「昭和の成功の余韻」なんて、もう全然ない

――では、そういったさまざまな課題がある、日本のダイバーシティ&インクルージョン推進について。具体的に「こういうところから解決していくといいんじゃないか?」というご意見をいただけますでしょうか。

石原亮子氏(以下、石原):まずは確実に、私たちが解決のための第一歩として考えていることは、一番身近な存在でもある男性の方のほうが、圧倒的に意思決定層として政治・経済分野に多いので、その方々に価値観を変わっていただかなくてはいけないと考えました。だから私たちは、「ダイバーシティ&インクルージョン研究所」ではなく「女性活躍推進総研」という名称にしました。

意思決定をされている層の方々に向けて、まずはトレーニングが必要だと考えています。さっきのホルモンの話だったり、そもそも今の日本が置かれている状況だったりをお伝えして。先ほど極論として“漬物石みたいな世代”と言ってしまいましたけれども、その方々ががんばってきてくださったから今があるので、「誰が悪い」わけでもないんです。でもやはり「変わろうとしない自分がいるよね」ということには気付いていただく必要がかるかなと。アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)含め。

そういう意味では、まずは先ほどお話したみたいな「男女ともに、日本はそこまで余裕のあるポジションにいるわけではない」という危機感を持つことが、すごく大事だと思うんですよね。「昭和の成功の余韻」という余裕なんて、もう全然ないと思うんです。

今みたいな生活を続けられる時間は、そんなに残っていないのかなと。だから、老若男女問わず「自分が何をすべきか?」とか「日本はどう変わっていくべきで、何を守るべきか?」とかを、もっともっと真剣に考えなきゃいけないタイミングに来ている。このままの惰性で今の生活続けられそうな気がしている人、たくさんいると思うんですけど。

そんなことはないんじゃないかな? という、お尻に火が付いている現状を考えることが必要で。

他国の資源を羨ましがるより、自国女性の強みに着目すべき

石原:でも、悲観だけする必要はなくて。「昭和の成功の余韻」で生きてきちゃったが故、日本ってまだできることがたくさんあって、それをやっていないんだよと。

――なるほど。まだまだ「未開拓」のところがいっぱいある。

石原:というか「未着手」ですね。未着手のことがたくさんあって、資源がない国ですけど、日本は女性を「とても有益性の高い資源」と捉えることもできると思っています。他国の希少な資源を羨ましがるよりも、やはり日本の女性の教育水準の高さ、真面目さ。コツコツしたという部分とか、活かせる部分とその強みはたくさんあって。

それを「まだ社会と企業が準備していないだけ」であれば、そこをうまく準備して。働きやすさとか、このコロナを利用して在宅で働くとか、新しい職種を作るとか。 

もっともっとそういった人たちに寄り添った仕事の作り方、生産性の上げ方を考えれば、こんなに大学出ている国って他にないぐらい日本の女性は優秀。なのに未就業だったり、ワーママから戻れなかったり、管理職に就いていなかったり。そういう意味では「未着手」の部分が多い。

女性の「出世したくない」という声から抜け落ちた“ある言葉”

石原:あともう1つは、よくいわれる「女性の『出世したくない・管理職になりたくない』」という意見。よくそこを切り取っていわれますけど、私はその前に言葉があると思っていて。

いろいろ文脈がある中で、よくマスコミが前後を切ってそこだけセンセーショナルに報道しますけど、そこに近いです。成長したくない人は誰もいないし、やはり子どもたちとかその先のために、いい国にしていかなくちゃいけないという考えは、本能的にはあると思うんです。

だけど「『今のお爺ちゃんの美徳でできた国・会社の』管理職にはなりたくない」という意味だと思うんですよね。

――なるほどですね。その後ろの部分だけ切り取られているから「日本の女性には出世欲がない」とか、そういうかたちで植え付けられてしまっている。

石原:そうですね。だからバイアスでもあり、自己防衛本能でもあると思います。女性にとっては、自分たちが生きるかたちに社会が最適化されていないので。さっきの「出世を断った更年期の女性の方々」の事例は世界中にあって、日本だけじゃないんです。

