新刊を記念した約3ヶ月半ぶりの対談が実現

司会者:お待たせいたしました。本日は本屋B&Bのオンラインイベントにご参加いただきありがとうございます。時間となりましたので、『会って、話すこと。』刊行記念イベント「自分の事はしゃべらない、相手のことも聞き出さない」を始めさせていただきます。それでは、田中さん、阿部さん、どうぞよろしくお願いいたします。

田中泰延氏(以下、田中):よろしくお願いします。お久しぶりです。

阿部広太郎氏(以下、阿部):お久しぶりです。

田中:阿部さんとは、阿部さんの本の刊行記念イベントをこちらの本屋B&Bさんでやった時以来ですね。

阿部:そうなんです。

田中:みなさんこんばんは、カツセマサヒコです。

阿部:(笑)。

田中:カツセ君ともイベントをしたらしいじゃないですか?

阿部:そうなんです。六本木の蔦屋書店さんでイベントさせていただきました。前回、6月に泰延さんとお話させていただいて、その時まさに今新刊を書かれているという話を伺っていたので、個人的に今日という日を迎えられて、本当に胸が熱いです。こちらの本ですね。

田中:こちらの本ですよね。

『人は話し方が9割』。これが僕の……もう大変で、今70万部以上売れてまして……これじゃない?

阿部:これじゃないです(笑)。

田中:これは売れている本ですね。良いことがいっぱい書いてあります。自分の本を書いてる間、本屋に行く度に「あぁ、話し方の本を参考にしなきゃ」と思っていたんですけど、家を見たら同じ本が4冊あった。これ4冊あんねん。だからこれ阿部さんにあげるわ。4冊のうちの1冊やから。

阿部:ありがとうございます(笑)。

田中:びっくりするほど良いことが書いてあってね、やっぱりすごい話し方のテクニックが載ってるの。『人は話し方が9割』。人を褒めるときには「やっぱり」って言うのが良いんだって。

阿部:そうなんですか。

田中:これ書いた永松さんのお話だと、独り言風に言うのが良いんだって。阿部さんを褒めようと思った時に、阿部さんが良いことをしたら、「やっぱり阿部さんだなぁ」って言うと、阿部さんとか他の人が「え、何が何が?」って、「いや、やっぱり阿部さんはすごいなぁって思って」って。独り言風に言うのが良いらしいんで。

もう70万部を突破しているらしいですけど、良いことが書いてあるので、僕の本とワンセットで。

人と人との「会いたい」という気持ちが込められた1冊

田中:今日はこっちの本の話ですね。

阿部:今日はこちらの『会って、話すこと。』を。

田中:都会を舞台にした、アーバンな男女の恋物語です。そんなことが綴られています。カツセ君の小説をベースに、僕が聞いたような感じで書きました。

阿部:そうですね。人と人が会うことを望んでいるこの時期に刊行されたのが『会って、話すこと。』ですよね。

田中:なんかね、パーティーを抜け出して2人でカクテルを飲むみたいな。そんな、アーバンでナウなヤングのラブストーリーです。

阿部:そうなんです、本当にラブストーリーと言っても過言ではない。

田中:本当かよ(笑)、適当なことを言って(笑)。

阿部:いやいや(笑)、本当です。人と人とが「会いたい」という気持ちがここにはぎゅっと込められているなと、本当に思ってます。「ラブ」っていう人の温かい気持ちがあります。

僕はこの色合いがすごい良いなと思って。すみません、さっそく感想を伝えちゃうんですけど。この本の、ほっぺが紅潮するような色合いが本当に良いなと思うんですよね。

田中:今日の僕の気持ちは、このTシャツに全部込めましたからね。

阿部:「もうあかん、やめます!」。これは何の気持ちを表明されているんですか?

田中:(笑)。またあとでじっくり説明します。まず表紙のこのピンクとオレンジの組み合わせね。前の本がブルーを基調にしててちょっと格好良いクールな感じで。

「今度はこういう表紙で」ってデザイナーの杉山健太郎さんから提案いただいたんです。(編集者の)今野良介さん経由で見せてもらったときに、僕は白黒で見てたから。「これ前の本と何が違うんですか?」と言って連絡したら、「いや、色が違う」っていうね。

阿部:(笑)。やっぱり色選びも、きっとすごくいろんな色を試行錯誤されたんじゃないかななんて思ったりもするんですけど。

田中:デザイナーの人がね。僕は何もやってないけども(笑)。

著者が喋ったことをさらにおもしろく書く、名編集者との「共著」

田中:この本の中でもくどいくらいに書いてるんですけど、前の本を編集者としてがっつり一緒に作った今野さんと、「もう一緒に書こうや」っていうことになって、この本でははっきりと「共著」。

