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PEOPLE2 悩み多きビジネスパーソンへ捧ぐ、教養を身につけるまでのプロセス〜あなたはどう生きるか〜(全3記事)

日本の“エリート銀行”が、目の前で音を立てて崩れていく… 『読書大全』堀内勉氏の「人生の危機的状況」を救った1冊

大企業の若手中堅社員の実践コミュニティ「ONE JAPAN」が主催する、日本最大級のカンファレンスイベント「ONE JAPAN CONFERENCE 2021」が開催されました。今回は堀内勉氏、山口周氏、エール篠田真貴子氏が登壇した「悩み多きビジネスパーソンへ捧ぐ、教養を身につけるまでのプロセス〜あなたはどう生きるか〜」のセッションの模様をお届けします。本記事では、堀内氏が銀行時代に経験した危機的な状況と、その中での読書体験について語られました。

悩み多きビジネスパーソンへ捧ぐ、教養を身に付けるまでのプロセス

司会者:それではお時間となりましたので、これより「PEOPLE2 悩み多きビジネスパーソンへ捧ぐ、教養を身に付けるまでのプロセス~あなたはどう生きるか~」を開始いたします。登壇者のみなさま、カメラ、マイクをオンにお願いいたします。

篠田真貴子氏(以下、篠田):みなさん、こんにちは。「悩み多きビジネスパーソンに捧ぐ、教養をどう身に付けるか」というディスカッションで、モデレーターをいたしますエールの篠田真貴子です。

先ほどアナウンスがあったように、今回エールはゴールドスポンサーもさせていただいております。ただそれとは関係なく、このパネルを大変楽しみにしてまいりました。さっそくまず登壇していただくお二人に、簡単に自己紹介をお願いします。あいうえお順で、堀内さんからお願いできますでしょうか。

堀内勉氏(以下、堀内):ご紹介いただきました堀内です、よろしくお願いいたします。自己紹介を本格的にしだすと長くなっちゃうので手短にいきますと、1984年に社会人になりました。興銀(日本興業銀行)、今のみずほをスタートにして、Goldman Sachs、森ビル、それから個人事業主ということで、今は多摩大学で教えたり、社外取締役や顧問をしたり、本を書いたり、書評を書いたりといろんなことをやっております。よろしくお願いいたします。

篠田:よろしくお願いいたします。堀内さんのことは『読書大全』という本を通して知ったという方も多いのではないかと思います。500ページくらい?

読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊

堀内:488ページ、鈍器本と呼ばれています。

篠田:今の鈍器本ブームがあるとするならば、その先頭を切っておられる本の著者でいらっしゃいます。ありがとうございます。

堀内:ありがとうございます。

肩書きを「独立研究家」にした理由

篠田:続いて山口さんから、自己紹介をお願いします。

山口周氏(以下、山口):よろしくお願いします。僕はちょうど堀内さんの10年後、1994年に大学を卒業しました。

一番最初に入ったのが電通で、10年弱いました。20代は広告の仕事をやっていましたが、30代は戦略系コンサルティング会社で事業戦略を作ったり、企業買収のお手伝いをしたりしていました。40過ぎになってから、Korn Ferryっていう会社で組織作りとかリーダー育成のお仕事をやったあと、50歳になる時にちょうど会社を辞めたんです。

今は僕「@無職」ってなってますけど……。

篠田:(笑)

山口:たまに大学で教えたりとか、たまに企業のお手伝いをやったり、たまに本を書いたりとか、不定期にいろいろやっている人間です。よろしくお願いいたします。

篠田:よろしくお願いいたします。山口さんがこういったカンファレンスで登壇されることをよくお見かけします。その際の肩書としては「独立研究家」ということをおっしゃることが多いです。その心はどういったことがあるんでしょう?

山口:本当は常に無職なんですけど、無職って言うと非常に嫌がられる主催者さんが多くてですね(笑)。ただ、自分が普段やっておるのは、見たり聞いたり読むといったインプットですね。それからくっ付けたりちぎったりして考えること、出てきたものをまた書いたり話したりすることです。これは何かと言われたら、一般的には「研究者」なんだろうなということで。

でも研究者って言ってたら、「どちらに所属なんですか?」って聞かれることが多くて。面倒くさいので「Indemendent Reseacher」としちゃったんですかね。何でも飲み込める便利な器でございます。

篠田:独立なさってああいった肩書で出てらっしゃるのを見た時に、「確かに」って思いました。

篠田氏と山口氏が知り合ったきっかけ

堀内:篠田さんは(自分のことを)「ジョブレス」とか言ってたじゃない?

