「カリスマ的リーダーの組織」「リーダー不在の組織」それぞれの問題点

鎌田華乃子氏(以下、鎌田)『コミュニティ・オーガナイジング』でも言っているのは、「リーダーシップチームを作ろう」ということです。「リーダーを作ろう」とは言ってなくて、リーダーシップチーム。チームとして機能する範囲の人数で、それぞれがリーダーで、それぞれが役割を持っていて、チームとして動いていこうと。さっきのリーダーフル(リーダーがいっぱいいる状態)という表現に近いかもしれないですけど。

リーダーシップチームを強調する形を作ったのは、私の師匠でもあるマーシャル・ガンツというハーバードで教えている人です。自分が活動家だったときに、シーザー・チャベスという西海岸ですごく有名な農場労働者のオーガナイザーとコミュニティ・オーガナイジングをして、多くの労働者リーダーを育て、農場の労働条件を改善し大成功したんです。

しかし、成功が重なるにつれ、チャベスが1人のカリスマリーダーっぽくなって、組織がだんだんおかしくなっていったらしいんですよね。うまくいってたときは、チャベスだけじゃなくていろんな人たちのリーダーシップがあって、お互いがお互いに責任を持ってやっていたと。

だから、やっぱり誰か1人がリーダーとして突出するんじゃなくて、リーダーシップチームとして機能するのが、持続可能ないい運動になるんじゃないか、ということを伝えたいなと思います。

一方、オキュパイ・ウォールストリートは、組織をつくらないリーダーレスな運動だと言われてたんですけれども、そこで何が起きるかというと、社会の支配的な構造がそのまま運動の中に持ち込まれちゃうんですよね。

論文にも書かれているんですが、例えばオキュパイの会議に行くと、白人男性ばかりが話しているとか。ジェンダー平等のテーマで話す機会だったのに、なぜかパネリストが白人男性ばかりみたいな。差別も横行してた。決まりがないと、非公式の決まりがどんどん決まりを作っていっちゃうんです。

老若男女関係の無い「水平な関係の組織」をつくるために必要なこと

鎌田:だから、若い人の声を尊重したいとか、女性の声を大事にしたいとか、マイノリティの声を大事にしたいというような運動をつくるうえで、組織はすごく大事なんですよね。みんなで納得できるルールをちゃんと作って、「ノーム」と呼んでるんですけど、それをみんなで守っていく。それが組織の文化をつくっていくので。行動が大事ですね。

斎藤幸平氏(以下、斎藤):面白いですね。確かにノームをしっかりと作っていくことですね。それはそうだな。

鎌田:何もないと、要は声の大きい人の意見が通っちゃうわけですよね。日本の田舎とかそうだと思うんですけれども、物理的に一番声が大きい人の声で決まると聞くので。

斎藤:そうか。そういうのをどう作っていくかをしっかりと勉強したりしてやっていくのが、リーダーフルな人たちというイメージですかね。

鎌田:そうですね。水平な関係の組織をつくっていくことは、お互いのことをよく知ってないとできないと思います。人間的なつながりができると上下関係は要らないじゃないですか。同じ想いを持ってるんだと思えば命令関係なんて要らないので。そういう関係をまず作れる力、本では関係構築の章で詳しく説明してるんですけど、そういうスキルがすごく大事だと思います。その前提があった上で、ノームや決まり事を作って、水平に展開できるチームを作っていく。

斎藤:これは自己批判でもありますが、確かに日本ではNPOやNGOでも、男性の、しかも年上の人が決めていっちゃう。まぁ、これは(アリシア・)ガーザもこの本(『世界を動かす変革の力』)で、アメリカの運動もそうだと書いてましたけど。いろんなメインの仕事をやってるのは女性なのに、表に立つのは男性だ、という記述があって。

日本から見ていると非常に進んでいて、いろんなプログレッシブな価値観や運動があるように見えるアメリカでもそうだということで、普遍的な構造なんですね。そういうところをしっかりと変えていくような運動にしない限りは、また別の形での分断をつくってしまう。結局(SDGsの考え方とされる)「誰も取り残さない」ということは、徹底した批判なしには無理だということですよね。

