学びが起こるチームにある「ミッション、余白、インプット」

斉藤知明氏(以下、斉藤):では、Q&Aに移ります。序盤にいただいていた問いになるんですが「『失敗に学べない組織』から『失敗に学ぶ組織』に近づくには、どんな一手、二手、三手があるでしょうか?」と。おそらく「自分の組織を変えていきたい」と思ってる方からのご質問だと思うのですが、どうすれば失敗から学べる組織に近づいていけるでしょうか?

荒木博行氏(以下、荒木):そうですね……逆に斉藤さんの組織ってどうですか? 失敗から学べる組織になってます?

斉藤:ありがとうございます。まず、僕らが失敗から学べる組織になってるか? と言われると、なってるとことろなってないところが、まだまだ混在してるなという感覚です。なっていないところで言うと、すごく忙しいチーム。忙しくて次のことを「やらなきゃ、やらなきゃ」ってなってるチームに関しては、失敗を捨て置いて「成功のHow」を探りにいこうとしてるな、という印象もあります。

一方で、少しゴリっと組織を変えたチームがあるんです。そこは「あなたたちは未来を作る役割を担ってます」というミッションに対して、ほかのプロジェクトマネジメントとか、そういうところはやらないっていう余白を作り出したんです。すると時間的余白が生まれて、未来を作るために何をしなければならないんだろう? と考える習慣がついた。「力学が働いた」という言葉をよく使うんですが、「考えないといけない」という力学がその人たちの心に働いて。

そのチームに対して、今うまくいってる顧客の声・うまくいってない顧客の声というインプットをシャワーのように浴びせる習慣を付け加えたんです。すると結果、プロダクトチームなんですけれども「なんでそれがうまくいってないんだろう?」って考える習慣がついて、失敗から学べる習慣がついていった。

ミッション、余白、インプット。どういうことを任される組織なのか、どういうことに対して余白……「時間的余白」とか「権限的余白」で、学びのための適切なインプットが行われているか? この三方を押さえたチームは学びが起こっているなと解釈を、僕の中ではしています。

酷評の声を受け入れられるのは「ミスター5パーセント」の人

荒木:なるほどね。その具体的な仕組みとともに、たぶん最大のポイントは何か? というと、リーダーの存在なんですよね。「リーダーがどういう人か?」っていうことで、リーダーが“完璧である”っていう立ち振舞いをしちゃうと、失敗を認められないんですよ。だから「自分自身も発展途上である」と。さっきの「世の中がわかってるのは全体の何パーセント」みたいな話があるじゃないですか。

そうした時に「いやいや、まだ私は『ミスター5パーセント』です」という立ち位置になると「失敗っていい情報だね」になるんですよ。ところが「ミスター100パーセント」になったら、失敗はあってはならないじゃないですか(笑)。

わかりやすく言うと、例えば今日のこのセミナーがかなり酷い評価だったとしましょう。そうした時に「斉藤さんはどう総括するか?」という話なんですよ。

斉藤:なるほど。

荒木:「完璧に仕上げた」って思いたいわけですよね。だから酷評している顧客の声に対して「こいつら、ぜんぜんわかってねぇな」というマインドセットになりますし。でもこれはどっちかというと「ミスター100パーセント」のマインドセットなんです。

ところが「ミスター5パーセント」として「そもそも(自分も)ぜんぜんわかってないしさ」っていう立ち位置で「だからそこから学んでいこう」っていう話になると、そういう酷評の声を受け入れられて。「今日マジで失敗しちゃったよ。まず荒木さんっていうセレクション(人選)から間違えたかな?」みたいな(笑)。

斉藤:(笑)。

荒木:すべてが学びの種になっていくっていう話で。だからさっきの「すべてはリーダーであり、その中の人のものの見方がすべてを規定する」と僕は思っていて。知的好奇心の話に集約されていくんだと思うんですよね。

斉藤:僕は1回とことん落ち込んでから「がんばって学ぼう」ってしてますね(笑)。1回ちょっとダメージ食らいますね、まだ。

荒木:ボクシングと一緒でね、カウンターパンチが一番デカいんですよ。渾身の力でなにか「プロダクト作りました!」とかやった時の(周囲の)リアクションがネガティブだと、その反応はすべて否定したくなる。

