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斉藤徹教授出版記念講演~だから僕たちは、組織を変えていける~(全5記事)

“難しい人”が1人入ると、チームの生産性は30〜40%低下する 対抗せずに、場の「安心感」を作るための3つの条件

ビジネス・ブレークスルー大学(BBT大学)は、オンラインのみで経営の学士資格を取得できる、日本唯一の大学です。今回はBBT大学主催で行われた、経営学部教授・斉藤徹氏の 『だから僕たちは、組織を変えていける やる気に満ちた「やさしい組織」のつくりかた』刊行記念講演の模様をお届けします。社員のエンゲージメントが高い「やさしい組織」をつくるために一人ひとりにできることは何か、今まで斉藤氏の30年近い起業家経験から得られたエッセンスが1冊にまとめられています。本記事では、建設的な議論を行うための「推論のはしご」の考え方について、組織に「安心感の醸成」をもたらすためのポイントについて語られました。

建設的な議論を妨げる最大の要因は、感情的になってしまうこと

斉藤徹氏:続いて、(チームメンバーの意識が)外に向いたらどうすればいいのか。これはみんなが意見を出し合うことが大切です。でもこの建設的に第3案を共創するのが、なかなか難しいんですよね。

なぜかというと、建設的な議論を妨げる最大の要因は「感情的になっちゃうこと」なんです。本当に僕もそうだけれども、やはり自分が確信を持って言ってる意見を否定されると、カーッとなっちゃったりします。感情的になってしまって、建設的にならない。対立構造になってしまうんです。

1つ例をあげてお話をしたいと思います。一般的に、開発と営業って仲が悪いですよね。あなたは営業部の社員で、開発部の顧客に対する姿勢に不満を持っているとします。(あなたは)すごくお客さん思いなので、日頃から製品のクレームや要望を耳にすることが多くて、でもそれを開発部の人に言うと、自分と姿勢が異なるんです。それでいつもイライラしちゃう。

そして開発部の会議の時についに爆発して、こんなこと言っちゃったんです。お客さんから強いクレームを受けて、「どうしていつも顧客の声を軽視するんだ」と。「お金を出しているのは彼らなんだ。わかってるのか」「こっちは現場を飛び回って、文句を言われる身にもなってくれ」と言ってしまったとします。

これをやってしまうと、健全な財産を作るどころか、対立になってしまいます。なぜこうなってしまうのかというと、「推論のはしご」を駆け上っちゃうからなんですね。勝手に自分の頭の中でストーリーをダダダダダッと作っちゃうんです。

「開発部はいつも顧客の声に反応が薄い」と。「顧客の声を軽視してる。仕事をなめてるとしか思えない」と。「こっちが文句を言われるんだから、今日はもう我慢できない。徹底的に追求してやる」という感覚ですよね。これは、自分の頭の中でストーリーを作り上げているんです。

大切なのは「推論のはしご」をゆっくり登ること

「推論のはしご」とは、現実世界の中で自分が見たいものを選択して観察して、解釈して、仮説を作って、結論を出すという思考のプロセスです。それが繰り返されると、固定観念、つまりメンタルモデルとして定着してしまいます。そのメンタルモデルが自動思考のようなかたちでバッと出てしまうんですね。

直情型で推論のはしごを駆け上るとどうなるかというと、顧客の要望やクレームが多い(現実の世界)、今日の会議も反応が薄い(選択して観察)。お客さんの声を軽視してる(解釈)、仕事をなめんじゃないよ(仮説)と。うちの開発部はダメだ。使えない(結論)と。

こういうことが続くと、人は変わらないから、こういうことがあった時は戦うべきだ(固定観念)という考え方になる。だから「徹底的に対立行動に出よう」となってしまうわけです。

特にビジネスでは、議論に勝つとか先手を取るとかマウントを取るとか、常にそうなりがちなんですよね。タイムイズマネーなので、「早い」ことが非常にいいことだとされています。「できるだけ早く考えて先手を取ろう」と、駆け上ってしまうんです。

でも、この推論のはしごをゆっくり登ることが大切です。実際に顧客の要望やクレームが多い(現実の世界)、今日は反応薄いな(選択して観察)。反応が薄いのはなんか理由があるのかな(解釈)。その理由は、お客さんを軽視しているのか? もしくは忙しすぎるのかもしれないな。もしくは視点が違うのかもしれないな(仮説)と。

じゃあ丁寧に話し合ってみよう(結論)、話してみたら何か自分の仮説と違うことが出てくるかもしれない(固定観念)。こういったことを繰り返すと、だんだん「話し合えばきっと理解できるんだ」というメンタルモデルになってくる。行動も、常に相互に理解し合って、解決策を共創することになります。この「推論のはしごをゆっくり登る思考習慣」がとても大切ですね。

