落合陽一氏が考察する、人々の未来の暮らし

森まどか氏(以下、森):「近い将来、こうした暮らしの中の問題が解決していくんじゃないか」ということがあれば、お聞かせいただきたいんですけれども、落合さんはいかがでしょうか?

落合陽一氏(以下、落合):そうですね。僕は「デジタルネイチャー」って言ってるぐらいですから、あんまり未来予測はしないタイプなんですが、生態系のことは常に予測しながら動いていて、突拍子もないことがたまに起こるんだけど。

突拍子もないことが起こらない目線で考えると、だいたい僕はスマホをバラバラにしたりとか、出てくるコンシューマーエレクトロニクスの基盤を眺めたり。あとは、使われてるオープンソースのコードがどういう生態系をしてるのかとか、投資のメカニズムはどうやって動いてるのかということから、だいたい考えてくんです。

やっぱり最近重要だなと思ってるのは、画像認識の非常に高度なチップ化や、認識精度が上がったりとか。あとはARの基盤見てると、まだまだ生態系がスマホから離脱しきってないので、独自の生態系にはなってないですけど。

Apple Watchももちろんそうですが、iPhoneがだいぶ売れてるから基盤サイズが小っちゃくなってるし。それによって、めちゃくちゃ限界費用の低いヘルスケアのデバイスが世界中に出てきて、みんなが血中酸素濃度計りつつ生きていくというのもぜんぜん想定できますし。

そういった時に、じゃあどうやってカメラで撮れるのかといったら、iPhoneも最近機能でマクロレンズを入れて。あれが1億台、2億台出荷すると、めっちゃコストが下がるので。そうすると、例えば診断や診療するためのすごく微細なカメラの使い方も、スマホぐらいの10万円以下の機器でできるようになってしまうような気もしています。

そういった観点だと、身体性とコンピュータが使うものがより近づいてリアルタイム性が増して、メッシュでネットワークを作り、よりロバスト(頑強)になってくのは、今の展開的には考えられると思います。

あとは、プラスチック材を木に変えていく生活変化はすごく多くなるんじゃないかなと。それはガバナンス的にというか、要はトップダウン的に進むことですが、非常に着目してます。日本中のローカル建築が隈研吾ビルになる、みたいなイメージで合ってると思います。

デジタル先進国をモデルにした日本のスマートシティ

:ありがとうございます。健康管理のお話については、後半のディスカッションでもおうかがいしたいと思います。ここまでいろいろとお話をうかがってきましたが、ここで少し柏の葉スマートシティのご紹介をさせていただきたいと思います。

柏の葉スマートシティは、超高齢化社会、市場飽和による経済停滞、資源エネルギー問題、地球環境問題という、課題先進国の日本において、それらの課題解決のため、「『世界の未来像』をつくる街」をテーマに、公・民・学が連携して常にさまざまな領域において最先端の街づくりを進めてきました。

近年では急速なデジタル化により、街と生活者からは大量のデータが生まれるようになり、これらのビッグデータを利活用することは、人々のより豊かなライフスタイルの実現、産業の発展、および科学技術の発展のために必要不可欠となりました。

柏の葉スマートシティは、デジタル先進国・電子政府であるエストニアをモデルとし、個人データ主権の中でデータ利活用の街づくりに着手し、2020年には個人が許諾することにより、データを流通させることができる柏の葉データプラットフォーム「Dot to Dot」を開発。

そしてこのプラットフォームを開発して、住民がさまざまなサービスを利用できるポータルサイト「スマートライフパス柏の葉」の提供を開始。マスの時代から個の時代に向け、個々人がデータを有効に利活用し、個のニーズに応じて、人々の暮らしがより豊かになる街づくりを目指し、日々新たな取り組みを行っています。

また柏の葉では、第三者機関であるデータ倫理審査会を設立し、柏の葉におけるデータ利活用の指針となる柏の葉データ利用倫理原則を基に、適切なデータ利活用が行われているかを審議しています。

さらに、提供されるサービスやスマートデバイスの活用方法などをサポートする、ITコンシェルジュカウンターも設置し、多くの市民が最新の技術を活用できるようにサポートしています。

若者にとっても「住んで楽しい街」を実現するためには?

