スティグマ(差別・偏見)が起きるのは、「実際」を知る手段がないから

八名恵理子氏(以下、八名):では私から投げかけて持田さんにお伺いするというパートは終わりにしまして。もうすでにいろいろご質問が届いているんですけれども、ご参加いただいてる方からのご質問に答える時間に移れればと思います。

持田恭子氏(以下、持田):本当だ、いっぱいある。

八名:もし気になった質問があったらご自身でお答えいただいても大丈夫です。まずは私から質問します。もしかするとお話しいただいたことと重なる部分もあるかもしれないですが、「やはり他人に言えないということが当事者は多いと思うんですけど、そういったスティグマ(差別・偏見)の軽減にはどういった施策が考えられますでしょうか?」というご質問がきています。

持田:スティグマそのものが固定概念というか、実際には知らないけれど推察してこうなんじゃないかと言われていることだったりします。

例えば、障がいのことを知らないけれど大変そうだ…と思われているとか、ケアラーが「ケアのことについて他人に話さない」から伝わらないので、周りの人には「ケア」と言われても、実際に何が起きているのかを知る手段がないんです。

(質問に)具体例が書いてないのでなんとも言えないんですけど、私の場合だったら母親がうつ症状だということを他人に言えませんでした。

それが「世間にスティグマがあるからだ」ということだとしたら、「母が「うつ」だということを知ってもらう」のではなくて、「うつ症状とはどういうものなのか」を知っている人が増えること、「ああ、わかるよ、それ」という人が増えてくれることがすごく大事だなと思いますね。

解決のための施策は、子どもにとっては困るものになる

持田:例えば、「うつ」という言葉自体を知らない子もいると思うんですよ。「精神疾患」という言葉自体を知らないと思うんです。知らないから、「なんか(お母さんが)ご飯が作れなくなっちゃった」という状況を話すわけです。だからこそ、周りの大人がちゃんと子どもの状況把握をしてくれることがすごく大事だなと思ってます。

八名:そうですね。知ってる人だったら安心して話せるけどというのは、絶対にありますもんね。

持田:「施策」と言ってしまうと、政府や行政がやるような「お母さんを入院させる」という(問題を解決するための)施策になってくるんです。そうすると子どもとしては「それは困る」となります。「離ればなれにされるのは困る」ので、子どもの話をよく聞くことが必要だと思いますね。

八名:ありがとうございます。おっしゃるとおりですね。やはり大人側が焦らないことですね。

持田:大人って、どうしても解決したいんですよね。解決しようと思うから焦っちゃうんですよ。解決は後でいい。

八名:本当ですね。肝に銘じたいと思います。

「知ること」自体が子どもへの支援につながる

八名:話を聞くために、関係を作るというところにつながると思うんですけど、「その子と何回も会うことができる環境が必要なのかなと思いました。ただ、ふだん支援などに関わってない、子どもと継続的に会う機会がない大人はどんなことができますか?」というご質問もきていまして。何か思い当たることがあれば。

持田:これもどうしても「知ること」にいっちゃうんですけれども。私たちのような支援者がやっているイベントを見てくださることも、実はもうすでに関わっているんです。直接的な支援には関わっていないけれども、知ろうとしてくださっている。これでいいんですよ。今、このイベントを見てくださって、ここに書き込んでくださっていることが、実はすばらしいことなんですよ。

八名:確かに、「知っている・知らない」のお話だと、例えば今はつながってなくても、どこかの場面でそういう方と知り合った時とか話を聞いた時に(役に立ちますよね)。

持田:「この話、Learning for Allさんで聞いた」という記憶が絶対に残っているはずなので。積極的にセミナーに出てみるとか、話を聞いてみるとか(から始めてください)。うちの応援団にもなってほしいですね(笑)。

八名:本当ですね。それもできることの1つですね。「支えるコミュニティ」が大きくなっていくのがいいですね。

持田:そうしているうちに、なんとなく関わってくるようになるんですよ。「あれ?」って、気がついたらもう周りに子どもがいるようになってくるので。

八名:むしろ子どもが寄ってくる。

持田:そうそう。自分にキャパがある状態になってくれば、絶対に子どもとの接点が出てきます。

八名:ありがとうございます。

子どもが安心安全な場があることに気づくきっかけはない

八名:次の質問にいくんですけど。「特に困っている自覚がない子どもの場合、同じような仲間とつながれる安心・安全な場所があるといいと気づくきっかけはどこにあるのでしょうか?」ということです。

持田:気づくきっかけって、実はないんですね。ないから映画を作ったんですよ。子どもたちが観ているのはインスタ(Instagram)かYouTubeなので、そこで観せるための発信をしていかないと、子どもたちが安心安全な場があることに気づくきっかけがないんです。これは本当にすばらしい質問なんですけど、「どこにあるのでしょうか?」という答えは、「ないから作る」んです。

八名:こっちから「こういう場があるとこういうことが起きるんだよ」って見せてあげるんですね。

持田:はい、そうです。しかも今回の映画は、フィクションなんですけど、監督が何十人ものヤングケアラーやケアラーにインタビューをしているんです。実際に自閉症のある方ともZoomで対談をして作った脚本なので、ひと言ひと言ぜんぶに、子どもたちや親の言葉そのものが入っているんです。

