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山口 義宏さんに教わる「働く × マーケティング」のフロンティア(全4記事)

勝てる市場とポジショニングを見出せれば、一定以上の成果を出せる 一流マーケターが考える「最高の戦略」

名刺管理サービス「Eight」が提供するビジネスイベントメディア「Eight ONAIR」。今回は「働く × マーケティング」をテーマに、『マーケティングの仕事と年収のリアル』の著者で、インサイトフォース株式会社代表の山口義宏氏が登壇。マーケターのキャリア構築についてのアドバイスや、年齢に応じて、自分の強みが活きる市場で戦うことの大切さなどを語りました。 ■アーカイブ動画はこちら(※動画の閲覧にはEightの登録が必要です)

キャリアとは「自分が幸せになれる生き方」のこと

日比谷尚武氏(以下、日比谷):最後の話が、今の話に絡むところもあるけど、「将来に向けて『仕込んで』いること」。あと時間が5分くらいかな。締めていこうと思うんですけれど。人のキャリアを俯瞰で見たり、体系化するのが得意な山口さんが、この先を見据えて仕込んでいるというか、準備していることはあるのかを聞いてみたいんですけれども。

山口義宏氏(以下、山口):世の中の定義ではなくて、僕なりの定義でキャリアを言うと、「自分の人生が幸せになる生き方」と同義だと思っているので、仕事はその大事なモジュールの1個だとは思うんですけれど、ワンオブゼムだと思っています。

自分にとって幸せのパラメータって大きく3つあります。仕事の成果や稼ぎを含めた充実という面と、家族や友人との人間関係、主にエンジンつきの乗り物で車やバイクの趣味という3つのパラメータがあって。

それをそれぞれの変化に合わせて、「仕込む」と言うと大げさで、なんとなく計画は考える程度ですね。例えば、家族関係でいうと、日比谷さんは、僕を知っているのでリアルだと思うんですけれども、子どもが小学6年生なので、手離れが近づいている実感があるんですよ。

日比谷:そうですよね。

山口:少なくとも週末いつもべったり遊ぶフェーズが終わりつつあるというか。中学に入ったらきっと部活やったりして、息子から遊んでもらえなくなりそうだなと(笑)。

日比谷:遊んでもらえないと。

山口:そう。これまでは週末は息子とモトクロスを一緒にやっていたけど。

日比谷:ひたすらモトクロスやっていましたからね。

山口:はい。息子が一緒に遊んでくれなくなった時に、週末の趣味や奥さんとの時間をどう楽しく過ごすか。そこは今考え始めているようなところがあって。

BtoC向けの中高年マーケターの需要は減っていく

山口:仕事に関しては明白で、僕はコンサルティングの仕事はすごく好きなので、基本的には続けていきたい。ただ僕は、他所さまの企業の将来を明確にして、そこから逆算して仕込む支援の仕事をしていますが、自分の仕事やインサイトフォースは、そこまで精緻に計画的ではありません(笑)。

会社としては、社員もいるので一定の経営の考えがありますが、腕の良いプロフェッショナルが案件の成果と自己成長に専念できる環境を維持したいということ以外は、そこまで多くのことは考えていません。

個人で言えば、もっとシンプルで、目の前のことを必死に成果を出すためにコミットし、成果が出たらその結果として評判が上がり、次のチャレンジを誰かが運んできてくれて、楽しそうだったらやるという極めて受動的な考え方なんです。

MinimalもグロースXも、日比谷さんが声を掛けてくださったADDressも、そういうことがやりたいと思って自分から関わりを持とうと動いたのではなく、自然に声がかかった流れでしたし。

日比谷:確かに、確かに。

山口:目の前のことを必死にやった結果、声が掛かって次のステージが何かあったらおもしろいなぐらいなんですけれど。マーケティングにおいては、どうしても時代やお客さまの気持ちがわかっていない人には頼みたくないので、歳を取れば取るほど、一般論としてBtoC向けのマーケティングの専門家の需要って減っていくと思うんですよ。