斉藤:「そんなわけねぇだろ!」って言いたいですよね(笑)。

荒木:そう。まず人間の心理だから、そういうの当然あるんですよ。なんだけど、その時に「いや、でもこれも受容しなきゃいけないな」と。「なぜならば、私は世の中をわかってないからである」となれるかどうか? というのは、けっこう大事だと思ってますね。

酷評を「だんだん受容していくプロセス」をちゃんと踏めるか

斉藤:でもボクシングみたいな話で言うと。僕は「mikan」の時って、リリースして最初の2週間ぐらいクラッシュフリーユーザーが20パーセント。つまり「8割の人は1回はクラッシュしてる」っていう状態だったんです。学生起業だったのでもうボッコボコで、すごい酷評いただいて(笑)。そこでちょっと、慣れたかもしれないです。

荒木:よくリーン・スタートアップとか言われるじゃないですか。ガチガチに作り込まずに、ある程度ベータぐらいから、顧客の声を聞きながらブラッシュアップしていくやり方ってありますよね。理屈としては納得できるんだけど、これ、むっちゃ精神すり減る話ですよ。だって「ベータ版でいいよ」って言ったって、やっぱり渾身の力で作るわけじゃないですか。ブランド毀損できないからそれなりに力入れてやってきた時に、やっぱりネガティブなコメントが出てきますよね。

斉藤:絶対きますね。

荒木:99人がすばらしいって言っても、1人がむっちゃ酷評してたら、その1人にすごい引きずられるわけです。すべては「それをどう見るか?」っていうこと。我々はもう、小さな失敗をいっぱいしてるんです。その時にそういう、ちょっと前提の違う人が入ってきたりとか、そういう声が聞こえた時に、どうしまい込むか? 

しまい込むためには、ある程度、我々のメンタルをケアしなきゃいけないこともありますよね。「今は受け入れられない」っていう状態ってあるじゃないですか。「今これを見たら精神が崩壊する」みたいな。

斉藤:(笑)。

荒木:だからそれは、ちょっと時間おけばいいんです。ただ、1週間おくのか3日おくのかはわからないけど、そういうのを見ながら「でもだんだん受容していくプロセス」をちゃんと踏めるかどうか? っていうのは、やっぱり大事ですよね。

斉藤:良かったです、僕もベッドにくるまって「クソ!」って言ってる時間が大事なんだなって思えました(笑)。そういう時間もあっていいですよね。

荒木:大事ですから。人間そんなタフにできてないから、ポキって折れますから。

「鉈で切り裂く」のではなく「鉈を渡す」ところから

斉藤:では続いての問いです。「ビジョンや行動指針がありますが、タスクが多すぎてエンパワーメントまでつながらない」。さっきの話で言ったら「余白がない状態」ということかもしれないですね。「このタスクを減らすために、なにか下からとれる行動ってあるんでしょうか?」。

荒木:「下から」ねぇ。

斉藤:むちゃくちゃ難しいですね、これは。

荒木:難しいですね。そもそも上・下みたいな概念ができちゃってると、けっこうきついですよね。本当は役割なだけであって「ビジョン・ミッションを決める人」と「それを運用する人」みたいな感じで、役割が違うだけなんですけど。

「上下」っていうね。我々もなんとなく上下って言っちゃったりするんだけど、この「上」「下」みたいな概念が出てきちゃうと「下」と言われている人たちは、けっこうきついですよね。これもどうですか、斉藤さん。なにか心がけてることはありますか?