あと行き過ぎた資本主義で、けっこう男性の美徳が反映された社会なんですよね。これは日本だけの問題じゃなく、例えばアメリカもトランプの当選にあれだけ熱狂的な人がいるということは、内陸の方は日本ともさして変わらない課題を抱えているということなので。「隣の芝生が青い」のと「見せ方上手」なだけであって、決していろんな部分でのポテンシャルでは日本も他国も差がないと思います。

ただ確かに、日本は新しいことを受け入れ下手で変化するのが下手。受け入れるのが下手というのは社会でも企業でもまだ根強いと思うので、そこに対して女性たちは、防衛本能から「生き抜くことが難しい」という答えを出しているに過ぎないんです。

家族のことと出世を天秤にかけた時に、両立するのが難しいと判断してしまうくらいの、社会の成り立ちとか価値観とかアンコンシャス・バイアスによって、諦めたくなっちゃう環境が女性にはまだたくさんある。

「外から社外取締役だけ持ってくる」、ある種の“課金状態”

――なるほど。それらを変えていこうとされているのが、御社の「女性活躍推進総研」という認識で合っていますでしょうか。

石原:そうですね。「その社会を誰が作っているの?」というと、どうしても意思決定者は男性方がほとんどなので。その方々はさっきお話ししたように、前向きにこのテーマに取り組んでいたとしても、本当に悪気がないというか。「よかれと思って」これまでも女性に対峙されてきています。

もちろん上場などをしていたら「株主のため」とかで一生懸命やりながら、ダイバーシティにも取り組んでいるんですけど。やはり受けてきた教育と「そんなこと誰も教えてくれなかったじゃん」ということばかりなので。こういった話を意思決定層の男性の方々にすると「ああ、そうなんだ」と、今まで突かれたことないところを突かれたという感じのリアクションをされます。

今までアイテムがなさ過ぎて、そりゃ“無理ゲー”だったなと(笑)。

――なるほど(笑)。

石原:何のアイテムも持たされないし、クリアしてもアイテムは増えない。でもどんどん難易度が高くなっていく『ドラクエ』みたいな感じになっていて。その結果として「外から社外取締役だけ持ってくる」といった、ある意味での“課金”ですよね。

――(笑)。本来だったら自分でうまくなったり、自分でアイテム探したり。つまり社内から引き上げるのが必要だけど、それができないから社外から引っ張ってくると。ちなみに「難易度が上がっていく」というのは、どういったニュアンスでしょうか?

石原さっき言った、資本からの要求が多くなるということですね。海外投資家だけでなく、東証も上場企業に求めるようになりましたし、法律もそうですし。いきなりその方向になって「中小企業でも義務化」とか、上場して資金調達するんだったら東証から「女性役員を絶対入れなさい」といわれるゲームになってきて「えー!?」みたいな。

今はまだ、お金があれば課金(外から社外取締役だけ持ってくること)でクリアできちゃうレベルなんですけど。

男性の経営者・幹部に“知識とアイテム”を渡すプログラム

石原:私たちが今回作った「女性活躍推進総研」がどうものか? というと、主に男性の経営者・幹部の方に、知識とアイテムを渡すプログラムです。

これまで、女性に優しい「女性を助ける・ヘルプする」といったサービスや、オンラインで相談する場所があったりと、色々な機会があったのですが、男性の上の層である幹部の人たちが相談できる先って、なかったんですよね。

いきなりハラスメント研修だけ受けさせられて、日常に戻されて。ビクビクしながら会話してて、うっかり何かしゃべったら「はい、セクハラ!」みたいな感じで。以前は大丈夫だったのに、いきなりパワハラ認定されたり。これもまた無理ゲーですよね(笑)。

