年齢による「ヤングケアラー」の気持ちの違い

八名恵理子氏(以下、八名):ヤングケアラーがどんな気持ちを抱えているかなどをお話しいただいたんですが、当事者の目線から、ヤングケアラーの気持ちは小学生・中学生・高校生などのステージによって違いがあるのか、もう少し教えてもらえたらと思います。

持田恭子氏(以下、持田):私たちは以前、未就学児から小学生まで、4歳から11歳ぐらいまでの子どもたちに、遊びを取り入れた会をやっていたことがあるんですね。そのくらいの年齢では、障がいのある子もない子も一緒になって遊んでいる時期なので、それほどケアや世話や介護という感覚は持っていないんです。

ダウン症のある赤ちゃんを小脇に抱えて、フルーツバスケットに参加する子がいたりして(笑)。「おーい!」って(驚いてしまいました)(笑)。

八名:すごい(笑)。

持田:片手で妹を小脇に抱えて、走り回っているんですよ(笑)。

八名:たくましいですね(笑)。

持田:たくましいんです(笑)。私たちは「いつも家でこうしているんだな」と思って見ていたんです。

その子も1回目や2回目は、(ダウン症のある妹を)抱えて「私はずっとこの子と一緒に参加する!」と言っていたんですけど、3回目くらいから、妹と離れて自分だけが参加するようになったんです。

回を重ねるごとに、「この会は、自分のためにあるんだ」とだんだんわかってきたんですね。最初はやはり「お姉ちゃん」だったんですよね。だけど、「自分のためなんだ」とわかってきたら、少し(妹と)離れるようになってきたんです。

高校生も、「自分の気持ち」を言葉では表現できない

持田:「10歳の壁」と言われていますよね。小学校の高学年になると、友だち同士で共通点を見つけて、グループ化する時期があるんです。そういう時期になると、「あれ? 自分と同じ仲間がいないな」と気付き始めるんです。少しずつ「うちは周りの家庭と違うな」と思い始めるのが、だいたい小学校の高学年ぐらい。

中学生になると、今度は「遊ぶだけなんて、子どもっぽい」「こんなのやってられないぜ」という感じになってきます(笑)。「もっと話したい」「誰かの話を聞きたい」と、大人の世界に憧れ始めるのが中学生ぐらいの時ですね。

高校生になると、少しずつ言葉が増えてくる。徐々に語彙も増えてくるので、家族の状況を説明することで、自分がどう思っているのかを話そうとし始めるんですよ。でもこの頃はまだ、「自分の気持ちはどう?」と言われても表現できないんですね。

例えばさっき言ったような「悔しい」は、(私は)大人になってから「あれは悔しかったんだな」と思うんだけど、その時はなんだかわからないけど、ウーッ! となっている(笑)。まだ高校生ぐらいだと、自分の気持ちが怒りなのか憤りなのか悔しさなのか、感情と(言葉)のリンクができていないんですよね。

なので、自分の状況の話をするんです。そんな時に大人から「相談してね」「何か困ってる?」とか言われると、今度は自分が置かれている状況説明から始めなきゃいけないのですごく時間がかかっちゃって、途中で話すのに疲れて諦めちゃったり、支離滅裂になっちゃったりするんです。

何を話したかったのかもわからなくなって、今度はうまく表現できないことが自分のストレスになってしまう。そして「別に大丈夫です」とか「まあ、そんな感じ」と、適当に話しちゃうところが出てくるんです。

一番大切なのは、とことん最後まで話を聞くこと

持田:大人から「何かあったら相談してね」と言われても、子どもは「『何か』って何だろう?」と思うし、「相談してね」と言われても、「相談って超ハードル高い」と思うし、どの言葉も自分にフィットしないんですよね。

だから私たちは、中学生や高校生と話をする時は、とことん最後まで話を聞くんです。そこに何のジャッジもしないし、何の脚色もしない。「こうなんでしょう?」という言い方は、絶対にしないようにしています。ずっと聞いています(笑)。

