「社会福祉協議会」って、何をしているところ?

麻生涼介氏(以下、麻生):みなさん、はじめまして。岐阜県からまいりました、美濃加茂市社会福祉協議会の麻生涼介と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

幕張メッセのステージ、まさかこんなところに立って話をするとは思っていなかったです。個人的な趣味として、MCバトル、ラップバトルがすごく好きなんですけれども。「高校生RAP選手権」といって、全国の高校生の中から、誰が一番ラップがうまいかを決める大会があるんですが、その大会が幕張メッセでも開かれたことがあります。

それを配信で見たことがあるんですが、自分よりもはるかに年下の高校生の子たちが、ステージの上でマイク1本片手に自信満々にパフォーマンスしてるのを見て、「めちゃくちゃかっこいいな」と思ったことを覚えています。

まさか、自分も同じ幕張メッセでお話しさせていただくことがあるとは思ってなかったんですけれども。本日は自分もこのピンマイクで、このステージの上で、みなさんがこの話を聞いて、ちょっとでも「よかったな」と思っていただけるだけのものをお伝えできたらなと思います。あらためまして、よろしくお願いします。

それではさっそく、本題に移っていきたいと思います。私は社会福祉協議会で働いております。略して「社協」とも言うんですが、みなさんは社会福祉協議会がどんなところかご存知でしょうか? 「名前は聞いたことあるけど、何をやってるかはちょっとよくわからない」という方も多いのではないでしょうか。

社会福祉協議会は、全国の市区町村に1つずつ置かれている機関で、地域の福祉にまつわるさまざまな事業を行っています。

こちら、美濃加茂市の社会福祉協議会が行っている事業の一例です。ボランティアセンター、子ども食堂、福祉教育、高齢者サロンなど、地域の福祉にまつわるさまざまな事業を多岐にわたって行っていることが特徴です。

被災地支援の際、停電によりデータが使えず困難な状況に

麻生:ではなぜ、美濃加茂市社会福祉協議会でkintoneを活用するに至ったのか。どのように活用しているのかについて、これからお話をさせてください。

こちらの写真をご覧ください。これは災害ボランティアセンターの写真です。みなさんは災害ボランティアをご存知でしょうか? 地震や水害、噴火などの災害発生時に被災地に赴いて、復旧活動や復興活動にあたるボランティアさんのことです。

ひとたび災害が起こると、多くのボランティアさんが被災地に駆けつけてくださいます。災害ボランティアセンターは、被災地のある社会福祉協議会が、ボランティアさんと被災者のニーズをマッチングするために設立するものです。美濃加茂市社会福祉協議会がkintoneを導入するに至った最初のきっかけも、この災害に関することでした。

熊本震災の際に、私の上司が熊本県の益城町に被災地支援に行きました。そこで避難所の設営を行う際、行政の職員がサーバーから住民データを使って受付をしようとして、データを取ろうとしたことがあったんですが、その時に停電が起こってしまって。サーバーからデータを得られず、結局、アナログで紙を使って受付をするしかない状況になりました。

すごく時間がかかってしまったということで、上司はその時に「こうした有事の際に、支援を必要としている人の情報が得られないのは大変問題である。危機感を感じた」と言っておりました。そこで、どんな状況でも支援を必要としている人の情報が得られるように、クラウド化を進めていこうということで、kintoneの活用が始まっていきます。

デジタルに不慣れな職員からも、kintone導入には好評の声が

麻生:しかし、社会福祉協議会の職員の中には、なかなかExcelもうまく使いこなせない方や、「そもそもクラウドって何?」といった方など、最初の導入のハードルはかなり高くありました。

そこで、有事にkintoneを使いこなせるようにするために、まずは平時kintoneを活用するところからスタートしようと、平時のボランティアの名簿管理やマッチング調整、イベントの参加者管理など、さまざまな業務にkintoneを活用する試みを始めました。

