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元航空自衛隊女性幹部が語る! チームの勝ち負けはリーダーが全て!!(全5記事)

「女性リーダー=強くて格好いい」という、周囲からの期待 元・女性自衛官が直面した、男性社会におけるギャップと葛藤

航空自衛隊の女性幹部として24年間キャリアを積み、現在はコンサルタントとして活動する西田千尋氏。年上の部下を率いる場面や、圧倒的な男性社会である自衛隊において、女性幹部として働くことの葛藤、結婚や出産というライフイベントの苦悩などを明かしながら、「チームの勝ち負けはリーダーが全て!」というテーマで講演を行いました。本記事では、周囲が期待する「理想のリーダー像」に対して、女性幹部たちが直面したギャップを明かしました。

組織のトップに求められる「戦略的思考」

小柳津誠氏(以下、小柳津):さて、また続きをお話ししていただきたいと思うんですが、その前にみなさん、もう一回ここで何か質問大丈夫ですか? されたい方があったらぜひ。

西田千尋氏(以下、西田):ぜひぜひお願いします。

小柳津:またこのあとでどんどん質問していただいてけっこうなので。では、上級幹部職のところに行っちゃいましょうか。

西田:行きましょう。

小柳津:じゃあ、続きをお願いします。

西田:自衛官は54歳から57歳で定年なので、一番上の将官は1人くらいは60歳くらいまで働けるんですが、だいたい25年ぐらいの選手と、年齢で言えば56~7歳までの方々というイメージです。そうすると、直接隊員を右から左に動かすのがあまりなくて、大きな単位を動かすことと、組織をどう在り方を考えていくかをやっていきます。

この時は、部隊経験を踏まえて、もしくは対個人という感情を持つ“生もの”をどう扱うかを踏まえて、小集団の部隊をどう運用していくかというのは、ある程度経験しているところです。

ここで求められていることは、組織の在り方を5年や10年の単位でビジョンを描いたり、今ある組織を改変や統合とか、どういうふうに時代にマッチさせていくかという「戦略的思考」を持つこと。階級が高いということは、何かあった時に説明しないといけないということで、「説明責任」というのが非常に求められる立場になってきます。

強い組織を作るために、あえて修羅場を見つける

西田:一方で「チーム運用」というのは、もう25年もいたら顔で仕事ができるというか、目をつぶっても仕事ができる状態になっています。

顔で仕事ができるようになった状態で、今度は対象となる自分がリーダーシップを取る対象が幅広く、単位として部隊に対してリーダーシップを取っていくので、いろんなアプローチで自分の考えていることを示す必要があります。

同時に、部隊や組織が強くなるための乗り越える修羅場をあえて見つけたり、作り上げたり、やらせたり。強く勝てる組織を作るためにやっていく必要があります。

現在、陸上自衛隊の一番トップであられる陸上幕僚長が、昔講演で話していた時に、「めちゃめちゃこれいいな」と思ったことがあって。「リーダーとは、仕事とメンバーのバランスの視点で考えられるか」ということをおっしゃっていて、常に任務と隊員の相反する二局面に直面していると。

武力攻撃事態という状況において、自衛隊は隊員の命を犠牲にしてでも、国民や領土とか守らないといけない局面が現れると。大切な隊員なので、被害を局限しながら任務を遂行することは当然なんですが、常に任務と隊員をどうバランスを取っていくかがすごく重要だと。

チームのメンバーに対する「優しさ」と「厳しさ」の使い分け

西田:一方で、私自身も振り返って。初級ぐらいのリーダーはだいたい10年ぐらい、厳しさと優しさの判断を、とにかく隊員に対する信賞必罰でしか考えないと。隊員に対する言葉や態度による飴やムチを使い分けようとする。

