2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
自尊心がズタボロになり自分を見失った元アイドルが、30歳で本当の「私」を見つけるまで(全1記事)
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――芸能活動をされている時、いわゆる一般社会で働くビジネスパーソンに対してどのような印象をもたれていましたか?
大木亜希子氏(以下、大木):10代からビジネスパーソンとして一番身近に感じていたのは、マネージャーさんの姿です。
私は14歳の頃から芸能事務所に所属してはいましたが、当時は名刺も持っていませんでしたし、仕事はすべて自分以外の誰かが取ってきてくださっていました。学校で芸能コースに進学したこともあり、一般企業に勤める人たちは、私にとって劣等感を感じてしまう対象……自分にはなれない存在だと思っていたんです。
――そのビジネスパーソンに転身する決断をした当時は、どのような状況でしたか?
大木:就職することを決めた25歳当時、芸能人としての実績はあれども、それ一本で食べていけるほどの稼ぎはありませんでした。地下アイドル活動をしつつ、トイレの清掃員やベッドメイキングのバイト、気ぐるみの中に入るバイトで生計を立てる日々。
偶然バイト中に握手会によく来てくださっていたファンの方とすれ違ったのですが、全然気づかれなくて。「ああ、私って何者なんだろう」と心の底から思いました。そのような人生どん詰まり状態から会社に勤めようと決めたのは、もうそれしか選択肢がなかったからというのが、正直なところです。
――マインドの切り替えはどうやっていったのでしょうか?
大木:SNSには「私、明日から別の道でがんばります!」って投稿していました。でも内心「食っていかなければ」「私はこのまま何者にもなれず死んでいくのか」という焦燥感や不安がいっぱいでした。ポジティブでもネガティブでもなく、生きていくために選択したので、切り替えるほか選択肢がなかったんです。
――なぜそこでライターという職を選んだのですか?
大木:将来について悩んでいる時に、ファンの方からいただいた「アキちゃんの書く文章はおもしろいね」という一言がきっかけです。
その言葉がなかったら、今の私はいません。もうこれしかないんじゃないか、じゃあライターになろう、と。 加えて、私には芸人さんやタレントさん、アイドル仲間の知り合いがいました。ライターはその人脈を強みとして活かせる仕事なのではないかと考え、エンタメ系の記事を制作する企業にアプローチしたんです。
編集長に直接連絡して、「これまでアイドルの仕事をしていた者です。突然ですが、御社で記事を書かせてください」って。 今振り返れば、ライターという仕事がどういうものなのか、何も知らなかったからこそ飛び込めたのかな、とも思います。
――ライター業界についてゼロから学んでいったプロセスはどのようなものでしたか?
大木:まずWebで読まれる記事の書き方というものを入社初日から叩き込まれました。記事1000本ノックに始まり、芸能人の記者会見で一人小さなカメラを持って、ベテラン記者に混じりながらなんとか取材したこともありました。
大掛かりなアンケートを用いた調査記事や、会見から30分以内に記事を書く速報記事の取材などハードワークを重ねながら、無我夢中でスキルを学び取っていきました。入社当初から広告営業も任され、大手企業の担当者との打ち合わせも重ねました。何から何まで初めてだらけで、ただただがむしゃらに走っていましたね。
――芸能界の経験が活きたと感じた瞬間はありましたか?
大木:どんなことがあっても動じないでいられたのは、アイドル時代の経験があったからです。はじめはビジネス用語を調べないとわからない状態で取材や打ち合わせに臨んでいましたが、それでも毅然とした態度は崩しませんでした。
アイドル時代は本番直前に振り付けが変わることもありましたし、臨機応変に対応することには慣れていましたから。 何があってもパフォーマンスを成功させて、結果を出す。それが何より大切なのは、芸能人でも一般社会のビジネスパーソンでも同じ。その覚悟だけは、強くありました。
――28歳で会社を辞めることになった転換期について教えてください。
大木:執筆、編集、営業……毎日寝る間も惜しんで働く日々が3年ほど続いていました。社会人としてさまざまなことを教わり充実していましたが、仕事以外に芸能関連の会食などにも参加し続けていましたから、ほとほと疲れてしまって。
ある日、クライアントさんのもとに行く道中の駅で、一歩も歩けなくなりました。嘘みたいな話ですが、本当に精神的にいっぱいいっぱいになり、足が動かなくなっちゃったんです。友人からの助言を受けてストレスクリニックに通院したのですが、結局そこから会社に復職することは叶いませんでした。
――当時はどのような心境だったのでしょうか。
大木:30代を間近に感じていた私は、「もう全部おしまい、計画倒れだ」って、絶望していました。芸能人としても志半ばで終わって、キラキラの社会人になりたかったのにそれも無理なのか……と。しかも、当時は「出会いを増やさなきゃ」という思いから交際費がかさんでいたので、貯金もゼロ。そんな状態で、ササポン(※)との同居を始めました。
(※)大木氏が退職後から一時同居していた中年男性の愛称。家族でも恋愛対象でもない男性との同居生活を綴ったWebコラムは、一躍話題となった。その体験を元にしたのが『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』。
――ササポンとの同居生活から、大木さんはどのようなことを学びましたか?
