障害の「害」は、人ではなく社会が作り出している

笹川祐子氏(以下、笹川):御社のサイトでは、「障害」と漢字表記を使ってらっしゃるのをふと(思い出しました)。今はわりと「障がい」とひらがな表記するところが多いんですね。自治体が始めてそういう流れが日本社会にできてきて、弊社は障害者採用雇用をずっとしていたので、私もブログなどで何かを発信する時にはひらがなの“障がい”を使っています。

今思うとそのひらがなの障がいの”がい”にも賛否両論があった中で、御社は「障害は欠落ではない、個性であり特性だ」と頑と言っています。あえて漢字の「障害」を使ってらっしゃるのかなとお見受けしているんですが、いかがでしょうか。

松田文登氏(以下、松田):本当に笹川社長のおっしゃるとおりです。私たちは「障害は社会モデルだ」と考えています。例えば歩けないことや目が見えないこと、耳が聞こえないことなどの心身の機能の制約が一般的には「障害」と捉えられがちだと思うんですけれども。そうではなくて、階段しかない施設や高いところに物が陳列されていたら、社会や環境のあり方が障害を作り出す仕組みになっていると思っています。

ヘラルボニーはその仕組みを取り除く存在でありたいなと思っています。私たちは障害の「害」は社会にあるものだと思っておりますので、あえて「害」は漢字を使わせてもらっています。できないことをできるようにしていく社会じゃなくて、できることをもっとできるようにしていく社会を目指したいなと思っています。

笹川:深い意図と思いを持ってやってらっしゃることがよくわかりました。御社は双子のお兄さんの文登さんが副社長で、弟さんが社長だとうかがいました。お二人が学校を出てから起業に至るまでどういうご経験をされたのか聞かせていただきたいと思います。

松田:はい。私の弟は、もともとは「くまモン」(のプロデュース)や『おくりびと』の脚本家として知られる放送作家・小山薫堂さんの広告代理店にいました。ライセンスが1つあることによって、経済効果を生み出せる世界を見てきたのでアートデータを活用して、いろんなかたちでそのデータのタッチポイントが増えていくことで、単純に収入としての効果が生まれる世界を作れるんじゃないかなと。

私はもともとプロフィールにもあるようにゼネコンにいたので、例えば建設現場の仮囲いをソーシャルアートのミュージアムにしてしまうプロジェクトをやっていたりだとか、前職の経験を活かしています。得意なところが完全に分かれていて、別々に仕事が回ってきているところがあるので。福祉やアートと一切関係なさそうに見えて、実は関係しているのがおもしろいところなのかなと思ってました。

障害の「支援」ではなく、ビジネスとして挑戦する意味

笹川:まさにお二人の経験が今の事業の中身をしっかり作っているわけですね。これは私の疑問なんですが、御社は2018年の創業からわずか3年じゃないですか。最初実例作りに苦労したとはいえ、2年前ぐらいにはもう、ものすごく多くの新規事業を立ち上げて、大手企業や自治体とコラボを展開して、魅力あるアート作品をさまざまなかたちで社会へ発信してこられているんですよね。

わずか2年ぐらいの急成長と急拡大に驚いていて。だから私は、もしかしたらお二人が大学生で就活をする頃から、将来やりたいことの構想ができあがってて。兄弟でいろいろと話をしながら、「じゃあ兄貴はゼネコンとか地方創生に関わるところにいこう」。

弟は、「俺は企画やアートを学べるところで勉強してきて、2人で何年か後にこの構想をロケットスタートさせようぜ」みたいな約束があって、今こうなっているんじゃないだろうかと。なんか私すごく確信のように思ってるんですけど、どうなんでしょうか!? 

松田:そのかたちだと流れもすごくきれいで、むしろ「そうです!」と言いたいところだったんですが、実はそうじゃなくて(笑)。もともとやりたいことがあって、たまたま(今の仕事に)重なったのですが。

高校から大学時代にかけて、親亡き後に知的障害と自閉症のある4歳上の兄がどうやって生きていくかを考えていたので。例えば自分たちで兄が幸せに生きていけるグループホームのような場所を作りたいよねとか。兄が本当に得意なところでちゃんと仕事ができるような、就労支援施設を作りたいよねと。福祉的な一般社団法人や社会福祉法人などの形態でやりたいよね、と漠然と双子で話していました。

その中で、たまたま障害のある方のアートに出会って「これだ」と電撃が走りまして。こういった作品を通じて、支援的なかたちじゃなくてビジネスとして挑戦していったら、最終的には障害のイメージが変わる。例えば10年後に自分たちが本当に社会福祉法人を立ち上げた時に、障害のある当事者の幸せを追求する場所への近道になっていくんじゃないかと思っていました。

笹川:そうですか。でもやっぱり漠然とした思いや無意識の中にきっとそういうビジョンが見えてたんでしょうね。それが若いうちにいろんなことを一生懸命やることでかたちになってきたんですね。私は何か2人のひそかな約束があったんだろうなぁって。

全員に刺さるプロダクトより、2~3人に突き刺さるものを10個作る

笹川:そして御社のサイト全般は、哲学や思想がすごく言語化されています。抽象概念を言語化するって非常に難しいことなんですね。単なるコピーライティングを上回る言葉の強さって感じるんです。

例えば「異彩を、放て。」「福祉実験ユニット」「障害は欠落ではなく絵筆になる」とかすごいじゃないですか。誰か専門のブランドコンサルの方がいらっしゃるのか。それとも弟さんは小山薫堂さんのもとで、企画の仕事をずっとされてきて、御社のクリエイティブ統括をされているということなので、社長自身がいろんな言葉を書いているのか。そのへんはどうなんでしょう。

