女性管理職の割合が低いからといって、全員が目指す必要はない

大谷明日香氏(以下、大谷):ここで1つ質問が来ています。女性向けの管理職を目指す研修が社内でも開催される度に、自分の性別だけがフォーカスされるみたいなことに対して「わーっ」と思う方がいらっしゃるらしくって。「でも、それに対しても(支援が)必要なフェーズなんですかね?」というコメントが来てたりするんですが、福田さんはどう思いますか?

福田恵里氏(以下、福田):そうですね。必ずしも女性が管理職を目指さなければいけないというのも、ちょっと変な話だなと思っていて。別に女性ではなくて、普通に管理職を目指したいとか、キャリアを向上させていきたい思う人が受けたらいいと思うので。そこをわざわざ「女性」にくくる必要はないんじゃないかと思うんですけど。

ただ事実として、やはり女性管理職の比率がめちゃくちゃ低い。(平均割合が)8パーセントという数字が出ているので、そこの是正にあたって、「女性向け」とラベリングしなくても女性が来たくなるようなシームレスな体験設計であったり、わくわくするような企画とか、そういった提供者の企画のセンス部分でもっとできることはあるんじゃないかなとは思ったりしますけどね。

大谷:そうですよね。情報の設計の順番ってすごく大事だと、すごく感じていて。やっぱりそこだけにフォーカスしてしまうと、ラベルで設定してしまうことになったりすると思うので。

でもやっぱり(もっと女性管理職が)出てきてほしい、可視化しなきゃ、という課題もあると思うんです。お話を聞いてて、今は過渡期なのかなと思いました。

特にジェンダーギャップ指数が低いのは「政治」と「経済」

大谷:1つ質問というか、問いかけをしてみたいと思うんですが。今みなさんは組織の中で、リーダーとしていろいろな取り組みを引っ張っている最中だと思うんですが。未来に向けたアクションがWILL FESTIVALの全体的なテーマになっているので、もし自分が総理大臣だとして、未来について考えて取り組むとしたらどんなことをやってみたいか、それぞれあれば聞いてみたいです。ちょっと唐突で申し訳ないんですが(笑)。

青野慶久氏(以下、青野):なるほど。

大城心氏(以下、大城):(笑)。

青野:よく日本は、ジェンダーギャップ指数が低いと言われるんですが、あれは4つカテゴリーがありまして。低いのは「政治」と「経済」なんですよね。「健康」と「教育」は、実はそこまでひどくはない。でも、この政治と経済、特に日本は政治が圧倒的に悪いんですよね。なので本当に総理大臣になったら、やっぱり女性の議員比率を上げないといけないなと思いますよね。

実は政治家もすごく年功序列になっていて、オリンピックの会長とかを見ていてもそうじゃないですか。年功序列になっているから、入れ替わるのにうん十年かかっちゃうわけですよね。本当はその3年ぐらい前に、「男女で候補者の数を合わせましょう、各政党はみんなそれを目指しましょう」と、一応決めたんですよ。

決めたのに、やっぱり今回の衆議院選挙でも、自民党は女性の候補が1割もいないわけですよ。ここがまずいよねと。当選するかどうかの前に、そもそも候補者が1割もいない。

ここをやっぱりもうちょっとテコ入れして、強引にトップダウンで。総理大臣が権限を持っているか怪しいですが、権限を持っているのであれば、候補者(の男女比率)をまず合わそうぜ、です。話はそこからだと。

民間の企業の女性管理職比率を増やす前に、まずは議員比率から

青野:結局、女性の賃金格差や保育所を増やすとか、それこそ女性の働く環境を考えることとかも、やっぱり当事者でないと、なかなかスピーディーに推進することって難しいと思っています。法律を決める国のトップの方々にまずジェンダーギャップが生まれていることが、本当に一番の問題だなと思っていて。

