2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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白戸翔氏(以下、白戸):こんばんは。本日は『アイデア資本主義』の刊行記念イベントをご覧いただいてありがとうございます。『アイデア資本主義』の編集担当をしました、実業之日本社の白戸と申します。本日はよろしくお願いします。
「脱成長」や「新しい資本主義」など、ホットなワードがメディアを賑わせています。今日の大きなテーマは「資本主義のフロンティア」ということで、『アイデア資本主義』の大川内直子さんと計量経済学者の山口真一さんをお迎えして、これらについて議論していきたいと思います。本日はどうぞよろしくお願いします。
さっそくですが、お二人に自己紹介をしていただきたいと思います。まずは大川内さんから願いします。
大川内直子氏(以下、大川内):こんばんは。大川内直子と申します。本日はよろしくお願いします。最初に簡単に自己紹介をさせていただきます。白戸さんにご紹介いただきましたとおり、この度『アイデア資本主義』という本を出版しまして、今日はその出版記念イベントということでこの場を用意していただきました。ありがとうございます。
私自身は、アイデアファンドという会社の代表をしています。この会社は、文化人類学の理論や方法論に基づいてリサーチを提供するという変わった会社なんですが、このアイデアファンドを立ち上げる前は、しばらく金融機関に勤めていました。さらにその前は、大学と大学院で文化人類学の研究をしていました。
この文化人類学の経験や、金融の時に「未来の価値と現在の価値をどうすり合わせていくんだろう」「アセットをどう現金化していくんだろう」などいろいろ考えたこともあり、資本主義について考えだしたのが出発点となって、今回『アイデア資本主義』という本を出すに至りました。
今日は『アイデア資本主義』の本の内容をお伝えしたいというよりは、みなさんの身近なところで生じている自分なりの資本主義的なものについて考える場にしていただきたいなと思います。さまざまなかたちで資本主義がミクロに生じると思うので、そういったみなさん一人ひとりの資本主義について考えて、教えていただいたりもしつつ進められたらと思っています。よろしくお願いします。
白戸:では山口さん、お願いします。
山口真一氏(以下、山口):みなさん、こんばんは。国際大学の山口と申します。私は経済学博士でして、特に専門は計量経済学というデータ分析手法の1種です。私はその手法を使って、SNS上のフェイクニュースやネット炎上、誹謗中傷といった諸課題、あるいは情報社会の新しいビジネスモデルや情報経済論などを研究しております。
今日はわざわざ呼んでいただきましたので、ぜひいろんなお話ができればと思っています。特に私の得意とするエビデンス、データ分析、あるいは経済やSNSでなにかコメントができればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
白戸:お二人とも、よろしくお願いいたします。ここにいらっしゃる方ですでに書籍を読んでいる方も、もしかしたら読んでいない方もおられるかもしれませんが、最初に大川内さんから簡単に『アイデア資本主義』の内容について紹介していただきます。
大川内:今、山口さんに自己紹介していただいたのですが、私は文化人類学という質的な調査をメインにしてきました。文化人類学の人間が資本主義を論じるってすごく珍しいことだと思うんですね。この本自体のアプローチや内容もけっこう独特になっているかなと思うんです。
書店では経済学の棚に置いていただくことも多くて、本丸の経済学の人から見た時に、ツッコミどころやおもしろい点があったら聞きたいなという個人的な興味で、(山口先生に対談を)お願いをさせていただきました。
山口先生とは、国際大学GLOCOM(グローコム)というところでは一応同僚のかたちなので、もともと存じ上げていました。今回こういうイベントができたらいいなとご相談して、一瞬でご快諾いただきました。
白戸:ちなみに、今日会場にいらっしゃる方で『アイデア資本主義』をもう読んでいるという方は、どれぐらいいらっしゃいますか? だいたい半分くらいですかね。また質疑応答を設けたいと思っていますので、よろしくお願いします。
大川内:では、スライドを使いながら簡単に、『アイデア資本主義』という本の全体というよりは、後半の主張部分をメインにご紹介できたらなと思っています。
まず本の目次ですが、第1部と第2部に分かれています。第1部が、歴史を振り返りながら資本主義のフロンティアがどういうふうに開拓されて消滅してきたのかという、歴史をひもとくパートになっています。