「なんでセクハラになるのかな?」というと、知識と理解がないからなんですよね。例えば、生理のことについて「大丈夫?」というときも、正しく女性特有の健康課題やホルモンについて理解した上で、順序立てて会話ができれば、セクハラにはなりませんよね。要は「意図がある会話」になる。でも、そこの知識がすっぽり抜けているので。

――「かたちだけの会話」みたいな。

石原:あとは、週刊誌に書いてあるようなネタのレベルでコミュニケーションをするから、すごく薄っぺらだったり、相手を不快に感じさせるのかなと思うんです。でも男性の方々がきちんと理解するために助けを求める場所がなかったり、誤解なくコミュニケーションする上でのアイテムを持たされてない中、外圧ばかりが強くなっているから「じゃあどうしたらいいの?」ってなりますよね。

「俺たちだって『男は涙を流すな』『男は大黒柱』『男は稼げ』と言われてこんなに強くやってきたのに、急に『こっち行ったらアウト。あっち行ってもアウト』」みたいな感じで(笑)。

――(笑)。

石原:「ハラスメントというゲームで、いきなり3アウトチェンジ」みたいな感じになっちゃったりするので。それはやはり、逆に大変だよねと思います。

正しく学んで、間違っていたことは時代に合わせて正しく変更していって。「女性活躍」のさらに向こう側にある「ダイバーシティ&インクルージョン」を真の目的にする。そしたら「男性も生きやすい社会」になりますから。

「女性活躍は、男性も生きやすい社会につながるんだ!」という第1歩を、私たちと一緒に踏み出しませんか? そのために、ファクトと正しい知識を付けるサポートをさせていただきます! というのが、弊社の「女性活躍推進総研」ですね。

生まれた時点で、可能性が半分消されちゃう世の中

――なるほど。今おっしゃった「女性活躍は、男性も生きやすい社会につながる」というところを詳しくお聞きしたいなと思います。

やはり男性って「多様性の受け入れ」に対する恐怖があると思うんです。さっきおっしゃった「ジェンダーとジェネレーションの2本柱」なので。そこを超えてでも得られる男性側のメリット・生きやすさって、具体的にどういうものがありますでしょうか。

石原:これも最初は受け入れづらいかもしれないんですけど、時間の経過やビジネスのスピードが速いこんな時代では、苦手を克服することに時間をかけすぎずに、お互いが強みを活かし合っていったほうがいいと思うんですよね。

たぶんそれは、夫婦とか人間関係もそうなっていくのかなと思います。そういう意味では、別に男性が大黒柱でなくてもよくなるし、男性が“主夫”になっても普通の時代が来る。別に男性だって泣いてもいいし。

――(笑)。

石原:男性が「ごめんね。ありがとう」って普通に言ってもいいとか。意地でも「ごめんね。ありがとう」を言わないお爺ちゃんとかを見ていると、なんか大変だなと。「ご飯おいしかった?」と奥さんに聞かれたとき、「おいしかった」と言えば5文字で円満なのに、「全部食っているんだから、うまいにきまっているだろう!」って。

――(笑)。

石原:そんな文字数使って仲悪くなんなくても……って思うじゃないですか(笑)。「なんだ、その『昭和男子たるもの!』は?」みたいなね。

生まれてきた時点で、男だからって、もちろんLGBTQの方とかダイバーシティもいろいろいらっしゃるんですけど、「男の子だからこう」と考え方を決めてしまったら、もしかしたら女性に近い感性が強かったり特技があったりした人でも、「男性だからこうなんだ」とその人の可能性が生かされないな、と。そうしたら、生まれた時点で可能性が半分消されちゃうんじゃないなと思います。

――なるほど。

「男らしく・女らしく」ではなく「あなたらしく」の世界へ

石原:「長男だからこう」みたいな「なんとかだからこう」という概念のなかには、いろんな人が作ってきた今までの偏見の塊があって。アインシュタインは「大人の偏見の塊が常識である」と言いましたけど、今は常識自体が変わる時だと思うんですね。偏見とか定義とかいろんなものが。

