95パーセントの株価暴落を経験したSONY、暗黒期の低迷

徳田葵氏(以下、徳田):南先生、今回のテーマは何でしょうか?

南祐貴氏(以下、南):「俺たちのSONY 儲かり巨大企業V字回復の秘密」です。特定の株の「買い煽り」「勧誘」をするつもりはありません。投資は自己責任でお願いします。今回はSONYの暗黒期や、そこからの復活劇、今後のSONYについてお話ししていきます。

さっそくですが、SONYと聞いてどんなイメージを持ちますか?

徳田:プレイステーションとか、ウォークマンとかをイメージします!

:そうですよね。SONYは何の会社か?それは(音と映像などの“技術”を用いて)「世界を感動で満たす会社」です。

この定義を作った方が、2012年から2018年までSONYの社長だった「平井一夫」です。彼は、後に紹介するSONY暗黒期から復活の立役者です。

徳田:SONY暗黒期…...? どんな歴史なのか気になります!

:ではさっそく、「一度死んだSONY」についてお話しします。SONYは2021年度「世界で最も価値のある日本ブランドランキング Top 50」に第3位でランクインするほどブランド価値が高い企業です。

そんな日本を代表する巨大企業ですが、SONYには暗黒の低迷期があったのです。

徳田:え、そんな時期があったんですか?

:過去30年間のSONYの株価(上画像)をご覧ください。まずは1994年に初代プレイステーションが世界中で大ヒットし、株価は急激に右肩上がりになります。その後、後継機であるプレイステーション2発売への期待により、2000年では株価は約1万6,000円の値がつきました。

ですが、そこから株価は一気に急落していきます。理由として、ゲーム以外の分野では初代プレステを超えるヒットがなく、中国や韓国などの競合が出現してしまったからです。より安く、品質も良い製品が他社から出てきてしまったことで、SONYのPCやTVといった電化製品が不振になり、世間からの評価は期待はずれとなってしまいました。

初代プレステのヒットに甘えてしまったことが、このような株価急落の原因だと考えています。また、その後のリーマンショックや東日本大震災の影響により、SONYの株価は最高値から-95パーセント(1万6,250円→772円)に暴落してしまいました。

この2001〜2013年ごろの12年間が、SONY暗黒の低迷期と呼ばれる時代でした。知り合いにSONYで働いている先輩がいたのですが、2010年当時、社員である彼が「SONYは潰れる」と口にするほどでした。

徳田:まったく知らなかったです...…。SONYにもそんな暗黒時代があったなんて想像できませんでした。

株価低迷の一因となった、目先の利益を重視した評価指標の導入

:ここで、SONYの株価下落の2つの理由について解説します。1つ目はリーマンショックや東日本大震災といった、外部要因が理由でした。

2つ目は内部要因で、先ほども言ったように、初代プレイステーションがあまりにもヒットしてしまい、そこにあぐらをかいてしまったことです。それ以降、大ヒットが生まれないのですが、SONYは株価を上げて株主に利益を還元しなくてはいけませんでした。その結果、目先の利益を追い求めてしまう評価指標を導入してしまいました。

徳田:企業としては株主に対して利益を還元しなくてはいけませんからね...…。

:目先の利益を出すために、コストカットや人件費を削減しました。実際にSONY低迷期に数万人規模のリストラが断行されたり、ハードを軽視したコストカットを行うことで、技術者のモチベーションが低下してしまいました。その結果、よい製品が生まれなくなってしまう悪循環に陥ってしまいました。

徳田:そのような理由からSONYには低迷期があったんですね。では、ここからSONYはどのように復活していったのでしょうか?

:SONYがV字回復をした理由として、3人のキーマンがいました。1人目は先ほど紹介した、2012年〜2018年まで社長だった「平井一夫」さん。2人目は現社長の「吉田憲一郎」さん。3人目はCFOの「十時裕樹」さんです。

平井一夫さんは、人生に驚きを与えようとする方です。最初はソニーミュージックに入りまして、その後プレイステーションの事業に関わっていますので、音楽とゲーム出身の方です。彼は感情やクリエイティブといった右脳を重視する方だと思います。

この方が2012年にSONYの社長謙CEOに就任し、「平井改革」を行いました。平井改革では「現場主義」を大切にしました。彼は人の心を持ち上げる天才で、SONYのミッションを言語化し、「イノベーションで“感動”をもたらすこと」というSONYの役割を全社員に共有しました。彼は社員のパッションが必要不可欠だと考えており、実際に現場に行って社員の声を聞いていたそうです。

徳田:人件費削減やコストカットで社員のモチベーションが下がっていましたからこそ、より現場を大切にしないと(いけないと)思ったのかもしれないですね。

スティーブ・ジョブズに影響を与えた、盛田昭夫氏が率いた創業時へのDNA回帰

:さらに、創業時のDNA回帰を目指しました。SONY創業者の盛田氏と井深氏の言葉である「目先の利益だけでなく、10年後・20年後の果実の大きい方を選べ」という思いに共感し、創業者の思いを引き継いで、SONYは世界を感動で満たす企業であると全社員に伝えました。

ちなみに創業者の盛田氏は、実はあのスティーブ・ジョブズに大きな影響を与えた方でした。盛田さんが亡くなられた際に、ジョブズが追悼のスピーチを行いました。その内容は、「盛田昭夫氏は、私とAppleのスタッフに多大なる影響を与えました。」と述べており、Macの工場を作る時にSONYの工場を模倣するほどでした。

