2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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八名恵理子氏(以下、八名):本日は「ヤングケアラーが抱える困難と近くにいる大人にできること」ということで、持田恭子さんにご講演をいただきます。僭越ながら、私から簡単にご紹介させていただきます。一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会の代表を務めていらっしゃる持田さんには、Learning for Allの取組に共感してくださっており、今回この「こども支援ナビ」のイベントにもご参加いただけることとなりました。
持田さんご自身も、ダウン症のあるお兄さまがいらっしゃいます。父親を看取り、母親の在宅介護やダウン症のあるお兄さまのケアをしながら仕事もするというご経験をお持ちです。そんなご自身のご経験もあり、ケアラー同士がつながって気持ちをわかり合い、情報を共有し合うような仕組みが必要ということで、ケアラーアクションネットワークを立ち上げられました。
現在はケアラーおよびヤングケアラーの自立促進事業やヤングケアラーが主役の短編映画の監修を行うなど、幅広く活躍をされております。それでは持田さん、ご登壇いただけますでしょうか。
持田恭子氏(以下、持田):こんばんは。よろしくお願いします。
八名:よろしくお願いいたします。ではさっそく、今日はいろいろおうかがいしようと思います。まず「『ヤングケアラー』とはどんな方々なんですか?」ということで、ヤングケアラーの気持ちなどをおうかがいしていこうと思います。
世の中には「ヤングケアラー」のいろいろな定義があると思うんですが、持田さんはヤングケアラーをどう考えていらっしゃいますか?
持田:「どんなケアをしている子どもがヤングケアラーなのか」ということはみなさんもよく目にすると思うんですが、「(家族の世話をすることで)どんな影響があるのか?」というところまでは、当事者である子どもたちにはまだぜんぜん伝わっていない気がするんですよね。
持田:『ヤングケアラー』という言葉は、簡単に言えば「若い世代で家族のケアをしている子どもたち」の総称なんです。なので、ヤングケアラーという言葉を使って大人が子どもを定義付けたり、ヤングケアラーになる・ならないというレッテルを貼るために、そういった言葉を使ってはいけないな、と思っています。
日本では児童福祉法の下で「子どもの人権」が保障されているわけですが、ヤングケアラーはこういった法律の網目から漏れている子どもたちでもあるんです。
もっと広く総称として『ヤングケアラー』と呼ぶことで、今まで見えてこなかった「子どもたちの人権」を守る範囲を広げて、メンタルヘルスを整えたり、ウェルビーイングと言われている「健やかにいる」という状態を維持したり高められるサポートをしたりすることが、ヤングケアラーへの取り組みなんじゃないかなと私たちは考えています。
当事者である子どもは、「ヤングケアラーはこんな子どもです」という表現に、「自分は大したことをしていないから、ヤングケアラーじゃない」「弟の世話をしているけど、祖父の介護はしていないからヤングケアラーじゃない」「自分は当てはまらないんじゃないか」と、自分で線引きをしちゃっているんです。
「当てはまらないから、自分はもっとがんばらなくちゃ」と、かえって、ひとりでがんばってしまう子どもが出てきているんです。私はそれを心配しています。
八名:当事者自身が「ヤングケアラーという支援されている側であるからには、自分はもっと苦労していないといけない。(他の人はもっと)苦労しているはずだ」と。
持田:そうなんです。テレビや新聞に出てくるのは重たい介護が多いので、「ここまではしていない」と思ってしまう。本当は、障がいのある弟の歯磨きをしてあげたり、トイレや入浴を「お手伝い」とすら思っていない状態でしているのに、「寝たきりの祖父母の介護をしているわけじゃないから、自分はヤングケアラーじゃない」と思ってしまったりするんですよ。
八名:それも立派なヤングケアラーですよね。
持田:そうなんです。そこがすごく心配なんです。
八名:そういう子どもたちにアプローチしていくためには、例えばどういうことをしていったらいいんでしょうか。
持田:今、政府は「ヤングケアラー支援体制強化事業」というものを打ち出しています。子どもが家族の介護をすることで進学を諦めてしまったり、生活が苦しくなったり、子ども自身の健康が損なわれるという重たい状態になってしまった場合、多職種の専門家たちが連携して、その家庭に「公的支援」という福祉や介護のサービスを入れることを想定した支援が進められています。
