2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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齊藤三希子氏(以下、齊藤):すみません、ソニーの話に戻っていいですか? エスエムオーでは企業さんが「理念、体系を見直したい」という場合、まず「『パーパス』1本でどうでしょうか」という提案をするんですね。
ソニーの事例がすごいのは、ビジョン、ミッション、バリューズ、それから「パーパス」の4要素が全部入っているんですよ。全部入ってそれが「パーパス」として成立している。だから、みんながあの「パーパス」はすごくよくできているという評価をするんじゃないかなと思っています。
ソニーは「パーパス」だけでなく「バリューズ」も立てているんですけれども、でもあの「パーパス」にはすべてが含まれているという意味で、すごくみんなが共感して「いいな」と感じるんだと思っています。
永井一史氏(以下、永井):最初の話にちょっと戻すと、どうしてもパーパス、ビジョン、ミッション、バリュー、プリンシプルみたいに、「なんか全部を埋めないとダメなんじゃないか」みたいなことで悩まれるのは意味がなくて。
明快な目標設定ができて、それが求心力を持てることのほうがすごく本質的です。なので細かいところの前に、何が一番大切にするべきなのかを決めることが、プロセスとしても大事かなと思います。
平原依文氏(以下、平原):自分たちが意思表示をする上で、何があればいいのか、なぜそれなのかを、考え抜ければいいということですよね。先ほど佐々木さんがおっしゃっていたVictoria's Secretの事例に関して、「ディベート形式で聞きたいです」という質問が来ております。
平原:「Victoria's Secretが先ほど言われたようなショーに転換したのは、今までとは違う方向性で来ていて、『ブランディング』とか『らしさ』というなら、結局どの企業も同じ方向になってしまう懸念があるのではないかと思います。そのあたり、お三方のご意見、社会的問題を取り入れることと、ブランディングとか、その会社らしさのバランスをどう取るのか。ディベート形式で聞きたいです」ということでした。
永井:「パーパス」が上位概念化、つまり社会的価値に根ざすということが、ちょっと流布し過ぎて、それだとSDGsみたいにみんな一緒になっちゃうんじゃない? という批判があると思うんですけど。
そもそもそうじゃないんじゃないかなと、僕は思っています。定義の仕方の話なので、やはり「らしさ」みたいなことを、どう三方良し的に定義するかという順序だと思います。せっかく「パーパス」みたいな機運が高まった時に、社会性から入っちゃうと話が変わっちゃうんじゃないかなと感じました。みんな一緒になっちゃうというのは、そもそも定義の仕方が違う気がします。
平原:ありがとうございます。ぜひ質問してくださった方も、今の永井さんのご意見に対してコメントいただけたらなと思います。齊藤さんはいがかでしょう。
齊藤:そうですね。エスエムオーでは「パーパス」を策定する時に、「強みと情熱と、あとは世の中のニーズが重なるところに『パーパス』がある」と考えています。なので、Victoria's Secretの強みとか情熱、パッションみたいなものを織り込んでいくと、ああいうブランディング、ブランド作りになったんじゃないかなと思っております。
永井:ちょっと違う視点で言うと、あまり相対的なものでもないと思うんですよね。自分たちが信じて行動できるかが本質なので、極論を言えば、たまたま隣の会社と一緒になってもそれはそれでよろしいのではないかなみたいな。
齊藤:わかります。わかります。逆にそこでブレるようだったら、本当の「パーパス」じゃないんじゃないの? ということですよね。
佐々木康裕氏(以下、佐々木氏):質問いただいた方に1個賛同があるとすると、Victoria's Secretがリブランディングというか、ブランドのビジュアルのトンマナをガラッと変えて、インクルーシブなかたちとか、モデルの起用とかを変えたんですけど。できあがりのクリエイティブは、わりとD2C企業とかで「ちょっと体型の大きな方にも」みたいなところのビジュアルと、似ているといえば似ているわけですよね。
インクルーシブとか、いろんな人種の方へというのがちょっと流行り過ぎているという批判は、おっしゃるとおりだなと思いました。だからこそ、Victoria's Secretみたいなブランドは、これまでのやり方を貫き通せば尖ったままでいいんじゃないの? というのも「確かに」とも思いました。
だけど1個あるとすると、それをやることで傷付く人がいるのは、なかなか受け入れがたい状況ではないかなと思っています。「こういうのが理想の女性だよ」というのを刷り込んで、ある種コンプレックスに訴えかけてマーケティングをするやり方ですね。メタ的には、そういうやり方がいろんな分野でダメになってくるんじゃないかと思っています。
男性で言うと、例えば髪の毛とか身長とか、いろんなコンプレックスに訴えかけたり、あるいは所得とかに訴えかけるようなところは、社会的にだんだん容認されづらくなってきている感じはあるし。
さっきも言ったとおり、Victoria's Secretはちょっと人を傷付けかねない感じの表現にもなっていたので、そこはどうしてもこれまでのやり方を貫き通すことが難しかったんじゃないかなと思いますね。
平原:ありがとうございます。
平原:次の質問いきますね。
「『パーパス』は作ったあとの浸透が重要という話をうかがいました。その浸透のプロセスにおいて、『パーパス』を可視化させることがポイントとありましたが、その他にも浸透に重要と思うことがあれば、ぜひ教えてください」。ご質問ありがとうございます。ここは齊藤さんからいきますか?