八名:それが一番なんですね。

持田:それが一番です。最初はずっと推しの話をしたり、BTSやTWICEの話をずっとしているわけです(笑)。コンサートに行ったとか、「この間のインスタライブを観そびれて、超悔しい」とか、そういう話をずっとしている。そこでちょろっと「その時にお母さんが入ってきて……」って出てくるんですよ。(私はそこで)「お、来た来た来たー!」と思って聞くわけです(笑)。

八名:とにかく待つんですね。

持田:そうですね。

八名:振り返ると、小学生の時はまだ自分が他の家庭と違うとか、そういうところはあんまり自覚がなくて、普通に過ごしているところがありますよね。

持田:「楽しい!」と思うところもある。

八名:なるほど。ただただきょうだいと一緒に遊んでいるという気持ち。

「家族のことを好きとか大切とか思えません」という子どももいる

持田:もちろん、兄弟姉妹に強度行動障がいがあって、壁に穴を開けちゃうとか、自分に殴りかかってくるとか、包丁を振り回すなどの命に危険がある場合は、楽しいとか言っていられないですよ。

そういう状況では、小学生でも「逃げなきゃ」「怖い」と思います。パニックになって「うわー!」と叫んでいるお兄ちゃんを親が押さえている様子を毎日を見て、「あぁ……」と思っている子もいます。本当にさまざまで、暴行を受けている子もいるし、嫌なことをされる子もいる。

八名:確かに、一括りにはできないですよね。

持田:小学生の頃から兄弟から性的な暴行を受けてしまうことがあったという話も聞きました。すごく衝撃だったんですが、そういうことも実際にあるから、「家族のことを好きとか大切とか思えません」という子どももいるんですね。なので、世の中の全員が家族が大切だと思っていると思い込んでもいけない。

八名:そうですよね。押しつけられないですよね。

持田:押しつけないことが大事ですよね。

八名:高校生になってくると自分で状況説明をするようになるものの、周りから言われる言葉で疲弊してしまい、また自分の気持ちを閉じ込めてしまうことも出てきてしまうのでしょうか。

持田:高校生だと、まだ状況説明しかできないんです。「何か困ってる?」と言われると、「困るってどの部分かな?」って思うので、すごく答えることが難しいんですよね。

八名:そうですよね。

「どんなサポートをしてほしい?」という質問は、大人でも答えられない

八名:ここまでヤングケアラーの子どもたちが抱える気持ちについてお話しいただきました。今話していただいたことと重なってしまうかもしれませんが、その子たちは周囲からどんなサポートをしてほしいと望んでいるのか。もしくは、そもそもサポートしてほしいと望んでいるのかどうか。そのあたりをお話しいただけますでしょうか。

持田:そうですね。どういうのがわかりやすいかな。例えば、八名さんはご家族にケアを必要としてる人っていらっしゃいますか?

八名:いないです。将来的に例えば祖母がというのは出てくるかもしれないけど。

持田:例えばある日突然、八名さんのお母さまが、私の母と同じように、うつの症状を患ったとします。ご飯が急に食べられなくなったとか、家事ができなくなって毎日泣いてるとか。そんな状態になった時に、そのことを誰かに相談したいって思いますか?

八名:うーん……すぐにはならないかもしれないですね。

持田:その時にどんなサポートをしてほしいって思いますか?

八名:確かにそうですね。「周りに助けてもらうことじゃないかも」と思うかもしれないですね。

持田:そうなんです。そこなんですよ。子どもも同じなんですよ。いきなり「あなたはどんなサポートをしてほしいですか?」とか聞かれても、誰もわからないんです。大人でも答えることができないことって、子どもだって絶対答えられないから。

まずは、世の中に「サポート」があることから教えないといけない。「サポートって何?」というところから。サポートを知らないと、選ぶこともできないし。

大人でもできないことを、一生懸命子どもにやろうとしてるんですよ。「相談してね」とか「どんなことで困ってる?」とか「どんなサポートがほしいの?」って聞かれても、子どもからすると、そもそも「どんなサポートがあるのか」よくわからない。

すぐに解決しようとせずに、まず話を聞いてほしい

持田:よく私も、「ヤングケアラーかもしれない子どもを発見したら、どうしたらいいですか?」って聞かれるんですよ。その時に必ず私が言うのは、「まずは子どもの話をよく聞いてください」というところから始めています。