「子どもから重たい介護負担を取り除けば、その子どもは学校生活に戻ることができる」ということで推進されている事業が出てきて、これからいろんなところで取り組んでいかれるのではないかと思います。
ですが、ヤングケアラーは本当に多種多様です。実際に、私たちが行っているヤングケアラー支援に来ている子どもたちに聞いてみると、家族の世話をしていることを悪いことだと思っていないし、苦労だとも思っていないんです。
そのことで自分の学校生活がままならなくなってしまうことは、かえって家族に申し訳ないなと思ってしまったりするんです。「家族の世話をしながら明るく元気に学校へ行きたい」と願っている子もいれば、もちろん中にはそうではない子もいるんです。両極端だったりするんですよね。
例えば生活は安定していて困窮状態ではなく、学校にも通えていて部活もできている。塾にも通っている。そう聞くと、あまり問題がないように思いますよね。でも家に帰ると、実は母親に精神疾患があったり、弟に知的障がいがあったりして、2人の世話をしているというケースもあるんです。
持田:その子どもが誰かに打ち明けない限り、自分と似たような環境にいる同年代の子どもに出会うチャンスは、限りなく少なくなっちゃうんですよね。
八名:確かに、似た環境にいる子が自分の近くにいるかどうかなんて、聞いてみないとわからない。だけど、言うのも怖いですよね。
持田:お互いに言うのが怖くて、もしかしたら本当は隣にいる子が自分と似ているかもしれないのに、両方が言い出せないままというのはありますよね。
前にこういうことがあったんですよ。障がいのある兄弟姉妹がいる人をひらがなで「きょうだい」と言うんですが、私たちは大人になったきょうだい同士が集まる「きょうだいの集い」という会を運営していて。
そこに来た人たちの中で、ある2人が「あ、〇〇ちゃん!」「〇〇ちゃん!」と言って驚いていたんです。それが偶然、小学校の時の同級生だった(笑)。大人になって、きょうだいの会で再会して、「えっ、うそ。もしかして⁉」となって(笑)。「小学校の時に知り合いだったのに(家族のことは)話さなかったね」と、そこだけでものすごく盛り上がっていたことがあって、びっくりしました(笑)。
八名:本当ですね。「まさか、そんなに近くにいたなんて!」という。
持田:その日は感動でしたよ。「いいなあ、いいなあ」と言って、みんなが泣いちゃって(笑)。
八名:当時に知っていたら、お互いに支え合うこともできたかもしれないですよね。
持田:そう。そういう話を2人はしていました。
八名:持田さんも、もともとヤングケアラーというカテゴリに当てはまる、似たような思いやご経験をされていると思うんですが。
持田:そうですね。先ほど紹介していただいたように、兄がダウン症で、母がうつ状態だったんです。なので、小学生から高校生ぐらいまでは、母と兄の両方のケアをしてきました。母はどちらかというと精神面の感情の起伏がすごく激しかったので、それを宥めたり励ましたりしていました。
でも、家のことは絶対に周りに知られないように隠していたんですよ。母も外に出ると普通を装っていたので、周りの人はうつ症状があるなんてぜんぜんわからなくて、でも、家だとうつ症状がすごく強く出ちゃう感じだったんです。
なので「これは言っちゃいけない」と思って、周りに(母にうつ症状があることを)悟られないようにがんばって、元気でいるようにしていました。
あと、教室で障がい児のことをからかう男子生徒がいたんです。脳性麻痺のある同級生が同じクラスにいたんですよね。例えば小学校の放課後や掃除をする時間に、その脳性麻痺の同級生の歩き方を真似するんです。その子の名前を呼びながら真似をして歩く男子生徒を、私はすごく睨み付けていました。「怖ぇー」とか言われていましたね(笑)。そんな子どもでした。
八名:そうなんですね。
持田:小学生って、かなりストレートに嫌なことをするじゃないですか(笑)。
八名:そうですよね(笑)。本人が目の前にいたとしても、あからさまにそういうことやったりします。
持田:たぶん目立ちたかったり、本当は仲良くなりたくてそういうことをやっているんだと大人になればわかるんだけど、子どもの頃は「この〇〇君とは絶対に口を利かない!」と思って、密かに怒っていました(笑)。なんでわたしが怒っているのかは、周りの同級生にはわからないんですが。
八名:はっきりと「自分にはそういうきょうだいがいるからだ」とか、お母さまのこととかも、あまり周りには言わないようにされていたというお話でしたが、どういう気持ちからそうされていたんですか?
