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地方都市の期待と課題~バリューサイクルマネジメント~(全2記事)

書類は郵送、会議は対面、古い自社ルールを押し付ける… みんなで仲良く苦しみたがる「事務作業大国・日本」からの脱却

イノベーションを創造するプラットフォームであり、「人の繋がりこそが価値を育む」と信じる「action based worker」たちの集まりである、金沢イノベーションハブ研究会。同研究会が主催するイベント「金沢イノベーションハブ研究会 Special Edition」から、今回は『バリューサイクル・マネジメント』の著者・沢渡あまね氏が登壇されたセッション「地方都市の期待と課題~バリューサイクルマネジメント~」の模様を公開します。

浜松市内の老舗めっき製造業で起こった変化

沢渡あまね氏:職種の定義の話をします。浜松市内の老舗めっき製造業でこういう変化がありました。以前は訪問営業やルートセールスがメインだった会社です。営業といえば訪問営業あるいは展示会での営業活動が主軸。気合、根性、体力勝負。これでは今、なり手がいなくなりますよね。コロナ禍で展示会も相次いで中止になった。

そのやり方から、マーケティング、ブランディング、インサイドセールス、カスタマーサービスというやり方に、ガラリと変えたんです。会社はモチベーションの高い女性社員に教育機会を提供して、ITにも投資した。

「気合・根性型」の営業から「知力勝負」「仕組みと仕掛けで解決する」やり方に変わりました。テレワークで、時短勤務の方(でも十分)対応可能なやり方に変わったんですね。

この会社すごいんです。このコロナ禍の1年半、多くの企業が苦戦していた中、県外のお客さんの売上を4割から7割まで伸ばしたんです。すばらしい変化ですね。これこそがマインドシフト・デジタルシフトだと、私は確信しています。

もう1つ言います。今まではその地方・その都市の中だけで、もがいてきた。それもすばらしいことなんですが、やっぱり地方都市・中小企業は、デジタルワークやオンラインワークを使うべき。そうして、ずばり言うと地域経済・地域内ヒエラルキーからの脱却。低収益モデルからの脱却。ビジネスモデル変革。これを目指していくチャンスです。

それをやってこそ、その地方で「高収益モデルが生まれ、良い人が集まり、成長性の高い事業が育つ」。このサイクルを作っていけると、私は先ほどの浜松のめっき製造業の会社の事例からも実感しています。

固定化された環境から解き放たれる、ワーケーションの本質

ここでみなさんへ、私からの問いかけです。「金沢(みなさん)の期待(みらい)と課題(かこ)」というルビを振りました。「みらいとかこ」と読む「期待と課題」は何でしょうか? ここから考えましょう。ともにディスカッションしましょうよ。今日はそんなディスカッションができたらなと思います。

今日は箕浦(龍一)さんも来られていますので、ワーケーションの話もぜひ触れたいと思います。私自身、ダム際で仕事をしてみて感じたことがいろいろあるんです。1つ目は「集中できる。リフレッシュできる」。これは企業の「健康経営」という課題の解決につながっていく。

ワーケーションって遊びじゃないんですね。2つ目「新たな発想が浮かびやすい」。ダム際に行くと、新た発想が浮かんで仕方なくて、めっちゃめちゃ忙しいんですよ。オフィスにずっといたら、なかなか発想が浮かんでこないんです。これは「イノベーション」という、世の中のマネジメントキーワードに応えられるわけですね。

3つ目は「ペーパーレス」。私もさまざまな決裁や契約手続きをしますから、ダム際でも仕事ができるようになるには、ペーパーレス化が必要なんですね。そうするとデジタルワークシフトができるから、私たちは自由になれる。イノベーティブな人たちが正しく活躍できて、新しいことを生み出せる。

ワーケーションは地域のチャンスですね。4つ目は「平日に企業が来て、あるいは経営者が来て(地域に)お金を落としてくれる」です。これめちゃめちゃ良くないですか? これまでは観光産業はBtoCでした。個人相手。個人って気まぐれで、雨でも降れば行きたくないってなります。でも、雨降ったから仕事しないってあり得ないわけですよ。

「観光産業のBtoBモデル化」。ただ、先ほど申し上げたように、せっかく来た人が従来の悪気ない仕組み・仕掛けによって遠ざかってしまうのはもったいない。地域側のマインドチェンジ、インフラ整備もめちゃめちゃ重要です。

他にもいくつかあります。そうはいっても、ワーキング環境設備を整備して欲しいなと思うところもありまして。また新たな“箱モノ”を作るということではなく、既存施設の開放でOKだと思うんです。

私の好きなダム際の話になりますが、たとえば手取川ダム沿いでは、閉店したレストハウスがいま空気だけを携えている。もう、ほんとうにもったいない。こういうところを少し手を入れて、通りすがりのビジネスパーソンにワークスペースとして部分的に開放するだけでも十分だと思います。