斉藤:僕もここに関しては、ものすごく痛い経験があって。Uniposを立ち上げた当初ぐらいの時期に、僕はそんなつもりなかったんですけど部下の人から「私はリーダーじゃないから、そこ決めるのはあなたですよね?」って言われたんですよ。

荒木:あぁー、あるある。

斉藤:「私リーダーじゃないんで、そこ決める必要はないと思ってます」って言われたことがあって。ヤバいと思って。「全部決めすぎちゃってたんだ」って。同じようなタイミングで人事部長から言われたのが「お前は茨の道にぶち当たった時に、大鉈を振るいすぎて、すごくきれいにしてレッドカーペットを引いてから周りに渡しすぎてる」と。「そんなんで成長すると思ってるのか」と(笑)。ちょっとスモールな例だとは思うんですけど、そごうの水島(廣雄)さんの例のようなことを言われて。

「『鉈で切り裂く』んじゃなくて『鉈を渡す』ところから始めないといけないんだな」って思ったんですよ。「これでちょっと切り裂いてみ?」って渡して、その切り裂き方のレクチャーまではするかもしれないですけど。そこはすごく気をつけるようになりました。

荒木:でもやっぱり人間がちゃんと会話できるためには、ある程度の信頼関係が必要じゃないですか。だから「信頼残高」ってよく言われますけど、貯金をどうやって増やすか? ってけっこう大事なことだと思うんです。例えば私がぽっと出の新人で、斉藤さんのところに配属されたとして。「いまいちっすよね、この組織」とか言ったら、たぶんブチギレるじゃないですか(笑)。

斉藤:「そうかぁー……」ってなりますね(笑)。

荒木:やっぱりそうだと思うんです。信頼残高をまずしっかり作る、っていうことは必要ですよね。タスクができているのは当然だと思うので、タスクをそれなりにしっかりこなして「まずはコミュニケーションができる状態にする」ということが大事だと思うんです。そこでけっこう見失っちゃうのは、そのゲームにずっと巻き込まれて「タスクを撃ち落とすことだけが自分の仕事」になっちゃうと、これはもう悲劇の始まりなんですけど。

ある程度の残高が貯まったなと思ったら、本質的な問いをする。そういう“場”を提案するとか、なにかオファーしてみるみたいなことは、(まず)やっぱり話を聞いてもらえる人間関係をちゃんと作らないとダメだなっていうのはあります。

組織における「熱狂と懐疑のベストバランス」は8:2

斉藤:今のお話、続いての問いにもつながってるなと思ったのですが「平時に有事のことや本質的な問いを繰り返す人って、めんどくさい人だと思われますよね」と。「評価する仕組みは実現可能なのでしょうか、そんな能力をどう読んで評価するべきでしょうか?」っていう問いをいただきました。さっきの信頼残高が貯まってない状態でそればっかりやっていると「めんどくさい人」っていう評価になっちゃうんですかね。

荒木:そうですね。だから僕はバランスだと思うんです。組織の中で、1人の人が持ってる「熱狂」と「懐疑」のバランスってあると思うんですよ。たぶん「8:2」ぐらいが一番いいバランスだと思っていて「熱狂が8、懐疑が2」。こういう人ってやっぱり、いいんですよね。

つまり「Uniposすげーぜ! これで世の中変えられるぜ!」っていう熱狂があるんだけど、「まぁいろいろ問題もあるよね」っていう懐疑的な部分も2割ぐらいある。懐疑だけが増えていくとシニカルになっちゃうんですよ。「なにやってもムダじゃね? 所詮ちっぽけだよね」みたいになっちゃう。一方で「熱狂10」っていうのも、怖い存在ですよ。

斉藤:(笑)。

荒木:「もうUniposしかありません!!!」みたいな話は、推進力としてはすばらしいんだけれども、極めて危険な状態。つまり、ほかの情報を受け入れなくなって、知的好奇心が閉ざされているっていう話になっちゃうから。

評価っていうのは「あるべき人材像の定義」から始まるじゃないですか。「どういう人がこの組織の中で評価されるのか?」っていう、その人材の定義がズレてるとやっぱり、平気で「熱狂10の人を評価しちゃう」みたいな話になっちゃうんですよね。

斉藤:なるほど。「熱狂10の人」が起こってしまうのが、この「あえて目を瞑ってしまう」っていうことですよね。

荒木:そうですね。ファクターを見逃すみたいなことがあるから。

斉藤:「こういう条件だったら勝てる。でもその条件が瓦解した時を考えられてない」みたいなことが起こるのが、懐疑が不足してる状態。いや、難しいですね。

「導けばついてくる」みたいなことは、あんまりない

斉藤:では次の質問です。「OBばかり打ってしまうプレイヤーは、皆がのっているフェアウェーでプレーすることは可能ですか? 理解度の低いメンバーの導き方が難しいのですが、アドバイスいただけますか?」。

