雪印では営業からリスクマネジメントまで経験

鹿毛康司氏(以下、鹿毛):はじめまして、鹿毛康司でございます。まずはヒストリーです。福岡県筑豊の田舎生まれで、60年前に生まれました。学生時代にアマチュアバンドをやっておりまして、これはあとで関係あるのでお見せいたします。40年前の私です。

本田哲也氏(以下、本田):貴重ですね。

鹿毛:……ということで、雪印に入りまして、営業・事業・マーケティング・Riskマネジメントと、もういろいろ。相当、本物のリスクマネジメントです(笑)。

(一同笑)

……笑いごとじゃないぞ(笑)。アメリカに行ってMBAを取ったんだけど、結局頭でっかちになってね。今は「マウンテンバイクで遊びましょう」って言っております。それからエステー時代ですね。これは最後の株主総会の笑顔、笑顔、笑顔(笑)。

(当時)クリエイターをやっていて、大学講師をやっていると。大学講師はけっこうまじめにやっております。ということで、わけわかんないけど「マーケター」「クリエイター」「講師」ということで、いろんな会社でやっております。

戦略だらけのマーケティングではなく「心」が大事

鹿毛:マーケティングをやりまして、それから戦略を作って。そして、これをクリエイティブに持っていくという、この変換がめちゃくちゃ難しくて。みんな苦労してますよね。今、片山さんも苦労しているでしょ?

片山義丈氏(以下、片山):そうですね。

鹿毛:ね。仲畑貴志さんを知らないっていうのは罪悪です。

片山:すいません(笑)。

鹿毛:「好きだから、あげる。」の丸井グループの(コピー)を作った人じゃないですか。

片山:「おしりだって、洗ってほしい。」(TOTOのコピー)ですね。

鹿毛:「おしりだって洗ってほしい。」を作っている人ですよ。エステーってそんなに大きな会社じゃなくて、マーケティングがクリエイティブを持っていく時に、もうこれ自分でやってやろうと思いまして、自分でやり出したんです。

マーケティングの戦略からクリエイティブに行く時に、マーケティングって「戦略、戦略」でね。みんな難しい話ばっかりするけど、俺は難しい話はようわからん。だから、これを自分でやろうと思って。このクリエイティブの、ラストのエンディングの本当に末端の音楽作りをお見せいたします。

そうやってやっていくと、やっぱり「心」って重要だろうなということでですね。

「『売上という数字』を追い求める姿勢では売上は生まれない」

鹿毛:いつも私の話を聞いている人のために、今日は新しいのを書いてきましたので。すごいです、いきますよ。

「『売上という数字』を追い求める姿勢では売上は生まれない」。「売上、売上」って言ってね、当たり前だがお客様が喜んでくれた時に「ありがとう」と言って代金を支払ってくれるわけです。「ありがとう」と言わなくて売上を取ったら、これは詐欺じゃないですか。

だから、売上はお客様の喜びの総量だ、マーケティングはお客様の喜びを生み出して売上を作る仕事だ、ということで。ダイキンさんもちゃんと喜ばせて。今日、急に株価がまためちゃくちゃ下がりましたね。本当、大損ですよ私。

(一同笑)

「マーケティングはデータや手法だけに沿えば上手くいくというものでは絶対にない」。50年以上前に作られたSTP理論に固執している人もいまだにいますからね。あれ、どうしたんですかね。学校も悪いんでしょうね。それだけじゃ上手くいくわけないですよね。

(スライドを指しながら)「道具が何かをしてくれるわけではない」。すぐにTwitterで拡散するとかね。僕ももちろんTwitterを使っていますが、いやいや、お客様を無機質な対象として扱うんじゃなくて、心を持った「人」として研究して愛を注げと。

顧客理解は「人生相談」と同等の気持ちで取り組む

鹿毛:データや手法を否定しているわけでは絶対にないです。データ分析は絶対に必要なんだけど、ただ、何かの異変を察知することはできるけど、未来は約束できない。だから、未来という答えは分析では出てこないから、自分で考え、自分で作りあげなければいけない。これは片山さんが言う「ブランド」ですよね?

片山:そうです。

鹿毛:ターゲットってよく言うけど、これは「標的」って訳すんですよね。英語の上手い本田さんだったらよくわかると思うけど。

本田:(笑)。

鹿毛:今回の本はターゲットにしてません?

本田:いやいや。

鹿毛:誰をターゲットにしました? (スライドを指しながら)「お客様を『標的』扱いする時代は終わった」。

本田:(笑)。

鹿毛:「20代後半の女子、流行り物に敏感な人」とか言ってね。そんなのがどういう人って言ったって具体的に出てこないから、「それを具体的にしましょう」「ペルソナにしましょう」なんて言ってね。よくわからない怪物みたいな人を、マーケティングの相手にしている人っていないだろうか。いや、そうじゃないぞと。

もっと、どんな価値を持っているのか、お客さんはどんな人なのかとか。人生相談を受けるくらいその人のことを理解する必要があるんじゃないかと、今は思っておりまして。「マーケティングは商品やサービスの研究ではなく、人の研究そのものだ」ということで。もし人生相談をしたい人がいたら、このクソジジイに聞きにきてください。

