大手企業トップセールスが教える営業Tips

今井晶也氏(以下、今井):ではさっそくセッションテーマに入っていきたいと思います。特別スライドは用意していないので、口頭で進めていきます。

冒頭でお話ししたとおり、大きなセッションテーマは2つしか用意していません。でも時間はあと1時間20分ぐらいあります。なので視聴者の方々と一緒に質問項目を作っていきながら、トップセールスの考え方を学んでいきたいと思っています。どしどしQ&Aなどいただけたらと思います。

では大きな項目として、まず用意している質問テーマの1つ目、「教えて! 部下に教えられる営業Tips3つ」。トップセールスのルーティンということで、大手企業のトップであるお二方がどんなTipsを用意しているのか、ご紹介いただければと思います。運営の方、チャットに今話しているテーマを適宜流していただけるとありがたいです。

じゃあさっそくですが、この「部下に教えられる営業のTips」、トップセールスを取ったTips3つを教えていただきたいんですが。太谷さんからお願いします。

太谷成秀氏(以下、太谷):3つと言いながら4つなんですけど……(笑)。

今井:(笑)。やっぱりね。さっきの岩田さんの話でもそうでしたけど、トップセールスの方って、基本言うこと聞かないんですよね(笑)。

太谷:すみません。欲張りで大変申し訳ないんですけど(笑)。一応、3つの意識と1つの行動があって、営業の塾などでも常に言っているんです。まず、「とりあえず、これだけやれば売れるようになるよ」という3つの意識を簡単に紹介します。

ナンバーワンセールスパーソンが掲げる「3つの意識」と「1つの行動」

太谷:1つ目は「熱心で元気な営業マンであり続けることを意識する」。たぶんここにいらっしゃるパネラーの方々はわかると思うんですけど、これ、「できてるでしょ?」って思うんですが、意外とできていない人がかなり多い。

私もそうで、「こんなんじゃ売れるもんも売れねぇよ」って、最初師匠に言われたんです。要は、踏み込んだ瞬間やお客さまと話した瞬間、「ちょっと元気じゃないな」と思われてはいけない。これがまず1つ目。すごく大事だと思っています。

2つ目は「今この瞬間も顧客の求めていること、ニーズを常に意識すること」が非常に大事かなと。これ、営業以外でも本当に大事だと思うんです。

例えば今、これが提案の場であれば、今井さんはこの瞬間何を求めているのかとか。メールをしている瞬間、電話をしている瞬間、その瞬間何を考えているかを意識していると、だんだんわかってくるんですよ。そこがポイントだと思うので、意識し続けることだと思います。

3つ目は「目標達成の数値を強く意識すること」。これはもう文字通りですね。どのくらいの数字に対して、月にどのくらいやらなきゃいけないのか。何をどのくらい販売していくと達成するのか。これはもうトップセールスマン、1位の人たちはみんな頭に入っていますね。私はこの3つの意識が、本当に大事だと思っていますね。

今井:ちなみにプラス1の、4つ目の「行動」は、いったん置いておきますか?

太谷:そうですね、長くなるかなと思って。ざっと言うと、「行動」は、「コピー×オリジナル」なんですけども。

今井:「コピー×オリジナル」。なるほど、なるほど。

太谷:これはもう営業だけじゃないと思っています。例えば私は最初の配属先が新潟だったんですけど、新潟・長岡のエリアでプロの人、トップセールスマンをまず完全コピーしました。

しゃべり方、リズム、話の流れ、行動。それをまず完全コピーした上で、自分のオリジナリティの強みを入れていくんです。いろいろ試した結果、私はこれがいいんじゃないかと思いましたし、私の師匠もそう言っていました。以上です。

今井:なるほど、わかりました。ありがとうございます。もちろんこのままで「はいオッケーです」とはいきませんからね(笑)。

1要望されたら2か3で返すような「熱心な姿」を見せる

太谷:今井さんもプロなので、どのへんが「なるほど」で、何をいろいろ思ったのか、私も気になるんですけども。

今井:どれも大事なことっていうのはたぶん見ている方も、ここにご参加いただいている方も合意されると思うんですよね。でも、ちょっとうがった見方をすると「本当にこれをやったらトップセールスになれんの?」っていう気持ちもちょっとあるんですよ。

だからたぶん、ここの思考がめっちゃ深くて、すごい徹底行動があるんだろうなって思うので、ちょっと深掘りしていきたいなと思います。もちろん岩田さんと松田さんも、「これどういうこと?」ってガンガン聞いてください。