「力関係を変えること」は、単に「ひっくり返すこと」ではない

斎藤:革命について、昔は資本家が労働者をいじめてたけど、革命が起きると今度は資本家たちが徹底的にたたかれる、というような、逆転やリベンジみたいなイメージが一般的にあると思うんです。

鎌田さんの本の例でいうと、教頭先生のルールを撤回させて、今度は先生のことを無視するような。でもそうじゃなくて。新たに生まれてくる社会は別に教頭先生が奴隷になる社会じゃなくて。むしろ新しいパワーバランスの中で、場合によってはもっと豊かな社会になるかもしれない。

教頭先生もそれまではストレスを感じていて小学生たちにきつく当たっていたのが、ストレスから解放されて、子どもたちと気軽に触れ合えるようになったり。小学生の側も、もっと勉強しようと自発的に思うようになったり。

力関係を変えるというのは、ひっくり返すこととはまた違って、新しい豊かさとか、楽しさとか、そういうものをつくり出すきっかけになるんだということが重要で。社会運動の中で僕らが、先ほどの男性性への反省とか、積極的にそういう課題に取り組んでいくのは非常に重要だし、そこから見えてくる新しい可能性はたくさんあるんだと気付けば、むしろそこを反省することは恐れることでもないんじゃないかなと思ってます。

これからの社会運動では、日本の「神道」の考え方が役に立つ

鎌田:日本では、運動してる人や活動してる人で、何かをぶっつぶしたいと思っている人はそんなにいないというか、そこまで思ってないと思います。アメリカでは、社会運動やNPOに関わっていると、特定の人や団体を指して悪だって言うんですよね。彼らは悪だ、どうやっても善にならない、と。二元論としてはっきりしてると思うんです。

キリスト教で神は絶対的な善の存在、それに対して悪がある。日本がこれから社会運動で世界に貢献できるんじゃないかなと思うのがここなんです。

日本の神道では、神様が見守るだけじゃなくて、いたずらや悪さしたり、変化しますよね。状況に応じて神様はあり方を変えるし、私達が神様とちゃんと関係性をつくってないと、おかしくなることがある、という絶対なものがないという考えです。

だから例えば、教育委員会からのプレッシャーやストレスで教頭先生がちょっと厳しくなってたというように、状況によって人は変わる。二元論じゃなくて、「絶対的に悪な人はいないんだ」という認識が、結構大事なんじゃないかなと思うんです。

手放すことによって、新しい世界をつくれるようになるんだということも。斎藤さんの言うように、資本主義というのは希少性を大事にしてる。希少性を持ってる人はそれを手放したくないだろうなと思うんですよね。

どうやったら手放せるようになるんだろうと考えると、それを手放したところでおかしくならないし、つぶされないし、むしろあなた自身にとっても良くなるんだという世界を示していくことが、すごく大事なんだろうなと、今お話を聞いてて思いました。私も、どうやったら説得できるんだろうと思ってたんですけれども。

斎藤:ええ。

鎌田:今のものをつぶすんじゃなくて、新しい世界をつくっていく、というふうに見せることって大事だなと思いましたね。

社会を変えるのは「トップダウン型」ではなく「ボトムアップ型」のアクション

斎藤:魅力的なビジョンを出すことで、今の自分の立場とか党派性を超えるような大きな運動をつくっていきたいですよね。

左派リベラルの中でよくあるのが、個々の問題についてどう思うのかを踏み絵のようにして、一つの点でも意見が違ったらバッシングするわけですけれども、そこで分断していると相手の思うがままというか。そうしてる間に共和党とかがどんどんQアノン(アメリカの極右の陰謀論)みたいなのを増やしていく。それだと社会はいい方向にならないので。

やっぱり、99%がみんなでいい社会をつくっていけるように、いろんなイシューを超えたビジョンを出していく必要があって。そこでやっと政治の話になってくると思うんですよね。

僕は『人新世の「資本論」』の中ではほとんど選挙や国の話はしてないですけど、それは重要じゃないということではなくて、重要ですけれども、みんなそこに意識が行き過ぎているから。僕が示したかったのは、オーガナイジングからスタートして、大きな運動をつくって、その結果として選挙で勝つんだということ。だから、選挙で勝つためにも下から始めていかなきゃいけない。ある種の逆説みたいな、一つのジレンマなんですけどね。