セリフの中には、私の母親が私に言ったセリフもそのままバッチリ入ってます。そういうところも探してもらえたらうれしいです。

八名:そういうのを見ることがいいんですね。気づいてもらうためには、「相談窓口を用意しました」とかじゃなくて、「こうやってつながれると、こうなるんだよ」というところまで見せてあげる。これが1個大事なことなんですね。

子どもが「相談窓口」に電話したがらない理由

持田:子どもたちに「行政が相談窓口を作っているんだけど、電話する?」って聞いたら「絶っ対しない」って、小さな「っ」が入っていましたからね(笑)。

八名:なぜそんなに拒否反応が起きてしまうんですか?

持田:「なんで(電話しないの)?」って聞いたんですよ。そうしたら、「そうなんだ。じゃあこれこれ、こうすればいいんじゃない?」って言われるだけで終わるのが嫌だって。それと、やはり私と同じように、「おおごとになると思うと話せない」と。

もっと身近に相談できるところがあるとよくて、学校の中に「カフェ」があるとか。すでに校内にカフェがある中学校や高等学校ができてきているんですよ。なんでも話せるようなカフェスタイルのものがあったらいいんだけど、「窓口に電話する」のはハードルが高すぎるんです。

この映画のプロジェクトメンバーがヤングケアラーだった時にSOSの電話をした人がいるんです。すごく有名なところです。そうしたら、「あなたの周りで聞いてくれる大人に相談するといいよ」って言われたんですって。「は?いま電話してるのは、大人じゃないのかなって思った」と言っていました。「あれ?」みたいな(笑)。

八名:だから電話してるのに。

持田:そういうことが起きちゃうんですよね。

八名:1回それが起きると、「もういいや」ってなりますよね。それは本末転倒ですね。

持田:残念、チーン……って感じですね(笑)。子どもたちは「絶対に電話しない」と言っていました。

「何かあったら話してね」ではなく、大人側から聞きにいく

持田:電話って怖くないですか? 誰が出るのかわからなくて、どう言われるのかわからないところに「うちのお母さんが…」って言えないですよね。

八名:言えないですね。そういう意味でいうと、やはりふだんから何か話せる関係性を作っておくのが大切なんですね。「何かあったら話してね」ではなくて、こっちから聞きにいく。

持田:「何かあったら」というのが、本当に曖昧です。「え、どれ? 何の時に言えばいいんですか?」と思いますよね。

八名:常に何かはあるっちゃあるってことですからね。

持田:「もっと具体的に言ってよ」って感じですよね。声をかける時には、まず「自分が言われたらどうかな」って考えてから声をかけないといけない。自分も「『相談してね』って言われたら困るだろうな」と思ったら、そんなことは絶対に言えないですよね。

八名:当たり前と言えば、当たり前のことですね。

持田:そうなんですよ。大人になるとみんな忘れちゃうんですよね。

八名:胸が痛いなと思いました(笑)。

申請主義の日本における「知ること」の重要性

八名:次の質問です。「支援が必要な状態にも関わらず、自分で気づいていない、支援につながっていないご家庭のケアラーとつながることができたような、よい事例があれば教えてください」ということなんですが。あったりしますか?

持田:今のところはまだないですね。そういう状態に至るまでもっと時間が必要です。大人になったケアラーさんにはこういうケースがあります。

例えば、訪問入浴サービスという入浴介助。障がいのある息子さんがお風呂に入る介助を、お母さんがずっとしていたんですけど、大人になれば息子さんの体も大きくなるし、お母さんもだんだん腰が痛くなってきたりしますよね。

訪問入浴サービスという支援サービスがあるのにそれを知らなかったので、私たちが提供している講座の中で「こういう支援がありますよ」とお伝えしました。そうしたらさっそくそれを使ってくれたそうです。

母親の負担が減ったので、「以前より母親と出かけられるようになりました」と、きょうだいさんが言っていました。そこで今まで母娘で話さなかったようなことも話せるようになったという、そういう事例もありましたね。

家族って実はあんまり公的支援サービスのことを知らないんですよね。障害者福祉とか介護サービスなどの細かいこととか、どこに行ったら何があるって、誰からも教わっていないんです。

日本は「申請主義」といって、家族が申請書を出して「このサービスを使わせてください」って言わないとサービスを利用することができないんです。だから、サービスそのものがあることを知らなかったら自分たちでがんばっちゃうんですよね。知ることって、すごく大事なんです。

支援サービスを使うために必要な「読み解く力」

八名:そうなんですね。でもそういう情報を集めておいて共有するのは、私たちでもできることですよね。

持田:支援側にしてみれば「こんなに支援サービスがあります。どうぞ」って感じなんですよ。しおりみたいな、分厚い電話帳みたいなやつにいっぱい書いてあって。開けても何が書いてあるのかよくわからない。専門用語も難しいので、本当にわかりづらいんですよね。