プラスアルファの工夫・プラスアルファの投資で、新たな空間を生む。新たなコミュニケーションを生む。間違いなくあると思います。

「ワーケーション、ダム際ワーキングの本質」。固定化された環境から解き放たれる。同じメンバー、同じ景色、同じ仕事、同じ考え方の人たちで、新しい問題・課題の解決策、あるいはイノベーションが生まれ得るか? こういう話ですね。

2つのデジタルワークシフトで解消する、さまざまな課題

ワーケーションは、地域とサービス提供者側の課題もさまざまあります。(スライドを指して)ここに書いたとおりですね。いくつか挙げますと、1つ目が先ほどの繰り返しになりますが「ニジカベ、14時の壁」。なんかNiziU(ニジュー)みたいですけども、ニジカベと言っています。14時で一斉に飲食店が閉まったら、訪問者はゲームオーバー。食事難民になる訳です。あるいは、コンビニエンスストアでいつも(都会にいる時と)代わり映えのしない食事をするしかない。

「10時チェックアウトの試練」。10時にホテルを追い出されると、13時から現地の企業で会議がある出張者は、居場所がなくなるわけですね。難民になります。(課題は)こんなにたくさんあります。ぜひ、こういうものと向き合って解決していけたらなと思います。

ワーケーションを、地域活性の事例の1つとしてお話ししました。ワーケーションを実施する側の、企業・個人のデジタルワークシフトも大事ですが、ワーケーションを提供する側、行政・飲食店・宿泊施設のデジタルワークシフトも非常に大事だと思います。

実施する側のデジタルワークシフトとして、私たちもクラウドサービスを組み合わせて勝ちパターンを作っています。ワーケーションを提供する側も、お金をそこまでかけなくても、工夫とITでできることってたくさんあると思います。

こちらも少しお話ししますと、最近「コンテナ型ワーキングスペース」というものがありましてコンテナを改装して、平常時はワーキングスペースとして運営する事例も出始めています。ただし緊急災害対策の拠点として、避難所や対策室として開放する。このような条件で行政と民間が双方で投資をしてマネタイズしつつ、地域の防災を確保する。こんなやり方をとっているところもあります。

ITサービスを使えば、施設の無人運営も可能です。「水曜日定休、14時で一斉飲食店閉店」。それが「悪い」と言っているわけではないんです。「24時間365日運営せえ」とブラックなことを申し上げるつもりはありません。

仕組み・仕掛けを使って、スマートに運営する。今のありのものを活かしながら、ワーケーションで来てくださった方、あるいは地域の方が地域の食材を楽しんでくださる。プラスアルファのお金を落としてくださる。こういう仕組み(作り)は十分可能なわけですね。

大事なのは「本来価値創出」「業務改善」「育成・学習」

さあ、長々いろいろお話ししました。ここまでにいろんなキーワード(が出てきました)。イノベーション、DX、地域活性、ワーケーションといった話をしてきましたけども、ここからまとめに入りたいと思います。

書籍『バリューサイクル・マネジメント』の中でも、こんなキーワードを立体的に解説しています。ここ(スライドを指して)にいろんなマネジメントキーワードがありますが、今の私たちに大事なのは、「本来価値創出」「業務改善」「育成・学習」です。

私はこれらを「コアサイクル」と呼んでいます。一人ひとりが、部署が、組織が、みなさんの会社が、行政が「自分たちの本来価値って何かな?」と研ぎ澄ませて欲しいんですね。

1つ事例をお話しします。私は2年前、誰もが知っている大企業から相談を受けました。通信機器メーカーの研究部門、30名の研究部門長から「うちの研究部門は研究ができていない。なんとかしたい」と言われたんです。

これは、部門長のいわば経営課題ですよね。研究部門なのに研究できていないということは、本来価値を出していないわけです。「どうしたら良いか」とお悩みでした。「社内説明資料の作成に追われていて、研究する時間がない」と。

残業だらけで、研究員のモチベーションも下がる。さらには、社内のファンもいなくなる。営業担当者は「うちの研究部門は期待できないから、他を当たったほうが良いよ」って言うんですって。役員からも予算はつかない。負けパターンですよね。

その部門長はすばらしい方でした。「3ヶ月後、1研究員当たり最低1時間は研究する時間をとるようにしたい。なんとかしたい」とご相談いただき、ディスカッションを始めました。「研究するための時間をとるには、会議をなくしたほうが良いと思います」「これはオンラインでできると思います」「この事務作業はなくすことができると思います」などなど。こんなディスカッションが生まれました。

(スライドを指して)ここをご覧ください。「本来価値創出」するための「業務改善」が生まれました。でも、そのためには「育成・学習」も必要ですし、デジタルを使いこなすスキルも身に着けなければいけない。