気候変動とかでどんどんタイムリミットが迫ってくると思うと、僕たちはトップダウン型のガラガラポンに賭けてしまいがちになる。そういうある種の誘惑を断ち切り、社会を本当にいい方向に変えていくためには、みんなが主体的にアクションを起こすような運動をやっていくしかないんですよね。

鎌田:ほんとそうですね。急がば回れで、時間がないときこそ大事なことをしっかりやることの効果が最後に出てくるので。そこは伝えたいなって思います。

組織を作るときの2つのポイント

鎌田:先ほど言われたように、組織とか運動が互いにつながっていくこと、例えばジェンダーの問題と環境問題とか労働問題とかがつながっていくのが大事だなと思うんですけど、2つポイントがあるかなと。

1つは、ジェンダーにしても、環境にしても、その団体の人たち自身が、問題に関心を持ってくれた人たちをしっかりオーガナイジングしていくのが大事ですよね。そこが欠けてるとどうにもならない。

2つ目はアメリカではよく市民団体の連合体というものをつくるんです。ある団体の掲げるポリシー全部に合意するから一緒に全部やる、ではなくて、この1つのポリシーやイシューに合意するから、例えば50の団体と一緒に1つのイシューについて連携する。それは日本の社会運動団体も見習うべきだと思うんですよね。

ただ、アメリカでもオーガナイジングに力を入れてない団体も結構多いので。弱い団体がつながって連合体をつくることが起きています。そうするとあまり強くない連合体が出来上がる。それはあまり意味がなくて。各団体がしっかりオーガナイジングして、その人たちがさらにつながっていくのがとても大事。それをもっと伝えられたらなと思いました。

斎藤:各分野の人が、まず環境問題やジェンダーの問題など1個1個についてしっかりオーガナイズしないと、力にならないということですね。

鎌田:そうなんですよね。

斎藤:緩くてもいいから関心のある組織に関わっていく、ということですよね。

社会運動への1歩は、「受け身なアクション」から

斎藤:日本では、まだまだ「そういう運動をするためにどうしたらいいですか」とよく聞かれるのですが、もっと探してみてくださいと。あなたの周りにもそういうことに取り組んでいる組織があるかもしれないし、地元になくても環境団体と環境NGOとかはたくさんある。

最近はオンラインでいろんな交流会やイベントもあるから参加してみるのも一つの手だし、時間がなければ寄付から始める手もあるし。いろんな形でアクションを起こしていける可能性があります。まず1歩を踏み出して、それが合わなければまた別のところに顔を出せばいい。1つ参加したら絶対戻れないというわけじゃないので。

とにかく今はハードルが高過ぎるのが問題なので、まず1歩をぜひ踏み出してほしいなと思います。逆に活動をしてる側も、もっと緩く関われるようなオプションを作ることは必要。先ほどおっしゃったオーガナイジングとモビライジングは違うというのは、非常に示唆的な視点かなと思いました。

鎌田:そうですね。ちゃんとオーガナイジングをやっていこうとするボランティア団体は、はしごをつくるんです。参加のはしごと呼んでるんですけど、最初は「寄付する」とか「ニュースレターを講読する」とか、すごく受け身なアクション。その一歩先に「その団体で企画するイベントやアクションに参加してもらう」があり、次は「組織のミーティングに来る」だったりします。

次の段階は、そのミーティングやアクションの中で、小さいチームのリーダーになってもらう。だんだんステップアップして、その人を成長させて、リーダーとして育てていく。

リーダーフルにするために、そういう段階を作っていくのがすごく大事なんですけれども、その大事さがなかなか分からないので、目の前のことだけ一生懸命やって、人を育てることがどうしてもおざなりになっちゃうんですよね。時間もかかりますし。だから、もっとその大事さを伝えていく必要があるなと思いつつ、参加のはしごをたくさん作れる団体が出てくると、いろんな方たちが参加しやすくなるだろうなと思います。

斎藤:たくさんやることがありますね。

鎌田:ありますね。

『人新世の「資本論」』(集英社新書) 『コミュニティ・オーガナイジング──ほしい未来をみんなで創る5つのステップ』(英治出版)