少子高齢化により、在宅医療は今後も増加する見込み

清水雄司氏(以下、清水):本日はお時間をいただきまして、ありがとうございます。トップバッターの清水雄司と申します。システム開発経験なし、兼任の担当者、これが私の立ち位置です。本日はこんな私の2年間を、13分間にぎゅっと凝縮してお話しできればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

「医療を通じて『安心』して生活できる社会を創造する」、これが当法人の理念です。医療に関わることでもあるので、患者さまやご家族は不安を抱えていらっしゃることが多いです。なので当法人の理事長は、「治療の前に、まずは安心をお届けしましょう」というメッセージをいつも発信しています。

さてみなさん、在宅医療をご存じでしょうか。(スライドの)白衣の男性が当法人の理事長、伊谷野(克佳)先生です。このように、ドクターが患者さまのご自宅で訪問診療などをご提供し、24時間365日ご自宅での療養生活をサポートしています。

これからの在宅医療を取り巻く環境は、少子高齢化。この流れから自宅療養者は増え、在宅医療という選択肢もますます増えていくのではないかと思っています。

CRMの新規導入で失敗した過去も

清水:(次に)在宅医療業界の特徴です。掲載した図のように、1人の患者さまに関わる事業所・事業者が非常に多いことが特徴です。

例えば、医師や看護師といったような医療職。それから、ケアマネジャーやヘルパーといった介護職。これらの連携する関係者情報をデータベース化していきたいと思っていました。

ところが4年前に、他社システムを導入して失敗しています。しかもこの失敗は、私がきっかけを作っているんです。と言うのも、当時私は別の企業に勤めていまして、その時に超有名な青い雲のCRMシステムを使っていました。

理事長に(CRMの導入を)ご相談いただいた時にこのシステムをご紹介して、クリニックが導入して、運用がうまくいかなかったと。私はご紹介した後、大したフォローもできずに心苦しく思っていたこともあり、また理事長の考えに共感していたので、今の医療法人社団双愛会に転職をして、システム担当としてもリカバリーをしていきました。

他社システムでは、「やりたいことを継続するなら追加費用が必要」とのことでした。「これはちょっと厳しいな」ということで、更新期限の1ヶ月以内で、他社システムを継続するのか、それともkintoneを新規導入するのか、こういう選択肢を作りました。本当にkintoneは現場主導でできるのか? こんな挑戦がスタートしていきます。

現場主導のシステム開発は「小さく作って、素早く軌道修正」

清水:導入相談カフェ、電話サポート窓口、初動はサイボウズさんのサポートをフル活用させていただいて、電話もいっぱいしちゃいました(笑)。他社システムの時は2ヶ月ぐらいかかっているんですが、おかげさまでkintoneアプリは3日後に完成です。

しかも理事長は、「いいですね! まずは最低限、実績一覧を出せるならそれで十分なんです。ここから修正していきましょう」と言ってくれました。非常にありがたい言葉だったのですが、「ここに現場主導のシステム開発のヒントがあるな」と思ったんです。

小さく作って、素早く軌道修正。満を持して、2〜3ヶ月かけて作るシステムよりも、最低限の要件を満たして2日後、3日後、7日後といったように、出してから素早く軌道修正するほうが当院には向いていました。

また、チームの声を反映させながらアプリがどんどん変化していきます。この過程は職員も見てるので、「その後の定着もいいんじゃないかな」という手応えを感じたんです。これは私にとって、小さな成功体験でした。「kintoneプロジェクトは楽しいな。私は現場の要望を聞きにいくのだ」と、動いていきます。

kintone導入から半年後、芽生えたのは「孤独感」

清水:ありがたいことに、現場の要望はどんどん集まっていきます。そして、できることから即解決です。実際、kintoneならできるんです。ただ、「あれ? けっこう残ったな」という未解決案件も増えていきました。

例えばAアプリを更新したら、Bアプリのフィールドの自動更新ができなかったりしたんです。こういったものがだんだんと増えてきて、kintone導入から半年ぐらいで私にこんな感情が芽生えてきました。「孤独感」です。

kintone自体が悪いわけではありません。ただ、私がkintoneを思いっきり使いこなしているかと言うと、そういうわけでもなかったんです。「本当にこれで合っているのか?」「他に手段はないのか?」「誰かにこのモヤモヤを共有できないのか?」、こんな感情が芽生えてきました。

「これは良くないな」と思いましたので、あらためて情報収集を開始しました。そうしたら、私にとって転機とも言えるようなイベントに出会えたのです。それが理事長と参加した2年前のこの場所、「Cybozu Days」です。