結果として、業務負担を大きく減らすことに成功します。はじめはハードルの高かった職員のみなさんも、徐々にkintoneを使うことに慣れていって、今では「次はこの事業」「次はこの事業」といったように、多岐にわたる事業のほとんどにアプリケーションを結びつけることに成功しました。

ここでちょっと、職員の声を紹介させてください。とある事業では、利用者の新規登録の度、WordやExcel、その他の業務システムなど、計5ヶ所に利用者の情報を入力しなければならなかったんですが、kintoneで一元化されたことによって、1ヶ所の入力で済むようになり、「事務作業がとても楽になった」という声がありました。

また別の事業では、外部の機関と連携して窓口対応を行っており、延べ1,100人の情報を紙ベースで連絡し合っていたんですが、それもkintoneによってクラウド化が行われたことで、「情報共有がとても楽になった」という声がありました。

これまでの福祉の業務システムでは、なかなか新しい入力項目を増やしたり、変えたりすることが難しかったんですけれども。それもkintoneによって楽になって、システムを人が覚えるのではなくて、人に合わせたシステムを作れるようになったという変化がありました。

また、こうした平時の活用だけではなくて、有事の際の活用を意識したアプリケーションの開発も行いました。それが、こちらの「要支援者管理マップ」です。これは、高齢者の方や障害者の方などの生活支援を必要としている方と、民生委員さんなどの社会資源をマッチングするために開発したアプリケーションです。

平時に生活支援を必要としている方は、有事の際にもニーズが生まれやすいということで、このアプリは平時・有事どちらも使うことを意識して開発しました。

豪雨発生時、全国各地から集まったボランティア

麻生:さて、少し話は変わるんですが、みなさんは今から3年前に起こった平成30年7月豪雨のことを覚えていらっしゃるでしょうか。全国各地で甚大な被害を及ぼし、私の住む岐阜県でも大きな水害が起こりました。

私は当時、岐阜県関市のボランティアセンターまで社会福祉協議会職員として応援に行ったんですが、今でもその時のことを強く、鮮明に覚えています。すごく印象に残っているのが、ボランティアセンターの受付のところに、たくさんのボランティアさんがずらーっと列を作って並んでいる光景なんですね。

当時、岐阜県関市はテレビでもそんなに(報道を)やっていなかったので、「そこまで人が集まらないんじゃないかな」と、勝手にたかをくくっていた部分があるんですけれども。実際に蓋を開けてみたら、本当にたくさんのボランティアさんが列を作って並んでいてくださったんですね。

僕は受付の業務をやっていたので本当にびっくりしたんですが、岐阜県内はもちろん全国各地から、「東京から来ました」「大阪から来ました」という人もいれば、一番びっくりしたのは「北海道から来ました」という人もいて。「被災地の方を助けよう」というボランティアさんの善意に、深く感動したことを覚えています。

炎天下の中、ボランティアが長蛇の列をなす場面も

麻生:ただ、その中で1つ問題だなと思ったのが、受付を紙ベースで行っていたので、とても時間がかかってしまっていて。当時は炎天下だったんですが、遠くから来てくださったボランティアさんを炎天下の中で長時間列で待たせてしまっている状況が、すごく問題だなと感じました。

この問題をなんとかできれば、ボランティアさんにとっても、センターにとっても、そして何より困っている被災者・当事者の方にとっても、「みんながより楽になれるのにな」と、強く思いました。

そこで美濃加茂市社会福祉協議会では、こういった災害ボランティアセンターの課題に関して、「kintone×二次元バーコード」というテーマで解決することができないかなと、まず考えました。

そして、「有事の活用のために、まずは平時活用する」という視点から、私たちは車椅子の貸し出しを行っているんですが、貸し出しのアプリケーションを開発して、平時活用からスタートしました。さらに今年の9月末には、災害ボランティアセンター運営訓練というものを行ったんですが、その訓練の中でもkintoneを使用してテスト運用を行いました。

こうした活動を続けていく中で、有事と平時、どちらでも活用する視点を持つことで、有事の際に活用するアイデアをそのまま平時の際の活用に活かすことができたり。また、平時活用に慣れておくことで、有事の活用のハードルを下げることができるなど、さまざまなメリットがあることに気づきました。

「福祉」とは「ふだんのくらしのしあわせ」

麻生:さて、ちょっとここでみなさんにお伝えしたいことがあります。社会福祉協議会というのは、福祉にまつわる仕事をしている機関です。この「福祉」という言葉の意味、みなさんはご存知でしょうか?