糸井重里さんが「共著、共著、なのはにとまれ~」っていう、すごく70代らしいシャレを。

阿部:おお、頭の中でメロディー再生されますね。

田中:なんか言ってくださっていましたけれども、本当に「共著」でね。読んでくださった方がいらしたらわかると思いますが、すごい分量で今野さんの原稿があるんです。

あと、2人で対談している部分が章ごとに出てくるんですけど、2人で喋ったやつをそのまま起こしてもおもしろくないから、今野さんがまず文字で起こして、さらに、やっぱおもしろく書いてくれてるんですよ。

だからね、その部分は前の章のおさらいでもあり、いまから読む章の謎かけにもなっているという、かなり難しいことを今野さんがやってくれて、本当、全部書いてくれたら良かったね(笑)。

阿部:(笑)。

田中:全部書いてくれておれの名前で出したら、おれは何もしなくても金だけ入るじゃんっていうのを目指したんですけど、自分でもちょっとは書くとこがあったという。そんな感じでできました。

阿部:そっちゃじゃないそっちじゃない(笑)、違います。こっちですね。

作り方そのものから「会話の本」になっている

阿部:でも本当に「会話って共同作業だよな」って改めて感じました。本の構成が、まさに泰延さんと今野さんが一緒に会話を交わしながら、本が編まれていくようにつながってできあがっていて。読んでいて、すごく納得感がありました。作り方そのものから「会話の本」になっているなって感じて、そのあたりの構成の妙も含めて、めちゃくちゃ良かったですね。

田中:構成の妙。妙な構成ですよね。

阿部:(笑)。いやいや。

田中:ほら、よく「妙齢のご婦人」って言うじゃないですか? でも、年齢が妙な婦人もいるよねっていうことを僕はいつも言いたいなと思っているんです。

阿部:わからない年齢の人ですね。

田中:妙な年齢の人っていますけど。

阿部:そういう意味では、すごくしっくりきました。本当に「これでこそ会話の本だな」っていう、1つの道筋を示して……。

田中:この阿部さんの動じないところがいいよね(笑)。毎回阿部さんは動じないんだよね。すごいよ。別にお客さんもいないからね。

ここにいるのは、あとでご紹介しますけれども、この我々の本2冊に深く関わり一緒に本を作った編集者のお二方。しかもお客さんいないからさ、これをカメラ越しに見てくださる人はどう思って見てくれているのか、これが分かんないのがオンラインなんですけど。

阿部:そうですね。

田中:ただ、僕と阿部さんがオンラインで話すことはなくて。こちらの『それ、勝手な決めつけかもよ?』の時も、今回作った……なんだっけ?

阿部:(笑)。

田中:手元にこれしかないんだもん(笑)。

田中『それ、勝手な決めつけかもよ?』の時も、『会って、話すこと。』も、とにかく阿部さんとは直接この下北沢に来て喋って、みなさんにお届けしようという。これは変わらないですね。

阿部:変わらないですね。

笑える話に織り込まれた「真理を突く」視点

田中:俺たち2人で直接会うの(トークイベントするの)、何回目?   阿部:それこそ数えたんですけど、6回目?

田中:それくらいですよね。

阿部:2016年から泰延さんにお世話になってまして。もう本当に尊敬する会社の先輩だったんですけど。お会いした日にやっぱりその……。

田中:会社をクビになってね。

阿部:いやいや違います、「もう辞めるんです」っていう話を聞いて。

田中:「もうあかん、やめます!」と。

阿部:そうそう(笑)、そうなんですよ。Twitterで知り合えて、会社に関係なくこれから仲を深めていけたらって、そのときから思っていたので。もう5年経つなんて、長いですね。

田中:長い。今「Twitterで出会って」っておかしなことを言ってますけど、一応同じ会社でも、僕が関西支社で阿部さんは東京の本社なので、なかなか会う機会がないんですよね。もちろん名前は知ってたんですよ。

「東京で阿部広太郎っていう若手のコピーライターが、なんか、うごめいている」ということは。本も出して、すごく真面目そうな人かなぁと思って。僕の印象は「ぜったい馴染めない人に違いない」と思って。でも会ったら……めちゃ真面目でした(笑)。

阿部:(笑)。僕は本当に一直線に、広告のコピーライターの仕事をさせていただいているんですけども、その中で、なんとかいろんな人に出会いながら、助けてもらいながらここまで来ています。その中で、泰延さんとの出会いも自分にとってめちゃくちゃ大きくて。