「空間」「時間」「生産」「消費」という4つの領域に分けて、フロンティアがどのように開拓されてきたのかをひもといていくのですが、いずれの領域においても20世紀の最後、「空間」に関しては21世紀に入ってから、アフリカにおける開発投資が過熱したところがあります。なので、21世紀に入ってちょっと経ったあたりで、いずれのフロンティアもほとんど地球上からは消滅しつつあるのではないか、と書いています。
後半のパートでは、そういうふうにフロンティアが消滅した結果、何が生じているのかを検討しているパートになります。最終的には、「アイデア資本主義なる新しいトレンドが来ているんじゃないか」というのが本書の主張になります。
このスライドをご覧いただきたいなと思います。ざっくりしていますが、本の内容をスライドにしたわけではなく、私がアイデアファンドという会社を立ち上げた2018年頃に作ったスライドをずっと使い回しているものです。
私自身はアイデア資本主義という考えをずっと思っていて、モノに資本が投下されて「良いモノを作れば売れる」という時代から、スペックの高いモノや早いモノ、薄いモノや軽いモノを作ったとしても、なかなか売れない時代になってきたなというのが感覚としてありました。
そんな中で、大学院の頃から「文化人類学を活かしたユーザー調査をやってくれないか」と海外からの依頼を受けてリサーチをやっていたんですが、そういう時も「どうモノのスペックを上げれば日本で売れるんだろうね」ではなくて、消費者のインサイトを深くひもといていきました。
「彼らが本当に求めているもの、意識してないけど欲しているものはあるんだろうか?」と考えていき、それをベースに「何がモノやサービスとしてあればいいのか?」と、クライアントと考えることが多くて。
そこにおいては、機能をどんどんハイスペックにしていくとか、追加していく思考ではなくて、むしろそれをそぎ落としていって、いらないものを減らした結果、使って心地良いものを探すというプロセスだったんですね。すごくアイデアが重要な時代になってきたなというインプレッションを自分は受けました。
なので、「21世紀はアイデアがこれまで以上に重要になる時代なのかな」と学生の頃から感じていて、今回このような本のタイトルにつながりました。
ざっくり言うと、本書の後半のパートではこの(スライドの)右側の時代が来ているんじゃないか? と言っています。
(次のスライドを見せて)ここも簡単にさらっと触れると、『アイデア資本主義』が到来しているとして、どういうものが背景にあるか? というのが、一番左側に4つ並べているものですが。上がすでにお話した、フロンティアが消滅しましたよというところ。
2つ目の「資本がコモディティ化している」というところで、いろんなところで金余りと言われていますが、資本の相対的な価値が下がってきているのではないかと思っています。お金さえ持っていれば儲かる時代ではなく、それを何に投下するか? というのがなかなかわかりづらい時代になっています。わかりやすく「工場を建てたら儲かる」ではなくて、もっと前のアイデアの段階にまで投資をする領域が広がってきているのかな、というのが2点目です。
3点目に「わかりにくい世界」と書いています。先ほど、インサイトを捉えないとなかなか消費者が何を考えているのかわからないという話もしましたが、モノがそもそも足りなくて「こんなものを作れば売れる」という時代ではないので、何を作ればいいのかなかなかわかりにくい。
あとは科学技術に関しても領域の細分化が進んでいて、その領域の専門家じゃないと、近い領域でもなかなか最先端の研究が理解しにくい。そのため最先端の研究に基づくビジネスのアイデアを評価しづらい。
なので、実際の科学技術自体に価値があるのかではなく、それをアイデアで活かした時にどう社会実装できるのか? というところまで、しっかり飛躍させて語ることができないと、なかなか投資を得ることができない。そういう意味でアイデアが重要になりつつあるのかなというのが3点目です。
4つ目のインターネットの発達に関しては、これも大きな要因だったと思っています。例えばクラウドファンディングなど、仕組み自体は以前からありましたが、それが促進されたのはインターネットを使ってでした。
そして、いろんなビジネスが安く展開できるようになったという意味でも、アイデア資本主義に寄与している。この4点目は山口先生のご専門でもあるので、あとで触れられたらと思っています。
というところで、基本的なこととしてこの4つの事象がアイデア資本主義で起きるのではないかなと。ここに書いているものが本書の最後のパートになります。
1つ目が「アイデアが投資の対象になる」というもの。2つ目が「アイデアを見極める目が必要になる」というもの。3つ目が「モノの生産よりも活用が付加価値を生むようになっていくんじゃないか」というところ。これはメーカー各社がソリューション重視の方向に舵を切っているなど、そういうところと関連する項目になります。
