会話中の「ツッコミ」は、すべてマウンティングである

田中泰延氏(以下、田中):あとは何を書いただろうか……あっこれ。「『ボケ』は現実世界への『仮説』」。

阿部広太郎氏(以下、阿部):大事なところなので、ぜひ。

田中:読んでくださった方もこれから読まれる方も、「ボケる」ってことがすごい大事。ボケ続ける会話が楽しいよってこの本(『会って、話すこと。』)の中では言っています。

「ツッコミ」ってあるじゃないですか。「そんなわけねえだろ」とか「つまんないこと言ってんじゃねえよ」とか「違うだろ」っていう。この本の中では、それは全部マウンティングじゃないの? っていう話をしてますね。

実生活を見ても、ツッコミで話を終わらせようとする人ってすごく優位に立ちたい人なんですよ。それがもったいないなと思って。みんなでボケ続けてほしいってことを強く訴えています。

阿部:そうですよね。積み木のように乗っけていったほうが楽しくなるなって本当に思います。僕は、例えばひとつの解釈があって、それがいいか悪いかじゃなくて、解釈を加えて乗っけていくことと同じようなことだと思っています。

ボケに対して、みんな芸人さんの姿を見ているから「ツッコまなきゃ」ってなるけど、そうじゃなくて。ボケに対してボケで重ねていくことが、さらなる高みへと連れていってくれるんだなと思いました。

田中:人がボケたら、ちょっとおちょけた適当なことを言ってさらに被せる。それが「解釈」の発展なんですよね。

阿部:そうだと思いますね。

ツッコミは、相手への「決めつけ」になっている

田中:阿部さんって僕の中で真面目ナンバーワンに認定されてたけど、でも前回の対談のアーカイブを見ても、僕がボケて阿部さんがツッコんでるところは1ヶ所もないわけ。阿部さんはボケをいったん認定して、何か被せているわけ。

阿部:そうなんですよ。泰延さんに対してツッコむというよりかは、泰延さんの言葉に対する自分の戸惑いを楽しむというか。

田中:戸惑い(笑)。

阿部:(笑)。でも、すごく貴重ですよ。日常生活をしてる中で、泰延さんのように物事の見方を教えてくれる人っていないので。今は会社がテレワークなこともあって、すべてが直線的なんですよね。目的に向かって一直線。

それはすごく大事なことなんだけど、ちょっと横から見たり脇道に逸れたりすることが減ってきている。だから本当におもしろいんです。泰延さんのボケを聞いて、ワクワク、ドキドキ、ソワソワする感じです。

田中:阿部さんはぜったいに否定しないんだよね。それがすごい楽しくて。

「真面目」って、人に接する態度が真面目だと逆にそうなるんですよ。「そんなわけないだろ」とか「もうふざけないでよ」「やめてよ」っていうのは、実は真面目じゃない。相手に対して敬意を持って接していない、もはや決めてつけているんです。「決めつけてはいけない」ってことを、この本の中でずっと言ってるんです。

敬意を持って接し続けられる人とは、変わらない「一定の距離」がある

阿部:それでいうと、明らかに距離感がおかしい人がいたとしたら、僕はすぐに逃げるようにしています。真面目に接し続けるのは、愛おしい人だけですよね。

田中:「この人には敬意を持って接し続けられる」という人は、何かがあるんやね。そういう人とは何年でも続くし、実はそういう人とはいくら親しくしても、ある一定の距離は変わんないんだよね。

僕は今野さんとも丸3年の付き合いで、本も2冊出しているけど、今野さんが僕ん家に来て一緒のふとんで寝るかって言われたらそんなことないのよ(笑)。一定の距離であーだこーだ言って生きているのが、すごくいいんですよ。

