Excelにはない、kintoneの良さを発揮するには?

日髙大輔氏(以下、日髙):次が教育ですね。いろいろルールを決めたりマスタを用意したんですが、当然ユーザーはそもそも何から覚えればいいかわからないし、ルールもあるので、指示するだけでなく教えることが大事です。

基本操作にルール、共通機能の使い方を教えないと、kintoneを正しく活用できないということで、JALグループの独自教材として、全5時間コースのkintone教育を開催しています。

もう少し詳しくお話しすると、利用者は水色の部分ですね。基本操作と利用ルールは、90分のeラーニングで受けてもらっています。開発者は演習を重視しているので、レベル2にあるように、先ほどのアクセス権のルールや命名規則、基本操作アクセス権の設定、ルックアップを覚えてもらって120分。

最後がレベル3で、プロセス管理機能によるワークフローを90分でやってもらっています。だいたいアクセス権、ルックアップ、プロセス管理の3つをマスターすれば、Excelにはないkintoneの良さを出せると思って作りました。

足立:なるほど。確かにkintoneの中でも始めに引っかかりやすいところなので、そこをしっかり押さえた教育をされていくというところですね。

日髙:そうですね。例えば、みなさんのオフィスにもよく、備品を貸し出す時に名前を書いてもらう台帳がありますよね。そういうふうにイメージしやすいものを、最初の演習課題で作ってもらっています。作成物の仕様なども、kintoneらしさを出すために、ちょっとExcelではやりにくいトリッキーな機能を課題として入れているんですね。

まずルールで教えたアプリ名の設定を実際にやってみましょう、アクセス権からEveryoneを外す設定をしてみましょう、実際にフィールドを並べてアプリを作ってみましょうと進めます。よくやりがちなのが、アプリができたらすぐに更新ボタンを押してリリースしてしまうんですね。

IT部門はシステムをリリースする前に、ちゃんとリリース判定会議などしかるべきプロセスをやっているんですけど、ユーザーにはさすがにそこまでやれとは言わないので「ちゃんと動作テストをしてからアプリを公開・更新してください」と。教育で網羅性を確保するように意識して作っています。

JALの「kintone教育コンテンツ」の作り方

足立:なるほど。5時間の教育を受ける方も大変かなと思うんですけど、なによりも提供するみなさんが、教育コンテンツを作って提供するのはかなり大変だったんじゃないですかね? 

日髙:そこはせっかくだから、今メインで先生をやっている千葉さんに。

足立:教育の先生。よろしくお願いします。

黒田綾乃氏(以下、黒田):お願いします。

千葉耕一氏(以下、千葉):全部を作ったわけじゃないです。サイボウズさんから、すごくいいヘルプやkintone動画がたくさん出ているので、それをフル活用させてもらっています。例えば教育の資料にリンクを張って、細かいところは全部ヘルプを見てもらったり。

最初にルックアップの動画を見てもらって、その後でJAL独自の内容を勉強してもらったり。さっき出てきたような、社員マスタをルックアップで引っ張ってくるというものも、演習の中で覚えてもらっています。

足立:もう本当にゼロから作るというよりは、サイボウズが提供しているものを活用しながら、JALさん独自のコンテンツをしっかり作って提供いただく感じなんですかね? 

千葉:そのとおりです。

足立:なるほど、すごくためになるお話をありがとうございます。

日髙:最後に追加整備ということで。私からいろいろ無茶振りするんですよ。「アプリの棚卸しが必要ですね」「ユーザーIDの登録を半自動化できますか」「ライセンス数と保有組織も自動管理しましょう」「アクセス権違反のアプリも抽出したいですよね」と。

「ユーザーが独自のプラグインがほしいと言ってるんですけど」など、千葉さんにどんどん無茶振りをするわけなんですけれど。

千葉:全部作ります、と。

(一同笑)

日髙:頼りになる伴走をしてくれるSIのおかげで、私たちもkintoneチームとして、運用の課題を日々改善してブラッシュアップを続けています。

アプリの利用頻度をもとに、定期的に「棚卸し」

足立:ちょっとこの中に気になるものがありまして、ずばり、この「アプリの棚卸し」。実は僕も営業として、ユーザー規模の大きなお客さまだとご相談いただくことが多いんです。

