幼少期のアメリカ横断旅行で感じた、ホテルに対する不満

森まどか氏(以下、森):ありがとうございます。続いて龍崎さん、自己紹介と事業のご紹介をお願いいたします。

龍崎 翔子(以下、龍崎)よろしくお願いいたします、龍崎翔子と申します。ホテルの経営をしているんですが、見ての通り「若いな」と思われる方もいらっしゃるかもしれないんですが、今25歳です。

岡田武史氏(以下、岡田):(笑)。

龍崎:実はホテル事業は19歳からやってるんですよ。「なんでホテルをやってるの?」と聞かれることがけっこう多いんですが、実はホテルの経営者になろうと思ったのが10歳の時。家族はぜんぜんビジネスと関係ない仕事で、どっちも学校の先生をしていて、会社勤めすらしたことないんですね。

なんで私がホテルを始めようかと思ったかと言うと、自分が8歳の時に父親が仕事の関係でアメリカに半年赴任したんですよ。その時に、日本に帰る前の最後の1ヶ月間を、当時住んでいた東海岸から西海岸まで横断ドライブしようと。家族でワンボックスの車に乗って、だんだん西に向かって行くんです。

今、みなさんがそれを聞いたら「ちょっと楽しそうだな」「自分もいつかしてみたいな」と思うと思うんですが、横断とか縦断って、やってみると意外と毎日がめっちゃ単調で。一日10何時間ずっと車に乗り続けて、変わらない景色を眺め続ける日々が、何10日って続くんですね。

もちろん、いろんなところへ行って楽しい思い出はあるんですが、それ以上に毎日とにかく車から降りたかったんですよ。一日の最終目的地ってホテルじゃないですか。だから毎日「今日のホテルはどういうところだろう?」というのを、すごく楽しみにしながら過ごしてたんですが、いざホテルに着いて客室のドアを開けたら、その先にある景色が昨日のホテルとも変わらないし、一昨日のホテルとも変わらない。

なんだったら日本で泊まったことのあるホテルともぜんぜん変わらないことに、子ども心にすごく不満というか、満たされなさみたいなものを感じて。

学級文庫の本がきっかけで「ホテル経営者」を志すように

龍崎:アメリカは国土も広いので、町ごとにカラーがぜんぜん違うのに、ホテルはどこへ行っても同じ。それは(当時)2004年とかで携帯がない時代なので、今思えばどこへ行っても同じクオリティの空間で過ごせるのが1つの大きな価値だと思うんですが。

でもやっぱり、旅をしている人からしたら、テキサスはテキサスっぽい感じ、ネバダ州だったらネバダ州っぽい感じとか、宿泊体験を通じてそのエリアにいることを実感できるようなホテルがあったら良いのにな、というのを子ども心にすごく思っていて。

でもまだ8歳なので、「だからホテルを経営しよう」とは、ぜんぜん思えなかったんですね。転機になったのは、10歳の時に学級文庫にある『ズッコケ三人組』を読んだんですよ。『ズッコケ三人組ハワイに行く』という、ハチベエとハカセとモーちゃんが商店街の福引に当たってハワイに行く回があるんです。

登場人物で、現地のホテル経営者の日系人のおじいさんが出てくるんですね。(当時は)子どもなので、ホテルの仕事と言ったらフロントスタッフやベルボーイくらいしか知らないんですが、その時に初めて「ホテルを経営する」という言葉があるんだ、そういう職業があるんだ、ということを知って。

そこからピンときて、「自分は将来、絶対にホテルを経営しよう」と思って。「ホテルを経営する」っていうのを、小学校の卒業文集にも中学の卒業文集にも書いて。

岡田:(笑)。

龍崎:それで、いざ大学に入ったはいいものの、「ホテルってどうやって経営するの?」って、分かんないんですよ。学費を自分で稼ぎながら大学にも通ってたので、forever21の服でさえ「ちょっと高いな」と思っている自分が、ホテルとか建てられるわけなくない? みたいな感じで。「どうしたら良いんだろう」とずっと悩み続けていたんです。

当時19歳、北海道で廃業予定のペンションを引き継ぐ

龍崎:一番最初に自分の考え方を変える転機になったのは、2014年にAirbnbが日本に上陸した時。それまでホテルと言ったら、トランプタワーみたいな高層ビルを建てないといけないと思ってたので、「そんなんできるわけなくない?」と思ってたんですが。