家族の状況を聞く。例えばうちの場合だと「母がご飯作らなくて」と言ったとしたら、「じゃあすぐ公的支援につなげなくちゃ!」と思ってしまうのではなくて、まずその子が置かれている状況を知ることと、「自分が同じ立場だったらどう思うかな」と考えながら、子どもの話に同意を示すことが必要です。

「『すぐになんとか解決しなきゃ』ではなくて、まず話を聞いてほしい」と言ってます。

八名:先ほどからずっとおっしゃっていただいてますね。

持田:同じことを……(笑)。

八名:いえ、こっちが押しつけるのではなくて、まずは話を聞くことがすごく大事なんだなと。そう思う一方で、やはりこちらが「大丈夫?」と声をかけると逆に話しづらかったり、「大丈夫です」ってなっちゃう部分があるじゃないですか。

持田:「大丈夫」って、魔法のような不思議な言葉ですよね。相手から「大丈夫だよ」と言われると安心するけど、「大丈夫?」って聞かれると、大丈夫じゃないのに「大丈夫です」と言ってしまう。時と場合によって使い分けなきゃいけない言葉なんですよ。

声かけの大原則は「わかったようなことを言わない」

八名:そうですね。どういうふうに聞くのがいいとか、どういう声かけだと(子どもたちは)話しやすいのでしょうか?

持田:声かけね。これもよく聞かれるんですよね。状況によって違うので、望ましい声かけというものはないんですけども。「わかったようなことを言わない」のが一番大事なんですよ。

例えば、何か「こうこう、こうで」って(子どもが)愚痴を話している時に、「あぁ、でもそれって家族が大切だからだよね」と言うと、先ほどの話のように(家族のことを)大切に思えない子もいるので、「あっ、この人もうダメ(わかってもらえない)」って思っちゃうんですよね。

だから、自分の価値判断や経験だけで「あなたはこうだよね」とは、絶対に言わないほうがいい。「自分軸」にせず、「相手軸」にしなきゃ。

あと、私たちの目から見て、これだけは絶対に子どもに言わないでほしいなと思うのは、「まだ若いからいいよね」とか、「これからいくらでもできるよ」とか。「大変だね」というのも、他人事で話されるとダメですよね。

八名:まずは関係性を作って、無理やり聞かずに話してくれるまで待つ。話してくれたらそういう押しつけだとか(はしないということですね)。

持田:「本当にそうだよね」と同意しているうちに、その”同意”が増えれば増えるほど、子どもの格好をしてるけど、頭の中は大人なので、「ああよかった。この人はわかってくれた」と確認ができて、次のステージにいけるんですよ。

子どもを信じたほうがいい。「子どもだからわからない」と思わないほうがいい。「子どもはできる。自分よりわかっている」と思ったほうがいい。

八名:そうかもしれないですね。経験がない私がどうにかしようとするのではなくて、(子どもが)自分で話をして、こっちは話を聞いて、それを受け止めて勝手に進んでもらえばいいんですね。

持田:その時にケア経験がある人がいれば、「私もこうだったよ、ああだったよ」と話ができるので、よりいいですよね。

八名:そうですね。(私たちが)できることは、「似たような経験がある人とつないであげること」ですね。

持田:そうそう。あとは「子ども同士で会わせる」とかね。「ちょっと〇〇ちゃんと一緒に話してみない?」とか、そういう場を設けることですね。例えば私たちは今オンラインで活動をしているので、つなげていただけるといいかなと思います。

八名:ありがとうございます。ぜひお願いしたいです。

友達に、弟の障がいを打ち明けられなかった女の子の葛藤

八名:(持田さんは)そうやっていろいろな子どもたちを見てこられていると思うんですけど、具体的に関わりで変化した事例があったら教えていただけますか?