アプリの上限数は1,000と決まってるんですよね。JALさんも今、945名で使っていらっしゃるので、けっこう重要なんじゃないかなと。もしかして、みなさんも参考になるところがあるかもしれないので、詳しく教えていただきたいと思います。

日髙:はい、こんなグラフを持ってきました。横軸がアプリ1個1個だと思ってください。縦軸が月間のアクセス数です。こういうものを調べるツールを、千葉さんのチームで作ってもらいました。

だいたい1軍・2軍・3軍に分かれていて、1軍のエース級は月間1,000アクセス超で、上位10個程度。まあまあ活用されているもので月間30アクセス、1日1アクセス以上あるもの。これは上位30パーセント程度なんですよ。

残りの70パーセントは、1日1回すらアクセスがないことがわかったんです。「JALの環境がカオスになってるな」と思われてしまうと思うんですけれども。

これまで何回か棚卸しをやって、だいたい半分は不要という判断になることがわかってきました。なので、冒頭で450のアプリがあるという話で、今月が棚卸しの月なんですけれども、たぶん間違いなく300ぐらいにはなるんじゃないかなと思っています。

日髙:どうやって棚卸しをしているかというと、そう簡単にアプリの上限数にならないように断捨離しましょう、というところですね。私たちは(スライドの①にある)アクセスカウンターを作っているので、月間アクセス数をベースに棚卸し対象を抽出します。

抽出されたアプリの更新者に対して、プロセス管理でワークフローを回します。削除するか。アプリグループをプライベートに変更して本人専用にする代わりに、上限1000個の1個としてカウントされないようにするか。「いや、これはどうしても必要なんです」ということで免除するかの3つから選んでもらう。明後日の4日からまた棚卸しをやりましょう、ということです。

足立:なるほど。まずはアプリそのものを客観的に見て、個別の事情をしっかり聞いてユーザーに寄り添いながら棚卸しを進められているところですかね。

日髙:そういうことですね。意外とユーザーも作りっぱなしでやっていなかったケースがあって、棚卸しの依頼をすると迅速に対応してくれます。

社員の熱量とそれを支えるIT部門の連携が重要

足立:最後に、3つめの熱意のお話もうかがっていきたいと思います。

日髙:そうですね。ここが私たちの今後の課題だと思っています。熱意溢れる社内事例を1つ紹介させてください。客室本部間接部門ということで、キャビンアテンダントの勤務管理などをしている、バックオフィスの部門ですね。分類は②突撃イノシシ系です。

赤い吹き出しのとおり、「何をやるかこれから考えます!」と言って、私たちのところに相談に来ました。熱意もすごく「人数も一気に投入する」ということで、4チーム15人でアプリ開発プロジェクトを開始してもらいました。

それぞれのチームに、IT企画本部からアドバイザーを派遣した結果、3ヶ月でなんと76個もアプリを作ってきました。私たちも驚きでした。

そのうち、ライセンスをどの範囲に配布するかなどを検討して、今は26個が実用化されて、業務で利用中です。やっぱりユーザーに熱意があると、たくさんのアプリが作れます。

それには、IT部門がきちっと支える仕組みとユーザーの熱意の相互作用が大事なので、今後はこの熱意を上げる「ランナーズハイ」ならぬ「kintoneハイ」にするための取り組みを考えていきたいと思っています。

足立:なるほど、そうですね。実際に、熱意あるユーザーさんたちは味方になってくれると思いますし、デジタル化やDXを進める上では、すごく重要なプレイヤーになるんじゃないかなと思います。

それをIT部門のみなさまがしっかり仕組みでもって支えていくことがポイントだと認識できました。お時間も迫ってきていますので、最後にまとめをお願いできますでしょうか。

目的と仕組み、ユーザーの熱意が成功の秘訣

日髙:今日みなさまにご紹介した「JAL kintone成功方程式」のkintone導入の結果=①目的。私たちはIT部門での開発を必要としない小規模ニーズに対応。そして×②の仕組みとして、IT部門としてkintone利用を支援する仕組みを整備しました。