篠田:言ってました。でもそれは山口さんのちゃんとした構えとはまったく違ってですね……。振っていただいたので、私の自己紹介もちょっとさせていただきます。

その前に、山口周さんはご著書が何冊もありますよね。最近ですと『ビジネスの未来』。これは本当にどの書店でもお見かけしますし、私もすごくおもしろいなと思いながら拝読してました。

何冊もある中で、私は『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の印象が強いです。 たしか「これを書いた方と話したいわ」と思って、私からいきなりご連絡差し上げたんですよね。

山口:いきなりメールがきましたね。

篠田:「すみません、すごくおもしろかったんですけど」という形でご連絡を差し上げたのが、直接知り合いになるきっかけでした。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』、あの本は大変印象に残っています。

私の自己紹介を。改めまして篠田真貴子です。今はエールというベンチャーで取締役を務めています。エールのサービス内容を簡単に紹介しますね。BtoBで会社と契約をして、今日参加されているみなさんのような大企業で働かれている方と、1対1でマッチングをしてお話をじっくり聞く「サポーター」をアサインさせていただきます。

毎週1回30分、良いとか悪いとかジャッジされずに話せる機会、話を聴いてもらえる機会を提供することで、みなさんの自己理解が深まっていくんですね。「自分が何でこういうことをしているんだっけ?」とか、「今、自分は何を目指しているんだっけ?」とか、話すことでだんだん言葉になっていくんですね。

これを組織全体で一斉に行うことで、組織変革が起きていく。そういう意味では、上の方が組織変革をリードしていく際の最後のラストワンマイルというか、ラスト10センチくらいの部分ですよね。みなさんの心にスイッチが入ることで、最終的な組織変革が起きるので、そこのサポートをする仕事をしています。

ほぼ日のCFOを卒業し、50歳で「ジョブレス」に

篠田:私も来歴が長いんですけど、過去所属した職業は、初めは日本長期信用銀行、今の新生銀行に入ました。そこでちょっと留学したりして、そのあとはMcKinsey、Novartis、ネスレという外資系の大企業3社で30代を過ごし、40代の10年間は糸井重里さんが代表をなさっている株式会社ほぼ日のCFOをやっていました。

ほぼ日が上場をして、たまたまちょうど50歳になったときに自分のミッションが完了したなぁと感じたので、50歳で卒業させていただきました。

それでさっき堀内さんが言ってくださったように、無職の期間を設けたんですけど、確かに「無職」っていうといまいち座りが悪くてですね。自分でもプー太郎とか言ってみるんだけど、なんか悔しいなぁと思いまして。

英語で「ジョブレス」って、単に日本で言う「無職」なので、別に何のひねりもないんですけど、試しにジョブレスって言ってみたんです。「ジョブレス篠田」とか、ちょっとプロレスのリングネームっぽくておもしろいなと思っていたら、すっかりお友達の間でおもしろがられ、定着しそうになりました。それで「あぶねーな」と思って、また仕事をちゃんとがんばるようになったというところでございます。

今、コメントで「エールのサポーターをやっている」という方がいらっしゃいますね。ありがとうございます。

こんな3人でお話をしていこうと思います。今日のテーマ(「悩み多きビジネスパーソンへ捧ぐ、教養を身に付けるまでのプロセス~あなたはどう生きるか~」)の意図・趣旨を私からお話します。

危機的状況の中で役に立つ「教養」

篠田:まず堀内さん、山口さんのお二人ともが書いてらっしゃる本が、まさに「教養」とされる、哲学、思想、経済、歴史、科学で、そちらに大変お詳しいお二人がお話ししてくださるとなると、参加者のみなさんの中にも、「本が好き」「本を読んで学ぶことが好き」という方がいらっしゃるのではないかなぁと思ったんですよね。

かつての自分もそうだったんですけど、ややもすると、勉強好きが集うとお互いに「何の本読んだことあるか?」という自慢大会が始まることがあります。アクセサリーのように「どれだけのものを知っているか?」という会話になる傾向があるんです。それは非常に方向として違うなという問題意識があって、今日のテーマを運営のみなさんと一緒に考えました。

そこで出てきた「悩み多き」というキーワードなんですけど。これは何かというと、堀内さんも山口さんも、私はお二人ほどものをたくさん読んでるわけじゃないですけど、でも私も働く中で、けっこう自分の存在感を揺るがすくらいの個人的な危機的な状況に直面をしているんですね。

そこから何とか自分なりの生き方を模索する時に、先人の知恵、多くは「本」という形でそれを頼りにしたことがあって。そういった切迫感とともに、「教養」が自分たちの役に立つものなんじゃないかなぁと考えたんですね。なので、そういった話をここで一緒にできるといいのかなと思っています。

