大事なのは、目の前の仕事の目的を問いかけること

斉藤知明氏(以下、斉藤):私自身も(過去に)英単語のアプリの運営をしていて。その前は、機械学習でAIの研究をしてたんです。

荒木博行氏(以下、荒木):そうなんですね。

斉藤:画像認識の研究をしていて、今度は「mikan」という英単語のアプリを作って。それで、Fringeに入って「シンクル」っていうSNSを作って、今はUniposをやってるんですけど。僕はこれ、けっこう一貫してると思っていて。

荒木:おぉ、いいじゃないですか。

斉藤:「人の力を最大化したい」んですよね。英単語アプリをやっていたのだって「日本がなんで弱くなってるのか?」を考えた時に、僕はまだ一番大きな障壁が「言語の壁」だと捉えていて「一億総バイリンガルだ」とかって言ってたんです。AIやってた時だって「人間がやらなくていい仕事を奪える世界、人間が人間らしい仕事に集中できる世界が人を強くするんだ」っていって研究してましたし。

結果、今はUniposをやってますけど、これこそまさに人がチャレンジをした時とか……なにか逸脱する行動って偶発的にしか生まれないので。「その生まれた行動をどんどん後押ししていくことで、人の可能性がガッと広がっていくんじゃないか?」って思ってやれているから、僕はUniposにすごく没頭して今はやれてるんです。

ディスカッションの問2として「組織の機能不全を防ぐために組織づくりにおいて大切なことは何か?」というのを掲げています。失敗から学んだり自己確立していける人たちを増やして「一貫性を自分の口で語れる状態」って、自分で強い組織を作っていくためには必要なのかな? って感じたりするんです。

荒木:今の話は、例えば「株式会社斉藤知明」という存在があるとしたら、その「株式会社斉藤知明のパーパスは何なのか?」っていう話ですよね。そうすると「人の能力を最大化する」っていうのが、その組織のパーパスなわけです。それをビジネスとしてはいろいろピボットしてますと。なんだけれども「このパーパスを実現するという意味においては変わってません」っていう話で、これは組織においてむっちゃ大事なことです。

今、目の前に仕事があったとするじゃないですか。例えば「百貨店で売上を上げる」っていう話があったとして、大事なのはその目的を問いかけることなんです。「何のために売上を上げるの? お客さんに商品を売り場で売ってんの?」という意味を問うんですよ。そうすると一段、抽象度高くなりますよね。やっぱり「お客さんの衣食住を~である」と。

そうなると「じゃあお客さんの衣食住を提供することになんの意味が?」と。するとまた1段レイヤーが上がるんですよ。「それは顧客の幸せを高めるためである」「なんで顧客の幸せを高める必要があるの?」ってだんだん上がっていくと、抽象度がむっちゃ高くなっていって、最終的には「世界平和」とかになっていくんですけど。

斉藤:なりますね(笑)。

“体重乗せて語れる”最大の抽象度のものが、その会社の「枠」

荒木:ただ、これで大事なことは「それを本当に体重乗っけて語れるレイヤーがギリギリのライン」ということなんですよね。信じてるラインってあるんですよ。例えば斉藤さんが「人の力を最大化する」と語る口調には、むっちゃ体重が乗っかってたじゃないですか。ただ、その一段上のレイヤーにいくと、ちょっとこう「なんか言葉が浮いてんな」みたいな話にだんだんなっていくわけです。

だから、その企業が信じられる・体重乗せて語れる最大の抽象度のものが、その会社の「枠」なんですよね。その抽象度が高ければ高いほど、可能性はいっぱい横に広がっていきます。「百貨店の売上を上げることである、それ以上の意味はない」って言われた瞬間、百貨店というビジネスとともに心中しなきゃいけないんです。しかし「人の幸福を最大化する存在である」ってなった瞬間、オプションが無限にありますよね。

だから、どこまでを本気で信じ切れているのか? っていうのがすごく大事。これは言葉遊びの話じゃないんですよ。言葉遊びだとなんでも言えちゃうんですけど、それを語る人の口調とか目つきとか温度感みたいなものが「これ、本気で言ってんな」って思えるギリギリのところ。それが会社の枠を決めます。

斉藤:たぶんそれが「会社」でも「チーム」でもそうですし、いろんな組織で比例して起こっていくと思うんです。会社の枠を決めるのもそうだし、チームの枠を決めるのもそうです。あと僕、さっきは偉そうに「人の可能性を最大化することなんです!」って言ったんですけど、mikanの時はそれは言ってなかったです。