松田しゅう平氏(以下、松田):私も今井さんと同じことを考えてました(笑)。

今井:(笑)。そうですよね。「熱心で元気な営業マン」って、どれぐらいなんだろう? どんなイメージですか。

太谷:イメージは、2つテンション上げるぐらい。私がよく言っているのは、「ストロング缶350ミリを一気か、500ミリ飲んだぐらいのテンション」ですね。

今井:(笑)。なんか想像はできます。

太谷:ふだん人としゃべっているよりも1つか2つぐらい上で。あと意識的には、けっこう「営業=お客さまに求められていない」みたいに思っちゃってる人がいると思うんです。まずその考えを払拭していく。「熱心」というのは、お客さまが1要望したら、2か3で返す。そうすると熱心に見られるんです。

今井:なるほど。単純に声が大きければいいとかそういうことだけではなくて、向き合い方とか「あなたのことを真剣に考えてますよ」っていう「熱心な姿」にまずなる。熱心に「なる」ことと、それを「見せていく」ことが大事、みたいな感じですか?

太谷:そうですね。「元気」よりも「熱心」のほうがポイントですね。元気があるだけで、1要望したのに0.5しか返ってこないと「あれ? ちょっと熱心じゃない。なんか信頼できないな」となるので。その2つ「元気」と「熱心」をかけ合わせるのが重要ですね。

自社の提案で解決できないことは、他のビジネスパートナーを紹介することも

今井:例えば「1の要望に対して2、3で応える」のは、言葉上わかるんですけど。具体的なシーンで、「これをやったらお客さまにすごく喜ばれた」という行動は何かありますか?

太谷:一番最初の頃、Wi-Fiを提案していた時に、お客さまから「このWi-Fiってどのくらいの速さなの?」「何台ぐらい付けられるの?」と聞かれて。普通だったら「このくらいです」って答えるのを、すごく優先度が高かったので、それだけじゃなくてお客さまの図面に落としたんですよ。「この広さだったらここに端末がこのくらい付いて、こういったイメージになりますよ」というところまでして、返したんです。

今井:一歩先の行動や、お客さまにとって考えなければいけないことを見えやすくしてあげるんですね。

太谷:そうですね。あとはお客さまが、この先考えるであろう、ぶつかるであろう、悩むであろうことをプラスアルファでお伝えしてあげる。

今井:先回りがけっこう大事なんですかね。

太谷:そうですね、あとちょっと違った視点だと、提案だけじゃなくて、ビジネスパートナーを紹介してあげることも。それもやり方として1つあると思いますね。

今井:それは太谷さんの売上にならなかったとしても。

太谷:そうですね、はい。

今井:さっきの2つ目の「お客さまが何を求めているか」にもつながるかもしれませんね。本当に困っているところを熱心に聞いて、仮に自分たちで解決できなかったとしても、お客さまのビジネスをサポートする役目のように、向き合ったり他の方を紹介したりしていたと。

太谷:そうですね。期待値が非常に高くなるというか、上がる・超えるやり方の1つはそれでしたね。

「元気よく営業する人」はそこまで多いわけではない

今井:なるほど。今、マツザキさんという方からチャットでコメントをいただきました。「お客さまによって熱心のツボが異なるので、テンションを変えたりしていました」とあります。

これ、僕も似たようなことがあってですね。自分の話し方や声にはわりと自信を持っているタイプで、いつも元気よくやっていたら、お客さまに「うるさい」って言われたんです(笑)。そのへんってみんな均一に、ストロング缶一気飲みのテンションで大丈夫なんですか?

太谷:私は基本高く、そのぐらいのテンションでいきます。しかしながら相手によって変える時もあります。今までの傾向ですと、例えばシステム担当などの方々は、たまに「うるさい」という顔されますね。

それもさっきの2つ目の意識で、「今お客さまが何を考えているか」って常に考えているので。「ちょっとイヤそうな顔をしている」のであれば、テンションを1つ下げるのは意識してやってましたね。

今井:じゃあ「明るく元気」は、わりと最初の入口の、お客さまへの見え方や印象に対する意識なんですね。あとは売る商品や、お客さまの反応を見ながらチューニングしていくんですかね。

太谷:そうですね。相手によるとは思うんです。とはいえやっぱり「元気よく営業する人」ってそこまで非常に多いわけじゃないので、まずはそこをクリアする。クリアできるようになるのが、すごく大事だと思っていますね。

今井:なるほど、おもしろい。ありがとうございます。この「熱心」や「テンション」に関して、岩田さんはどういうスタンスですか? 

岩田圭弘氏(以下、岩田):僕は営業って、やっぱり「後出しじゃんけんが最強」だと思っているので。僕はわりと、お客さまに合わせて変えますね。最初の名刺交換の音声やトーンを聞いて、「こういうタイプだろうから、ちょっと落ち着いたトーンでいこう」とか。「こういうトーンだから、これはしっかりガツっと言いたいことを早めに言っておこう」とか。そういった使い分けをけっこうしていましたね。

「熱心の度合い」は、スキルやナレッジに細分化できる

今井:なるほど。松田さん、「学び」や「イネーブルメント」の観点では、どんなテンションが良いんでしょうか?