日比谷:世の中の感覚が捕まえにくくなっちゃうから。

山口:自分が50代になった時に、20代の若者に売るための商品を相談したいと思いにくくなるのは間違いない。

クライアントでも経営層の方は同年代でいいんですけれど、商品企画の支援や広告の担当者が20、30代で、将来の50代の自分に相談と考えると、ぶっちゃけ気を遣って、キャリア30年で過去の成功体験を語られ、しかもフィーも高めというのは、すごく仕事しにくいだろうなと(笑)。

日比谷:やりづらいですね。

目の前の仕事やクライアントの成果にこだわる以上に大切なことはない

山口:50代に向けて、多少は考えて仕込みも意識しているけど、ちょっとパブリックには話しにくいので割愛したいです。ただ、もったいぶっているようで「何かやっていますか?」と言われるとそこまで綿密な仕込みはやっていないですね。

自分が関わる目の前のクライアントや、個人で支援している会社が大成功すれば、需要なんていくらでも増え続けると思っているので、目の前の仕事で成果出すことに専念していればいいかな、と。あれ? 戦略的ではないな(笑)。

少なくとも、インサイトフォースという会社は、そうやって目の前のクライアントと成果を大切にして、たまに僕が書籍を書いて出す程度で、自社では受けきれないほどの引き合いの問い合わせをいただくようになったので、目の前の仕事やクライアントの成果にこだわる以上に大切なことはないと考えています。

日比谷:でも本にも書いている、キャリアの構造とか、需給の構造がちゃんと見えた上で、自分のポジションがどこかというのを、しかもロジカルにオリジナルのフレームワークに沿って書かれるという時点で、もう充分準備ができているというか。

山口:今、日比谷さんに質問されて気づいたところもありましたけど、そういう意味では僕はマーケットニーズへの受動的な対応の機会をいつも見ている感じですね。

日比谷:なるほどね。

山口:僕個人には、こういう世の中にしたい、こういうふうにマーケットを変えたいという欲求はほとんどなくて。自分の価値観を社会に問いたいという気持ちは少なく、お金や時間を出してくださったクライアントや社員の期待に応えたいし、その成果を最大化することに貢献したいというプロフェッショナリズム以外は特にありません。

なので、個人としては、適切なマーケット選択は考えつつも、もたらされた機会を与件として、適応してうまくやる方法を考えるというタイプです。

日比谷:なるほど。

強みが活きる市場でしか戦わないことが、スマートな戦略

山口:あと、自分の会社をスケールすることや規模を追い求めていないからですね。後発から市場シェアの規模を求めていたら、マーケットの志向を変えてしまうようなポジションを取り、マーケットをリードしていく啓蒙戦略は合理的なんですけれど、そうでなかったら、そのエネルギーを使うことはROIがすごく悪いので。そうすると何かしらマーケットで動いている中で、自分の強みと合致する機会をずっとウォッチしている感じかな。

日比谷:評価しているつもりで言いますけれど、ちゃんと楽するというか、無理しないというか。自然体というか。そういうことで結果的に最適化された効率のいいエクセレントなやり方を……。

山口:今おっしゃっていただいたことをポジティブに解釈すると、苦手なことや、自分に動機がないことをしても成果は出ないと思っていて。

日比谷:そっかそっか。

山口:僕はすごく得意不得意の凹凸も、興味の有無も激しいダメ人間で、不得意や興味がもてない領域は世界ランキングで下から数えたほうが、10位くらいに入るくらいポンコツなので。得意ではない領域や関心もてない領域では絶対に仕事をやらないようにするという、強い意志がありますね。

日比谷:なるほどね。

山口:強みが活きる市場でしか戦わない。

大失敗を減らす武器は、自分の特性を自覚すること

日比谷:そこがちゃんと見えているところは、持っていたものなのか、いろいろやったから見えてきたのか。

山口:いろいろやったり、超優秀な人々に触れて仕事をさせていただく機会に恵まれたことで、相対化されて、自分の劣るところや、わりといけそうなところを自然に理解できたからですかね。

僕は自分を知ることが成功する方法だとは思っていないんです。でも、大失敗を減らすには、自分の特性を深く知ることが大きな武器にはなると思うので。自分が20年仕事をやっていれば、うまくいったこと、うまくいかないことってわかりますよね。自分の特性を自覚することを阻害するのは、つまらない肥大化したプライドだけですよね。

