来年春に施行される「改正女性活躍推進法」で、日本はどう変わる?

――本日はダイバーシティ&インクルージョンや女性活躍というテーマについてお話を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。

石原亮子氏(以下、石原):よろしくお願いします。

――まず最初に、2022年の春に施行される「改正女性活躍推進法」について。これがどういったもので、従来のものとどのように変わるのか? 教えていただけますでしょうか。

石原:はい。こちらは来年4月から、101人以上いる事業所に対して「女性活躍に関する数値目標の設定と行動計画策定」が義務化されます。いくつかあるうちの1つ以上の数値目標を定めた行動計画を、社内にも周知して社外にも公表していく。必須算出項目は「採用した労働者に占める女性の割合」「男女の平均勤続年数の差異」「労働者の隔月ごとの残業時間・労働状況」「管理職に占める女性の割合」の4つです。

この背景にあるのは2003年に政府が掲げた「202030目標」。「2020年には社会の指導的地位を占める女性の割合を30パーセントにする」という目標です。ちなみにこの目標は、2020年12月にコロナ禍やいろいろなことのドサクサに紛れて、たった1回の会見で「2020年代の可能な限り早期に30%程度となるよう目指して取り組みを進める」に改められています(笑)。

――(笑)。

石原:その目標に対してのマイルストーンとして、改正女性活躍推進法が施行される、というのが日本国内の直近の動き。また資本市場においては、ESG情報を投資判断に組み込み長期的な投資リターンの向上を目指す、いわゆるESG投資が拡大しています。この「Gの部分」にあたるガバナンスのところで、ジェンダー格差の解消と取締役の多様性の確保という側面から「女性の取締役、社外取締役を入れなさい」という傾向が、だんだん色濃くなって強くなっていっています。

この動きは世界的な潮流であり、特に海外投資家はその傾向が一層強い。だから(企業側の)経営者の方からは、その対策を考えるのが大変とお聞きします。

もう一方でSDGsですよね。どの企業も多からず少なからず、すべて取り組むのが正しいんだと思うんですが、1番から17番の中での5番「ジェンダー平等を実現しよう」。これは多くの企業にとって課題になると考えています。

グローバルな視点・マクロな視点で見れば「あるべき姿」の外圧が強まっているということ。しかし国内で見た時には、女性の管理職30%目標を10年も先延ばししてしまうくらいに女性活躍推進は優先順位が低く、なかなか実現が難しい課題であるということ。改正女性活躍推進法は、この辺りの矛盾から置かれたマイルストーンなのではないかな? と思います。

女性の意見の通りづらさの背景にある「2つのG」

――なるほど。そんなマイルストーンの実現に向けて力を入れようとしている日本ですが、以前に石原さまがご登壇されたイベントで「日本のジェンダーギャップ指数は、156カ国中120位だった」とお話されていたのが印象的でした。

そもそもジェンダーギャップ指数というのは、何を基準にランク付けされている、どういったものなのでしょうか? 

石原:120位……昨年の121位から1位だけアップはしましたが、参加国も2か国増えているので、ほぼ横ばいです(笑)。また不名誉なことに日本は過去、どんどん順位が下がっています。

ジェンダーギャップ指数は「経済分野」「政治分野」「教育分野」「健康分野」の4つの基準でスコアが算出されています。この中で「経済分野」と「政治分野」のスコアが著しく低い。「経済分野」では、156カ国中で117位。さらに「政治分野」においては147位。今回の総裁選では「2人:2人」ということで、初めて男女が並んだ感じでしたが、内閣の構成を見れば、見事に「あれ?」という印象。まぁ156カ国中の147位なので、ほぼ“落第点”ですよね。

――そうですね(笑)。

石原:しかも「G7では最下位」、堂々たる断トツの最下位です。私がここでポイントだと思っているのは「2つのG」。今の日本経済における閉塞感や、政界を始めとしてなかなか女性の意見が通りづらい状況の中には「ジェンダー」と「ジェネレーション」の問題があるのではないか? と思っています。特に政界においては60代を「若手」と言ってしまうようなね(笑)。

――(笑)。

石原:60代を「若手」として、80代が「ベテラン」としてこの国のルールを決めているのであれば、「ジェンダー」だけでなく「ジェネレーション」も加えた2つのGが日本の今の閉塞感を作っているんじゃないかと考えました。私たちはビジネス・社会・経済において、法律に基づいた動きが求められたますし、それが指標にも美徳にもなってきますので、この2つのGこそが、今の日本の課題なんじゃないかなと思っています。