松田:お二人のお話をうかがっていて、これはすごいな、と思いまして。ほとんどのトップセールスの人に言えることなんですけど、こういう感覚的なことが当たり前にできているんですよね。

太谷さんの発言からは、「元気」「熱心」「ニーズを引き出す意識」「目標達成意識」など、マインド的なことがたくさん出てきましたよね。先ほどの岩田さんの話では、「お客さまに合わせる」とありましたが、私はここがポイントだと思いました。

トップの人は、今までの積み重ねで勝手にできちゃうんですよ。でも絶対お二人は、裏では誰よりも、ものすごい努力をされているんですよね。私たちの言い方だと、それは「ナレッジ」と「スキル」だと思っていて。これ、今お持ちの「スキル」なんですよ。根性とかマインド的なことかもしれないんですが、熱心の度合いって、実はもっとブレイクダウンできるんです。

例えば先ほどの話だと、質問された時の回答の仕方は、「図面を描いてまでやる」と。それぐらいの度合いでやりますよと。あと、お客さまとの関係性がどれだけうまくいってるかというと、「人を紹介できるくらいの関係性がある」だとか。そういうのもスキルやナレッジに入ると思うんですね。

あと「お客さまに合わせる」という岩田さんのやり方も、「こういうお客さまがきたら、こういう対応をする」と、自分の中でマッピングができているわけですよね。それを組織に落とせたら、一般的な営業の人もおそらく、太谷さんや岩田さんまでいかないまでも、20パーセントぐらい成績上がるんじゃないかな。

営業は「感覚」ではなく「定型化」して考えるべき

今井:確かにそうですね。太谷さんと岩田さんは教育にも関わっているので、自分のやってきたことを言語化するのは慣れているほうかもしれないですけど。多くのトップセールスの方々って、わりとファンタジーの世界で、ちょっとオカルト的な要素でやれちゃうじゃないですか(笑)。

よくある言葉として「え、なんでそれができないの? お客さまの気持ちに憑依してやればわかるじゃん」みたいな。わかんねぇよ、っていう(笑)。営業中にやっていることや考え方を細分化すると、実はスキルやナレッジに落とせそうですね。

松田:すごい楽しい作業ができそうです。

(一同笑)

たぶん、お二人はもうされていると思うんですけどね。

太谷:私も最初の2年半、「感覚で営業してる」って言われ続けていたので。「もっと定型化してちゃんと考えなきゃダメ」って、よく言われていて。やっぱり誰かに伝えたり、教育したり、展開して初めて、「こういったところが良かったんだな」と。私は本当に、あとからわかりましたね。

お客様の気持ちを「常に」考えていると、パターンがわかってくる

今井:なるほど。ちなみに2つ目の「お客さまの今の気持ちを考える」に関して。これ、たぶんみんな「そうだよね」とは思うんですけど、具体的に、何をしたらお客さまの気持ちがわかるようになるんですか?

太谷:これってお客さまによって本当に違うので、「これが」って言うのは難しいんですけど。セールスの人は、営業中に提案している時や、お客さまに会っている時だけお客さまの気持ちを考える人が多いんです。

それだけじゃなくて、メールする時や電話の時も含めて、常に考えておくのが重要で。考えれば考えるほど、パターン化されていくんですよね。営業をするにしても、大学、自治体、民間企業、個人、と幅広く提案する営業ってあまりいないと思うんですよ。領域がある程度絞られてくると思うので。

これを半年~1年続けていくと「これはあの時のパターンで、こういうことを求められた時にこういう提案をしたら、なんかうまくいったな」っていうのが、だんだん積み重なっていくんです。

今井:なるほど。じゃあまさに「商談はネタの宝庫」じゃないですけれども。商談だけじゃなくてメールを送る時などでも、お客さまと取ったコミュニケーションや、ケースみたいなものを、自分の中で体験として貯めていく。そして、「どういう時にどういうことをやると喜ばれるか」という引き出しを増やして、その出し方を工夫したり整理したりしておくことが大事なんですかね。

太谷:そうですね、私はそう思っています。

営業の「型」は、料理のレシピと同じ

太谷:ちょっとここで岩田さんに聞きたいんですけど。「相手を意識する」ことについて、私は「この数字を達成するために、このソリューションの型を」と、自分の中でばらばらにならないように型を作っていたんですね。

それで、お客さまにとっても、我々にとっても、一番いい「型」を作りながら提案していると、「相手が求めること」がだいたいパターン化されて、分かってくるんです。岩田さんは「型化」されるタイプか、それともお客さまの要望に応じて柔軟にやるタイプか、どっちなんですか?