:ということで、柏の葉で実施していることご紹介させていただいたんですが、小島さんはどんな印象をお持ちでしょうか?

小島武仁氏(以下、小島):そうですね。今日、こちらの会場に来る時に車から街を眺めてたんですが、以前住んでいたアメリカのボストンと、サンフランシスコの辺りを思い出しました。大学院でハーバードにいたんですが、当時2000年代の最初って、ハーバードのあるボストンの辺りはかなり田舎で。しかもけっこう危ない、セントラル・スクエアという犯罪都市があったんです。

ちょうど僕が大学院を卒業した頃から、急にフワーッときれいになったんですよね。なんでかというと、MIT(マサチューセッツ工科大学)があのへんにあって、MITとディベロッパーの方ががんばってテクノロジカルなシティにしていったんですよね。

Microsoftのでかいオフィスができたり、Googleが入ってきたりして、急にきれいになったのを思い出しましたね。サンフランシスコも2010年代に住んでたんですが、あの辺一帯と同じようなことが起きてたなっていう。

この柏の葉でも共通だなと思ったのは、やっぱりテクノロジーの人たちと街を作っていくデベロッパーたちが、協力して作っていくところ。かつ、ここの建物にもあると聞きましたが、大学みたいなアカデミア的テクノロジーだけじゃなくて、それをスタートアップとしてエンプロイメントしていく。

そういう人たちが全員入っているモデルは、すごくおもしろいんじゃないかなと思って聞いていました。取り組んでいることとしては新しいところだったり、非常におもしろいと思ってるんですよね。

もう1つ、こういう街が成功するために必要なんじゃないかと思ってることでいうと、「住んで楽しい街」がやっぱり大事だなと思っていて。例えば、20代ぐらいの典型的な独身の人とかが、そのへんにふらっと行って騒げるクラブとか、そういうのがどうなってるのかなとちょっと気になりましたね。

今まで挙げたサンフランシスコやボストンのあたりは、そういうの(クラブ)がちょうどワーッといっぱいできて。若くて活きのいい人たちが集まるようになったのが、けっこうキーになってたんじゃないかなという印象を受けたので。こちらの柏の葉では、そういうところには取り組みがあるのかなって、ちょっと気になってました。

街にとって大切なのは「個々人のライフスタイルの総和」

:ありがとうございます。では落合さん、柏の葉の印象を聞かせていただけますでしょうか?

落合:柏の葉って、県としてはどこでしたっけ? 千葉ですか?

:千葉県柏市です。

落合:千葉県柏市、柏の葉だからね。千葉県や茨城県には広大な面積があって、やることが非常におもしろいなっていつも思うんですけど。僕が見てて思ったのは、やっぱりライフスタイルが重要だなって。

今までヒューマンコンピューターインタラクションの研究って、すげーヒップスターな感じだったんですよ。つまり、「デジタルはこうなるぜ」っていうのをやっていくと、それに群がったちょっとおしゃれな人たちが集まってきてものを作るのが、だいたいのトレンドだったんです。

でも、そこがわりと読めなくなった時代はどうやって設計していくのがいいのかな? というのは、ここ1、2年のテーマだったんです。ようやく最近の回答としては、ヒューマンコンピューターインタラクション自体もライフスタイルのほうが重要なのかな、ということが見えつつあって。

そうするとデータとインタラクションする時に、じゃあどんなライフスタイルの人たちがどうやって住んで、どこで暮らしてんのかって、さっきの小島先生のクラブの話とかもそうなんですが。その生活の見え方のほうが、実は行政サービスや個人情報の利活用の話よりも重要なんじゃないかと個人的には思っています。

でもさっきの図を見るに、たぶん子どもを育てたりとか、家庭として暮らすとか、そういったところが重点化された都市なのかなとすごく感じました。安全、安心、見守り、健やかな人生、健やかな毎日、大切です。