最後は、やはりアイデアです。資本主義の時代においては「アイデアを生み出せることが強みになっていくよね」というのを書いています。最後のほうの説明だけになってしましましたが、山口先生には読んでいただいたと思うので、どのようにお感じになったのかを聞けるとうれしいです。
山口:ありがとうございます。先ほどアンケートを取ったら本を読まれている方が半分ぐらいだったので、まずぜひ読んでいただきたいです。これは私もめっちゃ読みました。内容がおもしろくて勉強になるのももちろんなのですが、同時に私と考え方がすごく近いなと思ったんですよね。
今日のイベントをすごく楽しみにして来たのですが、ここで私目線での「おもしろポイント」を3つお話しさせていただきます。まずタイトルにもありますが、アイデアですね。アイデアが価値の源泉になるという話で、最初のこのスライドでいうと、『アイデア資本主義』というタイトルの通り、これまでと違ってアイデアが上位に来るという話だったかと思います。
まさに私もそういう問題意識を持っていました。違う本の話になって恐縮ですが、去年『なぜ、それは儲かるのか』という本を出しておりまして、まさに情報社会の新しいビジネスモデルや経済法則の話をしているんですよね。そこで指摘しているのがこの本と同じように、既存のビジネスが崩壊しつつあるという話でした。
例えば製造業、あるいはメディアの分野でいうとマスメディア。新聞がぜんぜん売れないとかですね。最近のコロナでは旅客など、いろいろな産業でダメージを負っていますが、そういう産業において、既存のビジネスがどんどん立ち行かなくなってきているわけですよね。
こういう時に何が重要かというと、やっぱりアイデアなんですよ。
アイデアっていろんな面があると思うんですが、私はここで1つキーワードがあると思っています。それは「DX」というキーワードです。
日本ではこれはもうバズワードになってしまっていますが、デジタルトランスフォーメーションですね。DXで思い浮かぶのが「ITを使いましょう、IT化しましょう、デジタル化しましょう」という話なんですが、DXって単純にITを使う・デジタル化するという話だけじゃなくて、「ビジネスモデルそのものの転換」も含んでいるんですね。
例えば、タイヤメーカーのMichelin(ミシュラン)という企業があります。あそこはタイヤをずっと作っていたわけですが、最近はタイヤにセンサーを付けて、そこからデータ収集して、走行距離に応じて課金するといった新しいビジネスをやっているんですよね。
あるいは航空エンジンを作っているGE(General Electronic)という会社がありますが、やっぱりエンジンにセンサーを付けることで、例えば「今まさに劣化しているからすぐに人を配置して、メンテナンス時間をものすごく短くしよう」とか、そういうサービスを展開していたりするわけですよね。いろんなやり方があると思います。
結局、これらも単純にITを導入したわけじゃなくて、まさにアイデアが価値の源泉になって、ビジネスをアップデートしたのだと思います。まさに今、そういう時代になってきているわけです。
この本がおもしろいのは、これに留まらず「なんでアイデアがそんなに重要なんですか?」という話を、本の半分以上で語っている。さっき第1部、第2部とおっしゃっていたと思うんですが、第1部ではまさにそういう話をしているんですね。空間や時間のフロンティアがなくなってきて、アイデア資本主義につながっているということをものすごく丁寧に書いていただいています。
そういう整理の仕方を私はしたことがありませんでした。アイデアが価値の源泉になっていると思っていただけなので、それがなぜそうなっているのかという背景の話の整理の仕方がものすごく勉強になりました。同時にこの「インボリューション」という考え方。これもぜひ読んでいただきたいんですが(笑)。そういう整理をしていて、これもまた勉強になったなというのが1点目です。
2点目が、資本主義の終焉論や脱・資本主義といった話を最近ものすごくよく聞くわけですが、そこに対して疑問を呈しているんですね。つまり、本の中に書いてあることなんですが、資本主義は良い面も悪い面もあると。最近語られるのは、もっぱら悪い面なんですよね。これは重要な点なんですが、悪い面は目立ちます。
私の研究に紐付けていうと、私はSNSの研究などをかなりやっているわけですが、SNSでもよく言われるのが「誹謗中傷がいっぱいあるでしょう」と。「フェイクニュースがいっぱいあるでしょう」「もう規制しようぜ」という話がものすごく出るわけですね。もちろん議論するのはいいことだと思うんですが、ただし忘れてはいけないのが、SNSによっていろんな人は公に発信することが可能になったことです。
