宇宙専業ファンドが取り組む、宇宙産業との3つの関わり方

青木英剛氏(以下、青木):では、流れで見學さん(宇宙とどう関わってるのかについて)お願いします。

見學信一郎氏(以下、見學):(スパークス・イノベーション・フォー・フューチャー株式会社は)宇宙専業のファンドですので、ひたすら宇宙ではありますが、私どもと宇宙産業の関わりは3つあるかなと思ってます。1つは、これから公表するもの含めて、おかげさまで10社のベンチャーに投資をいたしました。まず、その10社のベンチャーに投資するところからスタートと思っていまして。ベンチャーの中での横の連携を強めていくことで、1つのエコシステムを作っていきたいと思っています。

もう1つは、今までの既存の宇宙産業の方々ですね。よく、JAXAからの受注を中心に仕事をされてきた方たちを総称して、「オールドスペース」という言い方があって。それに対して、ベンチャーは「ニュースペース」と。ただ、オールドスペースの方たちは「いや、オールドじゃないんだ。エスタブリッシュスペースなんだ」という言い方もあるわけですが。

そういう既存の宇宙産業の方々と、我々の投資先なんかをどうやって結びつけていくか。ちょうどそれが今は過渡期にあるのかな、トランジションのタイミングなのかな、というところが2つ目です。

3つ目は日本の経済の1つの特徴だと思いますが、日本のベンチャー投資も、実は半分を事業会社さんが出されているんですね。直接投資もあれば、CVCもあるし、私どものようなファンドに投資をしていただいて(行う)間接投資もあります。日本では、事業会社のベンチャー投資に関する役割は非常に大きくて。

我々としては、投資という行動・活動だけではなくて、事業会社と我々の投資先を結んで、新しいプロジェクトを作っていく。みなさん、やはり宇宙への関心高めておられますので。でも、それをご自身たちの本業にどう落とし込んでくかについては、我々自身が持っている知見をご提供しながら、新しい何かを生み出せると。それが3つ目の関わりでしょうか。そんなところをやっています。

日本の宇宙ベンチャーのカギは、資本市場にデビューできるかどうか

青木:ありがとうございます。ちなみに、他のベンチャーから怒られるかもしれないですが、見學さんの10社の国内の宇宙ベンチャーの投資先で、「すごいぞ」っていうイチオシは1個ありますか? みなさんに共有してもらえると。

見學:ディプロマティック(外交的)に言うとみんな好きなんですが、まずそういう意味で大事だと思ってるのは、これら日本の宇宙系ベンチャーは資本市場、いわゆるIPOを目指しています。

先ほど青木さんからあった話のように、米国ではもう資本市場にデビューしたところがたくさんあるわけです。一方でアメリカの場合では、イーロン・マスクやジェフ・ベゾスのように、自分がいつどれだけ投資したかを気にしなくていいような、ビリオネア・トリオネアの人たちがどんどんやっている、プライベートエクイティの市場がものすごく分厚いんですね。

日本の宇宙系ベンチャーが、これからきちっとした長いゲームで勝負してくためには、やはりIPOなどでしっかりとしたお金を手に入れて、戦いに挑んでいく。ということにおいては、今は私どもの10社のうち、2社が上場を目指して東証と切った張ったをやってるんですね。

ちょっとお名前はあれ(出せない)なんですが、そこが資本市場にデビューできるかどうかによって、今後の宇宙系ベンチャーの将来にけっこうな影響を与えるだろうという意味では、今着目してるといったところでしょうか。

青木:最初のフロントランナーがIPOすることで、次世代の宇宙ベンチャーを育てつつ。ネット業界でもあったと思いますが、どんどんエコシステムを作っていく流れが、今後は起きてくるっていうことですね。ありがとうございます。

テクノロジーが可能にした、宇宙産業の民主化

青木:では最後、家入さんお願いします。

家入一真氏(以下、家入):直接的に宇宙産業と関わっているのかと言われると、そうではないのかもしれないですが、個人的にはふるさと納税で寄付させていただいたり。僕自身はこの20年ずっと、インターネット産業でいろんな会社を立ち上げてきたところです。

この10年ぐらいは、先ほどお話したCAMPFIREというクラウドファンディングを通じて、「資金調達の民主化」を謳ってやってきたり。あとは「BASE」という、誰でも簡単にショップを立ち上げられるサービスを立ち上げて、「経済活動の民主化」をしたりとか。そういったことをやってきた人間です。

現時点では、先ほどお話ししたように北海道スペースポートさんのクラウドファンディング、あとはIST(インターステラテクノロジズ)さんのクラウドファンディングは、過去にCAMPFIREでも何度もサポートさせていただいて。合計で1億円を超える金額を、6,400人を超える方々に応援してもらって、クラウドファンディングで調達をしてきた。そういったところをサポートしています。

