「HOTEL SHE, KYOTO」オープン後、町に活気が生まれた

森まどか氏(以下、森):お二人のお話をうかがっていて、新しい事業をやっていく、そして続けていく、発展させていくには、「信頼」というのが非常にキーワードになっていくんだなと思いました。

そして地域であれば、ホテル(の役割)は宿泊業だけではないとおっしゃったんですが、これまでホテルを開業されてきた中で、地域作りにも貢献されているというか。文化作りをやってこられて、波及効果も感じられてると思うんですが、地域の活性化はいかがですか。

龍崎翔子(以下、龍崎):ありがとうございます。自分たちの例で言うと、例えば私たちは京都でホテルをやらせてもらってるんですが、東九条というエリアで京都駅の裏側なんですよね。京都駅って、京都人が思ってる京都の南端にあるんですよ。

そこより南だと、京都人的には「それはもう京都じゃないよ」っておっしゃることが多いエリアなんです。なので、私たちがお店を始めた頃は、人通りとかもあんまりなかったりとかしていたんです。

私たちが「HOTEL SHE, KYOTO」を東九条に作ったあと、お客さんがすごく出歩くようになるわけですよね。実際に地元の方から「町が明るくなった」って言われたことがあって、それが自分にとってはすごく印象に残っていますね。

私たちが何かに貢献したっていうことじゃないと思うんですが、このホテルがあることで、そこに住んでる人が安心して夜に出歩けたり、町の雰囲気が変わっていることを感じ取っていただけていることは、すごくうれしいなと思います。

「HOTEL SHE,」に泊まるのが夢、という若い世代も

龍崎:あとは最近、金沢でも新しくホテルを作ったんですが、そこはすごくいい場所でやらせていただいているんです。

この間、聞いてすごくうれしかったのが、泊まりに来てくださった方が金沢在住のご友人と一緒に、うちらのホテルで朝食を召し上がられたんです。金沢在住の方の娘さんは高校生なんですが、「友だちとお金を貯めて私たちのホテルに行くのが夢」と、おっしゃっていて。

一ホテルでしかないんですが、住んでいる方、特に自分たちがターゲットとしている方より若い世代の方に、思い出を作るための憧れの場所になっていただけることは、めちゃくちゃ意味があるというか。地域の方に受け入れていただけていることを、すごくありがたく思ったり。

「自分たちがまちおこししてますよ」「それで町を変えましたよ」と言うのって、自分的にはすごくおこがましいなって思うんですが、町の方はそれを受け入れてくださったり、ポジティブに捉えてくださったり、そこで起きた変化を肯定してくださったり。すごくありがたいことに、そういうお言葉を頂けることは多いなと思っています。

スポーツには“AIには提供できない幸せ”がある

:地域の活性化という点では、岡田さんも共通点があると思いますが、今のお話を聞かれていてどんな感想をお持ちになりましたか。

岡田武史氏(以下、岡田):そうですね。素晴らしいなと思いますし、それぞれいろんな活動があると思うんですね。我々は今、次はJ2に行くためのスタジアム要件を満たす新しいスタジアムを作らなきゃいけない。でも、今度のスタジアムは前みたいな金額ではできなくて、40億円くらいかかるんですね。

そうすると、投資をしてもらわなきゃいけない。でも「今治に投資してくれ」と言っても、誰もしてくれない。「ラスベガスの砂漠に投資しろ」って言っても誰も投資しないけど、「ここにこういうものを作るんだ」というストーリーがあった時に、みんながお金を出したと思うんですね。

僕が考えたストーリーが、今治の「治」を取って、「バリ・ヒーリング・ビレッジ」「里山スタジアム」。これからAIやICTが発達してきて、AIの言うとおりに生きるような人生が必ず来るんですよね。

家にあるAIスピーカーに毎日話してたら、自分よりも自分のことをAIが理解してる時代が来る。「AI、AとBとどっちと結婚したほうがいいと思う?」と聞くと、AIが「あなたはAと結婚したいと思っているでしょう。でも、Aと結婚したら3年以内に別れる確率は68パーセント、Bと結婚したら10年持つ確率は80パーセント」。これは当たるんですよ。

当たるとなったら、人間は必ずナビに従って車を運転するように、AIの言うとおり生きるんですよ。これは失敗のない人生で素晴らしいことです。でも、人間の幸せってそれだけじゃなくて、困難を乗り越えて失敗して、またチャレンジして成長したり、誰かと助け合って絆ができたり。そういう「もう1つの幸せ」も必要です。我々のスポーツ・文化は、そういうものを提供できます。

人間性を取り戻すようなスタジアムを目指す

岡田:我々のスタジアムの周りに畑を作ったり、障害者の通所施設を作ったりとか、いろんな人間性を取り戻すような仕掛けがあるんですね。東京のITや金融でちょっとメンタルが傷んだ若者が、今治に来たら人間性を取り戻してくる。

また、コンクリートでできたらあとは朽ちていくだけ、なんていうスタジアムの時代じゃない。どんどん緑豊かになって、里の山のように365日人が行き交う心の拠り所になるんだと。これぐらい言うとね、まあまあお金が集まったんですけどね(笑)。

