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藤﨑忍氏 インタビュー(全2記事)

渋谷109時代の同僚が、固定観念バリバリだった自分を変えた ドムドムハンバーガーの「思いやり経営」の根幹にあるもの

2021年12月、"コロナ2年目"の年が暮れようとしています。今回『ログミーBiz』では、コロナ禍で特にダメージを受けた「飲食」「アパレル」「レジャー」「スポーツビジネス」の4業界において、好業績を残した企業のキーパーソンの方々にインタビューを行いました。同業他社が苦しむ中で、何を見て、どう判断して結果を残したのか。4者それぞれの「成果を上げるモノの見方・考え方」をご覧ください。本記事では、コロナ禍でも黒字達成したドムドムハンバーガーの藤﨑忍氏のインタビューの模様をお届け。主婦、アパレル、居酒屋経営を経てドムドムに就任した藤﨑氏が、「思いやり経営」と呼ばれる経営方針に辿り着いたルーツが語られました。 ※他の特集記事はこちら

渋谷109の勤務を経て、バリバリの固定観念を壊された

――主婦、アパレル、居酒屋の経営など、さまざまな職種をご経験された藤﨑さまですが、これまでのキャリアは今のお仕事にどう活きていますか?

藤﨑忍氏(以下、藤崎):主婦生活が長く、家族が多い家庭の中にいましたので、それぞれをコントロールしていく時間の使い方やマルチタスクができるという意味では、主婦の仕事はいいと思います。

あともう1つ。心を尽くして相手のことを思うのって、なかなか難しいじゃないですか。でも家庭の中にいると、家族だから心を尽くしまくっているわけですよ。会社に入った時にも、それまでの家族と同じように他者を思える心の持ちようがよかったのかなと思います。

相手に心を尽くす素養が、家の中で作られてきたのかなと思います。それから具体例で言えば、渋谷の109で仕事をした時に、本当に若いお嬢さんたちと仕事をしたんですね。彼女たちは渋谷の文化を知っている人たちで、私は政治家の妻ですから、まったくわからない世界だった。その中で、カルチャーを持ってる人をリスペクトすることができました。

彼女たちはルックスが派手だったり、たまに夜遊びしちゃったりもする。でも実はすごく真面目で一生懸命な彼女たちと触れ合うことによって、人への固定観念が変わったと思います。それはものすごく大きかったですし、物へのこだわりにも反映しています。109で働くまでの私は、嫌な感じで固定観念バリバリでした(笑)。

私自身は小学校から短大まで私立に行っていて、息子が「自分はやりたいことがあるので、他の大学に行く」と言って。考え方が変わっていたから認めることができたんですが、109の存在はものすごく大きかったと思います。

社長就任後も、自らイベント会場にハンバーガーを搬送

藤﨑:(109に勤務していたのは)十何年前ですが、今日の朝もその子たちとLINEをしていて。忘年会でみんなで集まるので、どこで何を食べるかを話していました。だから彼女たちは、私の人生にものすごく大きな影響を与えたと思うんですよ。

そういう仲間たちと共振・共鳴することによって、1つのことが成し得られるということを学んだので、大きな価値観を変える意味で、私のキャリアの中ですごく大切になった教訓だったなと思っています。結果的にさまざまな経験から、「こだわらないこと」は大切だなぁと思いました。

――そういった年齢も背景も違う方たちとお付き合いするうえで、心がけていらっしゃることはありますか?

藤﨑:本当にみんなでしょっちゅう居酒屋に行って飲んでます。それから会社の役員クラスの方と銀座の割烹でご飯をいただくこともありますし、その時々を楽しませてもらっています。

だから、経験ってすごいですよね。いろんな経験をしてるので、どこでもなんでもできるんです。イベントを初めた頃なんかは、社長になってからも自分でハンバーガーを積んで車を運転して、走って持って行って販売してました。最近はみんなに「出てくるな」って言われるんですが(笑)。

本社の人数も増えたので、「社長はいいです」ってなりますが、未だにぜんぜん平気です。「私がお店に立とうか?」という感じ。でもみんなが「もうやめてくれ」って。ぜんぜん平気です、なんでも大丈夫。

家庭の事情から、44歳で起業を決意した藤﨑氏

――未経験のことにチャレンジする時には壁を感じてしまって、なかなか踏み出せない方も多いと思うんですが、藤﨑さまのチャレンジ精神はどこからきているのでしょうか?