信頼関係をつくるためのコミュニケーションの3つのポイント

思考習慣だけじゃなくて、コミュニケーションの技術も大切です。推論のはしごをゆっくり登るためにどうすればいいのかというと、1つは何か指摘をする時に、「あなたメッセージ」じゃなくて「私メッセージ」で伝えること。それから、相手が発言してる時には「能動的に傾聴する」ということ。3番目に、「第3案を共創する」こと。これを簡単にお話ししますね。

「私メッセージで伝える」というのは、何か相手に問題がある時に「あなたのそういうところが●●なんだよ」とか「(あなたに)こうしてほしいんだよ」って、「あなた」を主語にしちゃいますよね。それをやると、相手はすごく不安を感じるんです。自分の行動をコントロールされる不安を感じてしまいます。

こういうときは「私はこう思っている」「私はこう感じているんだ」と、常に「私」のメッセージで伝えることが大切です。だいたい怒っちゃっていることが多いんですけど、怒りは二次感情なんです。その根底にあるのは、不安や寂しさやつらさです。私のありのままの気持ちや状況を伝えることが大切です。

でも、相手にはいろいろと反論があります。反論を相手が話してる時に、だいたいビジネスだと「じゃあ今度はこう言ったろ」「どこに盲点があるんだ」と考えながら聞きますよね。それをやると、表情に出ちゃうんですよね。

そうではなくて傾聴すること。相手が言ってる時は、思いっきり相手の気持ちを想像して、耳を傾けることです。評価をしたり反論をしたり、考えたりしない。そうすると表情に出るんですよ。「なるほど」って言って聞いていると、相手も「自分をわかってもらえる」と思ってとても安心するんですね。ビジネスの場で「聞いてもらえる」ことはそうないです。

でもこれは、相手に完全に同調するわけじゃなくて、共感しているんです。共感しても私のメッセージはあるから、傾聴したあとで、私メッセージで伝える。そしてまた傾聴する。

この交流があると、相互の信頼関係ができるんです。お互いに相手を攻撃するんじゃなくて、何かを作り出そうとしてるんだと。「第3案を作り出そうとしてるんだ」ということに気づき始めます。

「人」と「問題」を切り離して考える

それぞれに問題があるんです。私も問題があるし、相手の方も問題がある。人と問題を切り離すことが大切です。そうすると「誰に」問題があるというよりも、「この2つの問題を一緒に解決しよう」となるんですね。このコミュニケーションの技術ができるようになると、非常にいろいろなものが好転します。

例えば先ほどのケースでいくと、「顧客からクレームが入りました」と言って、開発が「すぐに対応するの難しいな」と言いますね。ここでガーッと言わずに、「そうですか。でも、顧客の立場で考えるとつらいですね。私たちで何かできることはないでしょうか」と言うんです。

そうすると、「この問題はすでに開発部でもわかっているんだけど、次に出るバージョンでカバーできるんだよなあ」と言うんです。「なるほど。ではまずそれをすぐお伝えしますね。私、お客さんに笑顔になってほしいんですよね。他に何かできることありませんか?」と。開発もそこまで営業に言われると、「そうですね。少し調べてみます」と。トラブル例を検索して、「このやり方でもしかしたら回避できるかもしれない」と。

「いいですね! これなら一時的に顧客の問題を解決できるかもしれないです。すぐに紹介しますね」。「そうしてもらえると私たちもうれしいです。私もお客さんのために、新製品が遅れないようにがんばります」と。「わかりました。営業部で全力でフォローします」と。

「クレーム情報とか共有したいですね」って言ったら、「そうしましょう。すぐに上司と掛け合ってみます。お互いのためですもんね」。「やっぱりコミュニケーションが大切ですよね。部を横断して、困った時に助け合う会議を新設したいですよね」……と。

こうやって、戦うのではなく一緒に作っていく感覚が大切なんです。推論のはしごはゆっくり登ろうとお伝えしたいです。

攻撃的な人が1人入っただけで、チームの生産性は30〜40パーセント低下する

斉藤:さて、4と5でほとんど関係構築はできたんですけれども、最後のひと押しがあるんですよ。最後のひと押しは「安心感の醸成」です。

これは、なかなか難しい人が場に入った場合の問題です。ふだんはうまくいってるんだけども、例えば権威者がぼんっと入ってきて、がーっと言うとか。

このケースでは「腐ったリンゴの実験」という、オーストラリアの実験があります。性格が悪い攻撃的な人、ないしフリーライダーのようななまけ者、もしくは場を暗くする人。こういうタイプが入ったら、いいチームはどれだけ生産性を落とすのかという実験をしたんですね。