そして×③熱意。kintone成功のトライを決めるのはユーザーの熱意ということで、私どもが用意したスライドの説明は以上になります。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

足立:すばらしい講演だったと思います。本当にすぐに使えるTipsがたくさん入っていたと思いますので、ぜひみなさまも撮られた写真をシェアしていただければと思います。残り10分ほどありますので、みなさんのTwitterのご質問をちょっと見てみましょうか。

黒田:みなさま、たくさんリアクションをくださって、こちらからも写真をたくさん撮っていただいているのが見てとれたんですけれども。

日髙:1個目(のご質問)ですね。(Everyoneを)デフォルトで外す機能があればいいと思うんですけれども、私は一長一短だと思っています。やはりkintoneはわかりやすさ重視なので、まずはみんなに見えることは、それはそれでありかなと思うんですよ。

だけど、もし将来36,000人で使うようになって、全員に見えるとちょっとまずいから、そこはやっぱり教育でフォローするといったところですかね。

足立:なるほど。Everyoneを外す機能については教育でフォローしていきましょう、というお答えをいただいております。

kintoneアプリのアクセス数をカウントする方法

黒田:あと、先ほど棚卸しのアプリのお話があったと思うんですけれども、「アクセス数はどうやって取ったんですか」というご質問があります。

足立:確かに、これは気になりますね。

日髙:ここは千葉さんですね。

千葉:JavaScriptのカスタマイズで作らせてもらいました。一般の人たちにはJavaScriptを禁止しているんですが、我々だけはスクリプトを組ませてもらって、アクセスが来た時にカウントするkintoneアプリを作ってカウントしています。

日髙:少し補足すると、要はJavaScriptカスタマイズを全体に仕掛けておいて、アクセスがあった時に、とあるカウンター用のアプリで「誰が○番のアプリをいつ開きました」という情報を保存する仕組みを使っている感じですね。

足立:それは販売してはいただけないですか? 申し訳ないんですけど、今ちょっと標準機能ではカウントができませんので。

黒田:そうですね。

足立:もしかしたら、販売していただくとニーズがあるのかなと思いましたけれども。

千葉:まだ問題もありますので。

(一同笑)

日髙:そこは「やります」と言いましょうよ。たぶん、この(観客の)中に私たちの上司が紛れ込んでいると思うのでね。この時点では、ちょっと将来の目標ということで。

足立:はい、ぜひお願いします。

社内SIか、目的を共有し一緒に目指してくれる伴走型SI

黒田:あとはリアクションをご紹介させていただきたいんですが、「社内にSIができる方がいらっしゃるのがすごく羨ましいです」ということで。必ずしも社内に体制があるとは限らない時はどうケアしたらいいか。足立さん、どうですかね。

足立:今日は、みなさまの後ろにあるたくさんのブースに、パートナーさんが出店されています。その中には、内製化をお手伝いいただけるパートナーさんもたくさんいらっしゃいます。

青野が基調講演で「伴走型SI」のお話をしていましたけれども、講演が終わりましたら、ブースにも立ち寄っていただいて、ぜひご紹介いただけたらと思います。他にもありますかね。まだもうちょっといけますかね。

黒田:そうですね。リアクションをご紹介させていただきます。やっぱり仕組みに関するリアクションがたくさんありました。

日髙:よかったです。

黒田:さっきのアプリIDのところを取り上げていただいたり。

日髙:これももともと私の趣味というか。職場によくファイル共有サーバーってあるじゃないですか。みんなが日本語で勝手に名前をつけると、ソートして探すのが大変だから……。

足立:あれはまさにカオスですもんね。

日髙:私が昔からみんなに「ちゃんと番号をつけて」と言っていたんですね。そこがきっかけだったというのはありますね。

足立:やっぱりちゃんと裏付けがあって、この仕組みが採用されているんですね。

日髙:kintoneのアプリIDの仕組みはあったので、あとはきっちり「URLを見てちゃんとつけてね」と教育するところが、最初のレベル1とレベル2で繰り返し言っているところですね。