でも、本気でそういうことをやろうとしている。それが伝わった時にみなさんが協力してくれる。でも、我々はその先にあるんですよ。たとえばテクノロジーの発達、ここもスーパーシティで素晴らしいですよ。でもそれは「手段」で、その先に何をするのか。

例えば、駅の改札が自動になったと。これは、今まで(切符を)もぎっていた人に行っていたお金が発明した人に行くだけで、乗る人が増えるわけじゃない。価値を新しく生んでいるわけじゃない。便利になることは素晴らしいけど、その手段を使ってどういう社会を作るのかが一番大事です。

我々が目指している社会は、この資本主義の中で格差が大きな問題だと思ってて。格差はしょうがない。でも今、下がゼロに近づいている。この豊かな日本で、ご飯をきちんと食べられない子どもがいたり。

またはテロなんかでも、ある程度の生活をしている人はテロへ行かないんですよ。そういうのはジハードって言うんですかね。だからそういう意味で、下を上げなきゃいけない。そうするとみなさんはベーシックインカム、お金を配るような話をされるんだけど。

我々はFC今治のファンクラブという小さなコミュニティで、ベーシックインフラ、衣食住を保障し合おう、着るものはみんな家に余ってるのをシェアしましょう、と。そして食べるものは、我々は畑もやりますし、フードバンクをやるし、子ども食堂も運営しています。

そしてオープンキッチンを作って、食材は我々が出して、町のレストランのシェフに月1回ボランティアで来てもらってみんなで食べる。住は余っている家がいっぱいあるので、みんなで修理して住もうと。

コロナで生まれた分断を、文化やスポーツが後押し

岡田:そうやって、衣食住を保障し合うようなコミュニティをJリーグ全クラブが地域で(応援していく)。やっぱりこれは、(コミュニティが)大きくなるとなかなかできないんですよね。そういうコミュニティで全国に行ったら、この国が変わっていくかもしれないと。

「壮大な……」って言うんですが、壮大でも何でもなくて。龍崎さんはわからないかもしれないけど、僕らが子どもの時には、隣のおやじは飲んだくれで酔っ払ったら子どもを殴ると。「あんたら、うちでご飯をお食べ」と、隣の子を育てたりね。ガキ大将が障害者を連れて、「おい。こいつをいじめたら許さんぞ」って、一緒に遊んだりとかあったんですよ。今は「障害者はここ」って分けている。

町が大きくなると分けざるを得なくなっていくんだけど、そうじゃなくてすべてがインクルーシブで、お金を持ってる・持ってない、障害、健常者、年の差。そういうのを、みんながお互いを助け合っていた社会・コミュニティがあったんですよ。

これがどんどん大きくなっていくと分断する。それはコロナで見えただけで、前からあったんですよね。僕らはそういう社会、コミュニティを作りたいという夢があって。きっと三井不動産さんが協力してくれるよな。

:ありがとうございます。これまでずっとあった分離や分断が、コロナで顕在化してきた。またそれをもう一度融合させるのに、文化やエンターテイメント、スポーツが背中を押してくれるものになるんだなということが非常にわかりました。

「世界の未来像」をつくる街、柏の葉スマートシティ

:ここで、柏の葉のご紹介を少ししたいと思いますので、お聞きいただければと思います。

柏の葉スマートシティは、「超高齢化社会」「市場飽和による経済停滞」「資源エネルギー問題」「地球環境問題」という課題先進国の日本において、それらの課題解決のため、「『世界の未来像』をつくる街」をテーマに、公民学が連携して、常にさまざまな領域において最先端のまちづくりを進めてきました。

近年では急速なデジタル化により、町と生活者からは大量のデータが生まれるようになり、これらのビッグデータを利活用することは、人々のより豊かなライフスタイルの実現、産業の発展および科学技術の発展のために必要不可欠となってきました。

柏の葉スマートシティは、デジタル先進国・電子政府であるエストニアをモデルとし、個人データ主権の中でデータ利活用のまちづくりに着手し、2020年には個人が許諾することによるデータを流通させることができる、柏の葉データプラットフォーム「Dot to Dot」を開発。そしてこのプラットフォームを活用して、住民がさまざまなサービスを利用できるポータルサイト「スマートライフパス柏の葉」の提供を開始。

マスの時代から個の時代に向け、個々人がデータを有効に利活用し、個のニーズに応じて人々の暮らしがより豊かになるまちづくりを目指し、日々新たな取り組みを行っています。

また、柏の葉スマートシティでは、リレーマラソンなどのスポーツイベントや、ラグビーニュージーランド代表のオールブラックスの事前キャンプサポート、柏の葉T-SITEでの野外シネマをはじめとした各種イベントなど、さまざまなカルチャー&エンターテイメントなコンテンツがあり、地域とのつながりをこうしたかたちで盛り上げて作っていっています。

スーパーシティの建設を目指す岡田氏

:というのが、ここ柏の葉スマートシティのご案内なんですが、龍崎さんはどんな印象をお持ちになりましたか。

龍崎:すごく近未来的というか。やっぱり町って、そこにいる歴史の長さが違ったりするわけですよね。昔からあるものと新しくできるものが混合して、ちょっとずつ新陳代謝しながらできていく。