これを私は「人類総メディア時代」と呼んでいます。それぐらい自由にコミュニケーションを取れるようになったし、マイノリティの方がコミュニケーションを取ってコミュニティを築くことがすごく容易になったりと、いろんな恩恵があるんですよね。
その一方で、悪い面もあるという話なので、如何にしてこの良い面を活かしたまま、悪い面を抑えるかが重要になっているわけです。
資本主義も同じなんです。資本主義は悪い面が目立ってきたからもうやめましょうという話ではないんじゃないかなと思っていたんですよ。そこで、大川内さんもはっきりと「物事の正負の側面を正しく評価する必要がある」とおっしゃっているんですよね。その上で、「本当にこの脱・資本主義や資本主義を終わらせるのが正解なんですか?」ということを語っていらっしゃる。これが2点目でおもしろいところです。
そして最後に3点目ですね。今、環境問題などいろいろあって持続可能な社会にならない。それをどうすればいいのかという話なんですが、この本では「資本主義をアップデートすることでなんとかできないか」とおっしゃっているんですね。それがまさに「アイデア資本主義」という話なんです。
奇しくも新しく就任した岸田首相が「新しい資本主義」という話をされていますが、おそらく近い話なのかなと(笑)。つまり、資本主義アップデートしてどうにかしていこうというところで共通する部分があるんじゃないかなと思っています。
まさに今この瞬間、この新しいアイデア資本主義が始まろうとしているんじゃないかというのが、1つあるかと思います。
実際に先進国のGDPを見ますと、私の本にもグラフをしょっちゅう載せるんですが、西欧や先進国のGDPを西暦0年から今まで描くと、ある時から崖(のよう)になっているんですよね。その崖のポイントが何かというと、産業革命です。産業革命以降、これまでとはもう比べものにならないぐらいの経済成長、GDPの成長が始まったんですね。
これはまさにパラダイムシフトが起こったと。その原動力の1つに、資本主義があったわけです。ところが、指数関数的にGDPの増加が最近になってようやく落ち着いてきた。(ついに)収束してきているわけですね。
とりわけ先進国でいうと、日本やイタリアはかなり成長が鈍化してきています。やっぱり1つの世界が収束してきていて、新しいものが生まれてきているんじゃないかというのが、まさに今の時期です。今我々は、新しい時代の黎明期にいるんですね。産業革命以降、今まで250年ぐらいあったわけです。200年以上続いていた1つの波が終わりつつあって、新しい波が立ち上がっている。
その波もまた同じぐらい続くと仮定すると、やはり今我々はまさに黎明期にいるわけですよね。それを考えた時に、もちろん資本主義は終わりで「新しい法則を考えようよ」と楽しむのもいいと思うんです。ただ一方で、資本主義の良い部分は絶対にあるわけで、それは残した方がいいんじゃないかと私も思うんですよね。
大川内さんがそこで言っているのが、アイデア資本主義を出そうという話です。結局は資本主義で成長してきた社会も、黎明期にはいろんな問題があったんですよね。例えば本の中にも「奴隷の労働」はかなり書かれているんですが、奴隷じゃなかったとしても奴隷のように働いていた子どもも多くいましたし、そういう搾取するような人たちがいました。
でも、徐々にいろんな問題を規制したり、仕組み作りをすることで、改善していっているわけですね。もちろん、全部を改善することはできません。ただ、積み重ねることで少しずつ良くしていくことは可能だと思っているんです。
例えば交通事故を見ても、みなさんご存知かわかりませんが、この数十年間で交通事故の件数ってものすごく減っているんですね。これは努力して減らしているんですよ。でも、たぶんゼロにはならないんです。
このように、押さえ込むことは中長期的に見ればできるはずなんですね。だからそこで噴出している資本主義の問題も、むしろ新しい時代の黎明期における解決すべき問題として捉えることもできます。それを今度は、今までの資本主義ではなくて、新しい時代の資本主義で徐々に仕組みや枠組みを作っていって、解決していくんです。
資本主義を否定するのではなくて、良いところを活かしながら悪いところを抑え込むのが、これからの社会では重要なんじゃないかなと感じた次第です。長くなって申し訳ないですが、とりあえず私から3点をお話させていただきました。
大川内:ありがとうございます。こんなに褒めてもらえると思っていませんでした。すごくつよつよ(強強)な指摘がくるんじゃないかと思って怯えていたので(笑)。うれしい反面、文化人類学をやっている者の性なのか、褒められると「本当か?」という気がしてきて、疑いながら聞いていました(笑)。ありがとうございました。
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