足立:でも、本当に日髙さんのお話を聞いていると、仕組みと教育は必ずセットで出てきているので、これが浸透するポイントなのかな思いました。

ガバナンスと自由のバランス

日髙:そうですね。難しすぎたり厳しすぎると、クイックに自分でやりたい時に作れるという、kintoneの良さが活きないと思うんですよね。社内に展開する時の議論で、「アプリを自由に作成させていいのか」「許可制にするべきではないのか」という意見もあったんですね。

そこに対して、kintoneはIT(部門)に頼まなくても自分たちでできる良さがあるから、そこの良さは全面的に出すべきだと。規制は厳しすぎてはいけない。だけど、(今回のCybozu Daysのテーマと違う)愛せないカオスにならない程度には、最低限やらなきゃいけない。そこはやっぱり今でもコンセプトとして「極力自由に」と思っているところですね。

足立:ガバナンスを取るのか、自由を取るのかは、本当にいろんなお客さまが試行錯誤をしながら進められているところなので。やっぱり僕たちも、kintoneを作ったり販売させていただく立場として、自由をなくしてほしくないと思うんですけれども。まさにそれが、愛すべきカオスにしていくという携わり方ですかね。

日髙:そうですね。実はこの次のkintone EPCのセッションに私もちょっと出させていただくんですけど、そのサークルでもやっぱり「ガバナンスってどうなの?」という議論になって、いろいろみんなで知恵を出していたところです。

プラグインには極力頼らず、標準機能を使いこなす

足立:もしよかったら、そちらものぞいていただければと思います。もうちょっといけますか。あと1つか2つぐらい? 

黒田:その他にも「ユーザーの分類、めっちゃあるあるだな」というような(笑)。

日髙:これはむしろ、動物を考えるところでけっこう悩みましたよね。

黒田:ありがとうございます。最新の質問も見ていければと思います。

日髙:外部プラグインアプリについてですね。そんなに多くは使っていないです。まずはkintoneの標準でできることがけっこうあるので。今日の会場でも、魅力的なプラグインを出していらっしゃる会社さんがいっぱいあるんですけど、まず「素うどんを極める」というか、「ちゃんと標準機能でできるところでやってみましょう」ということをすごく重視しています。

足立:やっぱり標準機能を使いこなしていただくことが、浸透の面でもよかったり、ゆくゆくは拡張していく時にも、標準を極めているとすごく取り回しがよかったりしますよね。

日髙:そうですね。やっぱりExcelマクロあるある問題と一緒で、作った人がいなくなっちゃったらわかりませんというのが、さっきの分類の3番のネズミ系であるので。

足立:囚われのネズミですね。

日髙:標準機能だけで作っておくことは、リバースエンジニアリングというか、後で担当になった人もこうなっているのかって解析しやすいっていうのはあるんですよね。そういう点であんまり複雑にしすぎないという点からも、極力プラグインには頼らない。標準で作ろうってところが根本にありますね。

社員教育のスタートは、ITに詳しくない人にもできるところから

足立:なるほど。これも非常に参考になるお話ですね。まだ1分あるので、最後に1質問。「アプリ利用者向けの社内教育の具体的な内容を知りたい」とご質問くださっています。

日髙:これは本当に、レコードの新規作成や編集、コメントとかスペースって何? というところなんですね。kintoneのレコードの新規作成って、Excelだったら空行に入れるだけですが、みんな最初はどうするのとハマるんですよね。

足立:「プラスがどこか?」というところからですかね。

日髙:「このプラスを押すんですよ」というところから始めています。レベル1はそういう簡単なところです。要は、ぜんぜんITに詳しくない方にも慣れていただくところから始めていますね。

足立:わかりました。ありがとうございます。この後もご質問があれば、「#JALキン」でつぶやいていただいたら拾っていきたいと思います。ぜひ質問したい方がいらっしゃったらTwitterにお寄せください。

今日は、日本航空さまにJALの成功方程式ということでお話をいただきました。本当に今日から使えるTips盛りだくさんで、本当にありがとうございました。お二方、拍手でお見送りいただきたいと思います。

黒田:ありがとうございました。

日髙:どうもありがとうございました。

(会場拍手)