齊藤:浸透では、理解と信頼がすごく重要だと思っています。パーパスを読んで、文字どおり理解し、そのあと信頼する。その『パーパス』が正しいと思えるかどうかがすごく大事です。
信頼にはもう1つ意味があって、自分の会社はこの『パーパス』を本当に信じているのかという信頼。例えば、上司とか社長が「『パーパス』はこれです」とやって、でも陰では「とりあえず、きれいごとを言っておこうぜ」みたいなのを見ちゃうと、それはちょっと違うよねとなりますよね。
なので、自分たちの会社は、この『パーパス』を持って進んでいくんだということがわかる。その信頼が生まれる状態になるのが、ものすごく重要だと思っています。
うちではパーパスを策定させていただく際、経営層の方々に年に1、2回集まっていただいて、パーパスの理解と浸透を目的としたリーダーシップワークショップをやっているんですけれども。どういうふうにパーパスを使うのか。どう判断して行動するのかということを、必ずやるようにしています。
平原:ありがとうございます。永井さん、いかがでしょう。
永井:今の話を聞いてそのとおりだと思ったんですけど。理解と信頼と、最後は「自分ごと化」かなとちょっと思いました。自分もコミットして、その方向に向かってどう進むかを、具体的にアクションすることが、最終的に『パーパス』を定義する意味だと思うので。そこまでちゃんとできるかなと。
そういうモチベーションの設計は、いろんなやり方があると思うんですけども。人事評価に入れ込むようなこともあったりもしますし、促すようなミーティングやワークショップとか、逆に上司の人にコーチングしてもらうだとか。プロセスはいろいろあるかなと思います。
平原:続いて、佐々木さんです。
佐々木:もう2人にすべておっしゃっていただいたので、1個だけ付け足すとすると、僕は『パーパス』は行動に宿らせなければいけないと思っているんですよね。「優しい人です」って自分で言う人を、「あなたは優しいんですね」と思わないじゃないですか(笑)。
言葉で浸透するのはとても大事だと思うんですけど、「あの人は優しいね」と周りに認知してもらうためには、困っている人がいたら助けてあげるとか、重たい荷物を持っている人がいたら持ってあげるとか、アクションを通じてしか『パーパス』を他の人に伝えることって難しいと思っています。
いろんなレイヤーがあって、経営者が従業員一人ひとりに見せるというのもあるし、従業員一人ひとりが社外の人に対して、アクションを通じて見せていくというのもあるし。いずれにしても言葉の浸透はとても大事です。理解、信頼はとても大事だけど、それをどう一人ひとりの行動に落とし込むか。落とし込みと実践がとても大事だなと思いますね。
行動っておもしろくて、自分がそれをやっていると、自己強化ループみたいに入っていって、やらないと気持ち悪い感じになったりするので、行動に落とすのはとても大事かなと思いますね。
あと、先日Patagoniaの方のお話を聞いて、個別の店舗とかで「我々は、このジャケットを売り続けるのが正しいんだろうか」という議論をしているらしいんですよね。それはとても素晴らしいと思うんですよね。
そこで上がってきた意見を「俺たち、このまま売っているのはおかしいと思うんだよね」みたいなことも含めて、上の人に伝えるんですって。そういう議論が起こるのもとても素晴らしいなと思っています。
自分たちの「パーパス」と行動が合っているかどうか、悩むところも含めてリアリティだと思うんですよね。そういうのをちゃんと受け止める会社の仕組みにするのも、とても大事かなと思いましたね。
平原:大きなプロジェクトやワークショップも大切な一方で、「なぜ?」ということを問う習慣ですね。本当にこれでいいのかどうか。「パーパス」に基づいているのかどうか。
小さな問いを通じた習慣化が、いずれ当たり前になって、それが文化になるというところが、浸透における大切なポイントかなと、お三方の話を聞いて思いました。
平原:また質問が来ました。「コアバリューに基づいていれば、『パーパス』が他企業と似ていてもいいのかという話を聞いて思いました。『パーパス』がいかに浸透しているかで、その後のコミュニケーションや顧客とのタッチポイントに差が出るということですかね」と。
お三方とも「うん、うん」と言っていますが。どうですかね。永井さん。
永井:「パーパス」はポーンといきなり世の中に現れるわけではなく、当然ブランドというか、その企業が行ってきた行動、アティチュード、哲学などに紐付いているので、ある種の「らしさ」は出るんじゃないかなと思っていますね。
平原:ありがとうございます。じゃあ最後の質問いきますね。「『パーパス』を自分ごと化するにあたって、アクションが起き続ける環境作りが重要だと思いますが、その過程で『パーパス』を進化させることはできるのでしょうか」。齊藤さん、いかがでしょう。
齊藤:企業全体の「パーパス」を策定したあとに、どうしていくかという話だと思うんですけれども。「パーパス」には大パーパス、中パーパス、小パーパスといろいろレイヤーがあると思うんですね。
