2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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森まどか氏(以下、森):また先ほどもご紹介しましたが、新たな産業を生み出す企業が集まるインキュベーション施設「KOIL」(柏の葉オープンイノベーションラボ)に次いで、今年1月にはSmart & Well-beingをコンセプトに多様な働きかたに応えるオフィス「KOIL TERRACE」 をオープンしています。
先ほどのKOILに加えて、この街全体が都市としてどのようなことをしているのかをご紹介いたしました。リンダさん、どんな印象をお持ちになりましたか。
リンダ・グラットン氏(以下、リンダ):とてもいいアイデアだと思います。データを使って連携できることが増えればいいと思いますし、おもしろいですよね。私は月曜日に、ニューサウスウェールズ州のシドニー政府と一緒に、シドニーで仮想接続の力についてプレゼンテーションを行いました。
オーストラリアのシドニーでは、あらゆる交通機関を統合しています。フェリーやボート、列車など、すべての交通機関をつなぎ、人々がシームレスに移動できるようにしています。このようにサービスを「統合する」という考えがあります。また、人々が何を求めているかを知るために、データを活用することも重要です。
データの素晴らしさは、人々の好みがわかることです。エストニアは非常に成功しています。エストニアではデータをあらゆる種類の興味深い方法で使用して人々の好みを調べて、何をしたいか・何をしたくないかを知ることができます。
このようにデータを利用して人々を結びつけ、その人の好みや希望を知ることができれば、より多くのことができるようになります。これは素晴らしいアイデアだと思います。そして、それは都市の未来でもあります。間違いありません。
森:ありがとうございます。柏の葉の取り組みについてご紹介したのですが、こうした都市の一方で、テレワークが広がったことによって、日本でも「ワーケーション」という考え方やスタイルが登場してきて、そのような自由な働き方も出てきました。
そうしたワークシフターをサポートするのにベストな都市とは、どのような機能が求められるのか、そのあたりも聞かせていただければと思います。
リンダ:私たちは、人々が自宅で仕事ができるようになった時に何が起こるかを注意深く観察してきました。そして、いくつかのことが起こりました。まず第一に、人々は自分の住む地域の一部であることを本当に楽しんでいました。そしてオフィスに戻ってきた時に、オフィスがコミュニティの一部であることを望むようになりました。
そのため、多くの企業がオフィスのデザインを変更しています。都市部ではコミュニティに対してよりオープンで、コミュニティの他の人々も参加できる場所になっています。
もう1つは、「なぜロンドンやニューヨークのような大都市に住んでいるのか?」という疑問がヨーロッパ中に広がっていることです。週に1日か2日しかオフィスに出勤しないのであれば、第2、第3の都市に住んでもいいのではないか、と考え始めているのです。
実際にロンドンでは、ロンドンを離れて主要都市周辺の他の都市や町に引っ越すことを考えています。これは、日本政府が主要都市以外に住む機会を提供するために、常に熱心に取り組んできたことだと思います。
ですから、東京まで2時間かけて通勤しなくても、生活できるようになるのではないでしょうか。人々が在宅勤務を好む理由は、通勤の必要がないからですよね。もし通勤しなくても仕事ができ、生活できる都市を提供できれば、これは非常に大きなメリットです。
リンダ:私自身は、自宅から20分以上離れた場所で仕事をしないようにしています。これは何年も前から決めていたことです。スカンジナビアの都市を見てみると、自転車で通勤している人が多いことがわかります。通勤電車で2時間も過ごすのは、一日の始まりとしてはよくありません。だから生活と仕事を両立できる街なら、それはいいことだと思います。
森:ありがとうございます。都市についていろいろとお聞かせいただきましたが、リンダさんのおっしゃるマルチスタイルの生き方を実現する中で、「ライフとワークの両方を充実させよう」と考えるためには、1つは柏の葉スマートシティのようないろんな個性のある人、いろんな能力のある人たちが集まってきて、新たなものを生み出せるような環境を整えること。
そしてもう1つは、通勤に時間を取られたりすることなく、非常に生活しやすい環境の中で働ける機能を持った都市が、これから求められると考えてもよいのでしょうか。
リンダ:そうですね。また、彼らが自分のビジネスを始めたり、コミュニティを作ったりできる場所でもあります。これはとてもエキサイティングな未来だと思います。
森:ありがとうございます。いずれにしても自分らしい生き方、マルチスタイルの生き方を実現するためには、コミュニティが非常に重要になってくるということなんですね。
リンダ:はい。仕事がよりフレキシブルになれば、これまで仕事でしか得られないと思っていた人間関係やつながりを、コミュニティに求めるようになるでしょう。
森:ありがとうございます。それではここで、講演の事前にライブ掲示板やメールで募集した質問の中からいくつかピックアップして、お時間の許す限りリンダさんにお答えいただければと思います。
すでにお話いただいた内容に重なるかもしれませんが、ご質問いただいておりますので、おさらいも兼ねてもう一度お答えいただければと思います。
それでは、最初にいただいた質問です。「日本では仕事を『生活の手段』ではなく『目的』と考える傾向がありますが、イギリスや欧米の労働者はどのように考えているのでしょうか?」という質問をいただいております。お答えをお願いいたします。