藤﨑:本当によく言われるんですよ(笑)。今までを振り返ったり、よそから見るとチャレンジに見えるんだと思うんですが、実はチャレンジ精神を持っていたわけではないと思うんです。最初の就職は、働かざるを得なくて切羽詰まって、何のスキルも持たない私を誘っていただいたところに入りました。

それから居酒屋に行ったのは、109を辞めざるを得なくなって途方に暮れていた時に、「私のできることはお料理ぐらいだ」と思って、お料理ができる居酒屋さんにバイトに入りました。

もともとは109で起業したいと思っていました。中途の売り上げは良かったのに辞めざるをえなくなった悔しさもあり、109にはすごくいい仲間もいっぱいいましたので、彼女たちと起業したいと思っていたんです。

今はそうでもないですが、当時の109は(アパレルショップを起業したい人が)すごくいっぱいいらして、そこに入っていくのはなかなか難しい状態でした。

なぜ私が起業にこだわっていたかというと、息子が私立に通っていて、主人も具合が悪くて。その生活を守るだけのサラリーを、44歳の私が中途就職して得られるとは思えなかった。それだけの金額が得られる仕事に就くのは至難の業だと思っていたので、起業だと思ったんです。

これはチャレンジに見えると思うんですが、チャレンジ精神というよりは、切羽詰まっていろいろ考えた結果のことなんですね。

主婦、109、居酒屋、ドムドム就任を経た、藤﨑氏のキャリア観

藤﨑:それから飲食店を始めて、ドムドムにお誘いいただいたのは50歳の時だったんです。ドムドムバーガーというバーガーショップの「食」を作れるところにも、興味を持っていたんです。

その2年前に主人が亡くなって、心も落ちついてきていて、息子も2年前に学生が終わったタイミングだったので、チャレンジしてどんどんステップアップ。「バイトが嫌だから起業した」というのとも、またちょっと違うんですね。「自分はこういうキャリアを構築していくんだ」というより、いずれもその時に巡り合ったご縁を大切に提案を受け入れているだけなんですよね。

一方で、次のステージに行く時への不安。例えばこの取材も質問事項に則って準備をしていきます。「何をお話ししたらいいか?」というのと同じように、その都度真剣に一つひとつと向き合う。

真剣に向き合っても、わからないことや新しいことばっかりだから、やっぱりできる限りの準備をする。与えられた環境で自分が何ができるかをよく考えて、充実させるために動くことでしょうか。

キャリア構築についての講演もやらせていただくんですが、こだわらないでやったらいいと思っています。「できないかもしれない」と思う前にまずは飛び込んでみて、今言ったように努力をしてみる。それでできなかったら、辞めちゃえばいいと思うんですよ。

また立ち止まって考え直せばいいし、またチャレンジすればいい。それから女性の場合は、ライフイベントでいろんなことが変わりますが、その時は一回立ち止まっても構わないと思います。

この間「ウーマン・オブ・ザ・イヤー 2022」を受賞した時にお話ししたんですが、お子さんが生まれて、最初は(仕事を)休むことへの恐怖を感じたりする方もいっぱいいると思うんですね。

でも、子どもを産んで育てる時間で自分の心が豊かになったり、今までは会社にばかり行っていて見えなかった何かが、子育てを一生懸命やってれば見えてきたり。お友だちが増えたり、プラス(の側面)もあります。

プラスを堪能して、それが自分に向いているなと思ったらずっとやっていればいいし、「やっぱり私は、あの時の仕事がもう一回やりたい」と思ったら戻ればいい。キャリアって、その時々の自分の置かれた環境を素直に受け入れていくことでできていくと思います。

高い目標を追うのではなく、低いハードルを一緒に越え続ける

――社員の方とのコミュニケーションもすごくいいのかなと感じました。社内の一体感の醸成や働きやすい環境を実現するために、どんなことを心がけていらっしゃいますか?