そこにこの会社は投資されました。そして「何を研究する?」「AI、機械学習を研究しよう」ということになって、そこに育成・学習の投資もされました。余白を徐々に生みながら、時間を作っていく。その結果、2ヶ月後には1人2時間以上の余白が生まれたんです。

そこから社内の空気が変わりました。「ここにいると研究員として成長できる」と、研究員たちも実感できるようになった。それが、仕事や職種、あるいは会社に対するエンゲージメント、つながりの強さ、愛着となりました。今では採用に優位に働き、さらにはその研究部と一緒に仕事したいと思う取引先も増えてきた。社内からも声がかかるようになった。ファンが増えてきたんです。

すなわち、その組織・その仕事のブランディングができてきたわけですね。「ブランド」とはファンを作る力です。これが生まれたと。そうすれば、ビジネスモデルも変わります。イノベーションが生まれるわけです。

そして、このサイクルをなめらかにつなぐのが、DX・デジタルトランスフォーメーションです。デジタルで「本来価値」を研ぎ澄ます。デジタルで「業務改善」をしていく。慣れてしまった不便から解放されていく。ここやりましょうよ。これ回しましょう。こういう話なんですね。

日本の組織は、事務作業や間接業務が多すぎる

そのためには、3つのシフトが大事なんです。ここ(スライドの【演習】部分)は割愛しますので、この後みなさん、組織内で議論してください。ここに書いたことが「何が問題なの?」と思ったら、ヤバいです。

「デジタルワークシフト」「スキルシフト」「マインドシフト」この3つのシフト(が必要です)。デジタルツールを導入しただけではうまくいかないんですね。みんな思考停止する。抵抗する。よくある話です。

「ITを使いこなすスキル」「新しきに抵抗しないマインド」「マネジメントそのものを変えていくスキル」。この3つの後押しと、投資と、覚悟ができているか。ここから風穴を空けていこうではありませんか。

さまざまなスキルが必要になってくると思います。私が展開している組織変革Labでも、(スライドを指して)こういう講義とディスカッションをしていますので、ぜひご参加いただければと思います。

そして何よりも……行政にしても、企業にしても、日本の組織は事務作業や間接業務が多すぎます。研究者が事務作業に追われて研究できない、あるいは複雑怪奇な紙作業が多すぎて、取引先と自社がつながってイノベーションできない。こんなバカな話があるか? って話なんですよ。

ここは正しく疑って変えていかないと、生産性もGDPも上がらない。事務作業大国日本、みんなで仲良く苦しむ。これがイノベーションを遠ざけている。日本のファンを奪っていくって話なんですね。ここは正しく変えていく必要があるかなと思います。

あとは「やるか・やらないか」だけ

「デジタルワークの先に広がる世界」として、こんな世界を私はイメージしています。日系一部上場企業勤務、経理部長、48歳。朝霧高原の自宅からリモートワークしています。今はIT技術があるから、やろうと思えばできるんですよ。あとはやるか・やらないか、だけですね。こういうものを立体的に解決して、勝ちパターンを生んでいきたいと思います。

私たち「浜松ワークスタイルLab」も「デジタルを使ってどう未来の勝ちパターンを生んでいくか」「マネジメントシフト」「マインドシフト」、こんな話を展開しています。ぜひ、一緒に変わっていければなと思います。

最後に少しお時間いただいてお知らせをすると。私、沢渡あまね、(スライドを指して)ご覧のテーマで講演、アドバイザー活動をしています。もしピンときたものがあったら、FacebookやTwitterでお声がけいただくか、検索の上、メールをいただけきたいと思います。

さまざまなサービスも提供しています。法人や行政機関向けの『組織変革Lab』も展開しています。組織変革Labは「DX、組織変革を目指す人たちの、オンライン越境学習プログラム」です。私が各テーマを1時間、オンラインで講義して、会社の枠を超えてオンラインディスカッションをする。こういうものを毎月提供しています。よろしければ、こういう場もご活用いただけたらなと思います。

お名前を出せるところですと、三井住友海上火災保険さん、オルガノさんなど毎回参加されて、非常に熱いディスカッションをされています。そういう越境学習の場に皆さんも来て欲しいです。

越境学習と言うと、私の顧問先の株式会社NOKIOOは「育休スクラ」を展開しています。全国の育休者同士が会社(の枠を)を超えて集まる。育休の間にマネジメントを学んで、一回りも二回りも大きくなって、復職後に組織の中核人材になる。ものすごく良い景色なんですね。こういった越境学習も展開しております。

「固定化された環境から解き放たれる」。これをともに作っていって、地域の未来のファンをスマート&デジタルで増やしていきましょう。ご清聴ありがとうございました。

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