大木:部屋のリビングで「もうすぐ30歳だ」って焦っている私に、ササポンは「30歳になったら何があるの? 死ぬの?」って問いかけてくれて(笑)。
私は紋切り型の成功者のイメージに囚われて、若いうちに成功者になることが幸せなんだと思い込んでいました。でもササポンと生活しているうちに、他人が敷いたレールなんていかにどうでもいいものかということを、少しずつ学んでいったように感じます。
――成功者のイメージへの思い込みは、なぜ築かれたのでしょうか。
大木:虚栄心、見栄。恥ずかしいけれど、そういうものが私を強く縛ってきたんだと思います。父を早くに亡くし10代から芸能界にいたこともあり、一旗上げてやろうという感覚が人一倍強くて。
むしろ、成功しなければ死ぬという強迫観念すらありました。 ご存じの通り、アイドル業界では常に優劣がつけられます。人気投票の結果が低い、ダンスが下手でステージに上がれない……そんなことが重なって、私の自尊心は100回くらい崩壊しました。そのうち自分に対するハードルがどんどん高くなって、成功者になることに囚われていったのだと思います。
――今まで築いてきた目標やビジョンがゼロになったあと、どのように自分と向き合っていきましたか?
大木:ササポンとの生活はもちろん、通院していたストレスクリニックの先生と人生を振り返るために繰り返し行ったセッションがとても貴重でした。なぜ自分がここまで我慢して、縛られていったのか、10代の頃から人生全てを棚卸ししていったんです。
それはとても忍耐力がいることで、通院当時は毎日泣いていました。仕事も恋愛も、過去の自分の失敗や虚栄心と対峙することは容易なことではありません。でも、そうして自分が着ていた重い鎧を少しずつ脱いでいって、ようやく見えてきた自分は、今までの自分とは全く異なる人間でした。
目立つことはあまり好きではない、文章を書くことが何よりも好きな人間。30歳にして、本当の自分に「はじめまして!」ってあいさつした気分でした。
――ライター・作家業の大きな転機の一つは、ササポンとの生活を描いたWebコラムが反響を呼んだことだったかと思います。当時はどのような状況でしたか?
大木:ササポンと生活していた頃の自分のことは、それまで恥ずかしくて誰にも言えなかった出来事が殆どです。たとえば、好きだった男性に酔っ払って電話をかけて迷惑をかけたり、フリーランスライターとして取引先に散々バカにされて恥をかいたことだったり。
でも、ある日、もうどうでもいいやって思えて。洗いざらいコラムに書いたら、公開翌日、Twitterのトレンドに「元アイドル」「ササポン」が並んでいたんです。「ええええ!?」って叫んじゃいました(笑)。
――そこからフリーランスとして独立し、アイドルの卒業後を追った書籍『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』を執筆された理由を教えてください。
大木:私のリアルな経験談が大きな反響を呼んだ理由を分析してみて、世間にとってアイドルはキラキラした存在なんだとあらためて感じました。実際はステージに立つ時以外は地味なレッスンの繰り返しで、華やかさだけではないのですが……。
卒業後のキャリアが歪められた形で報道されることも多く、本当の姿はなかなか伝わりません。そこに対する問題意識から、社会の誤認と闘おうと決意して構想を練ったのが、『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』です。第三者ではなくアイドル当事者であった私が、正確にアイドルの卒業後の姿を伝える必要があると思いました。
――書籍化はどのように進んだのでしょうか?