大きな組織の「パーパス」もあれば、A事業の「パーパス」、1つのブランドの「パーパス」というレイヤーがあると思います。ユニリーバさんやP&Gさんはそういう形式を取っていますけれども。
そういったもの(レイヤーごとの「パーパス」)を掲げることで、進化という言葉が正しいかどうかわかりませんが、具体的なアクションにつないでいくというのはあるかと思いますが、いかがですかね。
永井:今、言われたとおりで、結局「パーパス」ってそう簡単に実現できることではないですよね。「自分たちはこういう世界を作りたい」と言っているので。先ほど中川(政七)さんのお話もありましたけど、100パーセントそれを完遂するのは、なかなかできないので。
「パーパス」が進化するというよりは、言われたような事業単位での「パーパス」や個人での「パーパス」は常に更新するし。そういう意味だとビジョンというか在りたい姿は、「ここまで達成したら次はここに行こう」ということはあると思うんですけど、「パーパス」がコロコロ進化するというイメージはあまりないのかなと思います。
佐々木:そうですね。僕もパーパスが進化すると聞くと、言葉もワーディングも含めて、パーパスがどんどん変わっていくようなイメージがあるんですけれども。やはりパーパスはそこまでコロコロ変えるもんじゃないとは思ってはいますね。
齊藤さん、なんとなく時間軸的に「5年、10年はこのまま行くぞ」みたいな感じで、作られません?
齊藤:短くても5年、10年だと思います。やはり世の中の環境とか、あとは自分たちのステージが変わった時に、もう1回検討はしてもいいと思うんですけども。それでも3年で変えるとかは、ちょっと違うんじゃないかなとは思いますね。
佐々木:そうですね。そういった意味で言うと、解釈を深めていくことはできるかなと思っています。「パーパス」を設定した時は「こういう社会にしよう」という感じで、部署や個人のレベルで理解していたけれども、自分が行動を重ねるごとに、「ここで言われていることってこういう意味もあったのか」みたいな感じで、解釈を深めることは、個人や部署のレベルでどんどん起きてくるんじゃないかなと思ってはいますね。
平原:ありがとうございます。「パーパスは、そんな簡単に変えるものじゃないぞ」と。「せっかくみんなで決めたからこそ、向き合ってしっかりコミットしていくのが必要だぞ」ということでしたね。
では、お時間となりましたので、最後お三方にひと言ずつ、これからの経営に求められることはなんぞやという質問をして、終わりたいなと思います。じゃあ、目を合わせてくれない佐々木さんから行きます。
佐々木:これは賛成しない方も多いと思うんですけども、僕はこれからの経営はどんどんエモくなってくるんじゃないかなと思っているんですよね。それこそ、文化とかデザイン的なシーンも含めて、「これ、なんか美しいよね」とか「かわいいよね」「格好いいよね」という話もあるし。
さっきワクワクという話もあったんですけれども。ある種のお金を作るマシンだとか、人を道具化して、効率化した経営によって利益を生み出すというところが、これからだんだんなくなってくると、個人的にもいいなと思っています。
もちろん経済的な価値を生み続けるのは大事なんですけれども、そこの重要性は、減りはしないけれども相対的に減っていって、ヒューマニティ溢れる事業とか、ヒューマニティ溢れる従業員と会社の関係、会社と取引先の関係、株主との関係が生まれたり。そういう経営になっていくと、個人的にはいいなと思っています。
平原:ありがとうございます。よりヒューマンセントリックな経営の在り方ですね。
平原:次に永井さん。
永井:僕自身はデザイン経営ということを推進しているので、その視点で言わせていただくと、先ほどちょっとお話しした多摩美術大学の社会人プログラムのタグラインが、「ビジネスに、デザインの持つ創造性と美意識を」でして。
創造性だとか、美意識については、一人ひとりが主体的に仕事に関わって、As-Is / To-Be(現状と目指すべき姿)じゃないですけど、「こうしたい」をアクションにして、仕事にするような経営。それをひと言でいうとデザイン経営だと思うんですけど。そういうことがもっともっと世の中に浸透してほしいと願っております。
平原:ありがとうございます。どうでしょう、齊藤さん。
齊藤:エスエムオーのパーパスは、「本物を未来に伝えていく。」なんですけれども、そういう意味で、本物を生み出す企業が増えていくといいなと思っています。本物って何だろうと思った時に、「嘘がない」とか「信頼できる」。自分たちが出している商品やサービスが本当にいいと思って、世の中に出す企業がものすごく増えていくといいなと思っています。
平原:お三方、ありがとうございました。
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