その格差を是正しない限り、その手段である法改正や環境整備って遅々として進まないんだろうな、という感覚はすごくありますよね。

大谷:今、お話に上がった「クオータ制」なんですが、これは現在世界の118ヶ国の国と地域ですでに導入されていて、政治分野でのジェンダー格差を是正する方策で、 性別を基準に一定の人々や比率を割り当てる制度のことです。今回の衆院選では、全政党の候補者に占める女性の割合が17.7パーセントにとどまって、前回から0.01ポイント下がっているんですよね。

福田:それ、私も見ました。

大谷:トップが進めている中で「止まってる感」は、けっこう大きいのかなと思っています。

福田:そうですよね。民間の企業に「女性管理職比率を増やせ」と言う前に、自分たちの議員比率を増やすところをやらなきゃですよ。本当に。

青野:めちゃくちゃ自分らに甘いですからね。結局、2018年にやった罰則規定なしの努力目標だけなんですよ。「努力目標を設定しましょう」ぐらいの感じですよ。今回、そこから3年経ってまったく進歩してないわけじゃないですか、本当に意味ないですよね。めちゃくちゃ甘い、なのでみなさん投票が大事。そういう議員を落としましょう。

福田:そうですね……(笑)。

青野:落とさないといけない。

第1子出産後の離職率の割合は47パーセント

大谷:総理大臣になったとして、大城さんと福田さんはどうですか?

大城:今、娘が6歳なんですが、未就学の子どもからの性(生)教育ですね。生きる教育と、体の教育。それは人権とつながっているので、強力にやりたいと思ってます。

その理由としては、幼少期から性別役割認識がものすごく根強く刷り込まれていっちゃっている。「女性が三歩下がって」というさっきの言葉じゃないですが、そういう思いだったりとか。「委員長は男性、副委員長は女性」、そういう小さい時からの刷り込みで私たちはできあがっちゃってるんですよ。

それをもう子どもの時からナシで、ニュートラルな世界で生きていってほしい。その子たちに未来を作っていってあげたいと思いますね。

大谷:そうですね。子どもの性別に関わらず、性教育ってめちゃくちゃ大事だと思うんですが、福田さんもそういうこと考えたりしますか? 

福田:そうですね。もちろん、子どもの義務教育のアップデートは民間からやっていきたい。行政に頼らずに、まずやっていきたいと思っていることではあるんですが。プラス、女性のキャリアが自分の「Will」以外で分断されない仕組みの強化と、カルチャーの醸成をやりたいなと思っていて。現状、第1子出産後の離職率の割合って47パーセントとかで、半分の方が子どもを産んで仕事を辞めている状況になっていて。

そんな状況の中で女性活躍推進や出生率を上げていくことって、絶対に両立できないなと思っているんですよね。なので一方で、2022年や今年もそうですが、男性の育休も取りやすくなるような法改正も進んでいたりするので。

そこの制度の拡充と共に、育休やベビーシッターを使うこととか、そういった部分は性別を問わず取ることが普通なのである、というカルチャーや空気感の醸成も一緒にやりたいなと思っています。

大谷:そうですね。空気、すごく大事ですよね。

議員になりたい女性はどうしたら増えるのか?

福田:そうですね。最近やっと、世論も追いついてきている感覚がすごくあるなと思っていて。我々がSHEを始めた2017年とかって、働き方に自分らしさを求めることやジェンダーのキャリアの格差って、問題視されることもそこまで熱を帯びてなかったなと思うんですが、今はすごく追い風になってきているのは感じるので。これを民間から盛り上げつつ、この熱量を行政に届けていきたいですよね。

ご質問で「議員になりたい女性ってどうやったら増えるんだろう?」というコメントがきているんですけど、切実だなぁと。

青野:本当に。

福田:でもこれは、憧れられるロールモデルのブランディングがすごく必要だなと思いますよね。義務教育のアップデートとかも、教育のカリキュラムを変えるだけじゃなくて、教える講師側の方々の人材の多様性や成長も必要だなと思った時に、議員にも本当に同じことが言えるなと思っていて。

今までの風習や、「世襲でなる」とかではなくて、興味を持って民間から議員になって。スターやヒーローみたいな人が国政を回す姿を見て、今の子どもたちがYouTuberに憧れるのと同じような原理で、憧れて「自分もなりたい」って思えるようなロールモデルを増やすことが、絶対的に重要だなとは思いますね。