でも、リーダーシップの本質は、達成しなきゃいけない使命やミッションという仕事に対する厳しさと、隊員の優しさの2つのバランスで捉えるべきだと。

この写真にあるように、災害派遣があれば何日も泥だらけになって任務達成をさせる。お風呂入らせない、ご飯も一番最後だというのは起きうるわけですが、実は本当に厳しくて。もちろん、隊員の状態を見て休憩させるんですが、ただこの時は、歯を食いしばって「なにがなんでもやるんだ」という、仕事に対する厳しさは貫かせなきゃいけないと。甘いことを言っていないで、「がんばれよ」という言葉がすごく大事で。

一方で、終われば温かいご飯やお風呂とかを用意したり、食事を準備したり、労をねぎらうという、仕事に対する厳しさとメンバーに対する優しさは、リーダーが常に考えておくべきことではあるということを、(陸上幕僚長の)話を聞いた時に「ああ、まさにそうだな」と思いました。

そのためには、厳しい状況でも「あの隊長が言うんだったら一丁やるか」「あの隊長だったらこういうことやるから、もう一歩がんばろうか」ということを、日頃からメンバーと培っていくのが非常に重要なことです。

女性の幹部自衛官の割合は、わずか3パーセント

西田:私の葛藤になるんですが、女性の幹部自衛官って(自衛官全体の)3パーセントで、だいたいイメージでは20人に1人いるかいないかぐらい。会議に行っても女性は私1人がいるかなぐらいで、(この割合は)今でもあまり変わっていないと思います。

最初は費用対効果の存在だったなと思うことがあって。ある意味(自衛隊の)トップクラスの厳しさと、(世間が)イメージしやすい男性社会のフィールドで、何をやってもだいたいどこに行っても「女性初」みたいな。

「女性の幹部自衛官が来るから、トイレどうする?」「化粧室どうする?」みたいな。今はだいぶなくなりましたが、1つのトイレを男性用のマーク、女性用のマークをひっくり返すところがまだ少し残っていますけど。

そういった中で、たった1人の新しい女性のために、トイレを増設するかの議論が繰り広げられていて。思い起こせば、1週間くらい青森県に演習に行って、その時は50人くらいで山に訓練に行ったんですが、トイレが2つしかなくて。

当時、小隊長という立場で行ったんですが、その上の隊長が「何か困っていることない?」と言ってくれたので、「トイレを私専用にしてもらっていいですか?」と言ったら、めちゃくちゃ怒られたんですよね。「そこに穴があるから掘れ」と言われても……みたいな。陸上自衛隊はそういうことをするんですが、航空自衛隊はそういう文化がなくて。

結局、50人のうちの1人(が女性)で、49人(の男性)が1個のトイレを使うのは確かにないよな、というところなんですが。当時はどちらかというと、「この人に投資してどうなんるんだ」という、女性については費用対効果というものさしでしか上司の判断はなかったかなということが、本当にいろいろありました。

出産しなくてもそうなんですが、出産してからは女性であり、幹部自衛官であり、母であり、妻でありという、帽子をいくつも被っちゃ脱いだり、3つも4つも被ったりをずっとやってきたなと感じています。

女性リーダーに対する「強い」「格好いい」というイメージ

西田:さっきお話しさせていただいた続きになるんですが、女性の指揮官になる時にみんな必ず陥るんですが。今はだいぶなくなりましたけど、上司にしたい女性は天海祐希とか、あっさりしていて格好いい人がだいたいランクインされて、最近は水卜(麻美)アナとかが出てきて(イメージが)柔らかくなっているんですが。

みんなが指揮官像に対して、やはり「強い」とか「格好いい」というイメージをしていて。実はイメージしていないかもしれないけど、女性たち自身がそれ(理想の指揮官像)に対して自分と比べちゃうことが往々にしてあって、指揮官像に対する違和感を感じる。

違和感だけだったらまだいいんですが、できるだけ自分を女性としての魅力に乏しく、男性的に見せる傾向もやはりチョロチョロと見える時がありまして。

例えば、髪をすごく短くしたりとか、男性口調を使ってみたり。制服が貸与されるんですが、スカートもあるけど絶対にスボンしか履かない人がいたり。別にそれが男性に直結するわけじゃないんですけど、「スカートは絶対に履かない」と言っている人がいます。

