田中氏が込めた「共著」への思い

阿部広太郎氏(以下、阿部):(田中氏と今野氏の会話で書かれた『会って、話すこと。』は)他に類がないし、僕は今野さんに「新感覚です」ってお伝えしたんですけど。読んだことのない本ですよね。

『会って、話すこと。 自分のことはしゃべらない。相手のことも聞き出さない。人生が変わるシンプルな会話術』(ダイヤモンド社)

今野良介氏(以下、今野):本の感想で、「新感覚です」っていただいたのは初めてです。

阿部:新感覚です。会話を読んでる。会話の本だから会話を読むのは当たり前なんですけどね。そこに1つのあり方が示されていて、当たり前のことと思うかもしれないけど、誰もやっていなかったんじゃないかなと思いましたね。

田中泰延氏(以下、田中):僕が本を作ったのは2冊目で、今野さんとしか作ってないんだけど。最初に驚いたことが、編集者にこんなにいろいろ比重があって、著者は本当に編集者と一緒に作るんだなってことです。それがわかったから、この形(共著)にしたかったというのもあるんですよ。

このタイトルも今野さんがつけたし、「こんな章にしよう」っていう構成も今野さんが作ってくれたし。しかも、最初に今野さんが作った章立てでやるとすごく難しいことがわかって、そうしたら今野さんがまた章を作り変えてくれて、これなら書きやすいっていうこともあって。どっちかっていうと、監督とプレーヤーみたいなところもありました。僕はそれしか知らないから、自然にこの形になったんですよね。

だから橋本さんも「編集者だから」って言うんじゃなくて、その比重に応じて文字になっていくような本も、これからもっと増えていったらおもしろいと思うんですよ。

阿部:過程が読めるのはうれしいですね。

橋本莉奈氏(以下、橋本):橋本:そうですね。「本ってこういうものだ」という型から入るより、それこそ2人で話していく中でどんどん形になっていくという感じですよね。

なかなか会って話せないからこそ、「実際に会って話している内容」を入れたかった

橋本:でも、私はこの本を読んだ時に、「これは田中さんと今野さんにしかできない本だな」ということも感じました。他社さんの新刊を見ていて、「この企画、うちの会社から出したかった」「いいテーマだな」と悔しく思うことがあるんです。でもこの本は唯一無二すぎて、もう嫉妬心すら沸かなかったですね。他社さんの本なんですけど、「これはすごい本が出たな」って。

今野:うれしいですね。でも申し上げておきたいのは、客観的に見ると、ただおじさんとおじさんが会話してる、ふざけてるだけなんですよね。

田中:キャッキャウフフしてるだけ(笑)。

今野:そう読まれると、もうそれでしかないんですけど。今、なかなか会って話せなくなっている中で、「実際に会って話している内容」を入れたかったというのもありました。難しいかもしれないですけど、アジェンダにとらわれてる「結論重視の会話」じゃなくて、「楽しかった会話」というものを思い出してもらえたらいいなという思いがあるんです。

田中:「しゃべっている」って、それ自体はくだらないけど楽しいよねって。理論だけじゃなくて、その実例を載せたかったんですよね。

今野:イチャイチャしてるのを見せたいわけではなく(笑)。そこを感じ取ってもらえたらうれしいかなというのが、贅沢な願いですね。

田中:今日もTwitterでひどかったよ。4人がマスクなしでこの(アクリル)板だけで集うから、一応「俺は陰性」って載せたら、「泰延さん、良介の子は妊娠してないみたいですね」って、さっそくわけのわからないコメントがつきました(笑)。そこまでイチャイチャしてないわ。

今野:初めて聞いたんですけど。そんなの来てましたか。

田中:大笑いしました。

「対話すること」は「相手から見える景色を想像すること」

田中:そんな4人で今日お会いできるのがうれしかったんですけど。時間が押してはいるので、もしどうしても今この場で質問したいこと、悩んでることについて答えを聞きたいっていうことがあったら、チャット欄に投げてもらえませんか。

阿部:ぜひ感想も含めて、質問もいただけたらうれしいです。

田中:質問来ていますね、一番下の匿名の方、ありがとうございます。読ませていただきます。「相手に伝える努力と、相手との距離感のバランスはどう取ればよいのか、悩みます」。阿部さん、どうですか?

この人は相手に伝えたいことがあるんだね。でもさっき言ったように、距離感を詰めていくと、ちょっとしんどいことになるかも知れないということで、バランスをどう取ればよいのか悩んでいらっしゃる。

阿部:僕自身、ずーっと考え続けてることでもありますね。「ソーシャルディスタンス」っていう言葉ができて、人と人との距離はだいたい2メートルという基準だったり、アクリル板をつけましょうとか、そういったルールがあると思うんですけど。

これは質問者さんと相手の方の関係性にもよるかなと思いますが、基本的に僕は「対話すること」は「相手から見える景色を想像すること」だと考えています。でも相手の立場になって「何が見えるかな」って想像はするんですけど、想像してもやっぱり最終的にはわからないですよね。