松田:それは後者で、私の弟が基本的には言葉というものを紡いでいます。ただ「異彩を、放て。」という言葉自体は、弟の前職の(同僚の)方が創業の日に授けてくれていたんです。

その方はもともと面白法人カヤック出身で、オレンジ・アンド・パートナーズという小山薫堂さんの会社に入ってコピーライティングをやっていた方で、今は株式会社パークを創業されています。会社を立ち上げるお祝いにやっていただいて本当にありがたいなと思っています。

笹川:すごい。じゃあ(他の言葉は)社長が紡いでいるわけですね。本当に一つひとつの文章に、魂から出る叫びのような力強さや、社会への挑戦というか。すごく尖ったものが刺さってくるのを感じますね。

松田:ありがとうございます。私たちはただ資本主義のレールにのって、売上規模を上げていけばいい会社ではなくて、社会の見え方や障害のイメージが変わっていくことが自分たちの収益につながること(が重要だという考え)を持っていたりするので。

どういうアクションで障害のイメージが変わるんだろうとか、すべての人に刺さるプロダクトよりは、クラスに40人いたとして2~3人に突き刺さるプロダクトを作りたいと思っています。それを10個作ったとしたら20~30人に刺さるものになっていけばいいなと思います。そうやっていろんなかたちでアプローチすることが最終的に自分たちの収益に跳ね返ってくると思っています。

笹川:すごい。社長が言語化していくのもすばらしいんですけど、御社のnoteにインターンの大学生や社員さんが書いているものも、御社の理念、ミッションがすっと腹落ちされていて、実に奥深くて。大学生がこんなに上質でレベルの高い文章を書いていることに感動しちゃうんだけれども。

松田:ありがとうございます。

インターンの応募人数に見える、ミレニアル/Z世代の社会課題への関心の高さ

笹川:優秀な大学生のインターンや社員の方もみんないろんな業界から来てるじゃないですか。社員を惹きつける御社の魅力、採用基準や社員に求めるものを教えていただけますか。

松田:本当にありがたいことにミレニアル世代やZ世代と言われる方々は、社会課題に非常に関心が高いと言われていて。それは本当にじかに感じています。例えばヘラルボニーで、以前インターンを募集した時、大学生だけで54名から入りたいと(応募が)きて。人材派遣の会社を一切取り入れずに、SNSのみで(応募が)来る状況は非常にありがたいなと思っています。

その中で会社としては支援や貢献に逃げないところや、「主人公は常に自分である」というマインドを定めているんです。例えば、LGBTQの団体が渋谷で(従業員の)募集をした時に、ゲイの人たちに、「うちはこっそりやっているんだから、お前らみたいな団体がいることが迷惑なんだよ」と言われて。その(団体の)従業員がショックを受けて、辞めてしまった話が僕の中ですごく刺さりました。

「私はこの人たちのためにやっているのに」という気持ちが邪魔してしまうと思っていて。私たちはどっちかと言えば、アートへのワクワク感を伝えたいとか、「自分がベースになる」ところが非常に重要だなと思っています。

採用の中では、「(誰かの)ために」支援するかたちじゃなくて、主語が「自分の」というところがすごく合っていて、大切にしていると思っていました。うまく説明できずに長くなってしまってすみません。

笹川:それはすごく大事なポイントですね。支援してあげる、助けてあげる気持ちじゃなくて、自分が主役なんだよと。自分が生み出した表現が採用基準になっている。経験や資質などで、社員さんに求めるものは他にもありますか? 

松田:「(ヘラルボニーは)企画の会社だ」と考えているので、否定的にならずに何でもアクションしてみるマインドがある人。ちょっとざっくりですが、そこは非常に大切にしていると思います。

笹川:ありがとうございます。いろんな企画や実験が、同時進行している中で(そういう人が大切)。

松田:確かに右往左往で(企画が)出ているので。

「福祉実験ユニット」を名乗るのは、挑戦を楽しむマインドの表れ

笹川:私は派遣会社の時に、販売系のスタッフも扱っているので、小物や食品のポップアップストアの展開とか運用委託をやっていたんですよ。今はコロナであれですけど、ポップアップストアが、数年前からあっちこっちで(開催されていました)。

街中で大きいビルが建つ時に塀で囲っているところに絵を飾る「全日本仮囲いアートミュージアム」(の企画)。この臨時の絵の展示会が「アートのポップアップストア」みたいだと思ったんです。このすばらしい企画は誰のどういう発想で具現化されていったんでしょうか。おそらく文登さんがゼネコン出身で、いろんなことをされてたことがあると思うんですが。

松田:「全日本仮囲いアートミュージアム」は、最初は全国の看板会社さんに協力をいただいてスタートしているんですが。そこから派生して1年半後ぐらいに、非常に強い素材であるターポリンを使うようになりました。その時はJR東日本さんのスタートアップのプログラムに採択をいただいて、第1弾としてこういう企画をやりましょうと、一緒にブレストしながら企画を作っていきました。

「福祉」はあまり失敗しちゃいけないとか、枠をはみ出しちゃいけないという考えがありますが、自分たちは「福祉実験ユニット」の言葉のように、あえて拡張する側でありたいと思っています。そういうマインドが社員みんなに根付いているのは間違いないと思っているので。

「こういうの、やめようよ」よりは、「いいね。それやってみようか」と。その分しっちゃかめっちゃかになるので、集中しなきゃいけない時はもちろんあります。でも、そういう楽しめるマインドのある会社だと思います。

笹川:確かにこの「福祉実験ユニット」の名前がいいですよ。さっきおっしゃったように、「失敗したらどうしよう」じゃなくて「実験なんだからまずやってみようよ」と。そこからいろんな化学反応が出てくることもあると思うんですよね。

松田:ありがとうございます。そう言っていただけて本当にうれしいです。