新刊『「組織のネコ」という働き方』対談

尾原和啓氏(以下、尾原):こんばんは。新著『「組織のネコ」という働き方 「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント』に関して、著者の仲山さんとお話しさせていただきたいと思います。

ご存知のように、尾原の『プロセスエコノミー』『モチベーション革命』といった数々のベストセラーの中には、いろんなキーワードがあります。

「魂のごちそう」とか「自己中心的利他」とか「ライフワークバランス」とか。めちゃくちゃリツイートされているんですけど、その言葉とコンセプトって実は仲山さんに教えていただいていて。「プロセスエコノミー」にいたっては、もう17パーセントが“仲山成分”なんですよね。

仲山進也氏(以下、仲山):そんなに多くないです(笑)。

尾原:(笑)。この仲山成分の本家が3年ぶりに、ガツンとした本を出したんです。仲山さん、今日はありがとうございます。

仲山:ありがとうございます。よろしくお願いします。

尾原:よろしくお願いします。ずっと言っていることなんですけど、仲山さんの本って、世の中より1年~1年半ぐらい早すぎて。

仲山さんのキーワードを、僕が咀嚼して世の中に出すと、めちゃめちゃリツイートされるっていう構造なんですけれども。

この『「組織のネコ」という働き方』というキーワードも、タグラインですよね。『「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント』っていう。しかも、この(表紙の下のほうに書いてある)「あなたにマッチしたキャリアが見えてくる」っていうメッセージとか、今のタイミングにドンピシャですよね。

このタイトルワークといい、コロナ禍で(分断された)つながりを取り戻すタイミングに出せたこととか、すごいんですけど。このタイトルに行き着いた意図だったり、このタイミングに「組織のネコ」っていう言い方をフィーチャーをしたこととか、このへんの概要と背景から教えていただきたいです。

仲山:なるほど。いつも尾原っちが「早すぎる」って言ってくださるんですけど。この本を出版してくれた翔泳社さんのWebメディア「Biz/Zin」さんで、僕は3年前の2018年に、「組織のトラ」である「トラリーマン」と対談をする連載(「トラリーマンに学ぶ『働き方』」)を持たせてもらっていたんです。

確かに3年前なので、この対談は早すぎるタイミングでやっていたのかもしれないですね(笑)。

タイトルを「トラ推し」から「ネコ推し」にした理由

尾原:でも、その時ってトラリーマンフィーチャーだったじゃないですか。彼らは、組織の中でも数パーセントの人たちだし、自らが自らの意思で「トラ」として群れから離れた存在になり得る人だから、3年前でもぴったりだったと思うんですよね。

でも、やっぱりこのタイミングで本を出す時に、「トラリーマン」っていうタイトルじゃなくて、あえて「組織のネコ」っていう言い方にしたところ(が絶妙ですよね)。「『組織のイヌ』だともう限界じゃね?」っていうことを、みんなが認知した、今このタイミングで。

リモートになって、複業が当たり前になって、上司も目の前にいない。「ネコ型をようやく出せるようになってきたんじゃない?」っていう時に、トラリーマンフィーチャーじゃなくて、あえて「組織のネコ」っていう言い方にしたところが、今回「すげえな!」って思って。

仲山:ありがとうございます。実は本の中身は、ネコの進化系としてのトラ成分がけっこう高いんですけど。「トラリーマンって何ですか?」ってこれまで何回も聞かれて、説明するわけです。まず、藤野英人さんという、ひふみ投信のカリスマファンドマネージャーがいまして。

その藤野さん曰く「世の中を元気にする3種の虎がいる」と。「『ベンチャーの虎』と『ヤンキーの虎』と『社員の虎』である『トラリーマン』がいる」と。

それで「トラリーマンとは……」って話をするんですけど、すでにおわかりのとおり、「ひと言で言えなくて辛い」というのがあって。それで、トラ推しは伝わりにくいなと思って、タイトルを「トラ」じゃなくて「ネコ」にしたんです。

そういう意味でいうと、「組織のイヌ」は慣用句として使われている言葉なので、「組織のネコ」と言っただけで「あ、組織のイヌじゃないのね」って直感的にわかってもらえるなと。

さらに尾原っちが言ってくれたみたいに、コロナ禍で、在宅・リモートでみんな仕事をするようになった。今までの、満員電車で会社に通って、課長が見ている島の片隅でずーっと、忙しくなくても忙しいふりをするみたいな仕事の仕方。

尾原:飼い主が見ているから、もうイヌにならざるを得ない圧力があるわけですよね。

仲山:「それってどうなんだろう?」って、ほとんどの人が1回振り返らざるを得なくなった。このきっかけがあったので「『組織のネコ』っていう働き方があっても良いですよね?」というメッセージを広く知って欲しくて、ネコ推しにしてみました。

