真打ち昇進も、すぐにコロナで活動が中止に

藤田祐司氏(以下、藤田):本日は「それでもなぜ、イベントをやり続けるのか」ということで、このコロナ下においても積極的に活動を続けて「楽しい」と「新しい体験」をたくさん届けてくださっているアフロマンスさんと、落語家の立川志の春さんをお呼びしております。

けっこうディープに「イベントとは」談義をしていきたいと思います。さっそくゲストのお二方をお呼びしてお送りしていきます。アフロマンスさん、よろしくお願いします。

アフロマンス氏:よろしくお願いします。

藤田:お願いします。そして立川志の春さん、よろしくお願いします。

立川志の春氏(以下、志の春):お願いします。

宮田真知氏(以下、宮田):お願いします。

藤田:本日、お二人をゲストに迎えてお送りします。お二方のことをご存じの方も多いと思いますが、簡単に自己紹介から始めていただきたいと思います。志の春さんからお願いします。

志の春:立川志の春と申します。私は落語家でして、落語家になってから今年で19年です。去年の4月に真打という立場に昇進をいたしまして。

藤田:すばらしい。

志の春:ありがとうございます。ところが、真打になってすぐに活動休止状態になってしまったわけでしてね。それまで、私の中ではオンラインでやる発想がまったくなかったんです。去年の3月~5月頃は、コロナ下でもう普通の落語会ができない状態になっていました。

でも、そんな時にPeatixさんのトークイベントに呼んでもらったんですね。私は非常に感謝しているんですが、「コロナ下でのオンラインのイベントについて」、落語家の観点からということで呼んでいただいたんですよ。

アンチオンラインのスタンスを変えた、アフロマンス氏の名言

志の春:私、その時点ではオンラインでの活動を何にもやっていなかったんですけどね。また、超「アンチオンライン」だったんです。「そういうスタンスでの出演になりますが、いいですか?」と言って、出していただいたんです。

出演するにあたって、Peatixのトークイベントに以前出られていたアフロマンスさん、ニューヨークの庄司望さんという方の動画を見たんですよ。そしたら、すごく楽しそうにやっていて、ちょっとね僕は感動したんですよね。

このコロナ下でも楽しそうで、「楽しいが必要だ」って言ってね。アフロマンスさんが名言を出されていたんです。そういうのを見ているうちに私の中でも「あれ?これ(楽しいよな)そうだよな」って、ちょっと変わってきて。

私がなんでオンライン活動をやらなかったかというと、「落語ってものはこういうもんだ」「生のお客さんの前じゃないといけないもんなんだ」と、自分の中にけっこう凝り固まったものがあったからなんです。

よくよく考えてみると、そもそもなんで落語家になったかというと、ワクワクするからだったなと。能書きたれているのはあんまりワクワクしないなと思ったんですね。それで、Peatixのトークイベントに出た時は、「がんがんオンラインでいくぜ」みたいなスタンスに変わっていたんです。やってもいないのに。

藤田:(笑)。

志の春:やっていないのに「オンラインの落語に必要なものはこういうことです」とか「射程距離の長い芸が必要になります」とか、なんか言っていたんですよね。

真打ち昇進後初の落語会をオンラインで開催

志の春:本当にガラッと変わって。そのちょっと後に、初めてのオンライン落語会をやって、それが真打昇進後の初めての会だったんです。そこから毎月、月例会をオンラインでやるようになって、今に至る活動をしております。

藤田:ありがとうございます。懐かしいですね、1年前。「オンラインでは、その人の空気がちゃんと伝わる人と届かなくなる人がいる」と志の春さんが話されていて。

志の春:(笑)。

アフロマンス:う~ん、おもしろい。

藤田:落語家の方でも、リアルの場所だったら「すごい」と思う人でも、オンラインになると「あれ? なんかそうでもない」という人もいて、誰もかれもが届くわけではなくって。だから「オンラインでも届くってけっこうすごいことなんだ」という話をされていたのはよく覚えています。

志の春:そうですね。「うまさの復権」とかなんとか言って。やってもいない、うまくもないやつが偉そうに言っていましたよね。

藤田:そうか、今思うとそうですね。

志の春:そのきっかけをくださったアフロマンスさんには本当に感謝しています。だから、今日ご一緒できるのが本当にうれしいです。恩人です。ありがとうございます。

藤田:すばらしい。なんとなんと。

アフロマンス:のっけから、すごく幸せな気分になっちゃっているんですけども。

(一同笑)

アフロマンス:逆に今、僕がちょっと感動しちゃっています。

藤田:この流れでアフロマンスさんの自己紹介でいいですかね。お願いします。

コロナですべての企画が延期・中止に

アフロマンス:あらためましてアフロマンスと申します。「アフロマンス」はもちろん本名じゃなくて、芸名みたいなものです。何をやっている人間かというと「アイデアと実現力で、新しい体験をつくる」。これは僕が勝手に言っている活動内容です。