岩田:僕はキーエンスっていう組織にいたからか、やっぱり「標準化」とか「型化」はめっちゃ好きなので。やっぱり何かでご好評をいただいたってことは、同じようなニーズを抱えている方も絶対いるので。そういう方をどんどん見つけていくのを、すごく意識して型化していましたね。

太谷:おもしろい、なるほど。キーエンスでもそうなんですね。

岩田:軍隊みたいな組織です(笑)。

太谷:今井さんって、トップセールスマンとたくさん関わってこられたと思うんですけど、どっちのタイプが多いんですか?

今井:企業のスタンスや方向性、あとは営業の人数にもよりますね。営業の人数が1,000人を超えてくると、けっこう標準化に意識が向くケースが多いですね。

あとは、例えばMR(Medical Representative 医薬情報担当者)など特殊な業界になると、法律の観点などで、営業中に絶対言ってはいけない禁止ワードがあるんですよ。そうすると「悪いことをなくしていく」ことのほうに、意識は向かいやすいですよね。

僕の基本的な考え方としては、もう料理と一緒だと思っているので。レシピを作って、悪いところを直すのが「標準化」なり「平準化」だと思うんですね。

ある程度型ができて、間違ったやり方はしなくて済む状態になった時に初めて、目の前にいるお客さまの要望に合わせたアレンジや気配りができると思うんですよ。「この人は硬めの麺が好みだから、ちょっと硬めにしよう」とか、「お昼にパスタを食べたから、夕ご飯はお米類にしよう」とか。でも、レシピを知らないとそもそも作れないので。そういうバランスかなと感じますね。

岩田:わかりやすい(笑)。

太谷:わかりやすい。その例え使っちゃうかもしれない。

岩田:いただきました。

(一同笑)

熱量の一番高い最初の1〜2年で、がんばることを習慣化できるか

今井:ナガイさんからご質問いただいています。「先ほどの『熱心』や『お客さまへの意識』や『目標達成の強い意識』、これらって継続して意識したり、やり続けることが難しいと思います。できる人とできない人の違いって何ですか?」。どんな違いがあると思います?

太谷:できる人とできない人の違いは、あとでちょっと「営業が達成できる組織の作り方」でも話したいんですけども……。自分の中でそれを意識できる人はいいんですけど、できない人にはやっぱり、外からそういった意識づけをする機会を作らなきゃいけないんです。意識づけする機会については、すごく大事なので、のちほど深く話したいと思います。

それで、私自身が思っているのは、「トップセールスマンの人とまず関わったほうがいい」ということ。私もけっこう師匠に言われていたので。いろんな人に関わっていくと、やっぱり熱量って入社した1~2年目が一番高くて、だんだん落ちてくるのが普通です。1回落ちきると、もう上がらないっていう話をけっこう聞いていて。

なので最初の1~2年目が勝負だぞと。「がんばることを、いかに習慣化するかが大事だ」って言われていました。それで私は、「この1年がんばらなきゃ、いつやるんだ」「今でしょ」っていう感じでしたね(笑)。

今井:なるほど、なるほど。

自分を強みを活かした営業は、まずトップセールスマンを完全コピーするところから

今井:最後に「コピー×オリジナル」についてもちょっと聞きたいんですけれど。行動の部分で意識することは、具体的にどんなイメージですか?

太谷:まずはその道のプロをコピーする。私は新潟県の長岡市にいたので、そこでのトップセールスマンを、まず完全コピーするところからスタートしました。よくある質問で「周りにトップセールスマンがいないのですが?」というのであれば、同じ分野を担当している別の支店や、社外でもいいですよね。

今ならYouTubeとか、まさにこういったセミナーとかに、そういった「型」が落ちているので。あとはもう『THE MODEL』など、本から得る。そうやってまず、営業のプロセスごとにどんなやり方でいくか、ある程度イメージしながら、完全コピーをする。

半年~1年やっていくと、誰でも少しずつ売れてくるので、そうすると成功体験が得られる。そこから初めて自分のやり方、ちょっとずつ強みを入れていくのが、私はいいかなと思ってますね。

今井:なるほど、まずは徹底的にパクる、ですね。

太谷:もう私、その人のロールプレイングを録音して、朝の通勤時間に聞きながら、そのまま一語一句間違えないでしゃべれるようにしまして。それが、しゃべり方も含めけっこう軸になりました。これはおすすめですね。営業車で聞きながらとか。

今井:なるほど、わかりました。ぜひ次回から、本をパクる時は『THE MODEL』ではなく『Sales is』をご紹介いただけるとありがたいです(笑)。

(一同笑)

太谷:まさにそうですね!

今井:すみません、ありがとうございます(笑)。