例えば自分が泰延さんの立場だったら、「一緒に刊行記念イベントをやりたいです」って嫌ではないだろうなって想像してお誘いしたり。「自分だったらどうかな」って考えながら、距離感を見るようにはしています。参考にはあまりならなかったかもしれないですけど。

田中:いやいや、それはすごくわかる。最低限、「それを聞いた時に相手がどう受け止めるかぐらいシミュレーションしましょうよ」ってことだよね。喜んでもらえるだろうって何度も計算して、それでも喜んでもらえると思うから勇気を出して言ってみようってなる。それ、大事よね。

「相手に伝える努力」は、必ず叶うとは決まっていない

阿部:きっと橋本さんの手紙も、今野さんの一番最初に送るメールも、そのシミュレーションをすごくされているんじゃないかと思うんですよね。「どう読まれるかな」「どう伝わるだろうな」って。

田中:とはいえ、今野さんだって編集者を長くやっていたら、熱意を込めて「どうしてもこの人の心を動かしたい、本を書いてほしい」って思って書いたメールも、スベることがあるわけでしょ?

今野:もちろんありますね。返信すら返ってこなかったりもあるし、「すいません、今忙しいので」だけもあるし、たくさんあります。でも、「まあしょうがないかな」って思えることを書くしかないですよね。

阿部:まさにそうですね。

田中:「相手に伝える努力」って質問者の方は書いてくださってますけど、これは叶うとは決まっていない。一方通行で終わるかもしれないし、叶うほうが少ないですよ。相手に伝える努力が全部叶うんだったら、俺なんか街を歩く度に美女にモテモテなはずじゃない? でも、そうはいかないからさ。

「向こうが来る状況を作るために自分が努力する」という考え方

田中:この本の中でちょっと意地悪いことも書いてあるんだけど、本当にそうだなと思うのは、「ブラッド・ピットがあなたに何か伝えようと家まで来ましたか?」「トム・クルーズが自己紹介して、あなたに無理やり映画を見せようとしたことがありますか?」。

違う。自分が自分のやるべき努力とか価値を発揮すれば、相手が来るはずなんだと。それに対して、断るか受け入れるかを自分が決めることができる。そうなったら人生思いのままじゃないですか? ちょっと意地悪いんだけど、でも少し本当のことですよね。

例えば、自分がたまごの大食い競争で200個食えば、大食いの雑誌が取材に来るじゃないですか。そしたら、自分がその雑誌に出たいか出たくないかを決めることができる。

相手を動かすために「熱意を持って伝えたい」っていうのも大事なんだけど、そうじゃなくて。伝えたい、動かしたいと思うのも大事だけれども、相手に関係なく、「向こうが来る状況を作るために自分が努力する」というのも、1個あると俺は思います。そればっかりじゃないけどね。

阿部:泰延さん、ありがとうございます。

「こうじゃなきゃいけない」と、解釈が凝り固まると苦しくなる

田中:どうでしょうか、質問者さん。相手をこうしたいとか、うまくいかないって悩みがグググッときた時は、こっちの本(『それ、勝手な決めつけかもよ?』)を読んでもらったらいいと思う。

『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン)

解釈が凝り固まる時があるから、苦しくなるのね。この間の2人の対談で、阿部さんの長年の友だち……何君だっけ?

阿部:スージーですね。

田中:そう、スージーの話がめっちゃおもしろいから(笑)。

阿部:そうなんですよ。親友に振られ続けた話があって。やっぱり「こうじゃなきゃいけない」って思い込んでしまうと、相手からレスポンスが来なくなるので、時間を空けることも重要なんだって、前回泰延さんとお話しさせていただきました。そのアーカイブはクリスマスの時期まで見られるので、もしよかったら前回も含めてご覧いただけたらと思います。

田中:スージーとの話が死ぬほどおもしろいから大好きなの(笑)。

阿部:勉強になることもあるのでぜひ参考になれたら。「解釈すること」も時には大事だと思います。

会話するときの「緊張感」を、悪く思わなくてもいい

田中:あとお一方だけ、質問に答えさせていただきたいんですが。

阿部:最後、このホンダさんの質問はぜひ。「会話する時に緊張感を感じる時にはどうしたらよいですか?」。緊張感、感じますよね。

田中:俺はないと思われてるけど、やっぱり緊張するよ。ぜったいしますよ。会話する時になぜ緊張感を感じるかといったら、例えば僕だったら「2時間のトークショーだから、ちょっとおもしろいこと言わなくちゃいけない」とか、「気のきいたこと言わなくちゃいけない」とか、「お金を払ってくれてるからなんか言わなくちゃ」とかね。

「何々しなくちゃいけない」っていうのが、やっぱり緊張するんですよ。これは商売だし、みなさんにおもしろがってほしいからやってるけど、ふだんはそうじゃないはずです。そんなに商売かかってないし、ぜったい成果出さないといけないってわけじゃないから。「これは商売じゃないんだ」って思ってほしいな。

阿部:きっとホンダさんが「ああしたらどうしよう」「こうなったらどうしよう」って緊張することって、実は心と体がウォーミングアップしてるってことだと思うんですよ。解釈のうちの1つですけど、むしろ緊張することを悪く思わなくていいんじゃないかなと思います。なにかに備えようとしているんだと思いますよ。