藤﨑:私の仕事の流儀は「和をもって尊しとなす」です。みんなが調和して、議論をした上で、納得して物事を運ぶことが大事だと思っていますね。そのベースになるのは、思いやりのある言葉がけをお互いにすること。お互いに思いやりを持った言葉を交わすことによって、心理的安全性、信頼関係が構築できます。

今、「思いやりある言葉がけ」と言ったんですが、職場でお互いを思いやれない時に必要なのは、まずは言葉がけだと思いますね。相手を見ていないと、言葉をかけられないじゃないですか。相手を見て、まず言葉をかけることの積み重ねが思いやりに変わっていくと思います。

それから、自分らしさを押し付けない。個性ですから、それぞれが自分らしさを持つべきだと思いますが、自分らしさを他のスタッフに求めるのはちょっと違っていると思っています。その2点をベースにしながら、和をもってことを運ぶと仲良くできる。みんなが同じ目的意識になっていくのかなと思います。

(社員のみんなを)同じ目線にするためには、一つひとつのハードルを低くして、みんなが一緒に乗り越えらるハードルを持つこと。初めから高い目標を持たないで、一つひとつクリアしていくと、その都度みんなの心が一つになっていきます。

――一般的な企業だと「高い目標をみんなで追う」という、逆の発想になりがちですよね。

藤﨑:そうです。よく、いろんなところで「思いやり経営」なんて書いていただいているんですが、本当にそうだと思っています。数字を見てないわけじゃないですが、みんなの心が一つになってブランドを作ると、人や成功は後からついてくると思っています。

数字目標って、どこを見て・何をやっていいか、みんなわからないじゃないですか。だったら初めから、分解した小さなものを一つずつ積んでいったほうが早いと思いますね。

「基本的になんでもオッケー」なスタンスが、自由な社風を作る

――そういった経営方針や新しいアイデアの採用は、藤﨑さま発信なんでしょうか。また、社員の方のアイデアを取り入れる制度があれば、ぜひ教えてください。

藤﨑:ベースはそうですが、みんながそんな感じになっています。「そこまでやらなくていいんじゃない?」って、(社員が)私を抑える感じ(笑)。でも、みんなそのつもりで仕事をしてくれているので、本当にありがたい。毎日楽しいですね。

やりたいことをやれる会社が一番いいと思っていますので、基本的になんでもオッケーです。消費者の方が欲しいと思うものを提供する、それからスタッフがやりたいと思うことができるのがベスト。基本的には「ダメ」はないですね。「いいんじゃない」と言ってます。

あとは、本当にちっちゃな会社なので、みんなで一斉に情報を共有します。縦を重んじるとよくないと思います。例えば私の取材が入ると、広報のラインで営業部長ぐらいには連絡がいくんですが、店舗には言ってない可能性があるので、縦にも横にも店舗にもすぐ言う。

普通だと営業部長からSVに言って、SVが店舗に言うんだけど、そうすると心が通じないじゃないですか。だけど、広報の子が電話1本で店舗にも連絡することで、「広報の人も僕たちのことを考えて仕事をしてくれてるな」って思うじゃないですか。何かやろうとした時の協力体制が、すごくよくなりますよ。そういうことが大事だと思いますね。

イベントをやるとなったら、イベント担当の人がそれを店舗にもちゃんと言う。縦は絶対にマストでやりながら(横にも)声をかけたり。これは現場に対する思いやりです。

――藤﨑さまが実践されている「思いやり経営」は、これからの時代にますます求められると思います。飲食業界のみならず、コロナ禍という逆境を乗り越えていくための参考になるお話でした。本日はありがとうございました。

藤﨑:楽しかったです。こちらこそありがとうございました。

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