北海道スペースポートさんもそうですし、個人的に寄付させていただいたのもそうなんですが、「なぜ宇宙ベンチャーをこんなに魅力的に感じるんだろうな?」と思ったのか。やはり、僕がずっと大事にしてきたテクノロジーを通じて、これまではある意味既得権益というか、一般の人が参加することが難しかった産業を民主化していくことがテクノロジーの本質だと、僕はずっと思って大事にしていて。

「開かれた宇宙港」っておっしゃられているように、まさに今回北海道スペースポートさんがやろうとしていることって、かつて、一般の方が宇宙産業や宇宙港に関わることができるのはなかったと思うんですよね。

だから、こういったところを目指されていることへの支援であったり。資金調達だけが目的ではなくて、資金調達を通じてクルーを増やしていく。それで、そこに関わる、興味を持つ、当事者意識を持つ方をどんどん増やしていく。この熱量を高めていくところを、私たちがやってるCAMPFIREなどを通じてサポートさせていただけたらいいな、なんて思ってます。

8年前から宇宙ベンチャーの投資を開始

青木:ありがとうございます。私も少しだけ宇宙との関わりを説明すると、私が一番宇宙産業歴が長くて、20年以上の宇宙の関係者でして。

アメリカの大学・大学院で宇宙をずっと勉強して、NASAと共同研究していた時からの宇宙との関わりなので。政府だけがやっていたところから、今の宇宙ビジネスの盛り上がりを、本当にずっと肌で感じながら見てきてました。

「日本で宇宙の投資家をやろう」ということで立ち上がって、一番最初に宇宙ベンチャーの投資を始めたのが、ちょうど8年前でした。そこからいろんなベンチャー企業を支援してきている状況で、先ほど坂本さんからも少しご紹介ありましたが、グローバル・ブレインというファンドで、1,500億円のファンドの運用総額を持っております。

宇宙だけに投資してるわけじゃないんですが、いろんなベンチャーに投資する中で、宇宙にも投資してます。宇宙ベンチャー、もしくは宇宙関連ベンチャーで言うと、半分以上は海外なんですが、グローバルで10社以上に投資をしている状況です。人工衛星を作る会社からデータ解析する会社、あとは位置情報のベンチャーであったり、ロボットのベンチャーがあります。

それで、2つほどおもしろいところをご紹介すると、1つはNASAと火星ミッションに向けて開発をしているようなベンチャーもあります。これはアメリカのシリコンバレーにある、スマートコンタクトレンズを作っているMojo Visionっていうベンチャーがやっているんですよね。

シリコンバレーのトップベンチャーキャピタルのKhoslaというVCと一緒に出資していて、コンタクトレンズに画像が映るんですよね。宇宙飛行士が火星で作業する・月で作業する時に、そのコンタクトレンズをはめることによって、タブレットを持たなくていいんですよ。そこ(視界の中)に作業指示書が出て、いろんな指示が地上の管制官から出てくる。それを見ながら作業できるものを、今NASAと一緒に開発している会社であったり。

あと先週、見學さんと一緒に出資を発表させていただいたんですが、Pale Blueという日本の会社で、人工衛星のエンジンを作るっていう、ここもニッチな領域なんですけれども。

おもしろいのが、燃料が水なんですよね。そのへんにありとあらゆる水があると思いますが、そのへんの水をすくってきて入れれば、人工衛星のエンジンとして使える。そんなおもしろい会社にも出資したりしています。そういう状況で、深く宇宙と関わらせていただいております。

インターネットが当たり前の世代に伝わらない感覚

青木:では、次の質問にいきたいなと思っていますが、そもそもみなさんはぜんぜん関係ない業界出身者で、今は宇宙ビジネスをやられている。宇宙業界をほかの業界から見た時に、どういうところに違いがあるのかをお話しいただければと思います。

エネルギーやプラントであったり、投資家としていろんな業界を見ていらっしゃったり。見學さんはもともと電力業界にいらっしゃって、家入さんもネット業界で幅広く見ていらっしゃったので。宇宙業界にはどう違いがあるのかを、それぞれお聞きできればなと思います。じゃあ、今度は逆に家入さんからお願いできますか?