そういった支援サービスを「読み解く力」がすごく必要なんですけど、みんながみんな読み解くことができるわけじゃない。だから私たちは「公的支援サービスを読み解く講座」をやってるいます。「こんな制度があったのか」「使ってみたらすごくよかった」という事例がすごくたくさんありますね。

八名:そうなんですね。ものがあるにも関わらず、ちゃんと届いていない状況ですね。

持田:そうなんですよ。家族に障がいや病気があったら、「みんなわかっているだろうから」って思い込んで、申請されるのを待ってるんですよね。「いや、待つな、教えろ」と言いたいです。

「伝えて! 発信して! お願い!」「もっとわかりやすくして!」という感じです(笑)。小学生でもわかる言葉で説明してほしいですね。

SNSで発信するのは、「活動の概要」ではなく「楽しいこと」

八名:今の話からいくつかの質問が来ているんですが、「持田さんのところに来ている子どもたちは、どうやって来ているんですか?」「居場所作りしたいんですけど、どういうふうに当事者に情報を届けたらいいでしょうか?」というお声があって。持田さんはどういうふうに子どもたちに届けてるんですか?

持田:私たちのところには、Twitterで来てますよ。

八名:具体的ですね。

持田:私たちが発信しているのがTwitterですから。TwitterとかInstagramとか、YouTube。SNSをめちゃめちゃ使っています。ライブ配信は、大人しか聞いていないかな。子どもはほぼTwitterですね。

八名:Twitterで「こういう活動をしてます」「こういうのやります」って発信されているんですね。

持田:「こんなのやりました」とか「こんなのおもしろかった」とか、「こんな話で盛り上がった」とか、すごくたくさんTwitterに出しています。それを見た子どもが、ダイレクトメールしてきます。「参加していいですか?」と。

八名:「こういう活動を」という活動概要だけじゃなくて、実際に「この場でこういう話をしました」ということも発信されているんですか?

持田:そうそう。Twitterって(投稿できる文章が)短いじゃないですか。概要を書いていたらすぐ終わっちゃうんです。だから「こんなゲームして楽しかった」とか、そういう楽しいことを書いたりしています。困った話やプライバシーに関わる話は書かないですね。けっこう楽しかった話ばっかりしてます。いつもけっこう楽しいので。

八名:めちゃめちゃすてきですね。「安心・安全な場があるといいなと気づくきっかけがない」という最初の質問ともつながるのかなと思いました。場の様子を見せることで、「いいな」って気づくきっかけにもなるんですね。

持田:みんな半年ぐらいはずっと様子見していますよ。私たちのことを知っても、半年ぐらいはTwitterを見続けているんです。大縄跳びの縄跳びにようやく入るみたいな感じですね。「いーち、にー、よーし」みたいに、うちらのところに来てくれるんです。

八名:来てくれるのを待つのが大事なんですかね。

持田:そうそう。そうしたら、私たちがこんなに大きな声で、大縄跳びを「いーち! にー!」ってやってるから(笑)、みんな「ああ、なんかジャンプしていて楽しそう」と思ってくれるんです。

「相談」ではなく、「気軽に話せる」関係性を築くことが大事

八名:すてきですね。ちょっと時間がなくなってきたので、最後に1つおうかがいしたいんですけど。

「本人が支援を必要としていなかったり、苦に思っていない場合が多いという話だったんですけど。とはいえ、例えば進学に影響があるという時には、状況が悪化する前に、支援を受ける重要性を伝える必要があるように思います。そのあたりの線引きについて考えをおうかがいしたいです」ということです。とありますけど。影響が及ぶ前にできることということですかね。

持田:いくつもそういうケースはあります。進学とか進路に関しては、どちらかというと個別で対応してますね。LINEでずっと個別で話したりとか、実際に電話を受けて4時間ぐらいしゃべったこともある。本当に個別で、相談まではいかないけれども、進路のことについてはけっこう深く話します。みんなの前ではなく1対1で。

八名:「影響があるな」と思ったら個別で声をかけて、しっかりと相談にのるという感じなんですか。

持田:声をかけるより先に、「ちょっと話を聞いてもらえますか?」と向こうから来るんですよね。

八名:なるほど。それを言える関係性が前提にあるから。

持田:そうですね。「進路の話は」ってなった時に、なんとなく「後で話そう」となると思うんですよね。それで少し経ってからLINEでちょっと連絡が来るとか。あとは話をしていて「うーん」となったら、「また後で話そう。LINEちょうだい」って言うんですよ。(こちらから)言うとしたらそれくらいです。

「もうちょっと話したかったら、LINEちょうだいね」という感じで話していると、「いいですか?」って来て「オッケー、オッケー」と言って、そこから話し始めるんです。

八名:本人は相談することに抵抗があるわけではないけど、1歩が重い。だからこそちょっと気軽に「聞くよ」ぐらいでやるんですね。

持田:そうですね。「相談」となってしまうとやはり重たい。「ちょっといいですか?」「いいよ」という、そういう気軽に話せる関係性をしっかり作っておくことが大事ですね。

八名:なるほど、ありがとうございます。お時間になってしまいましたので、今日はこちらで終了させていただきます。持田さん、今日はとてもすてきなお話をありがとうございました。

持田:ありがとうございました。