消費者理解は「解像度がすべて」

松本健太郎氏:まず、消費者理解という大きなテーマに関してなんですが、これはあらゆるビジネスの現場において必要なことだと思っています。

言ってることはシンプルです。私たちのお客さんのことについて、なぜ求めているのか、なぜ商品を買うのか、なぜ買ってくれないのか、そもそもどういう用途で使っているのか、なぜそれを必要としているのかについて理解をしないと、私たちはものを作ることも売ることもできませんよね。というのをひっくるめて、消費者理解という単語にしています。

「解像度がすべて」という表現に関してなんですが、当然、消費者そのものの解像度が粗ければキャッチボールができませんよね、ということだと捉えていただけると良いんじゃないかなと思っています。

端的に言うと、ストライクゾーンがあるんだと思っています。ストライクゾーンの中にボールを投げ込むことで、相手から「そうそう、これが欲しかった」「私のことを分かってくれている」というリアクションになるんだと思います。ストライクゾーンを外れてしまうと「私のことを分かってくれていないんだな」「これは私には関係のない商品なんだな」と、思われてしまうんだと思っています。

解像度が粗いというのは、「ストライクゾーンがどこにあるのかが分からない」というのと同義だと思っていて。どこにあるか分からないということは、ボールをどこに投げて良いか分からないということだと思っています。なので、解像度を高めるというのは、どこにストライクゾーンがあるのかを理解をしたうえで、相手に向けてボールを投げ込んでいく(ことだ)と思っていただければ良いと思います。

たった1人のことを深く理解しようとすると、解像度は上がる

解像度を高めていく、これはシンプルなアプローチがあると思っています。具体的にいうと、たった1人で良いので、ものすごく解像度を上げてその人だけを理解する行動をしてみると、一気に視野が広げていくと思っています。

例えば、物ごとを売るとなったとしても、「20代女性向けです」だと、「20代の具体的に誰ですか?」という答えになりがちかなと思っていて。

そういうアプローチではなくて、YouTubeにものすごくはまっていて、YouTuberのライブにも行ったりする。でも職場ではYouTuberのファンだということは公言せずに1人で推してます、という人の「なぜこの人はYouTuberを推していることを言わないんだろうね?」というのを考えるだけでも、その消費者に対する理解度が高まっていくかなと思っています。

たった1人の消費者を観察する、観察を通じて出た疑問をクリアにしていく、また観察を通じて疑問が出ていく。この繰り返しになっていくんだと思っています。そうなった時に、まったく接点のない人に対して焦点を絞るよりかは、まずは身近な人でも良いので「この人だ」というターゲットを決めたうえで、その人に対してとことん理解度を深めていくところからでも始められるかなと思います。

消費者自身の変化を理解し続ける

経営者の方、あるいはマーケターの方が、消費者理解に対して解像度をどこまで高めていくかに関してなんですが、これは終わりのない話のようなもので。基本的に「ここまでやったらゴールです」というのはないと思っています。

理由はシンプルで、消費者自身の内面の心の変化があるからです。これはステージが変わることによって心理が変わる。例えば、会社を転職します、あるいは学校を卒業しますということで、消費者自身の心理が変わるというのもあると思いますし。

中長期的なトレンドで、「痩せている人が格好良い」というところから、「ちょっと筋肉質な人、あるいはちょっとぽっちゃりしている人の方が格好良い」というふうに、トレンドが変化することもあります。

「不易流行」という言葉がある通りで、基本的にあらゆるものは変化をし続けていくので、当然、消費者の心理も変化し続けるものだと思っています。なので、解像度がどこまで高まると良いかというよりかは、むしろ消費者自身は変化し続けるものなんだ、というのを認識いただいたうえで、常に理解し続ける姿勢を保つ。

あるいは、自分の商品を買ってくださっている顧客、なかなか買ってくれなかった顧客も変化するんだという前提に立ったうえで、常にウォッチをし続けることが、本来は重要なのかなと思います。