田中:緊張0もやばいからね。失言はするしね。

阿部:まさに。距離感のちょっと怪しい人は、緊張0の人が多いかもしれないですね。

田中:ホンダさん、ちょっと緊張してるのはいいことですよ。だいたい俺らが失敗するのは緊張0の時やから。

阿部:そうですよね、ありがとうございます。

田中氏と阿部氏の会話がまさに「会って、話すこと」

阿部:もう本当にあっという間に時間が過ぎてしまって。

田中:30分もオーバーしちゃってごめんなさい。いくらでもしゃべりたいんだけどね。またこういう機会作ってお話できるといいですね。前回、今回と刊行記念だったんですけど、それこそ阿部さんと好きな本の話でもいいし。ここ本屋だからさ。

あとは、僕たちの仲間で本を出した人を囲んで、ここでこの話の続きを、別の人の刊行記念でさせてもらってもいいし。また、みなさんとお会いできたらと思います。

阿部:最後に一言ずつみなさんからいただいて、おしまいにしましょうか。じゃあ先に橋本さんから。

橋本:ありがとうございます。田中さんと阿部さんがお話している様子を見て、「やっぱりこれこそが『会って、話すこと』だよ」と思いました。話を聞いていて楽しかったですし、こうやって輪に入れていただいてもすごく楽しかったです。

ぜひみなさんにも田中さんの『会って、話すこと。』と、阿部さんの『それ、勝手な決めつけかもよ?』を一緒に手に取っていただいて、阿部さんの「解釈」の力で自分の心をほぐしていただきつつ、いつかみんなで会えるときに「会って、話す」ことをやってもらえたら、毎日が少しでも楽しくなるんじゃないかなって思います。

田中:本当に優しい本なんだよね。この2冊はコロナでしんどい時に読むとわりといい気がするな。ギスギスはぜったいしないから。「コロナワクチンの真実」とかそういう本じゃないのでね。

橋本:はい、どちらもぜひ今こそ読んでほしい本です。ありがとうございました。

「ボケにボケを重ねること」と「解釈すること」は似ている

阿部:今野さん、お願いします。

今野:ありがとうございました、お邪魔しました。今回に関して言うと、さっき「阿部さんと僕が似ているかもしれない」と勝手に言ったんですけど。「ボケにボケを重ねること」と、『それ、勝手な決めつけかもよ?』で書かれている「解釈すること」って、すごく似てるなと思っています。

たぶん田中さんを見ている人とか、今日ご覧になった方って、「ボケのセンスがなくちゃいけないんじゃないか」とか「笑いの技術が必要だ」って勘違いされちゃうかなとも、ちょっと危惧してるんですけど。

そうじゃなくて、「物事の見方を変える」。今まで見てたことと違う見方で物事を見てみることが、田中さんおっしゃる「ボケ」でもあると思います。物事の見方が固まりがちな状況や時代だからこそ、今読んでほしい2冊だなと真剣に思っています。まだ読んでない方は、ぜひご覧いただけたらありがたいです。ありがとうございました。

田中:どっちの本もテクニック的な話が少ないからね。「心構えで楽になる」っていうことばかりだから。技術はいらないし、「おもしろいことを無理に言うテクニック」とかないから、そこは楽にやってほしいなと思いますね。

人と話すのが恋しいすべての人へ

阿部:ありがとうございます。僕も最後に1つだけ。

コロナのこの状況のもどかしさとか苦しさは、どこかしらみなさんも感じていらっしゃると思います。そういう「心のガス」みたいなものが充満している時に、解釈することでガスが抜けて、心が軽くなればと思って、橋本さんやチームのみなさんと一緒に作り上げたのが、『それ、勝手な決めつけかもよ?』という本です。

それから僕、泰延さんの本を読んでコピーを書いたんですけど。

田中:おお!

阿部:「人と話すのが恋しいすべての人へ」って書きました。9月末で緊急事態宣言があけるかもなんですけど、やっぱりこのリモートの状況で、なかなか飲みに行ったりするのが厳しい中で、もうそろそろ誰かと会いたくなってきてる。でも、気をつけなくちゃいけないという部分もある。その「恋しさ」を持ってる人に読んでもらえたらうれしいです。

今日見てくださってる方はきっと、『会って、話すこと。』をすでに読んでいる方やこれから読む方が多いと思います。この本はやっぱり「誰かと会って話すってめっちゃいいよね」っていう本だと思うので、ぜひ人と話すのが恋しいすべての人に伝わっていくといいなと思ってます。ありがとうございました!

田中:ありがとうございます。最後に田中のほうから。僕はファイザーでしたけど、2回目のワクチンはめちゃくちゃ熱が出て、1週間ぐらい寝込んで、なんとかこの対談に間に合いました。ワクチン2回目は大変な人もいるので気をつけてください。僕から言いたいのはそれだけです。

阿部:(笑)。本当に楽しかったです。ありがとうございます。

田中:ということで、またみなさんお会いしましょう。ありがとうございました。

阿部:ありがとうございました。感想待ってます。