徳田:世界的にも偉大な方だったんですね。

:豆知識ですが、ジョブズがよく着る黒のタートルネックもSONYに関係しています。SONYの当時の工場のユニフォームは、後の世界的ブランド「イッセイ ミヤケ」の生みの親である三宅一成さんが作ったものでした。

そのユニフォームを盛田さんがジョブズにプレゼントした際に、ジョブズはそのユニフォームに感動したことで、イッセイミヤケの黒いタートルネックを着ることになりました。今のAppleがあるのもSONYのおかげと言えるかもしれません。

ちなみに公表されていませんが、現在みなさまが使っているiPhoneのカメラの画像センサーもすべてSONYが提供しています。最近になって急激にiPhoneのカメラの質が向上した理由はSONYです。

徳田:すごい、そんな裏話があったなんて知らなかったです!

経営陣の立て直しと、余暇時間の増加などの外部要因でV字回復へ

:「吉田憲一郎」さんは財政面で成長に大きく貢献した方でした。元々はSONYの社員でしたがSONYを辞めて、その後ソネットの社長になり、NURO光などを作りました。その直後、SONYがソネットを完全子会社化し、月1で吉田さんは平井さんに業績を報告していました。その際に、平井さんは吉田さんの能力の高さに気づき、協力してSONYを立て直すことになりました。

平井さんは、SONYが低迷していた頃の社長が行っていた、EVAという目先の利益を重視する指標を用い、コストカットと人員削減を繰り返す方法に疑問を持っていました。そこで、未来を見据えた投資も評価できる、ROICという指標の導入を提案し、創業者の考えである、「目先の利益だけでなく、10年後・20年後の果実の大きい方を選べ」という考えを重視しました。

徳田:一度SONYから離れていた方が戻ってきて活躍するのはかっこいいですね。

:彼らの活躍があってSONYはV字回復に向かって行ったのですが、外部要因も大きく影響していました。2016年頃から社会全体の流れとして「働き方改革」がありました。

それにより無駄な残業がなくなり、早く帰宅できるようになった方が多くなりました。そんな方たちは余暇の時間が増え、それぞれ音楽やゲームなどを楽しむようになりました。するとSONY製品が売れるようになり、さらには2020年の新型コロナウイルス流行に伴う「巣ごもり」が追い風となり、SONYはV字回復を成し遂げました。

徳田:10年後も20年後も価値あることを追求してきたSONYだったからこそ、そういった外部要因が追い風になったと思いました!

徳田:そんなSONYは将来どういった企業になっていくのでしょうか?

:SONYの未来への期待として2つあります。

1つ目はゲームです。最近発売されたPS5は音も映像も触覚もすごいのはもちろんですが、5Gが普及することで遅延なくe-sports大会が全世界同時接続で開催することができるようになります。そこでPS5を用いた大会でSONYは大きな役割を担うことでしょう。ゲーム機を必要としないクラウドゲーム事業についても、マイクロソフトと協業することで注目しています。

また、おそらく6〜7年後の話になると思いますが、PS6ではAR/VRなどの仮想空間が楽しめるようになるのではと期待しています。

徳田:ますますゲームが進化するのは楽しみですね!

カメラや画像認識技術で高まる、「車」「医療」「モバイル」分野での期待

:ゲーム以外にも、「車」「医療」「モバイル」に期待しています。車に関してはEVへの画像センサー提供が期待されています。先日“VISION-S”という車がサプライズ発表され、世界中が驚きました。

なぜSONYが車を作ったかと言いますと、もし自動運転が実現したら運転手は暇ですよね。そこで必要となってくるものが音楽やゲームです。気づいたら目的地に着いていたということを実現かもしれません。

また、SONYが得意としている画像センサーで夜間での画像認識が発達し、自動運転に画期的なイノベーションをもたらしてくれるでしょう。しかし、現段階ではVISION-Sは一般販売を予定していないので買うことはできません。

徳田:夢のような車ですね、実用が待ち遠しいです!

:続きまして医療ですが、SONYが早くから投資をしていた「エムスリー」という会社が期待されています。何か調べ物があれば世界中の人がGoogleを使うように、医療に関してのプラットフォームとしてエムスリーが使われるようになるかもしれません。

さらに、手術中に使われる高性能なカメラとして、SONYの画像認識技術がますます活躍するので、今後医療業界においてもSONYは期待されています。

また、ここ最近のスマートフォンのトレンドとして、iPhoneのカメラのように多眼化してきています。レンズが増えれば増えるほどSONYのカメラ技術が活躍するので、ここの領域でもSONYはさらに期待されています。

徳田:なるほど、いろんな分野でSONYは今後も期待されているんですね!

:また、SONYは2021年4月に「ソニーグループ」に称号変更します。東京通信工業株式会社からSONYに称号変更した時以来、63年ぶり2度目の変更でございます。

僕は、一度死にかけた企業ほど強いと考えています。SONYは過去の失敗を財産に、未来に生かし続けます。なので、今後のソニーグループにぜひご注目ください。

徳田:これからの活躍に今後とも期待ですね!南先生、今回もありがとうございました!

:ありがとうございました! 今までの授業で扱った資料もすべて公開しています。ぜひこちらからご覧ください!