:ありがとうございます。

小島:子どもは大事ですね。僕もそう思います。

落合:そこ(ファミリー層)が中心っぽい設計スタイルだなと思いました。

:そうですね。大学や研究所と、それから企業。そして、そこに暮らす人たちがきちんとスマートシティのいろんなサービスを利活用していくことで、イノベーションを起こしていく。そんなことができる街を目指しています。

落合:人口比率ってどのくらいなんですかね? 要は、MITの周りってめっちゃリサーチャーも賢い人も多いし、いい感じだし……。筑波は研究学園なので、研究所もめっちゃいっぱいあって。小学校を作るとほとんどが親か先生みたいな感じになって、自由研究するとガチの研究質問が飛んでくるっていう。

でも、そこに最適化されたライフスタイルはライフスタイルであるし、柏の葉には柏の葉のライフスタイルがあって。街って、ライフスタイルのバランスだと思うんですよね。個々人のライフスタイルの総和が大切ですね。

90年代アメリカのようなデータ利活用を日本で実現するには?

:ありがとうございます。そろそろお時間が迫ってきて質問が来ておりますので、お答えいただけたらと思います。時間の許す限りご紹介してまいります。

1つ目の質問なんですが、「冒頭で1990年代ぐらいにアメリカはデータの利活用が進んだという話がありましたが、どういう方法で進んだのか。また、その方法を日本に転用できたりするのでしょうか?」と。小島先生いかがでしょうか?

小島:そうですね。僕が知ってる範囲だけになっちゃうので、全体的なことはちょっと言えないんですが。さっき例に挙げた周波数帯のオークションでいうと、データの利活用というか、その以前にデータをちゃんと取って。もらった営業免許を一番うまく使える人をちゃんと聞いて、情報を集めて、ルールに従って配分しようという。そこがかなりイノベーションだったと思うんですよね。

これもある意味でデータ活用以前の問題で、データをそもそも「集める」ところだと思います。それのために一言で言うと、そういうこと(データを集めること)をやったらいいよと。研究者側から言うと、研究知見をみんなが納得するかたちで出し、ちゃんと説明したのが非常に重要だと思います。

具体的には、FCC(連邦通信委員会)の人で非常に理解ある人がいたので、その人と緊密にタッグを組んで進めていた感じだと思います。

けっこう偶然に近いような話があって。研究者側で「できる人」と、FCCにいる「ちゃんとやろう」っていう人が、すごくまじめにやった。半分偶然に近いですが、そういう人がちゃんとやることがまず大事だなと思います。

ほかのデータ活用についても、これは私はそこまでよく知らないんですが。例えば、以前は行政データを使っていろんな研究を出すのもぜんぜんできなかったんですが、研究者にしろいろんな人が「そういうことをやらせてくれ」って、ワーワーとすごく長い間言った。単純にそういう歴史がありますね。

長期的に見ると、正論や研究が政策を変える事例も

:続いて、2つ目の質問です。「臓器移植のデフォルトを賛同にするとよいのでは? という話がありましたが、今の日本では意思表示しないといけないと思います。そのルールを展開する場合、さまざまな壁があると思いますが、どのような工夫が必要でしょうか?」。これも小島さんいかがでしょう? 日本での話ですが。

小島:そうですね。まずは当然、デフォルトを変えることによってどういう効果があるのかを検証するのが大事だと思うんです。これは、すでに外国でやられている例を参考にすることもできますし。

あとはそれこそ臨床研究で、例えばワクチンをあげた人とあげなかった人でどう変わるか、そういうことを実験している連中もいるんですが、まずはエビデンスを積み上げていくことが大事だと思います。

軽視されがちだと思うんですが、少なくともロングランで見ると、いわゆる正論や研究がじわじわとボディーブローのように効いてきて、政策が変わることは歴史上けっこうあるので。そういうことがまず大事なところかなと思います。

あとは強調するところでいうと、「力のある人」って言うと変ですが、政策サイドの人でチャンピオン(味方)してくれる人はどうしても必要だなとは思いますね。

日本のDXが遅れた原因とは?