持田:障がいのある弟のことを友だちに言えなかった子がいたんです。

その子が1年ぐらいかけて、プログラム受けたり私たちと話したりしていくうちに、「ここには仲間がいっぱいいる。もし友だちに(弟のことを)話して嫌なことが起きても、『ちょっと聞いてくださいよ』って言える場所がある。もう安心だから、思い切って言ってみよう」と思って、友だちに「実はね、私の弟は……」って言ったんです。

彼女はいつも放課後デイサービスに弟をお迎えに行っているんですけど、その弟のお迎えに友だちを連れて行ったんですよね。「どんな反応になるかな」って、すごくドキドキしながら連れて行ったら、(友だちが)「えっ、弟くんかわいいじゃん」って。「泣くほどうれしかった」って言っていました。

(私がその子に)「打ち明けられたね!」って言ったら、「ここに来ればみんながいるってわかっているから、勇気を出して言えました」と。そういうことがありました。

八名:「他の人に言う」って勇気がいるけど、このコミュニティで「言う経験」を踏んだからこそ、「他の人にも言ってみよう」ってなれたんですね。

持田:そうですね。「ダメだったらここで愚痴を言おう」と思って、がんばって打ち明けたって言っていました。だから今は、「ちょっと聞いてくださいよー」みたいなことが多いですよ。

八名:それはふだんの些細な悩みとか?

持田:「修学旅行がなくなった」とか、「沖縄に行くはずが千葉の海になって…」とか、そういう話をよくしてます(笑)。

八名:そういう些細な愚痴を含めて話せる関係であるからこそ、ケアに関する話もできるんですね。親のケアのことだけ聞こうなんてしたら……。

持田:そうですね。なんか、進路の相談というと、進路指導のようで怖いじゃないですか(笑)。

八名:そうですね(笑)。

持田:TWICEの話で盛り上がった挙げ句に、ちょっとそういう(進路の)話がポロっと出るとかだと、全体的に和気あいあいとするので。楽しい話のまま、愚痴も言えるというのがいいですよね。

八名:そうですね、関係性がまずは大事ですね。ありがとうございます。

「周りに言える」ことは、ヤングケアラーにとっては重大な問題

八名:ちなみに、その子は弟のことをお友だちに話せてから、何か心境の変化はあったんですか?

持田:「すごく変わった」と言っていました。「誰にでも『はい、これが私の弟です』って言えるようになった」って言ってましたね。

八名:すてきですね。やはり今まで言えなくてモヤモヤしていたものが(なくなるとうれしいですよね)。

持田:いつもイライラしたり怒ったりしていたので、めちゃめちゃ明るくなりましたよ。

八名:そうなんですね。こんな言い方をしていいのかわからないですけど、そんな小さなことだけでそんなに変わるんだと思いました。

持田:そうそう! それが大きなことなんですよ。実はぜんぜん小さなことではなくて、ケアラーの子どもたちにとってはめちゃくちゃシリアスで、めちゃくちゃ大きなことなんです。

八名:なるほど。「周りに言える」ことがそうなんですね。

持田:すっごい大きなことなんですよ。

八名:やはり支援というと、「何かしなきゃ」と思いがちですけど……。

持田:「解決しなきゃ」って思いがちなんですけど、解決はずっと後でいいんですよ。解決策って、大人も子どもも、基本的に自分しか持っていないんですよ。だから私たち大人は(子どもに対して)「解決する力」をつけることをしていく必要があると思うんですよね。

八名:それはLearning for Allの支援の考え方と通じる部分があるんじゃないかなと思っています。学習支援でも、こっちが目標を押しつけるんじゃなくて、「何を目指したいのか」を(本人に)決めてもらってがんばっていくようにしています。

持田:やっぱり「打ち明けられるようになる」ってことがすごく大きいかもしれない。

子どもの心境を変えるのは、関係性の積み重ね

八名:他にも、以前お話をおうかがいした時に、最初はぜんぜん話してくれなかった子どもがいた(とおっしゃっていましたよね)。

持田:オンラインでビデオオフ、マイクもオフで、チャットだけでやりとりをしていた高校生がいたんですけど。今はもう顔出しして話すようになって、ある議員さんにプレゼンテーションまでするようになり、大成長したんです。

その子が最初にオンラインで顔を見せてくれた時は、感動して私たちが泣いちゃったんですよね。うれしくて、私なんかもうボロボロ泣いて。「なに泣いてるんですか」となるぐらい、私たちのほうが感動しちゃったんです(笑)。

八名:すごくすてきなエピソードですね。

持田:最初はこのぐらい(で、顔の下半分だけ映っていた)のが、だんだん(顔が)下りてきて。顔(全体)を出してくれた時には「うわー!」って。

八名:感動的ですね。でも、この(顔が見えない)状態でどういうコミュニケーションをされてたんですか?