「何を聞くか」ということに関して、例えば一番最初は自社の商材を持っている人に声をかけるとなった時に、「たまたま身近に買っている人がいる」ということをイメージしていただくと分かりやすいんですけれども。「なぜ買ったのか」「どこで買ったのか」「何がきっかけだったのか」という、ライトな質問で良いと思ってます。

必ずしも消費者が「本音」を言ってくれるとは限らない

ただしたいていの場合、特にマーケティングリサーチにおいて、消費者の方が本音を言ってくれるとは限らないとも思います。対面で、かつ相手が商品そのものの関係者ということで、遠慮というか忖度(そんたく)が走ってしまう可能性もなくはないと思います。そこで出た「こういう理由で買いました」というのは、話半分に受け止めていただいて。

ぜひ注目をしていただきたいのは、「何をきっかけに買ったのか」。つまりそのきっかけに関しては、深く深掘っていただければ良いんじゃないかなと思っています。たいていの場合は、結局日用材であればあるほど「理由なんてない」というのが大半になってしまうので。

ただそれだと、消費者理解にはならないので。理由がないのは分かったにしろ、その人がどういう背景の持ち主なのか。例えば、ある新商品のドリンクがあって、それを何で買ってくれたのかとなった時に、買ったシーンがコンビニで結局は「たまたま良い棚にあって、たまたま目についたから買った」というパターンはあるんですけれども。

どんな商品でも、たまたま目につくことはあるので。なぜその商品に注目の目線がいったのか。そのきっかけを知ることで、その人そのものを知ろうということにつながるんじゃないかなと思っています。

消費者理解というのは、購買のシーンや買った商品、あるいはサービスを利用しているシーンに何を思ったのか、何を感じたのかを聞くことで、その人そのものを理解をしていこう、あるいはその人の持っている心理を理解をしていこうということです。端緒はどんな些細なことでも良いので、それをきっかけにその人そのものを知っていこうというアプローチが大事だと思います。

ファミリーマートとUSJの成功事例

やはり分かりやすいのが、マーケターの方が傑出して成功事例を出されているんじゃないのかなと思っています。例えば最近ですと、ファミリーマートに転職された足立光さん。もともとマクドナルドでCMOを務めておられましたが、つとに業績が上がっているんじゃないかと思っています。

やはりその背景にはプロダクト、商品自体がものすごくおいしくなっていると思ってますし。その中でも定番商品のファミチキに加えて、新しい商品がどんどん出ていっている。それだけではなくて、2021年の夏にはカレーに着目をして、カレーに関するさまざまな商品が出るだけではなく、特定の店舗をカレー色に染め上げるという、ちょっとした遊び心がある仕掛けもされていらっしゃいます。

その他にも、みなさまが求められている事例という観点だと、少し古いものになってしまうのかもしれませんが、元USJでCMOを務めておられてた森岡(毅)さん。

森岡さん自身がUSJというテーマパークを変化させていった部分は、僕自身が大阪出身だったので強く記憶があるんですが。もともとUSJができた当時は、映画のテーマパークという触れ込みだったかなと思っています。そして僕自身は映画そのものに興味がないので、「行くことがないんだろうな」と考えていました。

ただし、消費者に対して心に耳を傾けられたんだと思いますが、「多くの人が足を運ぶ場所はどういうところなんだろう?」というのを、おそらく森岡さんが考えられて。ワクワクドキドキするエンターテイメントの場所にアップデートをしていこう、と思われたんだと思っていて、結果的に業績が大きく伸びた背景があるのかなと思うんですけれども。

おそらくビジネス書では「市場を定義すると」書かれてるんじゃないかなと思うんですが、森岡さんがされたことは、消費者の心に耳を傾けて「何があればUSJに足を運んでくれるのか?」ということを真剣に考えられた。

そもそも、エンターテイメントに求めているものは何なのか、消費者は何があればエンターテイメントだと思ってくれるのか、というのを真摯に向き合われた結果、さまざまな仕掛けがあり、ハリーポッターができ、最近だと任天堂のワールドができたりとか、さまざまな施設ができたりしていますけれども。その根底にあったのが、消費者理解だったんじゃないかなと思います。