こういう人は雇えないので、ニックという演技力のある学生が(こういう人の)演技をして入りました。結果として、1人が入っただけでチームの生産性が30~40パーセント低下することがわかったんです。

例えばこんな感じです。ニックが場を暗くする人を演じる。すごくいい感じで会議が進んでいるんだけど、1人、ニックがずっと下を向いてたら、最終的には3人が下を向いちゃったんです。まあ、わかりますよね。

でも1つだけ例外があって、ジョナサンがいるチームだけはパフォーマンス落ちない。ジョナサンが、ニックが注入した毒を中和しているらしいとわかってきたんです。ジョナサンはいったい何をしているんだろうか。

成功するチームに共通する「帰属シグナル」

斉藤:ジョナサンがやっていたことは本当にちょっとしたことで、明確に「ニック、そういうことをやっちゃだめだよ」というような対抗はしていないんです。よくよく見てみると、ジョナサンは微妙なボディランゲージをしてることがわかりました。

例えばニックが暴言を吐いたりすると、身を乗り出して笑顔になって場を和やかにする。さらにもう1つのパターンは、場が和やいだ後に、他のメンバーに簡単な質問を聞いて、それを熱心に傾聴するそうです。「なるほどね」と聞くと、その人の心が開くんです。他の人にも1人ずつ聴いてあげると、みんなの心が開いて、ニックの暴言が打ち消されるんです。

ジョナサンは場に「安全」を提供していたんですね。言葉としては言っていないんだけれども、「みんな、ここは安全な場所なんだよ。だから、怖がらないで自分の意見を言ってほしいんだ。みんな1人ずつの意見を聞きたいと思ってるんだよ」というメッセージを送り続けたんです。

これは非常に具体的な例ですが、もうちょっと抽象化してどういうことが大切なのかというと、MIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボというぜんぜん別のところの研究が、このジョナサンの行動を裏付ける発見をしました。

それはソーシャル物理学という研究の1つなんですけれども。Googleの「プロジェクトアリストテレス」と同じように、生産性の高いチームの共通点を探ったんです。

MITは「ソシオメトリック・バッジ」という(センサーを使いました。)このバッジが毎秒5回、その人のコミュニケーション行動を(記録として)吐き出します。そのビッグデータを解析して、チーム成功の要因を調べました。そしてある1つのことに注目すれば、チームのパフォーマンスを予測できるとわかったんです。

その1つのことが、ジョナサンがやっていたことでした。彼らが「帰属シグナル」と表現した「安全なつながりを構築する態度」です。ジョナサンがやったような帰属シグナルが場に出てる回数が多ければ多いほど、そのチームのパフォーマンスは上がるとわかったんですね。

場の安心感を醸成する、3つのメッセージ

斉藤:そのシグナルは、その人の個性や現実の問題によっていろいろ変わるんですが、3つの共通点がありました。

1つは「エネルギー」。交流・対話を促す、コミュニケーションをするということ。2つ目に「個人の尊重」。特定の人だけではなく、全員の意見に耳を傾ける。全員が均等にコミュニケーションするということです。3つ目に、この関係はずっと続くんだよという「未来志向」の話を示唆すること。この3つが揃うと安全性が作り出されて、人間はとても安心するということがわかったんですね。

ジョナサンがなによりすごいのは、人間は場が明るい時は明るく振る舞うんだけども、暗くなるとみんな暗くなっちゃうんです。例えるなら「月」なんですよね。でもジョナサンは「太陽」なんですね。暗くなった場を照らす太陽。ジョナサンみたいになりたいし、ジョナサンみたいな人がいっぱいいたら、そのチームは非常に安全で生産性が高くなる。こういうことがわかりました。

今の話(をまとめると)、「共感デザイン」はホールネスと他者の尊重と相互の理解で、コンフォートゾーンに行く。それから(「価値デザイン」は)パーパスの共有、第3案の共創、安心感の醸成で、ラーニングゾーンを維持する。これが大切です。

本の中では他にもいろいろ書いています。第3章が「関係の質を高める」、第4章が、今度は「思考の質を高める」という話を書いています。

ただし3章も4章も5章も、「落とし穴」があるんですね。意味の共有は大切なんだけど、意味を伝えればいいわけではないとか、実は自分探しが落とし穴になるとか。いろいろな「落とし穴」まで書いています。

それから「行動の質」は第5章で書いていますね。内発的動機づけのお話です。内発的動機づけにもやはり落とし穴があるんですね。そういったことも併せて書いていますので、もしよろしければ本を読んでみてください。

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