周囲のリーダー像への期待や、比べるリーダーが男性だったりと、女性幹部自衛官になって10年くらいはギャップですごく迷うと。一方で、本当に比べるのが男性なのか、はたまたすごいバリキャリなのかをふと思うんですが、それを壁打ちする相手があまりいなくてみんな悩むんです。

期待されるリーダー像のためにキャラを作る必要はない

西田:ステレオタイプから自分を外すとか、あえて第3のキャラでいくとか、実は結局そんなこと誰も求めていなくて。役割期待に対して女性を捨てるか・捨てないかとか、女性を演じるということではなくて、自衛官であって、幹部であるという役割期待や人を率いるのに応える。ただそれだけだと思っています。

「自分はリーダーとしてこういうふうにありたい」というのを、自分なりに描いていく。自分が違和感を持たないやり方は何なんだということを、だいたい10年くらい過ぎたら見えてくるんですかね。そうすると、非常に楽になってくると。

年下が年上に指揮をしたり、ある意味統御をしなきゃいけない状況で、日本社会で非常に特殊な指揮系統が、自衛隊では昔から当たり前の状態なんですが。でも、ここで(従来の)リーダー像のイメージじゃなくて、権限と肩書きだけでは人は絶対に付いて行かないということを、部隊経験の中で思い切り知らされます。

マジョリティが現実を作り、マイノリティが未来を作る

西田:私がとても好きな、女性が入ったことで逆に組織風土を変えた例があって。これ、米軍のF16の女性パイロットなんですが、コックピット内のトイレですね。お小水の仕方を空軍のオフィシャルビデオで共有したんですが、昔はパイロットは空を飛ぶ時にお水を飲んじゃいけないとなっていて。

それは勝手に慣習で決めていて、なぜかというとトイレが汚れるからです。中の掃除をしなきゃいけなくなるからというだけで。

女性が戦闘機のパイロットになって入った時に、「パイロットって空中で喉が渇くよね。水を我慢して空を飛ぶほうが不健全だよね、しかも不安全じゃない?」ということを発信したと。今まで誰も言えなかったんですが、これはマイノリティの存在が組織の未来を変えていくいい事例だなと思っていて。

一概には言えませんが、マジョリティの人は現実を作っていて、マイノリティが未来を作っていく例じゃないかなと思っていて。マイノリティの進出ですよね。

時として、マイノリティの進出は、組織が今までやってきた慣習や我慢や神話みたいなものを開放する存在であるということで、むしろ男性が旧体制で縛られた我慢や疑問とかを女性によって開放された、よい例だなと捉えています。

男性がマジョリティの社会において、女性が持つ可能性

小柳津:すみません。ちょっとここで、もう一回だけ質問タイムというか。今、すごく僕も新鮮だったのが、まさに今のF16のお手洗いの話。本来は我慢なんかしないほうが効率も上がるはずなのに、男性が我慢したのを、女性が「それは我慢じゃない」というところにあらためて触れたという。

ブレイクスルーのための突破点を女性が進出することでできたのは、非常に参考になる。いろんなところで活用できるケースではないかと感じたんですが。そういう部分で、女性のお一人として今の話に感じるところはないかなと、逆に女性の方にうかがいたいんですが、いかがですか? 

今のお話を聞いて、女性としての可能性。幸か不幸か、今のところまだまだビジネスの社会はマジョリティが男性なので、なかなか女性が不利や損に押しやられることがあるかもしれません。今みたいなことはヒントにもなるかなと感じたりしたんですが、どう感じたりされますかね。

参加者3:今日はいろいろお話をうかがって、すごく勉強になっています。マジョリティが現実で、マイノリティが未来というのを聞いて、なるほどなと思ったことがとてもありました。私も女性が少ないところ(会社)にいますが、そういうところで女性が声を挙げていくことで、変わっていくこともありますし。3パーセントほど少なくはないんですが。

小柳津:はい(笑)。

参加者3:1割程度のところにいると、やはり基本ベースは男性が作っているところがあって。先ほどおトイレの話も出ましたが、本社はさすがに同じ数だけありますが、私が行った頃は地方機関に行くと女子のおトイレがなかったりとか。

小柳津:ないんですか!