青野:自民党の総裁選にも出られた野田聖子さんは、選択的夫婦別姓もすごく積極的に推進してくれているんですが。「国会議員の女性ってあんまり女性じゃないわよ」って話していて(笑)。「ある意味女を捨てて、考え方を捨てて、男として生きていくような覚悟をしないと国会議員にはなれない」ということを、議員になる時に言われたという話があって。そういう意味では、ロールモデルがまだ本当に少ないですよね。

「子連れで仕事場」に対する、日本と海外の違い

福田:トレードオフなぎりぎりのところで戦って、「女性であること」と言ったらあれなんですが、自分がプライベートで大切にしたいものや価値観をかなぐり捨てて。そこだけに集中してコミットしている方が多い時に、髪を振り乱してそこに行きたい女性がどれだけいるかというと、たぶん本当に少なくなると思うので。やっぱり、すべてを欲張りに両立しているロールモデルを作っていきたいですよね。

青野:そうです。何年か前に熊本の市議かなんかで、子育てされていて赤ちゃん連れて議会に来たら怒られたとかもあって。海外のニュースで議長が(子どもを)あやしてたとかを見ると、「何なんだこの差は」とか思いますよね(笑)。

大城:いやぁ、本当ですね。

青野:「なんで連れて行ったらだめなんですか?」というのも、「赤ちゃんが泣くから」「泣いてうるさい」とか。お前のほうがずいぶんうるさいわ! お前のほうがうるさいし、しかもお前も寝とるやんかと(笑)。「本当に赤ちゃん以下やわ……」と思ったりしますが、なかなか変わんないですよね。

でも、やっぱり諦めずにチャレンジ続けてほしいと思いますけどね。私の地元の今治市だと、女性の市議が1割なんですよね。3割ぐらいになってくると空気が変わってくると思うんですが、この壁を超えるには、国会議員になるのは大変ですけど、市会議員ぐらいだったらぜひチャレンジしてほしいなと思ったりしますけどね。

大谷:そうですよね。まずは数がちゃんと確保されることと、仕組み的に土台がちゃんと作られることが前提で、その上でちゃんとカルチャーが醸成されていく。国も企業も個人もそうだと思うんですが、いくら個人ががんばっても、やっぱり何かを決める側が変わっていかないと、変えられないところが出てくると思うので。

政治への関心を促す、若者向けのコンテンツが増加

大谷:個人的な所感ではあるんですが、今回の選挙って声を上げる人がかなり増えたなぁと。そこはすごく希望だなって思うんですが、みなさんの実感として「少しずつ変わってるなぁ」ということってありますか? 

福田:すごく思いますね。今って投票率は20代が一番低かったりするじゃないですか。私は20~30代の知り合いが多いんですが、20代や30代の方々を対象とした、すごくわかりやすい選挙を解説したコンテンツだったりとか、例えばちょっと診断コンテンツチックにしてみたり、政治をポップに翻訳したようなコンテンツがすごく増えていて。

あとはYouTubeとかでも、例えば20代の女子にすごく人気のゆうこす(菅本裕子)さんとかが、YouTubeの中で選挙の解説をしていたり。若い世代と政治を密接に紐付けるような動きがすごく増えているなと思っていて。それはむちゃくちゃ素敵な動きだなと思っていますね。そこらへんもあって、今は若い有権者の方々の関も増えているのかなと感じます。

大城:本当にそうですね。実体験になっちゃうんですが、保育園が入れないなと思った時に、区議会の人に会いに行くとか、そういう人がやっている会に参加する。今、どういうことを考えていらっしゃるのか、どういうことが議論されているのかを聞きに行くことで、その瞬間にかなり政治と距離が縮まったなと思ったんです。

「区長にメールだって出すことができる」「選挙期間中にはたくさんの方が(街頭に)立ってるので、ちょっと話すだけでもいいんです」と言われて、そういうアクションもできるんだ、と。そうやって、政治側も有権者と近づこうと思っているんだけれども、私自身がその1歩を踏み出せてなかったんだなということを、すごく感じて。