今回の本も、本当にすごいんですよ。真面目に感想を伝えちゃうんですけど、『読みたいことを、書けばいい。』もそうなんですけど、読んでいてちょっとクスッとしてしまったりとか、笑ってしまったり、でもふとした瞬間に真理にグサッと差し込んでくれるような、そういう本だなと思っています。

きっと読んでくださった方は、僕が言ってることの意味を理解してくださると思うんです。今日はこれから読む方もたくさんいらっしゃると思うので、本の魅力をたっぷり伝えていきたいなと思います。

「関係なさそうなこと」からつながる会話のおもしろさ

田中:そうですね。第2章の「ムッソリーニとヒトラーの関係について」のところはすごい苦労して……今、ここの本棚にある本を順番に読んでいってるだけなんですけどね。

この方法ってあれですよね、映画……なんだっけ? カイザー・ソゼが出てくる映画。知ってる? タイトルを言うとネタバレになるから言わないけど、(その映画は、主演のケビン・スペイシーが演じている)悪い人が、「なぜこんな悪い事件が起こったか」っていうのを取り調べの時にすごい言うんです。

取調官が「なるほど、カイザー・ソゼっていう悪いやつがいて、そいつが企んでこうなったのか」って調書をとって。「もう捜査はバッチリや。こいつの自白ですべてわかった」って言うんやけど、ケビン・スペイシーが主演なんですけど、部屋を出ていったら、壁に貼ってあるポスターとかメモとかの文字を適当に組み合わせてストーリーを作ってるだけなの。それで2時間。

すごくいい映画で、あ、これタイトルいうたらあかんのですけど、ネタバレなるんで。おもしろい映画なんですよ。今日は僕そんな話をしようと思っています。次は『犬売ります』。そうね、犬を売るんですよ。

阿部:(笑)。

田中:あと、なにこれ。『恋する潜水艦』。これはかなり気圧が高い恋ですよね。

阿部:これ「海賊どもの冒険」って書いてありますけど、今日は「会話の冒険」をたくさんしていけたらと思います(笑)。

でも(『会って、話すこと。』の)第2章で、本当に「関係ありそうな、なさそうなことを話そう」って書いてあるんですよね。やっぱりおもしろい会話って、関係なさそうだけど関係あることだったり、「この話のどことつながるんだろうな」って思いながら聞いていたらビタッと一直線につながった瞬間があるみたいなことが、興奮すると思うんです。

田中:たまたま戻ってくるってのはあるんだよね。それが楽しいんですよね。適当なことを言ってたら、「最初にその話をしてたよね」ってところにたまたま戻ってくることがあって。それはなかなか楽しいなと思いますよね。

会話が一直線のオンラインは、冗談を言うのもつらい

阿部:そうですよね。2人で確認作業をするようなことではなくて、話をしている中で思いもよらないところに連れて行ってくれるのが本当にいい会話だなって、僕も泰延さんの本を読んであらためて確認しました。最近オンラインで話してると、一直線ですよね。

田中:一直線。もう一直線。とにかく「今日はこのことについて3時から話し合います」っていうオンライン会議が多いから、冗談もないしね。で、オンラインですごくつらいのは、冗談を言った時にちょっと音声が途切れたりしたら、「すいません、もう1回言ってください」って。なんでこんなしょうもないことを2回言わなあかんねんって(笑)。めっちゃつらいねあれは。

阿部:(笑)。そうなんですよね。どれだけおもしろいことも、2回目に言うとちょっと照れちゃいますよね。

田中:2回目は恥ずかしいよ。あとこの本の中でも書いたけど、オンラインって自分の顔が見えてるでしょ。

阿部:そうそう、そうですよ。

田中:あれが難しい。普通人間って、向かい合ったら相手の顔を見てるのに、自分の顔がここに見えてて、何か言うのはすっごくつらいな。

阿部:本当そうですよね。鏡を見ながら話してるような感覚にもなってしまうし、自分がちょっとふざけたことを言おうとした時に、自分の顔が見えるのは……。

田中:恥ずかしい。

阿部:恥ずかしいんですよ。

田中:ちょっと言う前ににやけたりする自分を発見するわけ。だから、あれの利点は、Zoomを起動する度に自分が「俺的には松坂桃李に似てるな」っていうことを確認するしかなくて。うっとり見てしまうこともあるんですけども……会場の少ないギャラリーが失笑が漏れるっていうね(笑)。