さっきの「フェアウェイ」「OB」。例えばゴールを見つけた上で「こういうフェアウェイの中だったらなにをしてもいいですよ」と。「そこに軸を引くのがミッションであり、パーパスでありバリューだ」ってお話しだったのですが。パーパスでありバリューであったとしても「OBばっかり打っちゃうプレイヤー」。例えば「熱狂100パーセントの人」はそういうことになり得るのかもしれない。

そういう人は、みんなが乗ってるフェアウェイでプレイすることは可能なんでしょうか? それってフェアウェイゾーンを変えていったほうがいいんですかね? こういう状況が起こってしまっている時、どう動いていくのがいいんですか?

荒木:「フェアウェイを変える」っていうのは本末転倒なんで、それはやめたほうがいいです。ただ「導き方が難しい」っていうのはいろんな理由が考えられて、一概に言えないんですけど。まさにこの人(質問者)が書いてるとおり「導き方が間違ってる」って可能性もあるんですが、そもそもトレーニングされてないっていうところがけっこう大きいと思います。人材育成にまだ投資がされてない。投資というのはお金もそうですけど、期間とかも。

そんな「パッと理解できて行動を変えられる人」なんてほとんどいませんから。そうした時に人材育成に投資がされてないと、やっぱり現場ではそういう状態になりますよね。だから組織における人間観ってけっこう大事だと思うんだけど……よく「人は短期的に変えられる」と思ってる人がいるんですよ。「なにか言えばすぐ変わるだろう」みたいな。

いやいや、そんな簡単な存在じゃないって。いろんな生活も抱えてるし、仕事で見えてない部分もいっぱいある中で、人が変わるのはすごく難しいし時間のかかるものだ、と。だからこそ「それに向けてしっかり計画的に投資していこう」っていうことがない会社って、実はけっこう多かったりして。質問者がそういう方だと言うつもりはないんですけれども「導けばついてくる」みたいなことって、あんまりないですよね。

「OB打ってる理由って何なのか?」の探索

斉藤:それが「価値観」みたいな話なんだとしたら、それこそバリュー浸透とか。我々も「実践編のウェビナーでバリュー浸透やってますよ」みたいなことを申し上げましたけど、この時あまり「浸透」っていう言葉は使わないんですよね。浸透じゃなくて「共感」とか「共鳴」っていう言葉を使ったりするんです。本人がそこでやりたいと思える価値観の人なのか? って、すごく大事だと思ってて。

でもOBしか打たない人が、もう「OBしか打たない性質の人」なんだったら、それは残念ながら「お別れしましょう」って話だと思うんですが。そうではなくて、OBを打ってる理由って何なのか? を探索した先に「僕はこっちにゴールがあると思ってます」「森の中に実はゴールがあると思ってます」っていうケースが意外とあるなと思っていて。「ゴールはこっちだぜ」って、ファシリテータ型のリーダーシップにもゴールをちゃんと定義して、「みんなで向かおう」って思わせる力が必要なのは、そういったが理由だと思います。

「実はショートカットがある」と思ってるのか「ゴールが違う」と思ってるのか。それとも「シンプルにやりたくなくて面倒くさがってるだけなのか」によって対処が変わると思うんですが、改めて「なんでそこに打ち続けるんだろうな?」っていうのは気になりますね。

それでは改めて、本日は「失敗から学べる組織ってどうやったら作っていくことができるのか?」。1つのケースしか今日はお伝えする時間がなかったんですが、この『世界「倒産」図鑑』には25事例も掲載されていますので。また、倒産になる前の「大きな失敗」について学べる著書『世界「失敗」製品図鑑』も発売される(記事公開時点で発売中)とのことですので、どちらもお手に取っていただければと思います。

では改めて荒木さん、本日はありがとうございました。

荒木:はい、こちらこそ。失礼します。