「昭和の余韻」だった、平成という時代

――なるほど、ありがとうございます。では他にも「日本のD&I推進の遅れ」を示す数字的根拠があれば伺えればと思います。例えば、御社の「女性活躍推進研修プログラム」のページで「日本は女性が働きにくい国ワースト5なんだ!」といった数字を出していらっしゃって、非常に気になりました。

石原:2021年の国際女性デーに発表されたランキングでは、なんとワースト2位でした。でも実は日本の育児休業制度は世界でもトップクラス。また、大企業であれば、人事制度も研修も福利厚生もかなりリッチだと思うんですよね。それでも女性の上場企業の役員比率は約7パーセント。しかもその多くは、会計士や弁護士などの「士業」から上がってきている女性ではないかなと思います。要は専門性が高いキャリアの女性ですよね。白黒はっきりしていて、男女関係なくジャッジできる職業。法律とか。

――「明確なルールがあるもの」ということですね。

石原:そうですね。

――では「日本はまだまだ女性が働きにくい国である」と数字で明確に示されているにも関わらず、なぜ日本ではD&Iの推進が進まないのでしょうか。

石原:まず1つ目は、経済的な側面での課題です。さっきの話に戻っちゃいますけど“2つのG”のなかで「男性」と「高齢」の方々が退かないからですよね(笑)。“漬物石”みたいな感じになって、たぶん大きく蓋をしていて。例えば経団連のトップのようなところに、時代が変わって三木谷(浩史)さんのような50代の方が入ったら、一気に変わると思います。

――なるほど。

石原:おそらく、日本は昭和の時代に長くその世代の人たちが成功しすぎてしまったので、それを引きずってきた故の執着から生まれるものなのかなと思います。

あとは昭和の美徳。日本では明治時代から「男尊女卑」じゃないけど「女性はこういうかたち・男性はこういうかたち」という、もともと敷かれたイメージを引きずって、親子三代以上がその美徳で来ていて。最近ではかなり変わってき始めていますが、それがまだ残っている。

その「残っている人たち」が、まだ会社の意思決定層にいる。例えば大きい会社さんでは「80歳で名誉顧問」といった方がずっといらっしゃいますよね。アメリカの経団連にあたる「ビジネス・ラウンドテーブル」では、メンバーの中には何名も女性がいらっしゃいますし、年齢層も4~50代が中心で、それに比べると日本は異常事態ですよね。今は、すごくがんばって若返りを図っているようですが、やはり「平成は昭和の延長でしかなかった」というか「昭和の余韻だった」のかなと。

――昭和の余韻が平成。

石原:人口ボーナス期と経済成長期と戦後の復興という、いろんな偶然が重なって。そこにアメリカの属国となった日本の勤勉さが重なって、本当に右肩上がりを長い間続けてきた。でも、気が付いたらどこかから“踊り場”に入っていったんだと思うんです。

だから、その“いい時代”に変革を起こさなかったこと。そして誰も(右肩上がりの成長が止まる可能性を)疑わなかったことから、たぶんもうだいぶ前から停滞に入っていた。途中でバブル崩壊などありましたけど、それでもやはり今まで築いてきた礎が大きく堅かったため、なんだかんだその余韻で30年来られたというのが、実体なんじゃないかなと思っています。

“いい時代”の記憶が刻まれた人たちがずっと上にいる、日本

――自分たちが停滞しているのに対して他国が上がったことによって、結果的に世界全体で見ればどんどん落ちていってしまっているということですね。

石原:「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代の、いい時代の記憶が刻まれた人たちがずっと上にいらっしゃると。メタ認知が高まらないというか、自分たちを客観的に見られなかったのかなとは思います。「それでもずっと行くだろう」みたいな。

――「成功体験が忘れられない」といったイメージでしょうか?