持田:普通にしゃべっていたんですけど、「絶対に顔は出さない」という感じでした。今は普通に顔出ししています。

八名:「顔を見せて」とは言わず……。

持田:ぜんぜん言わなかった。

八名:そのままで、話をただただしている時間が長期間あったんですね。

持田:「首長いね」とか、「いいなぁ、私首短いんだよね」とか、そういうことは言っていたけど(笑)。「顔小っちゃいね」とか(笑)。それで和んだ感じはありました。

八名:そういう空気があったからこそ、きっとだんだん「この人たちには話してもいいかな」「顔出してちゃんと話そうかな」と思えたんですね。

持田:「楽しそうだな」「大丈夫なんだな」と。でも、彼女も「勇気がいりました」と言ってましたよ。

八名:(顔を)出すまでにはいろいろな葛藤があったんですね。勇気がいるとはいえ、毎回話をしに来てはくれていたんですね。

持田:毎回休まず来てくれていました。皆勤賞です。

八名:それはどういう理由で来てくれていたんですかね?

持田:今度聞いときます(笑)。

八名:いきなり聞いてすいません(笑)。特別な心境の変化があったわけではなく、やはりだんだんと関係性が築けたことで、そうなっていくんですね。ありがとうございます。

さまざまな「ヤングケアラー」を知ってもらうために

八名:いろいろおうかがいしてしまったんですけれども、ちょっと簡単にまとめます。

周囲の子どもたちは、「困難を抱えている」とか「大変だね」と思われるようなことは望んでもないし、自分たちでもそうは思っていない。でも「周りに言えない」という葛藤は抱えているので、信頼関係を作って、だんだんと「言える環境」を作る。

周りの人に「自分がこういう経験をしている」とか「こういう家族がいる」と知ってもらえることだけでも、すごく大きな支えになるというか、生きやすさにつながるということなんですかね。

持田:そうですね。やはり「ヤングケアラー」といってもいろいろいます。今きょうだいの話もしましたけれども、うちのところに来てる子どもたちは、親御さんに精神疾患があったり不安症があったり、祖父母の世話をしてるとか、いろんな子がいるんですよね。

そんな中で、私たちは今、ヤングケアラーが主役の短編映画を作っています。いろんなヤングケアラーがいるからこそ、ヤングケアラーを主役にした映画をシリーズ化して制作していこうと考えています。「こんな子もいる」「あんな子もいる」と知ってもらえるようなことをやっていこうとしているんですね。

八名:せっかくなので、その短編映画の話もおうかがいしようと思います。今簡単におっしゃっていただきましたが、どういうストーリーの映画なのか、どういう目的なのか(教えていただけますか)。

持田:17分間のショートムービーです。12月18日(土)に「ケアラーTube」というYouTube で一般公開されるんですけど、CANとしては初のクラウドファンディングに挑戦してまして……今ページをお見せしてもいいですか?

八名:はい、どうぞ。

持田:これは単に映画の制作費だけを募っているのではなくて。ヤングケアラーが、家族のケアを続けながらも前向きに生きることにチャレンジしていく姿を描き出しています。これからも映像化し続けて、みなさんにヤングケアラーの応援団になっていただきたいなと思っているんです。

表面的な理解ではなく、映像を通して疑似体験してもらいたい

持田:あらすじは、陽菜という17歳の女の子が主人公で、知的障がいを伴う自閉症のあるお兄さんがいるという設定です。ある日、進路希望書が学校で配られるんですよね。その時に、陽菜はやはり消極的な選択しかできないんです。でも、親友の美咲は元気いっぱいで、いろんな夢を描くんですよね。なんでも話せる親友なんだけど、お兄さんのことはまだ話していないという状態。

家に帰ると、いろんなことが起きていて…、親友との会話や母親との会話の中から陽菜がいろんなことを感じとって、考え方も変わって、行動が変わっていくんですよね。

その様子を1つのストーリーとして描いています。学校の先生や親友、障がいのある兄、そして両親など、陽菜を取り巻く周りの人の動きや言葉一つひとつが、ヤングケアラーの日常生活を描き出している。そういうお話になってます。