私はここに来て本当に良かったなと思っています。なぜならば、医療業界でkintoneを使っている方々に出会えたからなんです。当日は非常に有益で、ためになるお話を聞けました。

特に在宅医療クリニックの活用事例。「当院と課題が同じだな」と思ったんです。しかも、すでに数年前からシステム化に着手している。「これは素晴らしいですね。kintoneいいですね」と、理事長も言っていました。我々は2年前のこの場所で、kintoneを促進させていく覚悟を決めることができたんです。

未解決案件の着手に欠かせない「Customine」の存在

清水:では、これからどうやってkintoneを学習していくかになるんですが、kintoneコミュニティには有益な情報がたくさんあります。なので、私は大きく4つに分類して学習を進めていきました。kintone事例、標準機能、データベース、カスタマイズです。ありがたいことに動画コンテンツも充実してきているので、時間・場所を選ばずに学習を進められています。

また、どのように身につけていったか。すごくなくてもいいので、小さくてもいいので、アウトプットに挑戦する。これに尽きます。アウトプットを意識していると、必要なインプットも見えてきます。これを繰り返していくと、できることの引き出しが増えていくんです。

同時に私は、残っていた未解決案件にも着手していきます。やりたいことがだんだん分類できてきて、すべて解決できたんです。ただ、これはもちろん私の知識が向上したこともあるんですが、実際は連携サービスの力も大きかったんです。

その連携サービスは、ノーコードでカスタマイズできる「Customine」と言います。しかも、できることがたくさんあります。なので本日は、kintone、Customineの活用事例として、当院の緊急往診の取り組みをお話しします。

緊急往診、患者さまの急変対応を行います。当番制で緊急往診の専用ルートを確保していまして、24時間365日緊急出動が取れる体制を取っています。このような超緊急時だからこそ、正確性、効率性を追求していきたいと考えています。

我々はもともとGoogle製品を使っています。これだけでもある程度の問題はクリアできていたんですが、これからさらに良くしていきたいと考えた時に、kintoneで3つの課題を設定しました。それぞれ説明していきます。

使い慣れたツールとの連携で、定着コストを大幅削減

清水:1点目、点在している情報の集約。我々はGoogleスプレッドシートを使っています。複数のファイルを開いて、複数のところに入力をして、複数箇所を閲覧して……そんな状態でした。これをkintoneで1つにまとめたんです。

そうすると、患者さまのカルテIDを入力した時に、救急受付が知りたい情報が関連レポート一覧でパッと出てきます。救急受付の人も「まとまっていて見やすくてわかりやすい」と言っていました。本当に(情報が)まとまると強かったんです。

2点目は「バラつきのない入力」です。Customineにはいくつか入力補助の機能があり、とにかく便利です。例えば吹き出しヘルプを設置すれば、ちょっとした調べ物ならわざわざマニュアルを開く必要がなくなりました。

また、特定の選択肢を選んだ時に次のヒントのポップアップが表示され、入力者がリアルタイムで気付ける仕様になりました。人が迷わなくなる。そんな入力サポートが実現できたんです。

3点目は「関係者に更新情報を共有」。我々はGoogle Chatを使っています。これだけでも非常に便利なんですが、チャットには問題が2つあると思っていました。

1つはチャット情報は蓄積しにくいこと。そして、チャット情報をわざわざ手入力していたんです。なのでこれを、kintoneのレコードを保存した時に、Customineを使って必要な情報を自動通知させる仕様にしました。

今回のポイントは、既存仕様で慣れていたGoogle Chatを使っているので、教育コストや定着させるためのコストを大幅に削減できたと思っています。このように、小さく、素早く、現場のアイデアをノーコードで形にしていくことができてきました。

kintoneへの乗り換えにより、費用対効果が大幅にアップ

清水:成果も出ています。先ほどお話しした救急受付1人当たりの作業時間が、月22時間減少しました。

そして費用対効果です。Customineのような連携サービスを込みに考えても、費用対効果は抜群に良かったです。もし他社システムをそのまま継続して使っていたとしたら、恐らく費用は2桁違っていたんじゃないかなと思います。しかも今回は、システム構築の内製化にもつながっています。これも大きな価値なんじゃないかなと私は思っています。

3点目。クリニックで掲げていた経営指標が大幅に向上しました。医療に関わることでもあるので、患者さまやご家族は不安を抱えていらっしゃることが多いです。なので、当法人のサービスを通してご安心いただけたか、その目安の指標としてご自宅のお看取り数を掲げています。

この指標が大幅に向上したことは、先ほどお話しした緊急往診チームのバックアップによって、それぞれの主治医が一つひとつの診療により集中できるようになっていった結果ではないかと考えています。