:ありがとうございます。最後の質問になります。「日本のガバメントがルールメイキングできない理由は、少数でも反対がいるのを怖がる傾向があるからだと思います。それを超えるのはどうすればいいと思いますか?」という質問なんですが。落合さん、いかがでしょうか?

落合:少数でも怖がる……。なんか、民主主義に反する意見ですね。

:そうですね(笑)。おそらく、先ほど「空気」っておっしゃってたようなことだと思うんです。少数の反対者に対して、気をつかいすぎる空気があるという。

落合:官僚は丁寧なご説明に奔走するのが得意ですよね。あのご丁寧なご説明によって、ご納得いただくまで時間を割いてきた結果が、ガバメントのデジタルトランスフォーメーションの遅れだと思いますけれども。まあ、大丈夫だと思いますよ。過渡期です。

:これから変化、ということですね。

落合:いい方向にも、悪い方向にも。

:まさに過渡期と。

落合:つまり、勝手に決められてしまうことがたくさん出てくることと、決めることに対して文句を言うコストが高くなっていくことと、個別に確認できないものが増える。たぶん、そうなってきます。

本職の研究の傍ら、マーケットデザインに取り組む小島氏

:ありがとうございます。ギリギリの時間なんですがもう1問届きましたので、小島さんよろしいでしょうか。「社会実装する上での、最大の壁は何でしょうか?」。

小島:最大の壁は、「やる人の数」と「時間」のリソースですかね。私の見ている分野でいうと、マッチングやマーケットデザインって言われる分野での実装って、やっぱりものすごく時間がかかることなので。

私の本職は研究者なので、研究の傍らそういうことをやるには、とにかく時間が足りないのはあります。今はセンターという仕組みを東大で作っていただいたので、それによってある程度はできることが広がったんですけども。

そこがもうちょっと組織的にいろんな人が協力していけば、ぜんぜんスケールすると思うんですが、現状ではまだやっている途中だなという感じです。

なのでちょっと宣伝になりますが、こういったことに興味持ってくださった方はぜひ協力してほしいなと思います。「寄付してください」とかもそうなんですが(笑)。興味を持ってくださった方はお話を持ってきてくれたり、「こういうことできないか?」と、アイデアをいただいたりですね。そういうことをしていただくと、グッと社会実装のはずみがつくんじゃないかと思っています。

「n人に対する研究より、1人に対する研究が意味がある」

:質疑応答は以上となります、ありがとうございました。では最後になりますが、今年の柏の葉イノベーションフェスのテーマが、「READY FOR FUSION?」なんですが、このテーマにどんなことを感じたか、どんなことを期待したいかなどを、最後のコメントとしてお一方ずついただきたいと思います。まず小島さん、お願いいたします。

小島:フュージョンで言うと、産・官・学ってよく言うと思うんです。民間も政府関係の人も、そして私のような研究者の人も、一緒にやっていくことでできることはいっぱいあるんじゃないかなと思うんですよね。月並ですが、そういう意味のフュージョンは私たちもやっていきたいと思ってますし、全般的に非常に期待しています。

:ありがとうございます。落合さん、お願いします。

落合:ちょっと待って。今、なんかルンバがしゃべりだしました。

:お掃除中ですね(笑)。

落合:「READY FOR FUSION?」。フュージョンは大切ですが、最近私がずっと思ってることは、予測不能なことが多く起こる時に個々人のライフスタイルはすごく重要であると。

1920年代の民芸運動みたいな感じなんですが、大きな主語がない時には小さな主語が大切なので。小さな主語をするためには、手ざわりのあるものを作らないといけない。手ざわりは手作りではないので、個人の人生にまつわるものを作ってくことが大切なことだと、私は研究しながらよく思っているところがございます。

n人に対する研究より、1人に対する研究が意味があると最近思っているので。ぜひローカルで、そういった新しい取り組みをされるケーススタディがいっぱい出てくるようになるといいなと思ってます。なのでみんなフュージョンして、ケーススタディを作りましょう。

:ありがとうございます。小島さん、落合さんから貴重なお話をうかがいました。小島さん、落合さん、ありがとうございました。

落合・小島:ありがとうございます。