八名:ヤングケアラーの主人公の周りで起きていることを、いろいろ映像で見て感じるようなものになっているんですね。

持田:そうですね。例えば進路という将来への扉を開く瞬間に、ヤングケアラーが何を考えて、何に悩んで、どんな言動に傷ついて、どんな言葉に励まされるのか。さっき言った「そんな小さなことで」というのは、実は大きなことなんだと。どうして大きなことなのか、なんで消極的な選択しかできないのか。

陽菜の気持ちがこの17分間に、ぜんぶぎゅぎゅっと入っているので、みなさんには、陽菜になったかのような疑似体験していただける、そんな映画になっています。

八名:なんでこれを映像にしようと思われたんですか?

持田:私はブログを書いたり、こうやってお話しをしたりとかしてはいるんですけど。「映像の力」、つまりエンタメの力がすごく大きいんです。みなさん、映画を見るとついその映画の主人公になったような気持ちになったりしません?ストーリーの中に入り込みますよね。

「ヤングケアラーとはこんな子」ではなく、知的障がいとか自閉症のある人がどういう行動をとるのか、その家族がそれぞれどんな思いをしているのかを、映画を通して疑似体験していただくことで、今まで出会ったことがない知的障がいや自閉症への理解も深まると思います。そうして「ヤングケアラー」のことをより深く知っていただいたり、子どもたちの応援団になってもらいたいなって思ってるんですね。

八名:応援団っていいですね。すてきですね。

やさしい世界をつくるのは、「温かいエネルギー」の拡散

持田:映画に出た俳優さんがこんなことをおっしゃっていたんです。今までは街中で障がいのある方を見かけると、「ああ、障がい者だな」って思って終わっていたんですって。でもこの映画に出演してからは、「あっ、この障がいのある人にも、もしかしたらきょうだいがいるかもしれない」とか、「お父さんお母さんはきっとこんな気持ちなんじゃないか」って、家族の姿まで見えるようになったそうなんです。

障がいのある方に対する自分の態度や姿勢が、ものすごく温かいものに変化したというんですね。私はこれを聞いた時に、「こういう人がたくさん増えてほしいな」って思っていて。

今、障がいのある人を見かけると、「大変そうだな」とか「かわいそうだな」とか、じろじろ見るのは失礼だから子どもに「見ちゃダメ」って言うお母さんがいたりするわけなんですが、ヤングケアラーは、こうしたことを目の当たりにして、とっても悲しい思いをしてきてるんです。

でも、この俳優さんのように「わたし知ってるよ」「あなたのことわかるよ」と感じてくれる人が世の中に増えてくれたら、絶対にその「温かいエネルギー」が拡散していくと思うんです。ヤングケアラーにとっても、障がいのある方にとっても、家族にとっても、「やさしい社会」になっていくんじゃないかなって、信じています。

八名:すごくすてきですね。さっき「相手の目線で話を聞く」というお話があったんですけど、やはり同じ経験を持っていないと、考えようとしても考えきれない部分が絶対にあると思うんです。

持田:わからない、イメージできない。

八名:そうです。でも、こういうもので当事者の気持ちに1回なりきってみると、気づく部分がすごくありそうだなって思いました。

持田:12月11日に舞台挨拶付きの先行試写会をやるんですけど、こちらも(クラウドファンディングの)リターンの中に入っています。ご支援していただくことで、私たちもこれからもっとヤングケアラーを主役にした映画を、もっともっと制作していくことができると思います。

陽菜のようなヤングケアラーが未来に挑戦していこうとする姿を、大人の私たちが応援団になって、障がいとか病気とかに対する意識をポジティブなものに変えていく。それが実はヤングケアラーを支え、支援につながっていくことになります。

それができると、よく言われているように、周りの人が変われば、コミュニティが変わって、社会が変わって、国や世界も変わっていくという、壮大な意識改革につながっていくと思います。ぜひそみなさんで応援していただけたらうれしいなと思っています。

八名:とてもすてきです。ご紹介ありがとうございます。

持田:ありがとうございます。