(一同笑)

「like」を「love」に変える、インサイト手法

鹿毛:「お客様に素直に教えてもらう」って言うんですよ。さっき言ったように、インサイトっていうのがあって。「本人も気がついていない悩みや欲望が横たわっている」。本人が口にすることは表面上の5パーセント、本気で愛してもらうためには見えない95パーセントがあると。それを見つけ出し、プレゼントする。

5パーセントの顕在意識があって、だいたいここしか調査できないんだけど、この下のところに心があって、この心が潜在意識になっていると。

ここに女性がいて、相手にいろいろニーズを聞いて「わかった」と。「この人にプレゼントをしよう」と思って、本田さんがあげるわけですよ。

(一同笑)

本田:なんで僕なんですか(笑)。あげたことはありますけどね。

鹿毛:本田さんは「私が欲しいものをくれてありがとう」って言われるんだけど、本田さんは都合の良い人で終わっちゃう。

(一同笑)

本田:嫌だな~それ。嫌だ~、もう(笑)。

鹿毛:もっと心を見ようよっていうことです。

本田:そうですね。

鹿毛:心からずっとグリグリとインサイトを突いて、本人も気がついていないようなものをプーっとやると。なんと、これが「like」から「love」に変わるという、魔法の手法がインサイトでございます。

42パーセント→217パーセントまで、入塾率をアップ

鹿毛:ベスト個別学院というのを応援しているんですが、去年コロナになって、3月、4月と入塾数が63パーセントから42パーセントになって、急に下がったんですよ。これ、危ないでしょ? それで、みんなが「家に飽きた」「友達に会いたい」「勉強できない」「イライラする」という調査は出てる。

だいたいの人が「だったら塾で勉強しよう」「弱点補強、友達に会えるよ」なんてことを言うのね。ほら、都合の良い男と一緒で、こういう言い方をするの。

(一同笑)

だいたいこういうコミュニケーションをする。しかし、違う、そんなことじゃないと。中学生が何を考えているか、「自分が悪いのではない」って、社会へ失望してるってことでしょ? これね、本人はこんなこと言わないので、「一緒に勉強しようか」じゃない、「大丈夫だよ。一緒に計画立てようか」にしたの。

インサイト広告をやったらどうなったか。もちろん、社内の体制も整えていますよ。(そうしたら、前年比の入塾者数が)158パーセント。すごくないですか?

本田:おお、すごい。

鹿毛:すごくないですか? 93パーセントになって、学校再開になったら、また今度は68パーセントに急に入塾者数が下がっちゃたんですよ。それで、また「一緒に計画立てようか」をポンっと立ち上げたらこうなりました。なんと、217パーセント。すごくないですか?

本田:すごい(笑)。

鹿毛:これがさっき言った、ただの「都合の良い人」から「love」に変わるっていうことです。

「お客さまに一方的に上から情報を与える時代は終わった」

鹿毛:2021年の夏、コロナの状況になってこんなCMを作りました。ドンっ。

(CM高感度が)全3,054CM中、11位。今、自慢しましたよ。

(一同笑)

「無機質な塊と見てお客さまに一方的に上から情報を与える時代は終わった。一緒に創っていく時代になった」って、まさしくさっきの(射場氏のプレゼンの)嵐のやり方ね。あれはやっぱり上手いんですよ。上手いんだけど、これを一般の人はどうやってやるかってことなんです。

「人を相手にしたコミュニケーション」を最後に簡単に言います。みんなね、昔は同じ顔をしてたんだ。それに水道水でブワーっと投げていた。テレビCMとか広告とかで、こういうふうにやっていたんだけど。「こういうことじゃない。テレビ広告で何も済むもんじゃない」って言って、7~8年前に本を出していましたよね?

本田:よく覚えていらっしゃいますね(笑)。

(一同笑)

本田『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』っていう本でした。

鹿毛:『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』、買いましたよ。だから、ずーっと同じ顔が買いに来るっていうね。こういうやり方、確かにまだ10年前はあった。

顧客の中に「心の波」を起こす

鹿毛:今は違うんです、みんな違う顔をしているんです。ここに水を流したってダメなんです。そして、上から目線ではダメなんです。横からヒューっと来るんです、片山さん。

片山:横(笑)。

鹿毛:横からやるんです。上からじゃダメなんです。横からやると何(が起きる)か。みんなも水道を持っている、その時に水道がグーっと流れて、いわゆる「心の波」が起きていく。さっきの嵐の話ですよ、この心の波まで含めて、自分の深層心理を知る。

どうやって見つけるか、最後にものすごく大ヒントを言いますので、これを見てください。これ、言葉で説明できないんで。いきますよ。

左側が自分、右側がお客様。そして、自分の心を深く掘る。相手のところに行って深く掘っていったら、何かが見える。「これだ、インサイトは!」と、ツンツン突くと、いろんな人に伝播する周波数になるということです。大変申し訳ございません。今日は私のテクノロジーのビハインドぶりをお見せいたしました。

(一同笑)

本田:いやいや(笑)。

鹿毛:本当に申し訳ない。ということで、どうもありがとうございました。