石原:そうですね。もちろん危機を抱いている人もたくさんいたんでしょうけれども。いろいろ要因はあるんだと思うんですけど、総じていうと、今すぐにダイバーシティ&インクルージョンに取り組まなくても人口はギリギリ足りる。

1億人以上いると、なんだかんだでマーケットとしても成り立ってしまう。昭和で築いてきたことや、グローバルを開拓して獲得できたものの余韻で、なんとか経済が回ってこれたんですよね。というのが、まず1つ目。

そしてもう1つのダイバーシティ&インクルージョンが進まない理由は、日本独特の「ほぼ同一民族・同一宗教」という特徴です。島国で、単一民族で育ってきて、肌の色も髪の色もほぼ近しい人が大多数です。むしろ金髪だったらびっくりしてしまう。あとは宗教も、新興宗教以外は基本は「無宗教」か、一応は「仏教」。つまりそもそも違和感を受け入れない状況というか「異文化・異質・違和感を受け入れないでも済む環境」であった。

それってダイバーシティの真逆で、同一化していくということ。日本人の得意なところでもありますけど「同じであることが美徳」という考えを作りやすいというか、その美徳が作られやすい境遇・習慣・国民性があったんじゃないのかなと。さらにそこに「正解ありき」の教育が追い打ちをかけた感じですかね。

――なるほど。

石原:同一民族で、肌も髪も同じ色で、宗教も同じで考えがぶつからない。同じであることが当たり前。ちょっとズレていたらおかしい。さらに、答えが準備された状況で「みんなで同じ答えを言うのが正しい」という教育。ダイバーシティとは真逆の環境と教育を受けてきたので、そりゃいきなりダイバーシティ&インクルージョンといっても難しいよねと。

今の時代、特に私たち40代ぐらいの世代が岐路に立たされているんだと思うんですけど、そういうのもあるんだと思います。

「女性活躍推進していない会社って、クールじゃないよ」

――今までの日本のままで10年後、20年後となったら、さきほどのジェンダーギャップ指数はさらに下がる可能性がある、ということですよね。

石原:そうですよね。101代目の総理が女性にならなかったら、そうかもしれないですよね(笑)。

――(笑)。

石原:私はこの「女性活躍」というテーマで14年間経営をしてます。これだけをやっているというよりも、営業というソリューションを通して、ダイバーシティ、多様な視点を届けるということをやってきていますが、実はここまで各企業が焦っていると感じたのは初めてです。経済においては、ESGやSDGsといった、世界全体で号令がかかっているわけですよね。

海外から資金調達をする企業も多くなっていて、上場してからも海外投資家からどんどん資本を集めたいという意向は、意欲的な会社ほど増えていると思います。こうした企業はすでに大きい会社ばかりですが、20年後にはさらに影響力の大きい会社になっていくと思うんですよね。そういう企業の経営者というのは、やはり30代後半、40代、50代前半。なので、この世代が主役になっていくこれからの時代は、決して暗いものではないと思っています。

しかし資本が「ダイバーシティや女性活躍推進していない会社って、クールじゃないよ」と。しかし、すでに日本で大きくなってしまっている会社は、海外に調達しに行かない企業も多いので、逆に国(政府)以外からお咎めがない。

――資金調達しに行かなくても、自分たちで成立させることができるから。

石原:そうです。なんだかんだ言いながら、大企業には優秀な女性も多くいるので。それでも悩まれていますし、ダイバーシティや女性活躍推進の本気度や優先順位は下がりすい。

しかしグローバルオファリングといって、海外でも資金を調達している企業では、ダイバーシティや女性活躍の状況を必ず問われます。例えば、ESG銘柄と言われているエスプールさんとか、マネーフォワードさんとか。著しい成長を続けている企業はこうした戦略をとって、上場してからも海外から大きな資金調達されています。こういう時に必ず問われる、ということです。

こうした企業が本気でD&Iに向き合い、動いていることは非常に大きいと思います。あとはそうしたメガベンチャー企業の優秀な経営者の方々は、海外でMBAとかも学ばれて、ダイバーシティの感覚を肌で感じていたり、言葉で言わなくてもその重要性はわかっていらっしゃる。そういう意味では、時代の変化と共に一気に変わる時が来るんじゃないかなと思っています。

つい最近まで使われていた「女性“活用”」という言葉

――なるほど。さきほど「『女性活躍』というテーマで14年間やってきている」というお話がありました。御社の「女性活躍推進総研」のプレスリリースで拝見したのですが、石原さまが創業された当時には「まだ『女性活躍』という言葉はなくて『女性活用』だった」と。

2008年でも、そんなレベルだったということですよね。

石原:そうです。何がびっくりするか? というと、外務省のホームページを見ても「外国人活用」と書いてありますからね。「活用」って物に用いる言葉だと思っていたので。でも、今でも普通に「女性活用」とおっしゃる方、すごく男性に多いですよ。

――なるほど。

石原:日本語力の問題なのか、悪気はない癖なのか。たぶんそういう言葉を使っている人たちは、自分たちが「男性活用」と言われても嫌じゃないというか、違いがわかっていないのかもしれないですけど。