僕はよく小中学生に対する福祉教育で学校に行って、福祉のお話をさせていただく機会があるんですが、「福祉」の言葉の意味って、大人の方でもうまく説明するのって難しい言葉だと思うんですね。

この言葉の成り立ちをちょっと紹介させてください。「福」という文字なんですが、これは「しあわせ」という意味の漢字です。

そして、福祉の「祉」という言葉、これはしめすへんに止まると書くんですが、神様が足を止め続けるという語源から、「長く続く、しあわせ」という意味があります。しあわせとしあわせという漢字が重なって、福祉という言葉が成り立ってるわけですね。

じゃあ、これがどんなしあわせか。よく小中学校(の講演)で、「ふだんのくらしのしあわせ」という話をさせていただきます。頭文字を取ると「ふくし」になっているんですが、ふだんの暮らしのしあわせ、つまり私たちが当たり前に送っている日常生活をみんなが享受できるようにするのが、福祉の役割だと思ってるんです。

被災地とボランティアをkintoneで橋渡し

麻生:ちょっと話を戻します。今日は災害の話を中心に進めてきました。災害って、誰もが突然被災者になる、誰もが突然ふだんの暮らしを送れなくなる可能性があるんですね。ただ、そういった(ふだんの生活を)送れなくなってしまった人のために、被災地にボランティアさんがたくさん集まってくださる。

社会福祉協議会の仕事は、こうした「困りごと」、すなわち「ニーズ」と「ボランティアさんの善意」をつなげる、橋渡しのような活動をしていると思ってます。

ただ、この橋の役割は、社会福祉協議会という1つの組織が担うには大変大きなものです。なので、私たちはふだんから地域団体や企業さん、行政さんと連携をして、この橋の地盤を固めています。ここにkintoneを導入することによって、さらにこの橋の地盤を固められると思ってます。

「kintone×災害」に関するテーマは、有事だけではなくて、平時にも活かせる点で、さらなる福祉の可能性があると考えています。

なので、もしこの話を聞いている人の中で、社会福祉協議会のみなさん、社会福祉協議会に関係のあるみなさん、災害に関する活動をしている方。もしくは、この話を聞いてちょっとでも興味を持った方がいらっしゃれば、ぜひ私とともにkintoneの活用について考えて、こうしたさらなる福祉の可能性について追求し、一緒にニーズと善意をつなぐ橋を固めていきませんか? より強固にしていきませんか? という、お声がけをさせていただきたいです。

講演には200人が集まり、注目を集めているkintone活用

麻生:実はkintone hiveでも似たような話をさせていただいたんですが、ここからkintone hiveの後の広がりについてもちょっとお話しさせてください。

実際にkintone hiveの後にこういう話をして、いろんな社会福祉協議会のみなさんから私に連絡がありました。その中には、私に「社協職員を対象としたIT活用セミナーに登壇してほしい」という声もありました。

実際に登壇させていただいて、ここでお話しさせていただいたようなkintoneの活用についてお話ししました。最初は参加者が20人くらいかなと思ってたんですが、実際に蓋を開けてみたら社協職員の方が200人ぐらい聞いてくださっていて、すごくびっくりしたんですけれども。

それだけ全国各地の社会福祉協議会の職員のみなさんが、このテーマに興味を持ってくださっていることにとても驚いたし、うれしかったんです。

ただその中で、「平時の活用についてなかなかイメージが沸かない」「災害時でのIT活用ってなかなか進まない」「うちでは対応できる職員がいなくてね」といった声を聞くことがけっこう多かったんです。