具体的には、泡にまみれて踊る「泡パーティー」、街中を巨大ウォータースライダーで滑る「スライドザシティ」など。ここらへんは自分の主宰イベントになります。その他、佐賀県のPRで120万枚の花びらに埋もれるバー(『SAKURA CHILL BAR by 佐賀』)を作ったりもしています。

あと『東京喰種(トーキョーグール)』という漫画とコラボしたイマーシブレストラン、4万本のバラに囲まれた「喰種レストラン」を企画したり。このような「体験」を軸にした企画をやっていました。

2020年3月以降、すべての計画が延期または中止となりました。

先ほど立川さんのお話にもありましたが、コロナ下になって一番最初にやったのは、まさにこの「楽しいが必要だ」という言葉を考えたことなんです。ちょうど2月末~3月頭くらいにどんどんイベントが中止になっていって。本当に、コロナ下になって一番最初に中止になっているのがイベントみたいな感じがありました。

タイムラインで、もう毎日「これが中止になりました」「あれが中止になりました」みたいなことが流れていて、どんどん世の中が暗い感じになっていって。もしかしたら、コロナによって「自分ってどういう人間なんだ?」みたいなことに気づくところもあったと思うんです。僕の場合は、本当にこの暗いのがすごく嫌だったんですよね。

「コロナ下でもできるイベントの形」を模索

アフロマンス:あと、イベントが全部ダメなのかというとそうではないよなと、冷静に考えるようになって。例えばオンラインという方法もあるし、その時点ではまだわからなかった、コロナ下でもできるイベントの形があるんじゃないかと考え始めました。

「リスクをきちんとヘッジした上で、楽しいことを考えていくのは、絶対に間違っていないよね」と思って、このメッセージを投稿したら思った以上の反響をいただいたんです。そこで僕も勇気をもらって「#楽しいが必要だ」というのをどんどんやっていこうと思いました。

そこからが早いんですけど、3月16日にメッセージを出して、3月19日には自宅に春を届ける「SAKURA CHILL DELIVERY」という企画を発表しました。毎年やっている「SAKURA CHILL BAR by 佐賀」のイベントは開催できなかったので。もう東京都内は、僕がUber Eatsみたいに届けに行ったりしました。

4月に入って音楽イベントができない中、m-floのTakuさんから「一緒に何かできないか」と連絡をもらいました。それでオンライン音楽フェス「BLOCK.FESTIVAL」を4月からやり始めて、去年は5回やりました。

そしてもう「思いつくことをどんどんやっていこう」と、5月のゴールデンウィークには、キャラクターがデリバリーする「キャラデリバリー」を、いろんな会社と協力してやったり。春からすごくやりたかった企画で、ドライブインシアターを音楽フェス版にした「ドライブインフェス」も考えて。

こういう大きなイベントをやる時って、普通は協賛とかがつかないと絶対に赤字になるんです。でも、もう本当に我慢ができなくて6月にテスト開催、つまり自主開催でやったんです。もう当然赤字です。チケット全部売れても赤字なんだけど、とりあえずやった。でもそれからつながって、8月にはきちんとスポンサーが付いた形でやれました。

体験を軸にしながら、「#楽しいが必要だ」を実現

アフロマンス:次は今年の活動です。今、鹿児島と東京、2拠点生活をしているんですが、鹿児島で、路面電車を使った「マグマやきいも電車」というものをやりました。冬にやきいもを食べながら街を回る、体験型のイベントです。

あとスライドの真ん中は、RPGのグルメが食べられるVRイベント、「RPGレストラン」です。最近だと、音楽イベントは必ずしも大きな会場じゃなくてもいいのかなと、車に必要な機材などを全部詰め込んで、いろんな場所で音楽イベントができる「VANLIFE DJ」という車を作りました。

そういう体験を軸にしながら「#楽しいが必要だ」ということをかたちにしている者です。アフロマンスです。よろしくお願いします。

藤田:ありがとうございます。こうやって振り返ると、アフロさんすごいですね。

アフロマンス:そうですね。いろいろやりましたね(笑)。

藤田:去年の3月アフロさんから連絡をいただいて、「#楽しいが必要だ」の話をうかがった時、けっこう涙しましたからね。あの時世の中に、本当つらい空気が漂っていましたよね。

アフロマンス:本当にそうですね。

オンライン開催を巡る『北風と太陽』のような葛藤

志の春:『北風と太陽』ってあるじゃないですか。僕はそれまでも近しい人から「YouTubeとかオンラインで落語会をやったらいいんじゃないの?」と言われていたんです。でも、「私はやれません」と、けっこうガチガチの鉄壁の理由があったんですね。