今後の展開として、医療介護連携にもっとkintoneを使っていきたいと思っています。当院と他の介護事業所、他の医療機関、地域連携やタスクシェアリングとか、そんなkintoneの使い方ができたらうれしいなと思います。

コロナ患者の受け入れにも迅速に対応

清水:最後に、おまけのkintone事例をお話しさせてください。今から3ヶ月前の8月に、地域に非常事態が発生しました。本来であれば入院であってもおかしくない症状の方も含めて、コロナウイルスに感染した自宅療養者の方が地域で一気に増えていきました。

また写真のように、感染対策上、往診1件ごとに防護服に着替え直して対応していく必要もあります。緊急かつ、いつもとは違った対応が求められている状況でした。

このような事態に対して、当院では急きょコロナ専用ルートを開設して、翌営業日から受け入れを開始しました。実はこれは、先ほどお話しした緊急往診のオペレーションの一部を転用することで、早期に受け入れをすることができたんです。地域の関係者の方からも「いち早く、特に往診を受け入れてもらえて助かりました」というお言葉を頂いています。

また、現場の最前線で診療していた理事長からは、「なんとか対応できたのは、状況に応じて即座にkintone構築などで後方支援してもらったおかげです」と。8月は連日の猛暑で、防護服を着て汗だくで、リスクの高い診療をしていることを知っているので、このように言ってもらえて本当にありがたく、うれしく思いました。

kintone自体は、もともと使っているアプリに項目を追加して、カスタマイズをして運用していきました。ここでのポイントは2つです。医師、看護師、医療事務といった多職種のチームで構築できたこと。また、1時間で実装まで完了できたことです。

ただ、ここに「1時間」と書いてあるんですが、実際は2年間なんです。2年前、この「Cybozu Days」に来たり、院内・院外を問わずいろいろな方に教えていただいたり、あがいたような試行錯誤をした……。そんな2年間がこの1時間にぎゅっと凝縮できたと思っていまして、このような変化に対応できたことをうれしく思っています。

スタッフとの対話を通じて、一緒に現場で作り上げていくツール

清水:なので、最後に私なりにkintoneをまとめました。kintoneは変化に強いツール、変化を楽しめるツールです。kintoneのような変化に強いシステムを使っていきながら、これからも自分たちの可能性に蓋をせず、変化を楽しんでいきたいと思います。それでは以上で、私の発表を終わりにいたします。本日はこのような機会をいただきまして、ありがとうございます。

(会場拍手)

相馬理人氏(以下、相馬):清水さん、ありがとうございました。見事トップバッターを務めていただきました。ご質問に入る前に、今年はコロナで、清水さんを応援したくてもこの会場には来られない方がいらっしゃいました。そこで、今年もZoomで応援団の方におつなぎをしております。それではお呼びしたいと思います。Zoom応援団のみなさん! うわ、たくさんいらっしゃいます!

清水:うわ、すごい! ありがとうございます。

相馬:ありがとうございます。では、ご質問をしていきたいと思うんですが、私もSEだったので、入れたシステムが使われないとすごく胃が痛かったんじゃないかなと思うんですね。

あと、最後のところですごく象徴的だったのが「1時間じゃない」と。そこまでかけた2年と1時間だというお話がありました。過去のシステムからもそうですし、2年間で非常に学ばれた。要は、過去の経験をものすごくうまく学びに変えられたと思うんです。

例えば、過去のシステムでは何がうまくいかなくて、なぜkintoneだとうまくいったのか。あるいはそのために、使ってもらう工夫とか設計の工夫をどうされたかとか、もしあればお聞きしてもよろしいですか。

清水:そうですね。今、思い出して比較してみると、やっぱり現場のスタッフの方々とお話をする機会がぜんぜん違ってたんですね。当時は私が(別の企業に所属していて現場に)いなかったので、そんなにお話ができなかったのはもちろんあるんですが。

前回の他社システムを考えると、みなさんとお話をしながら進めていくような印象はそこまでなかったです。ただやっぱりkintoneは、話して話して、変えて変えて、その過程をどんどん作り上げていけるので、その違いは大きいです。

相馬:なるほど。勝手に進めていくんじゃなくて、ちゃんと対話をしながら作っていったんですね。コロナで医療従事者の方は本当に大変だっと思うんですが、そこに少しでもkintoneが役に立てたのはすごくうれしいことでございます。ありがとうございます。みなさん、いま一度大きな拍手をお願いいたします。

(会場拍手)

清水氏が参考にしたコンテンツプロジェクト・アスノート kintone 業務改善道場