この場をお借りして、社会福祉協議会のみなさんにお伝えしたいことがあります。美濃加茂市社会福祉協議会は、平時の活用・有事の活用、持っているノウハウのすべてをみなさんと共有したいと思ってます。

kintoneを通じて考える、新たな福祉のかたち

麻生:これはなんでかと言うと、社会福祉協議会はノウハウの共有が得意な業界であるという特長があると思っているんです。まず、営利団体ではないこと、そして各市区町村ごとに1つずつ置かれていることで、横のつながりがすごく強い。ノウハウの共有が得意って、すごくメリットだと思ってるんです。

それに対してkintoneは、ノウハウが共有されればされるほど便利なプラットフォームだと考えています。これ、めちゃくちゃ相性がいいですよね。また、そもそもkintoneは業務改善のためのプラットフォームだと思ってます。

じゃあ、「福祉の業務改善とは何か?」と考えました。先ほどお話ししたとおり、福祉とは、ふだんの暮らしのしあわせ、みんなのふだんの暮らしのしあわせを実現する仕事です。じゃあ、福祉業界でkintoneを導入する人が増えれば増えるほど、みんなでみんなの幸せを作る仕組み作りができて、それが進むと思っています。

みんなでみんなの幸せを実現するために、kintoneの活用について考える。これが1つの福祉のかたちだと思うんですよね。

なので、あらためてにはなるんですが、もしこの話を聞いてる方の中で、社会福祉協議会の方や、この話を聞いて興味を持ってくださった方、または災害とkintoneといったテーマについてともに考えてくださる方、(kintoneの)導入について検討してる方。ぜひ、美濃加茂市社会福祉協議会の麻生涼介までご連絡をいただきたいと思います。

本当に、なんでも力になりたいと思っています。それでは、これにて私のセッションを終了したいと思います。本日はご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

相馬理人氏(以下、相馬):麻生さん、ありがとうございました。

麻生:ありがとうございます。

未知のツールに対する「ハードルの高さ」をどう乗り越えるか

相馬:それでは、麻生さんのZoom応援団も待機していると思いますので、さっそくお呼びしたいと思います。Zoom応援団のみなさーん! わー、たくさん! ありがとうございます。たくさん応援者がいらっしゃいますね。

それでは、麻生さんにもお話をおうかがいしていこうと思います。有事と平時という考え方が、非常にすばらしいなと思っていて。これは福祉だけではなくみなさんの業務でも、突然の市場の変化とか、今回のコロナでも、どう対応していくか(という工夫が求められる)。ふだんから使い慣れてるものをそのまま(有事でも)使えるところを、ものすごくうまく活用されたなと感じております。

お話の中で、Excel、クラウドに対しても、そもそもまだよくわかってない方がいらっしゃる中で、なかなか進めていくのが難しいと感じる方もいらっしゃると思うんですが。そういった方に、「こういう工夫をして一緒に使っていくようにしたほうがいいよ」とか、もし麻生さんからアドバイスがあればお話しいただけますか?

麻生:はい。そんな、めちゃくちゃ大したものではないかもしれないんですが、社会福祉協議会って、ちょっと公務員に近いところがあって。「よくわからないもの」に関して触ってみるのが、最初はすごくハードルが高い業界だと思っています。

ただ、そういった業界って、実際に使ってみて楽になったことがわかれば、そこからは簡単に進んでいくというか。最初に、まずは実際に使ってみるところからスタートする。私のところだと、オフィシャルパートナーさんが入ってくださったり、いろんなところで連携をしながら、実際に使ってみる環境を整えれば、楽に進むのかなと思いました。

相馬:なるほど、ありがとうございます。1歩踏み出せば行けるので、その1歩の踏み出しをみんなでサポートして、一緒に歩いていくと。

麻生:そういうことです。

相馬:ありがとうございます。お話にもありましたが、もし福祉の関係者の方でご興味がありましたら、麻生さんまでお声がけいただければと思います。みなさま、最後にもう一度大きな拍手をお願いいたします。

(会場拍手)