徐々に徐々に組み上がっていって、自分が心惹かれたビジネスとかやってきたビジネスって「今思うと、こうだったな。すごい一貫してるな」って後付けでできて。でもそれに、さっきの表現をお借りすると「体重が乗っかった」っていうこと。

僕もまだぜんぜん発展途上だと思っているんですけれども、チームとか組織が成熟していく過程で「何を抽象化して、自分の体重乗っけられる範囲を決めるか」。そしてそれを乗っけようとしてる社員のことをちゃんと支援する、応援する、鼻で笑わない。けっこう鼻で笑われるじゃないですか(笑)。

そこのレイヤーが上がると、どんなコンテンツに触れていっても「『人の可能性を最大化する』っていう軸にはこうやって使えそうだな」って、そごうさんの例とかも捉えるようになっていく。そういう順番だと思うので、学びの抽象度のレベルも上がっていく。そういうサイクルを繰り返していけると、いい組織・学べる組織、成長していく・進化していく組織が作れるのかな? みたいに、お話を通しながらさらに解釈を進めていました。

抽象度の高いパーパスとともに必要な、具体性を伴うビジョン

荒木:そういうふうに、ある意味でパーパスみたいなものが定義されるわけじゃないですか。「ミッション」と言い換えてもいいと思うんですけど、むっちゃ抽象度高いんです。この抽象度が高いものを、ある程度ビジュアル化する必要が出てくるわけですよね。

「『人の可能性を最大化する』ってなんとなくわかるんだけど、ちょっと抽象度高いよね。もうちょっと見えるかたちにして」っていうのが、ビジョンなんです。だから組織を明確にモチベートさせて、同じ方向に進めていくためには、その抽象度の高いパーパスとともに、ある程度は具体性を伴ったビジョンが必要になります。

ビジョンというのは、まさにビジュアルの話ですよね。「あー、なんとなく見えたわ」っていう。それが例えば「3年後ぐらいにこういう存在になっている」とか「だいたい数値として売上はこれぐらいかもね」とか、そういった話があるかもしれない。これを見える状態にしておく。

さらに言うと、この見える状態に到達するにはどんな行き方でもいいの? っていったら“フェアウェイ”があるわけですよ。「どんな手段使ってでも、これをやればいいんですか」っていうと「いやいや、そうじゃねぇぞ」って話になる。その時にフェアウェイを決めるのが、バリューみたいな話。もしくは行動指針って言うかもしれないんだけど。「こういうことはやらないで」「我々はこういうことにはこだわるよ」。

そのパーパスとビジョンとバリューみたいなものが揃った瞬間、我々はエンパワーメントができるんですよ。「このフェアウェイで、あとはみんな柔軟にやって」って。いろいろ問いかけとかもどんどんしていいし、いろんなチャレンジしていいし、いろんな失敗していいけど「この大きな目的と見えるものにこだわって、このフェアウェイでがんばろうぜ」みたいな。

ところが、我々はそういうコミュニケーションをしないで、とりあえず「来期は売上(目標)10パーセントアップね」みたいな。そういうコミュニケーションで終わっちゃうから、考えられない社員ができあがっちゃうわけなんです。

「引くフェアウェイが狭すぎる」問題

斉藤:そごうさんの内部の事情は僕も知らないんですけれども、たぶん水島(廣雄)さんが「ここにゴールがあるよ」って引いたフェアウェイが、すっごく狭かったんでしょうね。「ここをちゃんとまっすぐ歩いてください」っていうルートにしたがって、みんながズラズラと歩いていた。そこが一気にOBゾーンになった時に「あれ? どこ歩けばいいのかわかんない」と。

荒木:そうそう。

斉藤:そうなって、ガタガタって崩れていった。そういうことなんだろうなって思いました。チームでも起こりますよね。「売上を上げるためにこれだけやってくれ」ってセールスチームとかでオーダーした時に、それ以外のことはやらなくなる。それが全部外れた時に「じゃあ次、何やればいいですか?」ってリーダーに確認する部下ができる構図って、引くフェアウェイが狭すぎるんですね。そこでタスクを詰め込みすぎちゃう。

荒木:そうですね。だから平時と有事もちょっと違うと思うんですよ。本当の有事っていうのはある意味、思考停止でもいいから「とりあえずこれをやり切れ」っていうマネジメントも、時には必要だと思います。それを乗り切ったあとの平時は、まさにパーパスからビジョンからバリューまでをみんなで考えつつ「じゃあ自由にこの範囲でやってみようか」っていう話になっていくわけですよね。