日比谷:そうですね。成功体験、プライド。

山口:自分のパフォーマンスが出なかった状況を直視して、ネガティブな結果を再現してしまう要素が何かを洗い出して、自分の努力で変えられることと変えられないことを変数でちゃんと洗い出して、変えられないことには近づかない。それは自分の気質も含めてです。

日比谷:そこもちゃんと客観的に評価しなきゃいけないってことですよね。

山口:そうですね。スキルはいくらでも学んで付け足して変化させられるけど、残念ながら気質ってあまり変わらないじゃないですか。だから気質に逆らうことは、勝率が低い。本当に自分が望んでいるものや気質を知って判断に活かすのは超重要だと思います。

組織内で、言いたいことを制御して我慢できない人は、銀行ではどれだけ優秀でも出世しないみたいなのも、気質との相性問題です。気質に合わないことは、持続もしないし、成果が出ないのでROIが悪いです。

優秀なのにキャリアが詰みやすい人の特徴

山口:あと、優秀だけどキャリアが詰みやすい人は、中途半端に全部器用な面がある人。どれもポテンシャルを感じてしまう分、フォーカスしきれず埋もれる人は、僕は意外と多いと思っています。能力のパラメータが尖っていなくて、全部の能力がそれなりに高い人だと、ポジションをとりにくいと感じることはあります。何かを捨てるジャッジが難しいのだろうな、と。

日比谷:やればできちゃう。

山口:そうそう。やればできちゃう人のほうが、かえって強みがわからず迷走しやすいと思っていて。僕個人の志向でいえば、戦って勝ちにくい市場を避けるという意味では、僕は徹底的に考えて、負け戦を減らします。多少さぼっても勝てるくらいの市場とポジショニングが見いだせたら、戦略としては最も美しく最高ですよ。

日比谷:そういう言い方になる(笑)。

山口:そういう意味では、クライアントの案件と同じですね。勝てる可能性が高い市場とポジショニングの選定に時間を使います。そこがハマれば、仮に多少実行面がエクセレントでなくても一定の成果は出るし、戦略の道筋が正しいときに実行がエクセレントなら、とんでもなく良い成果がでます。

日比谷:ありがとうございます。やっぱりあっという間に時間が過ぎちゃったね。

山口:すみません。僕がペラペラいっぱいしゃべっちゃうから。

日比谷:いや、聞きたかったから。しかも山口さん、ロジカルかつわかりやすい言葉でしゃべってくれるから、つい聞き入って、そんなに苦もなくあっという間に時間が過ぎちゃうっていうことがちょっと……。よくないな(笑)。

山口:すみません(笑)。時間がなかったら、適当にカットしてください。

日比谷:いやいやいや。

山口:大丈夫です。

若いうちは勝負し、年齢が上がったら「負け試合」は回避

日比谷:ありがとうございます。名残惜しいですけど、話をひととおりうかがって、マーケターって今どんなキャリア事情になっているかという話と、それを他の職種にも汎用化できるかという話。エンジニアとか専門職でも応用できるという話。あと、将来に向けて無理をしない。自分を知る。

山口:そうですね。若いうちはコテンパンにやられる経験は大事で、勝負を避けている人は論外なんですが……年齢があがってきたら、負けそうな市場に全部のリソースを賭けて飛び込まないのは、1つの知恵です。

日比谷:負ける試合にはしない。

山口:学習のためのチャレンジは大事なんですけれど、コテンパンに負けそうなところに掛け金をオールインしないってことですね。お試しでちょっとやってみればいいと思います。いけそうなら、掛け金を増やせばいい。あ、つまんない手堅い話をしてるな。でも、映えない話だけど、勝率をあげて目的達成に近づくリアルは、そういうことの積み重ねだと思います。

日比谷:ありがとうございます。後ほどノウハウにしたら箇条書きで15個くらいいきそうな感じがしますね。記事化がんばろう。では、どうもありがとうございました。

山口:ありがとうございました。

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