違和感なく「組織のイヌ」として幸せに働ける人はそのままで良い

尾原:大事なところは、別に「組織のイヌ」が悪いわけではないということです。

仲山:そうなんです。なので、ここに「違和感」というのをつけたのは、そういうニュアンスが込められていて。違和感がなく「組織のイヌ」として幸せに働ける人はそのままで良いんです。ただ「働くとは『組織のイヌ』になることである」っていうタグが、けっこう多くの人の常識として根付いているんですよね。

この前、大学の授業にゲストとして呼んでもらった時に「働くってどういうことだと思っていますか?」って冒頭に聞いたんですよ。そしたら、ほとんどの学生さんが「食うために給料をもらわなきゃいけないから(仕方なくやることだ)」って言うんです。

尾原:つら。え、今の学生ですよね?

仲山:今の大学生。

尾原:今でもなんだ。

仲山:はい。だから、やっぱり「働くっていうのは『組織のイヌ』になることである」っていう常識が強固すぎるので。そうすると、そこで共通認識がないままネコ的に働くとめちゃくちゃ浮くというか、理解されないというか。「お前ちゃんとやれ」って言われちゃって、結局は続かないので。

ここで、選択肢としては「イヌ」と「ネコ」両方の道がありますと。それぞれ相互理解さえ深めれば、おかしなことをやっているわけでも、サボっているわけでもないんですよと。いわゆる多様性なんですよと。みんなでそういう共通認識を持てると、より楽になるのかなって。

藤原和博氏曰く「正解主義から修正主義の時代へ」

尾原:本でも言われていますけど、結局、日本ってメーカー・モノづくりとしてやってきたから。イヌとして、上に言われたことをちゃんとやりきって、良いものを作る。これが昭和の勝ちパターンではあったんですもんね。

仲山:そうですよね。ネコの人は、そこでいちいち「この作業は何のためにやるんですか?」とか質問する。それで納得いかないと「あんまやりたくないんですけど」と言っちゃうのがネコで。

尾原:そうすると、イヌ型でやっている組織は「ああ面倒くせえな、お前。黙ってやれよ」みたいな(笑)。

仲山:「黙ってみんなでイヌとして手を動かしたほうが、会社としてパフォーマンスも上がって、みんなハッピーだよね」っていうのが昭和の成功パターンなんだけど、賞味期限がくるわけです。だいぶ延ばし延ばしやってきた賞味期限が、コロナもあって、そろそろダメじゃないですか。

尾原:そう。藤原和博さんが「正解主義から修正主義の時代へ」って言い方をしている。この話が『プロセスエコノミー』でもすごくシェアされていて。

昭和は「もう(正解が)わかっている問題をいかに早く、いかに失敗せずに解くか?」っていうことで勝てた時代ですよね。(今のような)変化の時代になってくると、どっちかっていうと、ちょっとフラフラしてやってみて、間違ったら修正、修正って繰り返していくほうが、適してくる。

そういう意味でも変化の時代には、正解主義を黙々とやりきるイヌ型よりも、ネコ型で。ちょっとフラフラするんだけど、時々匂いに敏感で、おいしいところを見つけて、なんとなく自分のペースを守りながら働く。こういう修正主義のネコ型のほうが、今の時代に合うみたいな話もすごくある。

「昭和96年型の企業」と「令和3年型の企業」

仲山:そうですね。トラリーマンの名付け親の藤野さんが「昭和96年型の企業」と「令和3年型の企業」っていう表現をされてるんですけど。

尾原:そっか、あと4年で「昭和100年」になるのか。

仲山:そうですね。僕、昭和48年生まれで48歳なので、足すと96なんですよね。

尾原:そう言われれば、昭和も96年経てば、賞味期限切れしますよね。

仲山:間に30年も平成が挟まってますからね。なので昭和のままだと、さすがにもう賞味期限がダメではないのかと。

尾原:そうなった時に、トラリーマンはさっき言ったように、社会変革を起こすぐらいの強さを持った人たちがベンチャーで動いたり、ヤンキーとして混乱のノイズを入れてうまく動かしたりして。箕輪厚介っていうトラリーマンのように、会社の中でも(うまく)やるやつもいるから逆にイメージ湧くんですけど。ネコだと何に違和感がなくて、ネコだと何が良いんですか?

仲山:「何が違和感がないか」とは?

尾原:「組織のネコ」の人たちが「『自分はこういう人だ』というネコ要素がある」って言えるような「私のネコ要素」ってどんなものなんでしょうね?