「変えたい」「なにかおかしい」と思ったら、やっぱり自分から一歩出す。選挙に行くことも1つだと思うので、そういうアクション。自分も社会の一員なので、そこが必要かなとは思っていますね。今日の話を聞いても再認識しました。

疑問に思ったことは、直接政治家に伝える手段もある

青野:本当ですね。ぜひ一歩踏み出してほしいですね。この間、同性婚の(実現に向けた)活動をされている、時枝穂さんという方とお話をさせていただいたんですが、僕がやっている選択的夫婦別姓の活動とめっちゃかぶってたんですよ。

3つかぶってるのでちょっとご紹介すると、1つは政治家への陳情。「こういうのをやってくださいよ」と言って、アポを取ってプレゼン資料を作って説明しに行って、なんとかそれを「働きかけてください」と言う。そこから区議会や国会に意見書を上げることもできるので、そういう活動するのが1点。

2つ目が訴訟。「それ、明らかに不平等なことをやってんだろ」ってなったら、訴訟を起こしちゃう。訴訟を起こすとメディアの注目を集めることができるし、裁判の結果がどうなるかはありますが、世論を動かすことができる。

3つ目は落選運動。今は真っ只中でやってますけど、政治家って当選して初めて仕事がもらえますから、落選運動をされることにはめちゃくちゃ関心が高いです。僕たちが想像している以上に気にしています。ネットで悪口を書かれる以上に、落選運動はめっちゃ気にしてるので、この3つぐらいで攻めると彼らをちょっと動かすこともできる。

でもやっぱり、やらなかったら動かない。やっぱり「動こう」と。面倒くさいかもわからないけど、もっといい社会を次の世界に残したかったら、それは前の世代がやってきてくれてるわけだからね。僕らの世代もちょっとがんばらなきゃな、みたいな。こんな意識で取り組んでいただけるといいかなぁと思います。

端に追いやられていたジェンダー問題が、ようやく日の目を見た

大谷:ありがとうございます。本当にお三方三様で、取り組み方や考え方も違う中で、国や社会に対していろんな取り組みをされてきたと思います。例えば、国に対する訴訟といった動きができる環境にいなかったとしても、誰にでもできることの1つとして投票に行くことがあると思うので。

今回お話をうかがっている中で、ジェンダーという視点でいろいろと意見を交わさせていただいたんですが。今日聞いてくださった方たちが「これは変えたいな」とか、思いが熱くなった部分があったら、31日の投票に向けて実際に自分にできることとして、自分の1票を大事に使ってもらえたら、すごく意味がある日になったんじゃないかなと思います。

みなさん、言い残したことや感想とかあればと思うんですが、大丈夫ですか? 

大城:すごく楽しかったです。

青野:今回の衆議院選挙って、ジェンダー問題がトッププライオリティレベルで扱われるようになった初めての選挙なんですよ。今までジェンダー問題って、経済だとか安全だとかいろんなものに追いやられて、ぜんぜん扱ってくれなかったんですが。ようやくいろんな人が努力して、「これを扱わないのおかしくね?」という声がここまできた。

なので、ここでしっかり僕らが民意を見せたい。ジェンダー問題を真剣に取り組まない政党は落としまくると。そうすると、次の選挙からガラッと変わりますよ。彼らは受かりたくてしょうがない人たちなので。

なので、ここはぜひ自分たちが持ってる国民主権なわけですから、権利を行使してほしいなと思いますね。

大谷:そうですね。私たちの世代というか、若い世代の一番の関心がジェンダートピックもデータで出ていたので。20代、30代、40代の、これからの未来を考えていく世代も、50代、60代以上の方たちも、全体で日本を担っている感覚を持ってアクションをしていけたらいいな。あらためて私もすごく刺激をいただきました。ありがとうございました。

じゃあ、今日のセッションは終わらせていただきたいと思います。本当にありがとうございました。

一同:ありがとうございました。