持田:お兄ちゃんが今でいう特別支援学校に通っていて、そこには脳性麻痺のお兄ちゃんの親友がいたんですね。例えば、脳性麻痺の男の子を同級生がからかっている時は、お兄ちゃんの親友が同じ症状だったので、「友だちをからかわれている」という悔しい気持ちがありました。
大人になってから「(当時は)どんな気持ちでしたか?」と聞かれて、大人の私が「きっと悔しい気持ちだったろうな」と想像してしゃべっているんですが、当時の私は「なんだかわからないけど、頭にくる。むかつく」という感じでした(笑)。小学生の時は自分の気持ちを言葉にできないから、とにかくいつも怒っていたんです。
お母さんは、うつ症状が出てしまうとやはり怖い。「怖い」と「どうしよう」という気持ちがあって、「このことを大人に言ったら、うちは一家離散みたいにバラバラにされちゃうんじゃないか」という、悪いことばかり想像してしまっていました。
当時から(電話で相談ができる)「子どものチャイルドライン」のようなものがあったんです。今はあまり見かけないんですが、当時は電話ボックスがあって、私は小学校の時に、10円玉を持って行き、受話器を手に取ったところまででやめるということを、何回もやっていましたね。
「電話しなきゃ。うちは大変。でも電話してみんながバラバラになったらどうしよう」と思って、また泣く泣く家に帰るという感じです。でも次の日、友だちには絶対に気づかれないように、そんなことなかったかのように「おはよう!」と元気に振る舞う。
八名:1人で闘われているような?
持田:当時は闘っているつもりはなくて、隠すことに必死でした。周りと同じでいたいから、「うちだけ違うという目で見られたくない」「なるべく周りと同じでいたい」という気持ちだったんです。
八名:ヤングケアラーという括りの子ではなくても、家庭に悩みを抱えている子は、そういう気持ちがありますよね。
持田:ありますよね。みんな同じなんですよ。
八名:ありがとうございます。今、ご経験をもとにどんな状況かをお話しいただいたのですが、もう少し詳しく、ヤングケアラーの子たちが抱える困難についておうかがいしたいと思います。
いわゆる家族のケアを担っていることによって、どんな影響や困難があるのか、どんなことに子どもたちが悩みを抱えているのか、お話しいただけますでしょうか。
持田:「困難」というのは、大人が考える言葉遣いという感じがしています。私は今、中高生の子どもたちと一緒に話をしているのですが、子どもと実際に話をすると、家族のケアや世話をすること自体は嫌じゃないんですよね。
世話をすることで困難さを感じるのではなくて、家族が抱えている障がいや病気のことを、例えば先生や同級生や先輩・後輩などの周りの人が、あまりにも知らなすぎるんです。
そういう人が、先ほどの話のように平気で障がい者のことをからかったりする。自分が友達に、病気の話をすると、「あ、そうなんだ…」と、こういう(眉間にしわが寄るような)表情になるんです。「大変だね」とか言われたりすると、「そうじゃなくて」とか「分かってもらえないから、もう絶対しゃべらない!」と思うんです。そういう(理解されていない状況)が嫌なんですよね。
子どもたちは細かいことはわからなくても、障がいや病気が骨折や風邪みたく治るものではないと薄々気付いているんですよ。一生付き合っていくものであると、12~13歳でもうわかっている。
でも、大人は「子どもだからわからないだろうな」と思って、障がいのことも病気のことも、子どもに何も話さないままでいる。そして思春期を迎えて、だんだん親と疎遠になって……と、いつものパターンになっていく(笑)。だから子どもたちは必死に五感を使って情報を集めて、自分なりの解釈をしていくしかない。困難といえば、いま何が起きているのかという情報を集める困難さはあると思います。
八名:子どもたちはわかっているんですね。
持田:わかります。
持田:例えば、子どもたちとケアラーじゃない大人が話をする機会があった時に、10回やったら10回とも大人のほうが「子どもたち、すごく大人っぽいんですけど」と言うんですね。でも、ケアラーである私たちや子どもたちからすれば、別に大人っぽくないし、それが当たり前なんですよ。
だって誰も教えてくれないから。家がぐちゃぐちゃになっていたり、いろんな想定外のことが毎日起きるじゃないですか。毎日ですよ! 誰からも説明してもらえないけど対処しなきゃいけないとなったら……。今はネットがあるからちゃんと調べるんです。高校1年生のヤングケアラーが「承認欲求とか~」って話したりしますからね(笑)。よく調べている。すごいですよ。
八名:すごいですね。それを「困難」や「やりたくないこと」と捉えているのではなくて、当たり前のことだと。
持田:そうなんです。やはり大人が「困難でしょう?」と持っていこうとしていて、私は「ちょっと待って!」と思う時がよくあります(笑)。
八名:それは気を付けないといけないですね。すごく身に沁みました(笑)。私も話を聞いていたらつい「大変だね」と言ってしまいそうなので。
持田:自分も体験していて「ああ、それは大変だよね」と言う時と、(そうではなくて)「すごく大変だね~」と言う時では、子どもはその違いがすぐにわかるんです。
八名:察せられてしまう(笑)。
持田:「この人はわかった上で大変だねと言っているな」「この人はぜんぜんわからないで言っているな」と、すぐわかるんですよ。
八名:そうなんですね。経験がある人が聞いてあげるのが一番なんだろうなと思いますけど、なかなか難しいですよね。でも「(経験がある人に)つなげてあげる」というのは、1つできることですよね。
持田:そうですね。つなげることが大事ですね。
八名:ありがとうございます。少し話が変わりますが、家族のケアを担うことで他のことができなくなるケースがあると思うんですが、それだけではなくて、例えば親御さんに精神疾患があると、「保護者としての養育」がなかなか難しくて、それによって困難が生じることもあり得るんじゃないかなと思います。そのあたりはいかがですか?