落語家以外の人では絶対に突き崩せない、そういう思いがあった。落語っていうものは、それ(オンライン)では魅力が薄まってしまう。そんなものをやっても意味がないんだ、みたいなことをもう言っていたわけですよ。

だから説得されない状態のはずだったんですけど、楽しそうにやっている人を見ると「俺もやりたいな」と思うんですよね。

藤田:じゃあもう、1ミリも想像していなかったんですか? 去年の前半くらいから、オフラインの場でのイベントや集まりがなくなって、もうオンラインになりましたよね。そうなった時に、オンラインで落語を始められた一部の方たちって、わりと早いタイミングからやっていらっしゃったじゃないですか。

志の春:そうですね。

藤田:でも志の春さんは全然。

志の春:私はタイミングもあって。真打に昇進したのが去年の4月1日で、そこからまったく会ができなくなった。真打昇進後の一発目は生で、これまでお世話になったお客さんとかの前に出てやりたいというのがあったわけです。

藤田:そうですよね。

志の春:根っこの凝り固まったもの以外にもタイミングもあって、それで私はちょっと動きが遅れたんですよね。でも、5月下旬くらいの段階でPeatixさんに声をかけていただいて、事前資料としてアフロマンスさんなどの動画を観せてもらって変わったので。そうでなければ、自分だけ来ない波を待っているサーファー状態だったと思います。

藤田:サーファー(笑)。

志の春:自分はサーファーもどきで、みんなは「もうガンガン波乗ってんじゃん」みたいに見えたんですよね。

藤田:そうだったんですね。

初めはみんなに否定された、大人気イベント「泡パⓇ」

アフロマンス:そうですよね。僕もコロナ下よりずっと前の、2012年に「泡パーティー」を初めてやったんですね。今でこそ「泡パーティー」ってイメージもできるし、すごく楽しそうじゃないですか。

クラブでやっても盛り上がるし、商業施設でやれば子どもたちもめっちゃ喜ぶし、なかなかの体験コンテンツだと思っているんです。でも、今でも覚えているんですが、初めてやるって言った時には、みんなすごく否定的だったんですよ。

志の春:そうなんですね?

アフロマンス:そう。なんかもうネガティブで。機材が壊れるんじゃないかとか、滑って転ぶんじゃないかとか、そもそも音楽を楽しむ時に泡なんかいらねえだろとか。要するにケチのつけようはいくらでもあるし、かつ、すでにやっているものではないので。やはり最初にやる時ってすごく大変なんですね。

機材を用意するところから始めて、どこまでケアしていいかわからないので、最初にやった時はクラブの中を全部ビニールで覆ったんです。パイ投げの時みたいな感じで。その一晩のために、めちゃめちゃ労力かけたんですよね。

その時に、一緒にリスク持ってくれる人が全然いなくて。それまでの普通のイベントでは、けっこう手伝ってくれたり、「じゃあ俺も一緒に」って、いっちょ噛みしてリスクを取ってくれる人たちがいました。でも、すごく新しいことをやろうとしたら全然いなくて。

なんだけど、結果としては、それがワーっと当たって、ワーっと世の中に広がって。もうどんどん人も来るし、結果的にビジネスとして成り立っていったんです。やっぱりやってみないと、最初の一石を投じないと何も始まらないと。

おもしろいイベントかどうかは「やってみないとわからない」

アフロマンス:机の上でいくら、「泡パーティー」の絵を描いていても、永遠にかたちにならないですよね。だから、僕の原体験として「やったほうがいいんだな」というのがある。それに、これやったらきっと自分がおもしろいみたいなのもあります。

それでも、やっぱり「え、それっておもしろいの?」って言う人はいるんですよね。でも、やってみないとわからないじゃないですか。

藤田:そうですよね。

アフロマンス:そう。やったほうがいいんだなみたいなこと(原体験)がけっこう前にあって。だからコロナ下になった時にも、とりあえずやらないと何もならんなと。企画書だけ書いていても何にもならんというか。

藤田:やってみよう、という。

アフロマンス:そう、やってみようです。だから、去年の前半は赤字いっぱい出しました。ただでさえコロナ下なのに。

藤田:(笑)。

アフロマンス:(笑)。でも、結果としてやらなきゃ良かったイベントは、ほぼないですね。やってダメだったことはあるんですけど、ダメだってわかったから良かったという感じ。それに、僕のイベントを見てくれていて、ポジティブな気持ちになって、「じゃあ僕もやろう」という人たちも出てきたりするので、結果的には良いですよね。

藤田:そうですよね。