阿部:線路は続くよどこまでもじゃないですけど、交わると事故になったりもしますもんね。

田中:そう。自動車の「スリップ注意」の看板は、よく見たらタイヤが入れ違ってるね。

どんなにスピンしても、車のタイヤはぜったい入れ違わない。あの看板は間違っています。みなさん、「スリップ注意」で検索してみてください。

阿部:グニュンとなっていますよね。

田中:どうスピンしても、タイヤは一緒。

阿部:「一定の距離」がキーワードですね。お互いの心地よい距離感で、ずっとずっと続いていくのが良いんですね。

『会って、話すこと。』は、人間関係の本でもある

田中:阿部さんとも、最初に出会ってからずっとこの距離はあるんだよね。でも会いたいわけ。この距離を楽しみに来たいわけ。僕は阿部さんが今どこに住んでるのか知らんし、実は私生活もあんまり知らないんだよね。

阿部:そうですね。例えば「今、誰と付き合ってるの?」みたいな話をする時って、もう話すことがないんじゃないかなというか、ネタが尽きてしまってる時ですよね。お互いのことを詮索するしかない時というのは、関係性がちょっとさみしいなとも思います。

田中:2人で身の上話とかしてもしょうがないし、すると距離感が変わっちゃうっていうのもある。

阿部:ああー、そうかもしんないですねえ。

田中:せっかく楽しく何年もやってきて、会いたいねって言って冗談言って酒飲んで大笑いしてきたのに、ある日突然、ちょっと自分が弱ってて、「阿部さん、僕実は横領しててさ、今やばいんだよ」って聞かされたら、そこから関係性が変わるよね。

阿部:力になりたいとか、自分がなにかできることないかなって考えはするものの、少しずつ変化はしていきますよね。

田中:変化していくし、俺その話をしたら最後、阿部さんからなんとかして金を引き出そうとするだろうし(笑)。そうすると関係が変わってくるやん。しちゃだめなんだよ、やっぱり。

それよりは、この本屋B&Bだったら壁にある本を手に1冊取って、「ちょっとわけわかんないけどこの本の話しよう」っていうほうがぜったいに楽しいよ。

阿部:だからこの『会って、話すこと。』は、人間関係の本でもあるんですよね。お互いの関係性がどうやったらより良好になるのか、おもしろくなっていくのか。そういう部分のエッセンスも感じました。

会話中は「審査員になるな」

田中:さっき言った「『ツッコミ』は『マウンティング』」。あとこの本の中で紹介したアドラーの心理学。『嫌われる勇気』に似てるって言われた部分でもあるんだけど、「褒める」もマウンティングなんだよね。「超ウケる」とか「田中さん本当おもしろいですよね」っていうのは、それも実は勝手に審査をしてるっていうことなんですよ。これね、「審査員になるな」。

阿部:これもズシッときました。

田中:やっぱり審査しちゃうんですよね。「その発想なかったですわ」とか言われるんだけど、「発想コンテストの主催者ですか?」というね。でもこれはやりがちですよ。

阿部:やりがちですね。今は誰しもがSNSとかでなにかコメントできてしまう時代の中で、もちろん「おもしろい」とか「楽しい」とか「すごい」とかってぜんぜんオッケーなんだけど。

田中:素直に言ってくれるのはいいんだよ。

阿部:素直に言うのはポジティブですよね。でも、やっぱり「審査しよう」というような気持ちになっちゃうと、気づかぬうちに気持ちが上にいっちゃったりしますよね。

田中:クリティカルな批評とかはいいと思うの。小説家の新作に対して、文学として「よくなった」とか「悪くなった」とかっていうのはいいと思うけど、日常会話の中で「お前最近ちょっとおもしろくなったね」って、「そんなこと言われたくないわ」って。どの地点から言っているの? って感じます。

大事なのは「審査員」ではなく「応援団」になること

阿部:この言葉は本当に大事だなと思っていて、コピーの講座や企画の講座をやっている時も、やっぱり気をつけないといけないのは、目線が上からになると良くないんですよね。「自分が正解だ」と思ってしまっていることも良くないし、「これが正解だ」って押しつけるのもぜったいに良くない。