参加者3:(女性用トイレが)なくて、共有だったんですね。

小柳津:共有。へえ!

参加者3:その時は西田さんのように「女性専用にしてください」ということもなく、「こんなもんかな」みたいに思っていて(笑)。

小柳津:なるほど(笑)。

参加者3:その後、私の後輩たちが声を挙げていったし、会社も変わっていったので。今はそんなことないんですが、そういうことって当たり前じゃないよということを、声を挙げていくのはすごく大事なことだなと、お話しをうかがいながら思いました。ありがとうございます。

西田:ありがとうございます。

「我慢・忍耐=美意識」という感覚

小柳津:僕も今の話を聞いて思ったのは、我々男性って我慢や忍耐が美意識というのか、楽すると悪いというね。僕なんかは昭和の人間で、昭和といってもだいぶ前の昭和で、還暦過ぎた爺さんだからしょうがないんだけど、それが社会を作ってきたところがあるので。

今の西田さんの話ってすごく新鮮だし、よく考えないといけない。すごくヒントをいただけるんじゃないかなと思ったりします。もうお一方、女性の方でせっかくご参加いただいているので、同じようにご意見聞けますかね?

参加者4:私の会社でも女性がマイノリティの部分もまあまあありますが、最近はわりと女性のほうがはっきりと意見を言ってくれる印象があります。女性の意見は積極的に取り入れていきたいと思っていますし、会社としても受け入れるようになってきているので、今後は変わっていくんじゃないかなと思って、期待しているところです。

小柳津:実際に声が挙がったことに対する抵抗感ってあったりしますか?

参加者4:そうですね。私自身はそんなに抵抗は感じていないですね。今日は女性が少ない部隊のお話を聞いていますが、例えば会社内だと、実は若い男性陣のほうがなかなか言いたくても言えない、と思っているのが問題かもしれない場合もあるんですよね。

小柳津:なるほどね。

参加者4:だから、それが女性・男性ということではなく、ある意味若い男性がマイノリティかもしれない。そういう意見は取り入れたいなと考えています。

小柳津:ありがとうございます。それもすごくいいヒントだと思いますね。どうしても男性社会って年下を舐めることが多いですから、今おっしゃったように、逆に男性の方でも、若いから言いづらいのはかなりあるんじゃないかなと思いますね。

まだまだ数の少ない、女性管理職

小柳津:もうお一方、男性にも聞いてみましょうか。今みたいな若い男性のことも含めて、それから男性側から見られている女性側のことも含めて、今みたいなお話についてどんなことを感じられました?

参加者5:本日は貴重なお話をありがとうございます。男女差別みたいになっちゃってあれかもしれないですが、女性のほうが圧倒的に優秀という印象です。

小柳津:圧倒的ですか!

参加者5:さっき「男子が我慢する」みたいな話もちょっとありましたが、個人的な感覚でいうと、気付かないだけなんじゃないかなという。

小柳津:それは男性側がということですか?

参加者5:そうですね。女性のほうが気付きが多い。

小柳津:なるほど。

参加者5:その分、男子は我慢して意見を言わないというよりは、女性のほうが圧倒的に細かいところに気付いて、発言もしてくれるというような印象ですかね。

小柳津:そうすると、どっちかというと「若い男の子、がんばれ」ぐらいの意識が強いみたいな。

参加者5:僕は圧倒的にそうですね。

小柳津:そうなんですか(笑)。なるほど。

参加者5:僕が勤めている会社も女性の人数は多いんですが、やはり業界的に男性の業界だったりもして。上に行けば行くほど、女性は子育てや育児だとかで、それこそ女性幹部・女性管理職が非常に少ない状況ではあるので。今日のお話は非常に参考になるところも多いなと思っています。ありがとうございました。

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