持田:これもよく質問されるんです(笑)。さっきと同じで、子どもにしてみれば母親の子育てを悪く言われるのは気持ちのいいものではないんですよね。親御さんも必死で子育てをしているけど、どうしてもアンバランスになっちゃう。
例えば、子どもに障がいや医療的なケアが必要で、お母さんやお父さん自身に過度な「ケア負担」がかかってしまっている状態なのでアンバランスになっているのかもしれない。もしくは、親御さん自身に疾患や障がいがあるかもしれない。
親御さん自身が「しっかりやりたいのにできない」と困っている状態なんだということを、私たちはもっと理解しなきゃいけないなと思っています。
例えばうちは、母親がそうだったんですが、「ちゃんとしたいけど、今日は動けなくて家事ができない」とか。うちはけっこう極端で、お兄ちゃんが風邪をひくと家族全員のご飯が出てこないんですよ。「お兄ちゃんの『食べられない気持ち』にみんなでなろう」となっちゃうんですよね。
うつ症状が入っているので発想が過激になってしまう。私はお腹が空くから、困ったなという状態になるわけですよね。でもそのことを誰かに言って、例えばお母さんが精神病院に連れていかれて、私のお兄ちゃんと仕事に出ているお父さんと三人だけになっちゃったらどうしようと思うので、「これは我慢して、言わないでおこう」となってしまうんです。
持田:私が今思うのは、当時まだ30〜40代だった母に対するケアがしっかりされていればよかったなということです。私にではなくて、母にちゃんとケアをしてもらえればよかったなとすごく思います。
八名:そうですね。周りで支える大人がいるかいないかで、だいぶ変わってくるんですよね。
持田:おそらく母も、自分と同じ境遇でなんでも話せる人がいたら、もう少し違っていたかもしれないなと思うんです。でも、私が高校生ぐらいになったら母にもそういう人が出てきたんです。今でも私はその方とコンタクトを取っていますが、母の最期までママ友だった人がいて。そういう人が出てきて母もすいぶん変わりました。
八名:やはり相談できる相手が大事なんですね。
持田:そうですね。(母は)孤軍奮闘していて、今でいうワンオペ状態だったんです。父は海外出張が多くて、ワンオペで障がい児がいて、周りからも差別や偏見があって、心が壊れちゃったんですよね。
それは大人になればわかるんですが、子どもだとやはり「なんか違う、なんか違う」と感じるだけで、わからないんです。母も、全部が全部うつの状態じゃないんですが、良い時と悪い時との差がすごく激しかったりするので、「あと二日ぐらいすれば良い状態に戻るかもしれない」と耐え忍んだりしていましたね。
八名:ありがとうございます。
持田:だんだん思い出してきた(笑)。
八名:そうなんですね(笑)。やはり「困難」と大人は考えがちだけど、当事者は「そう言われるのが、そもそもちょっと……」というところがあるんだなと思いました。
持田:「困難」と言われると、子どもは「大丈夫です」と言っちゃうんです。困難という言葉がものすごく重たいんですよね。「苦労」とか「困ってる?」と言われると重たい感じがするので、「いや、うちは大丈夫です!」となっちゃうんです。
八名:声かけは気を付けないといけないですね。
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