家入:先ほどお話ししたように、インターネットというテクノロジーはいろんなものを民主化する、それをずっと思っているんですが。僕はこの20年ずっと、一番最初の起業も含めて、未だにインターネットが大好きで。常に社員の前でも「インターネットが好き、インターネットが好き」っていう話をするんですよ。

そうしたらある時、若い20歳のインターンの子が話しかけてきて。「家入さんはよく『インターネットが好き』って言うけど、意味がわかんないんです。ピンとこないんです」って言われて。どういうことかって聞いたら、「例えば『ハサミが好きでしょうがない』って言ってる感じがするんです」って言われたんですね。

確かに、ハサミが好きでしょうがない方ももちろんいるとは思うんですが、彼らからすると当たり前のようにインターネットが存在していて。空気やツールのように浸透しているものを、あえて「インターネットが好きだ、好きだ」と言っている感覚は、例えば「机が好きでしょうがない」「ハサミが好きでしょうがない」とか、そう言ってる感覚にしか捉えられないと言われて。「なるほどな」って思ったんですよね。

逆に言うと、「もうインターネットがここまで当たり前になったんだなぁ」とも感じましたし。もちろん、それを作ってきた先駆者の方々に対するリスペクトもありつつ、でもインターネットが当たり前の世界になった時には、若い子はそういうふうに見るんだなぁと思った。

宇宙業界には、これから「民主化」する余地がたくさんある

家入:それこそ起業もそうですけど、個人でWebサービスやアプリを作るのも、昔だと考えられなかったことが、今ではもう当たり前のようにできるようになった。それも含めて、インターネットはもう本当に一般化したんだなと思っていて。そう考えると宇宙業界って、もちろん「これから」というところでもあるんでしょうし。

門外漢から言うとちょっと失礼になっちゃうんですけど、逆に言うとまだまだこれから民主化をする余地がたくさんあるんだろうな、と感じたというか。将来的に若い人が「宇宙が好きだ」って言っているのが、「ハサミが好きだ」という感覚になるぐらいのところまで行くと、おもしろいんだろうなってちょっと思ったりしました。

青木:ありがとうございます。たぶん今日の勝毎(十勝毎日新聞)の夕刊や、明日の朝刊、夕方のニュースに、いっぱいこのイベント出ると思うんですけれども。それすら報道されなくなる状況が、「民主化された」というか、一般化された状況なのかなと思っていまして。

そうなると、我々からするとちょっと寂しい状況ではありますが(笑)。ただ、そうなってもらえるようにがんばっていく必要があるかなと思っています。ありがとうございます。

投資の側面で考える、宇宙業界と他のセグメントの3つの違い

青木:では見學さん、お願いします。

見學:投資の側面で他のセグメントとの違いを3つ表現させてもらってるんですが、1つはお金の性格としてですね。ベンチャーキャピタルは「Jカーブ」と言って、技術開発や営業とか、一旦そういうことで赤字を掘っていくんですが、だんだん売上が立って伸びていくと。宇宙はこのJカーブが長いんですよね。長いお金が必要、というのが1つです。

それから2つ目が「大きなお金」。例えば、スマホのアプリを開発することとロケット・衛星開発はかかるお金が変わってくるので、大きなお金が必要ですね。長くて大きいんですが、そこにけっこう「おかわり」があるわけですね。何回も資金調達が必要だと。

3つ目は「太いお金」が必要だと思っていて。先ほど申し上げたイーロン・マスクやジェフ・ベゾスのように、「ラスベガスで勝つ秘訣は何ですか?」って言ったら、「勝つまでベットするんです」と。つまりそれは、お金持ちであればあるほど実は有利なんです、ということがあって。

例えばSpaceXなんかもそうだったと思いますが、事業が成功するまでコミットした人がひたすら(資金調達する)。やっぱり、そういう性格なんだろうなと思っていて。こういうお金を日本でどうやって引き出すか、我々自身の課題でもあるんですが、そういったところには違いがあるかなと思ってます。

一方で、私はもともとお里はエネルギー業界なんですが。源流技術はアメリカが中心だったりするんだけれども、それを上手に使いながら改善していったり、小さなものを丁寧に作るのは、日本が得意とする分野。ここが宇宙で起きてるんじゃないかなと、こんなふうには思っています。

切っても切れない宇宙と政府の関係性

青木:ありがとうございます。今の発想、すごくおもしろいなと思っていまして。やっぱり、宇宙は政府との連携が切っても切れない。政府そっちのけでやってしまっても、まったく進まないこともけっこう多いです。なぜSpaceXが成功したかというと、NASAの存在があったからというのはすごく重要です。

NASAがお金を出して、SpaceXが開発をがんばりました。それを見て、投資家がお金を投資しましたと。NASAも投資家も投資が1回では終わらなかったんです。そのあとに何回も何回も投資して、支援し続けたので、今ここにきているということです。

今はNASAに数兆円の時価総額がついてますが、政府のお金、民間のお金、政府のお金、民間のお金……という、このサイクルを5回から10回ぐらい回して今に至っているのが、これだけ大きくなれた結果なのかなのかなと思っています。見學さん、ありがとうございます。