仲山:ネコとかトラは「『言われたこととは違うことをやるという選択』をする場合がある」っていう意味合いなんです。もちろんそういう働き方が許されて、長続きするためには「お客さんに価値を提供している」というベースが必要です。そうでなければ、本当にただ遊んで好き勝手やっているだけになっちゃうので。

「お客さんに価値提供している自覚」はブレちゃいけない。そこを外すと成り立たない働き方です。要は、昭和96年式に賞味期限が切れた事業を、ただ言われた作業としてやるのでは「お客さんに価値提供していないよな」って気づいたと。それがもう「気持ち悪いな」って思うのがネコなんですよね。

「ネコ型の働き方」ができる余地

尾原:確かに。イヌは逆に、言われたことを黙々とやりきる力が強いから、その分「何のためにそれをやっているんだっけ?」っていうところをあまり考えなくて済む。

一方で、ネコは自由気ままに生きているように見えて、実は「お客さんの価値」っていうところをブレさせずにいる。しっかりお客さまに価値を提供するところがあるから、ネコで居続けられる。組織の中のネコは常に「お客さんにどんな価値を与えているか?」を問い続ける習性を持ち得るってことですね。

仲山:そうです。なので「最近、お客さんが言っている話が変わってきたな」と、お客さんとのやりとりの中で感じたり。だから「うちの提供しているものをこういうふうに変えていかなきゃいけないんじゃないの?」といった作業は、ネコが得意だと思うんですよね。

それこそ大企業の中で新規事業を立ち上げる場合、新しいものを作っていく時って、最初は売上もないし、利益なんてもっとない。なので、基幹事業のKPIみたいな指標で比べられると、本当に「あの人たち何やってんの?」みたいな扱いしかされないし、リソースも張ってもらえない。

尾原:(リソース)足りない中で、ちょっと孤立しちゃいがちだし。

仲山:だけど「これはお客さんにとって意味のある活動だな」って思えて、それこそ「たまごち(魂のごちそう)」がもらえて「やりがいがあるな」と思える仕事だとがんばれるのが、ネコタイプですよね。

尾原:ネコって、自分の嗅覚みたいなところに敏感で素直だから。一方で、組織の中のネコだと、お客さまにちゃんと価値を提供することをやり続けないと生き残れない。

だから必然的に「組織・会社としてお客さんに『ありがとう』って言ってもらえること(とは?)を問い続けること」と「自分が素直にやりたいこと」の意味が合いやすい。だから(仕事への)意味合いが生まれやすいとも考えられる。

仲山:そうですね。だから、理念がちゃんと“ふだん使い”されているような組織風土があって、事業の賞味期限が切れていない会社でないといけない。そうでないと、ネコ型の働き方ができる余地がない感じがしますよね。

トラが生きていけるところでは、ネコも生きやすい

尾原:確かに。そうすると『プロセスエコノミー』の中で、ものすごくバズった「夢中になるための3つの要素(『やりたい(プロセス目的的)』『得意(強み)』『利他的価値(志・理念)』)」ってある種、ネコな自分を大切にしていたほうが見つけやすくなるんですかね?

仲山:そうです。「やれと言われれば全部、どこのエリアの作業でもやれます」っていうのがイヌ的な働き方。ネコは「やりたくて・得意で・喜ばれる」ような、3要素が重なってるところじゃないと「なんか仕事つまんないな」って思っちゃう。

尾原:だから辛くなっちゃうと。さっき言ったように、会社ではどうしてもイヌのほうが認められやすい中で、3要素を磨けるようになったり、ネコでいられることが変化の時代には大事になってくるんだけど。ネコがいやすい組織ってどういうところなんですか?

仲山:ネコの人が転職をしようと思った時に、居心地の良い会社の見分け方としては「その会社にトラがいるかどうか」ですね。昭和96年の会社には、もうトラの人ってあんまりいない。どっか行っちゃってるから。トラが生息しているってことは、トラを許す風土がある証明なので。トラが生きていけるところでは、ネコも生きやすい。

尾原:それすごくわかる。僕は今まで14回、転職してきてるんですよ。いろんな会社で、(特に)大きい会社でよく言われるのが「お前みたいなやつが1人か2人いることが大事だから」みたいなことなんです。

それって、その時の僕が「トラ」だったのか「ネコ」だったのか、わからないけれども、少なくとも会社として……。

仲山:尾原っちが「ネコ」なわけないですけどね(笑)。

尾原:ガウガウいろんなところに噛みつくところも含めて、会社として「こういうトラをあえて飼っている会社だよ」っていうことが、ある種、ネコに対して安心して働ける(アピールになる)っていうか。

仲山:本当そういう時代になって欲しいし、なっていく気がしています。