――細かいところのニュアンスが、ということですね。

石原:そうそう。正しい日本語のところ。やはりそこは、外務省の「外国人活用」という言葉を見ても「どんだけ上目線なのか?」と感じてしまいます。

でも、つい最近まで「活用」だったんじゃないかな。「女性活躍」になると急に言葉がアクティブになったので、最近は「2~3周りして疲れている」というか。うまくいっていないから「面倒くさい言葉」みたいな感じになってきましたよね。食傷気味というか。

――みんなが「良いもの」としてその言葉を使うから「『女性活用が素晴らしい』という話は聞き飽きたよ!」みたいなことですね。

石原:そう。たぶん小手先でしかやっていないので、改善されない。研修したり、いろいろ制度を作ったりしたけど、結局のところ女性は入社して子どもができたり、育休・産休を取って辞めちゃう人もいたり、管理職になりたがらないとか。

それを今まではどこかで女性責任? みたいに捉えてきたから排他的になったり、「お金かけてやったのに!」みたいな感じになったのはあったんじゃないかと。ですからROIが低かったということは、成功体験を作れなかったということですよね。

――なるほど。女性活躍を推進したつもりだったんだけれども、実は本質を理解していなかった。それで成功体験が得られなかったから「やったけどうまくいかない」といったモヤモヤ感が、上の人々の中に存在しているということですね。

石原:そうですね。根っこには明治から続いている教育があって。その教えがしっかり身に付いているのに、いきなり会社から「女性活躍を推進せよ!」って何も具体的な指示なくいきなり言われて、それで手探りになってやってみたけど、思った通りにならなかったからうまくいかなかったね、と。

やはり頭の中では“自分が上”で「女性活用」という発想が残っている。

「同じ日本人だから、ベースが同じ」という思い込み

石原:そういうところでいうと、うまくいくわけないんです。さっき言った、ジェネレーションとジェンダーと両方のギャップがあって“超異文化のもの同士”なので。

――年齢も離れているし、性別も違うしというところで、まったく違う人々。

石原:そうです。それが共存しているということ、たぶん同床異夢じゃなくて“同床異語”というか。そもそも「同じ日本人で同じ言葉を使っているから、その言葉で通じている」と思っているんですけど、同じ言葉を使っていても捉えている意味が違うんだと思うんですよね。

だからたぶん、コミュニケーションとしては一番複雑というか、最悪なことになるというか(笑)。

――「同じ言語を使っている」と思いこんでいるから、ということですよね。

石原:そうそう。例えば「英語と日本語で話していました。中国語と日本語で話していました」ってなると、違う言語だからお互いを理解しようとするじゃないですか。だけど「同じ日本人だから、ベースが同じ」と思って会話をするから最悪というか(笑)。

――なるほど(笑)。

石原:ダイバーシティには国籍・ジェンダー・ジェネレーションとかいろいろな要素が入ってきますけど、国籍と同じくらい難しい理解の壁がジェンダーにもあるのに、そこに対しては理解の手段がないというか。

例えば私たちがやっているプログラムの中でいうと、女性のホルモンとか生理とか更年期とかの影響で業務に支障が出ることがあるんですが、それって、別に自分がそうなりたくてなっているわけじゃないんですよね。

1ヶ月の半分をプチ鬱状態で過ごさないといけないとか、女性ホルモンの影響は強くて“ホルモンの奴隷”になっちゃうわけですよね。でもそのような理由で「更年期で出世を断った」ということで、日本だけでもなんと約1.3兆円もの経済損失を出していると言われています。

――ええー!

石原:でも多くの人は知らないですよね。そのぐらい更年期ってきつい。たぶん幹部になったり、出世するのって、そのくらいの年齢じゃないですか。男性にも更年期はあると言われていますけど、女性のほうが圧倒的に多いので。

そこで自分自身と出世を天秤にかけると、そんなに辛いものを抱えながら、男性社会の中で「(出世するなら)男性化しろ!」と言われているようなもので。それを断るのは、人間の防衛本能からしたら当然のことだと思うんです。

そういった生物学的な性別の違いをまったく配慮せずにやっていては、上っ面でコミュニケーションしていたとしても、永遠に本質にはたどり着かない。

ほんの一部の話ですけれども、そういうこととかの積み重ねで。理解し合えないまま、共存しづらいまま来ちゃった結果、その「女性活躍」という言葉に対して食傷気味になり、「嫌悪のほうが多くなった」というトラウマを抱えている日本企業は多いのかなと思いますね。