できるだけ同じ目線でいたいなって思うから、自分も企画を出したりとか、自分も「一生懸命さ」がそこにないといけないんですよね。

田中:僕も地方のコピー大賞とかの審査員を拝命することがあるのよ。その時でも審査員になるのは嫌だから。応募作の中で自分が「わー、すげー」って思うやつに票を入れるようにしてる。

わざわざ1つ取り上げて、「ここをこうすればもっとよくなるけど、惜しいね。アウト」って言うのは、自分も生きているのが楽しくないですからね。

阿部:僕もそうだし、泰延さんもきっと「応援団」なんですよね。泰延さんのTwitterを見てると、めっちゃ応援している人をいつもプッシュされているなって思うし、本当にその連続ですよね。すばらしい人がいたら泰延さんはプッシュしますよね。

田中:素直におもしろい、俺にはできない、「わー、すげーなー」っていう人。

阿部:それが大事ですね。

何か審査を頼まれたら、自分も1案考えてみる

田中:そう、「俺にはできない」っていう驚きはいいよね。「達人の目から見てまあまあだな」っていうのはよくないよね。そんな人、達人なわけないじゃんね。

なにか審査とかを頼まれた時は、自分も1案書いてみるといいですよね。それで応募してきた人が「審査員の阿部とか田中とかも大したことないじゃん」っていうぐらいがいいですよね。

それを見せておいて「俺なりにがんばって書いたけど、これはそれを超えてるから優勝に推したいです」っていうほうがいいよね。俺たち一応プロなんだからさ、やるなら100パーセント優勝しなくちゃいけないはずなんだけど、それは無理じゃない?

阿部:案外難しいんですよね。広告のコンテストとか、そういう審査員の立場を担わせていただくこともあるんですけど。本当に応募している人、そこで熱量を込めて出してる人をただただ一生懸命見つけてプッシュしていくことに僕は徹してますね。

田中:この「審査員になるな」っていうのはぜひ。審査員よりは、参加したほうが楽しいからね。

「知らんけど」は、言葉のエアバッグ

田中:あと、どんなことこの本に書いたかな。

あ、「知らんけど」。僕はなんでも「知らんけど」です(笑)。世の中わからんことしかないじゃないですか。でもSNSでは、例えばこのコロナとかワクチンとかのことに関して、専門家じゃない人がめっちゃ断言してるケースが多いですよね。

阿部:断言できてしまうのは、ある意味不思議なことではありますよね。「自分が見聞きしてきたことが正しい」って思い込みすぎる危険性といいますか。

田中:専門家でも断言できないから世の中大変なのであって、専門家じゃない人がなぜ強く人に意見できるのか……。ちょっとそれも、自分をしんどくするんじゃないかと思います。

専門じゃないことに対して断言したら、必ず反発を食らうじゃないですか。結局は自分に跳ね返ってくる。それで「お前本当のところは詳しくないだろ」って言われたら、さらにまた相手をバカにする。悪いスパイラルに入っていきますよね。

阿部:この泰延さんの本でああそうだなと思ったのは、「知らんけど」っていう言葉はエアバッグみたいだなと。その言葉があることによって「これは1つの見方である」という、事故が起こらないようにする緩衝材として機能しているんだなと。

今みたいなSNSって、ある日突然強い言葉が飛んできたりするじゃないですか。その中で「知らんけど」っていう言葉が身を助くじゃないですけど、柔らかく受け止めてくれるんだなとも思うんですよね。

田中:エアバッグか。じゃあ俺はしゃべる度に激突してるんだね車で。でも「知らんけど」で助かってるんや(笑)。

「人間は会話をすると、必ず傷つく」

田中:阿部さんが今図らずもエアバッグって言ったけど、実はどんな会話でも激突はしてんのよ。

阿部:そうですよ。心の琴線に触れる部分として「会話する」ってことはある種、傷つけ合う可能性をはらんでいる。本の中にも書かれていたんですけど……おお!