大木:出版社に直接企画を持ち込んだのですが、はじめは無名ライターなので、「どこまで本気なのか?」と厳しい目で見られました。
運よく奇跡的に企画が通って取材を始められたものの、取材時はカメラマンさんの傍らで私がレフ板をもって撮影していましたよ(笑)。取材対象者のキャスティングからスタッフの手配まで、基本的には自分で行って。芸能界にいた頃の人脈を活用しながら、全国に散らばる元アイドルの行く末を調べました。
そうして取材を続けていくうちに、元アイドルの女性たちがいかに努力してセカンドキャリアを歩んでいったか痛感しました。そして、それを本に書く私は、そんなみんなの命を預かっているんだ、とも。1日16時間くらい執筆していて、日常生活はすべて放棄して寝食を忘れ仕事に励んでいたので、正直、あの頃の記憶がほとんどありません。
――心身を崩した経験があるにも関わらず、それだけ努力できたのはなぜでしょうか?
大木:ストレスクリニックの先生や家族、絶対に私を見捨てない友達や生活を見守るササポンなど、メンタルを支えてくれるチームがそばにいたことが、何より大きいですね。
私は運良く、すばらしいチームに恵まれました。人生には、誰しも腹を括って勝負するタイミングがいくつかあるものです。私にとって、書籍出版はまさにその勝負時でした。もしも自分の心身に不安があるならば、できるだけメンタルのプロや周囲の信頼できる人に頼ってほしい。これから勝負のときを迎える人には、そう伝えたいです。
――現在は『小説現代』などで新たに小説も発表していらっしゃいますが、どのような思いで執筆されていますか?
大木:私がものを書くとき根幹にある思いは、フィクションでもノンフィクションでも変わりません。
「女の子が元気に生きられる社会にしたい」というのが、創作の大きな柱です。これまではアイドルのセカンドキャリアを軸に書いてきましたが、現在はもう少し広く女性のキャリア、恋愛、結婚といったものを描き出すことで、女性の人生にはあらゆる選択肢があると気づくきっかけを作っていきたいと考えています。
――大木さんにとって、書くこととは?
大木:祈りです。現代の女性が抱いている苦しみを表現して、社会に継承して、その苦しみから救われるように祈ること。今の私にはそれがすべてなので、命を賭けて書き続けています。人生の全てを賭けて創作と向き合っていきたい。私はこれまでも女優としてさまざまな女性像を表現してきましたが、それが文章に替わっただけなのかな、とも感じています。
――女優からアイドル、ライターを経て作家へ。大木さんは、ロールモデルがないキャリアをここまで歩んでこられました。自分のキャリアと向き合い、ロールモデルを探しているビジネスパーソンにアドバイスはありますか?
大木:ロールモデルがないことは、私自身、現在も悩んでいることです。でも、悩んでいるときこそ、周囲のロールモデルよりも自分自身と対峙する時間を作ることが大切なのではないかと思います。具体的な方法として、私は一日一万歩歩くようにしたり、意図的に「SNS断食」をしてデジタルデトックスの期間を設けたりしています。
加えて、最近はウォーキング・カウンセリングも試してみました。心理の専門家の先生と、ただひたすら歩きながら頭に浮かんだことを話すという手法なのですが、とても良い時間でした。20代の頃は自分が選ぶ道に自信がないからこそ、周囲のロールモデルが気になってしまうと思います。でも、日ごろから自分の心と向き合う意識をもつことで、きっと自分の感情や意思に素直になっていけるはずです。
――最後に、この記事を読んでいる受講者に伝えたいメッセージをお願いします。
大木:この記事を読んでいる方の多くは、「自分が何を学べばいいかわからない」と悩んでいるかもしれません。その答えがわからないまま生きるのもひとつの道だとは思いますが、できれば多くの人に自分の全てを賭けられるものを見つけていただきたいと願っています。
そのためには、厳しいことを言うようですが辛いことから逃げないでほしいんです。たとえば、恋愛。私自身、恥ずかしながら何度も男性に依存した経験があるから思うのですが、自分のやりたいことが見つからないから恋愛に逃げるのは、本当におすすめしません。私はそこから何も得られませんでした。って、こんなことばかり言っていると、私スパルタ教師みたいですね(笑)。自分も散々失敗してきているのに、偉そうなことを言ってすみません。
世の中、辛いことだらけだと思います。つい、誰かに甘えてしまいたくなる。でも、辛いと感じるのは、自分の心が反応しているからなのではないでしょうか。その心の反応を追求していくと、辛さの先に命を賭けられるものが見つかるかもしれません。
心は自分に対して簡単に嘘をつきますから、ネガティブな反応に惑わされないでください。逃げずに自分と向き合い続ければ、きっと自分の道を見つけられると信じています。
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