集まってくださっているみなさんの中にも、今そういう危機に直面されている方もいるかもしれません。生きていくうえで「こんな話があったなぁ」ということが1ミリでもプラスになると、ここで集まった私たちにとって良いなと思って、こんなテーマにしています。

私も含めてここに出ている3人とも、このONE JAPAN中心世代(20〜30代)からみると先輩の年なので、今日の話でみなさんの我がごとに近づけられるかなぁと思っています。

厳しい状況に直面した体験談

篠田:ちょっとイメージしていただきたいんですけど、ここ数ヶ月の尊敬される大企業を揺るがす事案として印象が強いのが、みずほ銀行さんです。システムトラブルがどうしても続いてしまって、監督省庁からの指導が入ったという一連のニュースがあったのをみなさんもご存知だと思います。

もしかしたらこの中には、そのお仕事の当事者の方もいらっしゃるかもしれないです。ニュースだけ見ていると「大変ね」とか、評論家的に「会社の体制がどうこうだよね」というようなことを言ったり、あるいは利用者として「困るんだよね」みたいな感想は持たれるかもしれません。

では、もし自分があの場にいたらと想像してみてください。一生懸命プロフェッショナルとして仕事をしているんだけど、ああいうことが起きるので対応に当たらねばならない。この状況ってなかなか厳しいと思うんですよね。逃げるわけにいかないし、でも「自分のせいじゃないし」とか言って人のせいにもできないし、何とかしなきゃいけないんですよね。

例えば、そういう状況に今みなさんの仲間だって直面しているわけです。そのイメージを持っていただきながら、まずこの先輩お二人の経験談を聞いていただければなと思います。

まず堀内さん、本にも少し書かれていますが、今申し上げたようなご経験が興銀(日本興業銀行)時代におありだったとうかがっています。その頃って30代でいらっしゃったんでしたっけ?

堀内:36か7歳くらいでしたね。今、篠田さんの話を聞きながら、本当に昔のことを思い出しちゃいました(笑)。

リアルタイムで体験した、大蔵省の接待汚職事件による銀行の崩壊

堀内:37歳の時に、興銀証券(今のみずほ証券)から異動がありました。その時に僕は証券畑だったんで、ロンドン興銀に行くと信じてたんですね。アメリカに留学して、「次はロンドンのシティで働けるぜ」ってすごく喜んでたんです。

でも突如、「君、総合企画部に行きなさい」と言われて。「何か銀行がかなりやばいことになってるぞ」ということで、マーケットのことをわかっている人間が総合企画部に行ったほうが良いということになったんです。というよりも、自己資本調達、それから格付け、IRをできる人間が他にいなくて。

当時「MOF担(大蔵省担当)から格付け担」へと言われていて、その部分をやらされるために突如ロンドンじゃなくて丸の内の本店の10階辺りに行かされて、一番銀行の大変なセクションで働くことになりました。

それで、銀行が本当に音を立てて崩れていくのを、その場でリアルタイムで見ていました。その崩れていく中で、さらに東京地検特捜部が総合企画部に雪崩のように入ってきてですね。

篠田:尾上縫事件?

堀内:いや、大蔵省の接待汚職事件です。入ってきた当日のことを今でも手に取るように覚えてます。担当検事が入ってきて、副部長だった今の会長の佐藤康博さんが対応したんですけど。

応接の中から怒鳴り声が聞こえてきたんです。「ふざけんな、お前逮捕するぞ!」と。「なんだろうこれは」って、みんな10階は凍りついちゃって。佐藤さんも真っ青になっていました。銀行が崩れ始めたのはそこからです。

私も仕事で大蔵省との関係が近かったので、すごい取り調べを受けて。28回も東京地検特捜部に行きました。回数もよく覚えています(笑)。もちろん被疑者として呼び出されて「この供述は、あなたにとって不利になることがあることを承知しているという前提で調書を取りますから、よろしく」って。

篠田:そこで「僕もロースクールを出ているので、一応わかってますけど」みたいな……。

堀内:そういうこと言うと、倍返しになります(笑)。

篠田:(笑)。今、こうやって笑って言ってるけど、すごいですね。

自分の時間があると、「組織に対して忠誠心がない」と受け取られた

篠田:聞いてくださっているみなさんもなんとなくイメージできると思うんですけど、そもそも当時の社会って、今よりもいろいろヒエラルキーがきつい世界でした。

その中で当時の日本興業銀行って、今の日本にはないくらいヒエラルキーの上位にある会社で、世間には立派な人たちばかりいる立派な会社だと思われているし、本人たちにも少なからずその意識はあったんですよね。

それが、東京地検特捜部ですよ。そこに自分が呼ばれちゃう。もともと悪いことをしている会社が呼ばれるのとは、ちょっと訳が違うワケです。身に迫るものがあったのではないでしょうか?