そういうところでいくと「男らしく」という言葉がなくなる。「女らしく」という言葉もなくなる。「あなたらしく」というところなので、男性も生きやすくなるし。逆にそうなってくると、いろんな人の強みを掛け合わせたりして、生きやすい男性が増えてくるんじゃないかなと。

――そこを乗り越えるまでに、意思決定層の男性は自分の既得権益を手放さねばならないかもしれなくて、すごく恐怖している。

石原:そうですよね。だって「正しい!」とあれだけ教え込まれてきたことを今から手放すって、怖い。例えば自転車に乗っているとして「大丈夫。今、手を離しても転ばないから!」と言われても、絶対に離せないじゃないですか。

――そうですね(笑)。

石原:「本当か?」みたいな。長く信じてきたもの、確固たるものが強かったから。生物学的な違いは配慮しないといけないと思いますが、後天的なものについては、やはり「らしさ」という言葉とか。「男性だから」「女性だから」「長男だから」「長女だから」というもので、たくさんの可能性を生まれた時から奪われ始めている。生まれた時は私たち、何語でもしゃべれる可能性があったはずじゃないですか。

――確かに、そうですね。

石原:だから「生まれた時が100」だとしたら、「らしさ」という言葉を当てはめることでどんどん減点されていっちゃうんです。

――なるほど!

石原:「生まれた時を0」と考えると、「らしさ」を付けると足されているような気がしますけど。でも本当は、生まれた時には可能性100パーセント、1,000パーセント。むしろ無限の中で。

――なんでもなれる可能性を持っている。

石原:そうそう。そう考えると、すぐには難しいけど……たぶんそういうのを取っ払うことによって、今まで「らしさ」を当てはめてきた人の期待に応えようとして「抑えていた自分の可能性」を発揮する人が出てくるかもしれない。

あとは「本当にそうできる職場だったら出世したい」とか。その「出世したい」の意味は、肩書きも給料も上がるという意味もあるかもしれないんですけど、私は女性にとっては「後輩への恩送り」だと思っています。それに気付くと、自分も仕事によって可能性が開けて人生が楽しくなったから、そういう人を自分も作っていきたい・育てて行きたい、という恩送りによって、出世したい女性って増えるんじゃないかなと。

これまで抑えつけられてきただけに、自分が翼を広げた時に「こんな可能性が自分にもあったんだ」って、言葉には代え難い快感を覚えると思うんです。たぶんそれを「他の人にも伝えて」と言ったら、みんな喜んで出世すると思うんですね。

「未着手の可能性」を開花させていくことで見える、明るい部分

――なるほど、ありがとうございます。ではお時間も迫ってまいりましたので、最後にD&I推進に向けて、日々努力している方々に向けて、メッセージをいただけれますでしょうか。

石原:これは「明日、明後日」のレベルですぐに変えられることじゃなく、本当に「20年、30年」とすごく時間がかかるもので。本当に100パーセントの答えはなくて、ずっと模索し続けるものだと思います。

社会というのは一人ひとりの意識でできているので「解決者の一部になる」ということを傍観するんじゃなくて、身の回りのことを振り返ったり、1つでも気付いたことを改善していく人が増え続けることによって、変わっていくことなのかなと。誰かが魔法をかけて「今日からダイバーシティ&インクルージョンになりました!」なんて日は来ないので(笑)。

――(笑)。

石原:なのでそういう意味では、ダイバーシティ&インクルージョンも女性活躍も、すごく果てしない大きなテーマ。しかも「日本は遅れている」と数字でも言われていますけど、決して完璧な国はありません。だから、逆に「日本の未着手の可能性」を開花させていくことで、明るい部分もすごくあると思っています。

一見すると、悲観することはあるけど、やれることはまだまだたくさんある。逆に言えば「課題がある」ってすごく幸せなことだと思うんですね。それは「改善できる」ということだから。本当にペイフォワードの世界だと思うので、ぜひ一緒に何かを変えていくことができればいいなと思います。