Airbnbの概念を知った時に、「部屋が1つ、ベッドが1つあって、遠いところから来た人が安心して一晩過ごせることができたら、それでもうホテルじゃん」と思えるようになったんですよね。

地元が京都だったので、実家でちょっとやってみたら「意外とできそうだ」と。じゃあ、これをもっとちゃんとした規模や、ビジネスという座組でやっていくにはどうしたら良いだろうと考えた結果、東京・京都・大阪って、人気はあるけど地価が高いじゃないですか。

なので、日本の4番手は北海道だと思ったんですよね。北海道は地価も安いので、「じゃあ、北海道で民宿やペンションをやったらどうだろう」と思って。北海道の富良野に飛んで行って、廃業する予定だった赤い屋根のアメリカンモーテルみたいなペンションを引き継ぐことができまして、そこで経営を始めたのが19歳の時だったんですね。

洋服を選ぶ時のように、ホテルも「ブランド」で選んでもらいたい

龍崎:そこでやっている時に思ったのが、ホテルって、朝食が何種類あるか、温泉があるのかないのか、駅から何分なのか、部屋は何平米なのかとか、どうしても直線的な数字で測れるもので比較されて選ばれることがすごく多いんです。

それはペンションに限らず、当時の日本のどのホテルでも、基本的にはどれもそういう観点で予約サイトで比較検討して選ばれるところがすごく多くて。

そのあと私たちもペンションをやったり、京都・大阪でホテルやったりしてたんですが、どうしても「どこが安いか」「どこがポイント還元率が高いか」とか、そういったところで選ばれがちなんです。

そうじゃなくて、「そこに行くべき理由があるから行く」とか。ホテルとして優れているからではなくて、「ホテルブランドとして、その人の意思決定やチョイスとしてフィットするから選ぶんだ」というホテルを作りたいなと思うようになって。HOTEL SHE,というブランドを立ち上げて、関西でライフスタイルブランドを展開していたんですね。

今はインバウンドもすごく盛んだったりしていて、どうしても予約サイト上でどこが安いのか、どこが温泉が・浴槽の数が多いのか、どこが朝食のバリエーション多いのかとか、そういったところで比較検討されて選ばれる。

例えばお洋服を買う時に、「自分はこのブランドが好きだからこれを買う」「自分はこのカフェの雰囲気が好きだからここに行く」という感じで、その人の選択を通じてアイデンティティを削り出していくための一手段として、ホテルもそういう選択肢になるべきだし。

ホテルって、衣食住の中でも滞在時間が圧倒的に長いし、かつ衣食住をすべて包括する空間だと思うので、ホテルという空間を通じて、人々へのライフスタイルの提案ができる可能性をすごく持っていると思っていて。そういったところで、「ホテルを使ってこういう提案ができるんじゃないのか?」と、試行錯誤するようになっていきました。

単なる「施設」にとどまらないホテル作りを

龍崎:そういった経験を踏まえて、今はホテルを京都、大阪、北海道、湯河原、金沢の全国5ヶ所でやらせていただいています。

実際に、自分たちのホテルはお客様からの直接予約がすごく多いんですが、予約体験があまり魅力的じゃないことがすごく多いなと思っていて。例えば、みなさんも頭の中でホテルの公式サイトとかを思い浮かべてもらって、「予約する」っていうボタンを押した先にある画面がめっちゃダサいことが多いじゃないですか。

分かりづらかったり、使いづらかったりすることがすごく多い予約体験自体を、もっと良いものに変えていくようなホテル予約のスタートアップをやっていたりします。

あと、他の自治体さんや企業さんやホテルさんに「こういうふうにすると、より魅力的な見え方を作ることができますよ」「こうすることで、ホテルの空間や場所の価値をより高めることができますよ」というアドバイザリーというか、ご支援もしています。

ホテルを中心に、いろんなことを幅広くやっているバックグラウンドでございます。長々としゃべってあれなんですが、こんな感じで、よろしくお願いいたします。

:ありがとうございます。ホテルと言いますと、「施設」や「泊まる場所」という認識の方が多いと思うんですが、そうではなくて。その土地に行って、そのホテルで経験できることや触れられる文化を大切にして、ホテルを作り上げているということですよね。

龍崎:そうですね、おっしゃる通りです。