堀内:そうですね。だから今の総務省もよく接待なんてまだ続けてるなと思うんですけど。我々は、接待をしてただけって言っちゃ語弊があるんだけど、接待してたことが贈賄だって言われて。それで金融庁が分離されて、一緒にコーヒーも飲めませんとなったんです。

一時期、金融庁は銀行に来てコーヒーを出されると、「お茶なら良いけどコーヒーは駄目だ。コーヒーは贈賄だ」という感じだったわけですよ(笑)。それなのに総務省があんなことをやってるの見て、私はかなりびっくりしましたけど。

ごめんなさい、思い出話を語りだすと30分ぐらい使っちゃうので手短に話します。僕は本は昔から好きで、大学ぐらいまではけっこう読んでいました。でもものすごく仕事が忙しくなってしまった。我々の若い頃って、忙しいとかいうレベルじゃなかったですね。

自分の時間があること自体が、組織に対して忠誠心がないという受け取られ方をしていました。なので「私には自分の時間が必要です」なんて言おうものなら、それこそリンチに遭うような、「お前まだわかってねぇな」みたいな感じで(笑)。

仕事に全部の時間を取られて、読みたくても本を読めない。証券外務員試験だとか、僕は留学したから留学生試験のためTOEFLだとか、いろいろあるじゃないですか。それに向こうに行ったら行ったで英語がネイティブじゃないから、死ぬほど教科書とか読まなきゃならない。

読まなきゃいけない本をひたすら読むことばっかりしていたので、自分が読みたい本を読むという時間は一切取れなかった。そういう意味で、本当の意味での読書ってあんまりしていなかったです。

精神的に追い詰められる状況から救ってくれた、1冊の本

篠田:職場がそんな状況になって、個人的にも大変な危機に陥ってしまいっていうところから、当時の堀内さんを「人として保たせたもの」とは何だったんですかね。今につながる本とか、今日のテーマで「教養」とされるものにつながっていくのは、どんなかたちがあったからなんでしょうか。

堀内:やはり精神的に追い詰められていくと、どんどん自分の内側に埋没していくわけですね。視野がどんどん狭くなって、外側が見えなくなって、だんだん自分の内側にスパイラル状に落ちていって、「もう自分はダメだ」という感じになってくる。生きていること自体に意味が感じられないという感じになるんです。

その時に、かなり本に救われたというのがありますね。要は、いろんな経験を本の中で垣間見ることができたんです。

篠田:それは他者の経験ですね。

堀内:はい。僕はあまりフィクションは読まなくて、基本的にノンフィクションが多いんです。それはやっぱり、リアルな経験を自分も感じたいというのがあって。

自分の苦しみは、過去の人たちの経験からするとone of them、つまりありがちなことなんです。「人間ってこういう悲劇あるよね」みたいに、相対化できるんですね。

篠田:その頃読まれた本で、今も覚えてらっしゃるものってありますか?

堀内:これは『読書大全』の前書きでも書いたんですけど、日本のフィクサーと言われた瀬島龍三さんという方の『幾山河:瀬島龍三回想録』ですね。この方は毀誉褒貶がある方なんですが、陸軍大学を首席で卒業して大本営(日本軍の最高統帥機関)に行ったんです。つまり日本の戦争の指揮官、戦争の総合企画部だったわけですよ(笑)。総合企画部の若手ということで、それがなんとなく自分のイメージと重なったんです。

軍隊のエリートが11年間のシベリア抑留と、その後の苦しみからの学び

篠田:それでシベリア抑留ですよね?

堀内:はい。瀬島さんはシベリアに11年抑留されまして、それで帰ってきて。当然のように軍隊なくなっちゃいましたから、すべてを失うわけですよ。そこから伊藤忠に入って、伊藤忠の会長にまで上り詰めたんです。

そして土光敏夫さんの時の中曽根内閣の臨調(臨時行政調査会)を務めて、日本の立て直しを図ったという人です。

その過程でいろいろな政治的な動きをしたことが、いろんなところで言われているんですが。『幾山河:瀬島龍三回想録』ではその部分じゃなくって、シベリア抑留されていた11年間の話がすごく詳しく書いてあるんですね。

軍隊でエリートだった自分がシベリアに抑留されてみると、本当に裸の自分に帰らざるを得ない。その中で自分がどう生き延びて、人間についてどう考えたかみたいなことが、延々と書いてあるんです。その苦しみのようなものを読んでいると、「なるほどね、やっぱり人間っていろいろあるよね」と感じるんです。

ただ単につらいとか悲しいとか言ってるだけじゃなくて、その中からどう自分は自分の道を切り開いていくのかということを、自分で考えないといけないんだなって感じたんですよね。

篠田:ありがとうございます。

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