田中:そう。いいところでこれが出ましたね。リハーサル4回しましたからね(笑)。尺を計ってましたからね。

阿部:(笑)。

田中:「エアバッグ」ってまさにそうだなって思いました。例えば「下北沢のどこそこのラーメンうまいよね」「えぇ~、あれうまいか?」って、実はめっちゃ傷つくじゃないですか。

でもその時に、「下北沢のラーメンうまいわ~。知らんけど」「えぇ~おいしい? ほんま? 知らんけど」って、お互いにエアバッグを炸裂させておけば、傷つき度がめっちゃ減るじゃないですか。

阿部:柔らかく受け止め合えますね。

田中:本当に、どんな会話でも傷つくんですよね。

阿部:さりげなくみんな傷だらけなんですよね。

田中:ほんとそう。あとは自分の親子関係とかきょうだい関係とか、恋人でも配偶者でも思い返して欲しいんやけど、実は近くにいる人って朝起きてから夜寝るまで、傷つけ合いまくりなんですよ。

阿部:ほんとそう(笑)。「ほんとそう」っておかしいですけど(笑)。やっぱり近くにいる人ほど、遠慮のない自分が放つ言葉が強く刺さってしまったりしますよね。これは誰しもが共感すると思います。

そんなに簡単なことではない、「しゃべること」の本質

田中:ちょっとしたことでもね、例えば朝服を着て、こんなTシャツを着て玄関を出ようとした時に、

「そんな服着て出ていくの?」って言われたら、傷つきますよね。まあこんな服を着て出ていく人は俺も疑問やけど(笑)。でも、遠慮のない間柄だとそういうことを言っちゃうよね。

阿部:言っちゃいます。気をつけなければいけないですね。お互いの距離感であったり関係性だったり、「言葉」がどう響くのかに慮れる自分でいたいですね。

田中:そうですね。この本では、会話で「聞いてくれ、俺にはすごい悩みがあって」みたいに自分のことをグダグダ言ったり、相手のことをあまりしつこく聞いたりするのは、しんどいだけだよっていう話をしています。

その辺にあるペットボトルの水の話とか、そこにある本の話とか、このハンカチの話とかをすると楽しいよって言ってるんだけど、でも本質的には、しゃべることって結局は重いし大変なことで、気をつけなくちゃいけない。十分注意してほしいなと思っているんです。そんなに簡単ではないですよ、しゃべるのって。

SNSでより実感した「敬愛の気持ち」の大切さ

阿部:会話することは、もちろんテクニック的な部分もあるんだろうけども、もっと根源的な部分にある「お互いへの敬意」だったり「敬愛の気持ち」がますます大事だなって、SNSが登場したことによってより感じましたね。なんかもう鉄砲を撃ち合ってるような感じですからね。

田中:よくそこまで言えるよなって思います。それがまた匿名だったりするから、言いたい放題でしょ。

阿部:そうなんですよね。本当に言いたい放題です。言いたいことを言えるのは大切だけど、やっぱり気をつけなきゃなって。自分の大切な人が目の間にいたとしても、それを言えるのかってことは大事にしています。

最近SNSでも「Twitterの治安が悪くなってきた」っていうつぶやきもあるんです。僕はわりと好きな人とか、つながりたい人しかつながっていないので、Twitterは楽しいなって感じなんですけど。トゲトゲした気持ちが、さらなるトゲを引き寄せてしまう側面もあるだろうとは思います。

田中:Twitterって、あれですか? ネットでつぶやきを書くみたいな、鳥のマークの流行っているやつ……。

阿部:はい(笑)。

田中:あー、僕もちょっとチャレンジしてみたいなって思ってるんですけど……。

阿部:ぜひです(笑)。

田中:俺も楽なんよ。こう言ってるだけで、みんながちょっと幸せになる。楽でいいわ(笑)。