そういう意味では生物っぽいところもあるし、アンコントローラブルなところもすごくあると思うんですが、こういった場所で町を作るからこそ、1つの大きな青写真があって、そこに向かって町自体が育っていく。

そういうまちづくりができることにすごく可能性を感じるというか、こういうところだからこそ、スマートシティやスーパーシティが実現できるんだなと、めちゃくちゃ感じました。

:ありがとうございます。岡田さんはどんな印象をお持ちになりましたか。

岡田:我々も実は、ゆくゆくはスーパーシティ(を建設する)と言ってるんですよ。さっきも言ったように、これから便利・快適になっていく。でも、便利・快適になった先にどういう社会を作るんだと。便利・快適になるのは手段で、その先にどういう社会があるんだという絵を共有していかなきゃいけないんだろうなと。

そういう実験ができるなんて、誰でも・どこでもできることじゃないんでね。ぜひそういうチャレンジをして、ITやいろいろなものを使って、世界の最先端の町でみんなが助け合っていくようなコミュニティを作ってもらいたいなと思いましたね。

データを利活用した安心安全なまちづくり

:龍崎さんは、柏の葉のデータの利活用などに関してはどんな感想を持たれましたか。

龍崎:データ活用して何をされるんですか?

:例えば、許諾をいただいたいた上でさまざまなヘルスケアデータをデータベースにして、その代わりに効果的なものを還元していくとか、安心・安全なまちづくりにデータを使っていく。もちろん他にもありますが、住民の暮らしに価値を還元していくという。

龍崎:なるほど、めちゃくちゃおもしろいなって思いました。それを使ってより便利になっていくところもありますし、逆にデータを通じて、新しく知れる人間の行動の生態や町の動き方(が発見できる)とか。そういったところは、さらに研究で新しい知見を得ることができそうだなって思いました。

都市工学をされている方とかが見ると、常にできているものからデータを集めて研究されると思うんですが。生きたリアルなデータを常に回収できること自体が、ここの町だけじゃなくて、日本中や世界のいろいろな都市において還元できるナレッジになりそうだなと、今の話を聞いてて感じました。

:最先端の技術開発から人々の毎日の暮らしまで、モデル都市みたいなかたちでやっているということで、柏の葉をご紹介させていただきました。それでは、そろそろお時間も迫ってまいりました。

自分の「当たり前」の中に隠された、一歩踏み出すためのヒント

:柏の葉イノベーションフェス2021なんですが、「READY FOR FUSION?」というテーマを掲げているんですね。この「READY FOR FUSION?」に対する印象ですとか、この言葉にかけて視聴者のみなさんへのコメント、アドバイスなどあればお聞きしたいと思います。では龍崎さん、お願いします。

龍崎:そうですね。「FUSION」って、「やるぞ」と思ってやるものでもないなと思ってて。気付いたら始まってるところもきっとあると思います。ここでは「READY FOR」とおっしゃいつつも、きっとすでにいろんなことが始まっているんだなと思うんですね。

それは無意識でやっているのか、「実はこういうことをやってるんじゃないの?」と気付くことで、「これができるんだったら、こういうところと組んでみて、こういうこともできるかも」って、いろいろと幅が広がっていくきっかけになるんじゃないのかなと思うので。

これをご覧になっている方もいろんな業種でご活躍されている方だと思うんですが、自分たちの当たり前を見直していくところに、意外と大きな「FUSION」のヒントがあったりするんじゃないのかなと感じています。

:ありがとうございます。岡田さん、いかがでしょうか。

岡田:そうですね。「READY FOR」で止まるんじゃなくて、最初の一歩を踏み出してチャレンジしていく。いろいろ議論したり、考えたり、データを取ったりもいいけど、ともかくやってみる。

曹洞宗に永平寺っていう修行寺があるんです。僕は座禅をするんですが、そこの禅師さんが謁見する部屋に、「淵黙雷声(へんもくらいせい)」という掛け軸が掛かってたんですよ。

お弟子さんがお釈迦さんに「あそこにある悟りって何ですか?」って聞いたら、お釈迦さんが、「『淵』っていうのは深い黙り。その黙りが雷の声より大きかった」って。「どういうことですか?」って言ったら、「そこにいて『悟りがああだこうだ』って言うんなら、修行してまず一歩踏み出して、悟りに一歩でも近づきなさい」と。

そういう意味で、いろんなことを議論したり考えたりすることも必要だけど、1歩目を自分で踏み出してみる。「READY」で終わらずに、まずは一歩踏み出したらどうかなと思います。

:ありがとうございます。今日は本当に貴重なお話をうかがわせていただきました。さまざまな問題が顕著になったコロナ禍ではありますが、理念というものがあり、そして信頼関係をきちんと築いていければ、それを乗り越えていける。分断はもう一度1つにつなぐことができるということが、非常によく伝わってまいりました。ありがとうございました。岡田さん、龍崎さん、ここまでありがとうございました。

岡田:ありがとうございました。

龍崎:ありがとうございます。