の課題が、主観カメラですべて収まってくる。街を歩いていても、森や水やゴミやジェンダーが気になっちゃう、みたいな。究極的には、一人ひとりがそういう状態になっていくことがすごく大事なんじゃないかなと思います。

目が見えないからこそ、他人に本音を言いやすい

成澤:おもしろい。さっき澤田くんが言ってた「SDGsは建前で、もっと本音を(語ろう)」というところで、ふと自分のことを思い出すと、けっこう僕は本音を言いやすいんですよ。それはやっぱり、人のフィードバックが目から入ってこないからなんですよね。

「本音を言って受け止められなかったらどうしよう」「本音を言ってスベったらどうしよう」みたいに、みんな人の顔色をうかがって(本音を)言わないじゃないですか。社会的に外から入ってくるフィードバックはまったく見えないから、自分がいいと思うことを好きにしゃべろうと思うので、僕はほぼ持論と思い込みだけでしゃべり続けています。

経営の伴走をいろんな会社でやるので、役員・メンバーとしゃべる機会や1on1も多いんですが、目が見えないから本音をしゃべりやすいこともあるし、人の懐に土足で入りやすいんです。人に真っ直ぐなボールを投げやすいんですよね。

「思ってることと、言ってることが違いますよね」「あんまり人のことを信用してないですよね」とか、人からフィードバックが見えなくて本音を言いやすいのと、向こう側が本音を言ってるかどうかも見えないからこそ、問い正しやすさもあります。そういった意味で、いつも本音に溢れた世界にいさせてもらってるなと、あらためて思いましたね。

近藤:成澤さんがよくおっしゃる、「囚われからとらえ直し」みたいなことでしょうか。

成澤:うんうん、まさにそうですね。

澤田:成澤さんも沼田さんも、僕から見て一番いいのは「素を出せる」ところ。僕は広告とスポーツの福祉を仕事としてるので、一応それぞれのプロではあるんですが。なんとなく2人と話してると、何かのプロとして話してるわけじゃなくて「素の人」として話してる。みんなが素人になるって、すっごく大事な観点です。

プロの観点が入っちゃうと、専門用語と建前のオンパレードだから、本音トークに(するために)はお互いが素人でいなくちゃいけない。だけど、その素人性を引き出せる人はめちゃくちゃ稀有で、あんまり会ったことがないから、そこがお二人の魅力だなと思います。

成澤:でも、今日の3人の場作ってくれたのは澤田くんですからね。澤田くんが本を出そうとした時に、僕と沼田くんをピックアップしてくれて。それであの飲み会で出会ってからなので、そんなのもあったなぁと思いましたね。

「やる気あります」は、履歴書に書く必要がない

近藤:ありがとうございます。今の話の流れで、自分の人生や働き方を見失わずにフルスイングするにはどうしたらいいと思いますか? 沼田さんからお聞きしてもいいですか。

沼田:今、ドコモアカデミーという社内大学をやっていますが、全社員に対して募集枠があるのでエントリーを募るんですよ。みなさんがエントリーフォームに意気込みや志望理由を書いてくるんですが、だいたい8割ぐらいが「やる気あります」って書いてくるんです。

成澤:またdisってる(笑)。

(一同笑)

沼田:またそういう話に……私、昔こういうので大炎上したんですよ。すぐ燃えちゃう。

近藤:今のところは大丈夫ですね(笑)。

沼田:「やる気あります」って、どうでもいいなと思ってて。やればいいから、「やる気あります」は要らないなと思うんですよね。

ロードサイドをドライブをしてると、時々駐車場があるようなラーメン屋があって、そこの上りにだいたい「ラーメンうまい」って書いてあるんですよ。「うまいかどうか判断すんのはこっちだから」っていつも思うんですよね。何ができるかだけを書けばいいのに、みなさんはやる気、意気込み、情熱とか、まったく無意味なことを書くので。

澤田:無意味なの?(笑)。

沼田:みんながそれを書くから、みんなにやる気があるじゃないですか。それはあまり生産的じゃないなと思っていて。日本人とか世界中の人の「あなたはどんな人で、何を考えていて、何ができるんですか?」ということだけを知りたいなって思ってます。

澤田:気をつけます(笑)。

沼田:忖度、要らないじゃないですか。

成澤:確かに。