リンダ: 西欧の人々、つまり北米の人々は、今でも仕事を人生の重要な一部として捉えていると思います。日本ほどではありませんが、私たちは日本と同じように長時間働いています。しかし若者が求めているのは、より多くのコミュニティではないでしょうか。特に若い男性は、子どもの面倒を見たり、家族と一緒に過ごしたりしたいと考えています。
西欧の多数の人の間では、仕事と生活のバランスが見直されていると思います。若い男性が「僕は子どもの頃、父親に会ったことがありません。自分の子どもにはそうなってほしくありません」と言っていました。家族も非常に重要になってきています。
もちろん夫婦共働きであれば、より柔軟に対応することができます。今は2つの収入がありますから、時間を融通する余裕があります。先ほど申し上げたように、企業は優秀な人材、特にデジタルスキルを持つ人材を求めて競争しています。そのため、仕事と家庭を両立させたい人にとって魅力的な、より柔軟な働き方を提供しています。
森:ありがとうございます。仕事をすることが目的ではなくて、人生の中で仕事をしたり、家族との時間を楽しんだり、趣味を楽しんだり、そうしたバランスが大切になってくるということでお答えをいただきました。
森:それでは、続いての質問に参ります。「年齢差により、新しい働き方が受け入れられる許容度がすでに違っている気がします。組織において、バックグラウンドもミッションも異なる人たちが、溝を作らずにともに力を合わせて新しい働き方を実現させるには、どういったことに気をつければよいでしょうか」という質問です。
リンダ:質問ありがとうございます。柔軟性については、どの年代の人も柔軟性を求めていると思います。ただ、それを使って「やりたいこと」が違うだけです。30代の人が子どもの世話に時間を使いたいと思っていても、子どもが2人しかいなくて100年生きるとしたら、2年間しか子どもの世話をしなくても、仕事人生全体の中ではごくわずかな割合ですよね。
ですから30代では子どもとの時間を大切にし、40代、50代になると親の年齢に合わせて、親との時間を大切にしたいと考えるようになるでしょう。
柔軟性は若い人たちだけのものではありません。誰もがより柔軟な働き方を望んでいますし、誰もが働く場所や時間について、より多くの自律性と選択肢を望んでいるのです。世代の違いではありません。誰もがそう思っているのです。
森:年齢に関係なく、みなさんが柔軟な働き方を求めているのであれば、選択肢を増やしていくことも大切ということでいいでしょうか。
リンダ:そうですね。企業はより多くの選択肢を提供する必要があります。パンデミックが終われば、そのような状況になるでしょう。
私たちは、世界中の企業が打ち出しているさまざまなオプションを調査しています。例えば、私たちがアドバイスをしているある投資会社では、「1年に3ヶ月間、好きな場所で働けます」と言っています。
別の会社では固定契約で働くことができて、働きたい時にだけ働けば良く、余った日数分は支払うと言っています。このように、多くの大胆で勇気ある実験が行われているのです。
今、企業にアドバイスしたいのは、実験の準備をしておくことです。パンデミック後にどのように働き、生活していくかは誰にもわかりません。しかし、ほとんどの人は以前の状態には戻りたくないと思っています。
しかし、多くの人は以前の状態に戻りたいとは思っていません。そのためには、いろいろなことを試し、うまくいくかどうか、人々が必要としているかどうかを確認し、そこから学ぶ必要があります。ですからパンデミックから抜け出すためには、実験のプロセスが非常に重要になってきます。
森:ありがとうございます。最後の質問になります。「今後は新しい働き方が進む都市や、ソーシャルアントレプレナーが集まる都市が生まれてくると思うのですが、そうした都市が増えてくると、今度は都市と都市の間に新たな分断や格差が生まれてくる可能性もあります。そうしたものは是正したほうがいいとお考えですか」。
リンダ:とても重要な質問だと思います。分裂と不平等の問題です。不平等は都市部で誇張されます。例えば、私が今座っている場所はロンドンの中でもかなりいい場所で、人々は高い教育を受け、比較的高い収入を得ていますが、2マイル(約3.2キロメートル)離れたロンドンのある公営団地では、人々の生活は12年短くなっています。
このように、生活の平等や教育機会の平等には大きな違いがあります。つまり、都市は不平等な場所なのです。いい学校、いい健康、オープンスペース、いい住宅に人々が平等にアクセスできるようにすることが、現在の都市に見られる不平等を減らす唯一の方法なのです。
森:ありがとうございます。以上、質問にお答えいただきました。では、最後に1つおうかがいしたいです。今年の柏の葉フェスティバルのテーマが「READY FOR FUSION?」というテーマで、この言葉に対する感想や印象をお聞かせください。
リンダ:今日の会話に参加できたことを嬉しく思います。私たちの多くは、都市に住むことになるでしょう。世界中で農村よりも都市に住む人のほうが多いのですから。
だからこそ、私たちは都市を再構築しなければなりません。大胆かつ創造的であればあるほど、刺激的です。大胆かつ創造的であればあるほど、人々は新しい都市に住むことができるでしょう。来年日本に戻ってきた時には、早くこの街を見てみたいと思っています。
森:ありがとうございます、ぜひいらしていただければと思います。今日はいろいろとお話をうかがいましたが、マルチスタイルの人生を実現していくために、まず自分がどう変わるか、そして社会がどう変わっていくか、どんな都市が求められるかをいろいろとうかがうことができました。お忙しいところ、今日は本当にありがとうございました。
リンダ:ありがとうございます。
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