だから必ずしもそういうやり方が、いつのタイミングでも正しいか? っていうと、そうではなくて。本当にヤバい場合は、もう問答無用でとにかくやり切るみたいなことも必要です。でもそれがずっと有事(と同じ「とりあえずこれをやり切れ」状態)になっちゃうと、キツい。

斉藤:なるほど。だからこそ「今うまくいってるよ組織こそ『ちゃんと疑え』」って最初におっしゃったのは、そういうことなんですね。

荒木:そうなんです。

現場での偶発的事象を、みんなで背中を押し合い「いいね!」

斉藤:ありがとうございます。この後にQ&Aコーナーにも入りますが、その前にUniposのご紹介をさせてください。さっき僕が申し上げた「人の可能性を最大化する」その手前の「まず組織を変える行動を増やす」。組織の中で「もっとこうしていったほうがいいんじゃないか、もっとこうするべきじゃないか?」って一人ひとりが考えて生み出した偶発的な行動を、みんなで後押しして。「どんどんやったれ、やってみなはれ!」という精神を埋め込んでいくサービスとして、僕らはピアボーナスの「Unipos」を展開しています。

仕組みとしてはこんなかたちで。「AさんがBさんに対してポイントを送れます」「そのポイントを送ることによって、オープンな場所でしか称賛のメッセージって送ることができません」。オープンな場所で送られるので、それを見た人はポチポチと「いいね!」することができて。

例えば僕が「荒木さん、今日はありがとうございました」って送ったのを、僕と荒木さんだけで閉じるんじゃなくて「ここが僕にはすごい刺さりましたし、助かりました。荒木さん、すばらしいですね」っていうコメントに対して、それを見たみんながポチポチと「いいね!」することによって、荒木さんのチャレンジだったり行動が後押しされていく、そんな世界です。

「人事から見える」とか「経営から見える」って、本当に狭い領域のことでしかないので。現場でポツポツと起こってる偶発的な事象に対して、みんなが背中を押しあって「いいね!」「いいね!」ってやる。そんな世界を作っていきたいと思って、Uniposというサービスをご提供させていただいております。

平時・戦時だと、基本的に平時にご導入いただきたいサービスではありますね(笑)。平時に、なにか逸脱した行動が生まれたときの「それいいじゃん」で、自律的にみんなが考える力をつける・習慣化するようなサービスだと思ってます。なので「称賛」って書いてるんですけれども、実は「これいいじゃん、もっとやりなよ」っていう応援とか、あとは「この取り組みすごい良かったね」っていう慰労とか、そういう使われ方をされたりしますし、部署を越えてお互いのことを知るような使い方もできます。

それを実現するために(仕組みを)シンプルにしていたり、ポイントも最後は給与に紐づくんですけれども、あくまで「会社として『こういうことが大事だ』」っていうきっかけとして各々が送れる権限を持っています。それがオープンなタイムラインでありますし、上司の方はみんなをフォローしてると、各々が投稿をもらった時に通知がきますので。それで「これいいじゃん」と思ったら「いいね!」を押すと。

そうすることでみんなが日々とっているすてきな行動だったり、小さな工夫、小さな挑戦がどんどん応援されていく社会が、会社の中で生まれていく。そういうサービスです。ほかにもハッシュタグ機能があって、会社として大事にしてる行動をみんなが称賛に紐づけて送るんです。

みんなが「それをしていいんだ」って思える組織へ

斉藤:例えば「前向きに挑戦する」とか「リーダーシップ」「神は細部に宿る」というのが行動指針に入っているとしたら、それを会社として提示するだけじゃなくて、一人ひとりが「この行動って『神は細部に宿る』っぽいよね」というように言語化をして賞賛し合う。それによって、さきほどの言葉を借りると「フェアウェイ」がどんどん浸透していく。みんなが「それをしていいんだ」って思える組織を作り上げていくことの、お手伝いができるかなと思っております。

大小さまざまな規模で、Uniposご導入いただいております。製造業・メーカーのみなさんからIT・情報通信業のみなさん、広告・マーケティング業のみなさん、不動産のみなさん。たくさんの業種でご導入いただいている中で、一人ひとりが小さな挑戦・工夫をできるような組織づくりをご支援させていただいています。

今までは「エンゲージメントの高い組織づくり」とか「組織風土改革の実践プロセス」っていう、実践編のウェビナーをお送りしてたんですけれども。新たに理念浸透だったりですとか、マネジメントにUniposをご活用いただきつつ、Uniposに限らずどういう組織の一体感を作っていくのか、組織作りをしていくのか? という「Uniposウェビナー実践編」というものもご用意しております。