2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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多田洋祐氏(以下、多田):私もまさに「歴史ある企業さまこそ、本気で採用マーケティングに取り組んだらとても強いと思います」ということを、よくお客さまとお話しているんです。まさにパイオニアさまが持っている魅力を正しく伝えていますよね。
石戸亮氏(以下、石戸):おっしゃるとおりです。先ほど言ったデータの話なんですが、うちのデータってGoogleマップのデータとすごく近いんですよ。Googleマップのプロダクトを本当にいじるとなったら、Google本社のプロダクトチームである必要がある。
たぶんGoogle Japanだと、一からプロダクトそのものを変えたり、戦略を立てて金額設定するという制限がありますよね。Googleに限らず、外資の日本支社は基本的にどこもそうです。そこで「パイオニアに入ったら、Googleマップに近いデータを料理したり新しいサービスを作れるので、おもしろくないですか?」と言うんです。
Web系のデータだけよりも、エッジデバイス(IoT)のデータを触るっておもしろそうだなというのを、そこで初めて知ってもらえる。それを広げていくとか、そんな草の根活動をしたりしていますね。
多田:なるほど。ありがとうございます。外部IT人財を採用する時に、石戸さんみたいな方が最初に入られたから、他の方々も安心して入ってこられるのかなとも思いました。
石戸:それはありましたね。「髭とかTシャツとかいいんですか?」と言われて(笑)。あと「Macとか大丈夫ですか?」って、けっこうIT企業だと当たり前のことに対して、「ご安心ください」と言ったりしていました(笑)。
多田:なるほど。結果的にTシャツは効いていたんですね。
石戸:効いていたはずです(笑)。
(一同笑)
多田:では、福士さまにも抜擢・育成についておうかがいさせていただきます。
福士博司氏(以下、福士):当社は先ほど言いましたように、一般的に教育もありますが、順番が逆なことが多いです。要するに、新しいプロジェクトを立ち上げる。それは社内公募や社外公募やレクチャーであったり、オリジナルのビジネスに新たな外部パートナーに参加いただいりします。
アイデアコンテストから始まって、ゼロイチの先制。イチジュウ、最後はジュウヒャクというステップを踏んでいるわけです。まずは「ビジネスの人財がデジタルリテラシーを作る」ということを申し上げましたが、社内から上がってくるアイデアはその人たちが起案して、ステップで関門を通ったらそこにリソースを集める作業をする。
社内の人数は限られているので、その時に外部の人財が必要であれば、外部からアグリゲートする。重点化事業に振り向けると、そういう方法をやっています。だから、順番が逆かなという感じです。
それと、厳しい側面も言わなきゃいけないなと思っています。例えば製薬会社ですと、お医者さんを相手にしているMRという業種、いわゆる営業が必要ない時代になりつつあります。実際には食品の製造流通も変わっていますから、「では、味の素の営業は何をやったらいいんだ?」という時代になっているわけですね。
例えば、バックオフィスもそうだと思います。人事部、総務、調達、このあたりはAIもできはじめている。文章も読めるし、レシートも全部AIでできているのに、こんなに人数が必要なのか? という話になる。
我々は、バックオフィスはほとんど外注しています。外注あるいはジョイントベンチャーを作って、本部要員からは削減しています。それと研究所も統合しましたし、早期退職もやりました。今後もあるかもしれません。やはりテクノロジーが変わっていく時代には、育成する視点・抜擢する視点と同時に早期退職を優遇するなどといったことも必要なんだと思います。
多田:福士さまの観点では、市場も企業も変革している。だからこそ、働く一人ひとりにも求められていることが変わってきていると思います。そういった働く方々に、今みたいな厳しい観点でお話しいただきましたが、求められる素養・スキルなど、そのあたりはどのように見ていらっしゃいますか?
福士:愛情としては、(会社の)外に出ていく場合もきちんと一通りの手助けはしますし、教育をします。例えばデジタル教育などです。それは社内でも役に立ちますし、こういう時代背景ならば、社外に出ることで新たなチャンスがあるかもしれない。
多田:先ほどの三枝さまのお話の中にも、抜擢する時にプロジェクトに巻き込んで、20パーセントのリソースをいただくという話がありました。それは福士さまの観点からすると、チームに内部登用をしていく時に、どのように折り合いをつけて抜擢をされていらっしゃるのでしょうか。
福士:大抵の場合、人気者は取り合い・奪い合いになるのが実態です。そこはやはりテーマを募集し、関門を作りリソースを割り振る段階で、場合によっては経営会議で判断することもあります。
多田:では、ある事業で活躍している人財を、デジタル人財としてアサインメントするというケースにおいて、経営会議で承認していくこともありますか?
福士:そういう場合もあります。
多田:先ほど「社長のコミット」とありましたが、それがないと難しいことですね。
福士:できないでしょうね。活躍する人財には留まっていてほしいというのが多くの組織ですからね。
多田:人事までもDX化に向けて優先度を高く取り組むということを、会社のトッププライオリティに置いてやってらっしゃるということですね。
三枝幸夫氏(以下、三枝):今、福士さんが「ビジネスをやってる人にデジタルを教えていくのが早道」というお話をされましたが、その時にビジネスをやってる人に教えていくのか、それとも研究者や技術者エンジニアにビジネスのことを覚えてもらうかは、悩むところだと思うんです。
私は自分がエンジニアというのもあって、エンジニアがビジネスのことを覚えたほうが早いんじゃないかと思っているのですが(笑)。
福士:私自身も技術系だったので……「だった」という言い方をしますけど。本当のことを申し上げると、デジタルとの親和性・能力は、技術やサイエンスをやっていた人のほうが高いんですね。だから、その人たちがビジネスをやるのはストレートな直球勝負という話です。
けれども私が思うに、そこに社風という斜めのベクトルがあります。味の素の場合、事業は大抵文系や事務系という、少なくとも歴史的にこれまでの40年はそのような方が背負ってきています。技術・サイエンスの人はヘルプしていただくような位置付けです。
我々の今の方針は、ビジネスリテラシーを持った人がデジタルリテラシーを上げていく。サイエンスを持っている人はどうするかと言うと、やはり技術を極めるというか、新しい事業にエッジを持たせる技術を作り上げることが多いですね。だんだんその比率は変わってきてますが、そのような状況です。
三枝:わかりました。ありがとうございます。
多田:三枝さまの中では、そのあたりに課題感がおありだったのでしょうか?
三枝:これは非常に特徴的なのかもしれないのですが、事業をやるとしたら必ず何かのシステム・仕組み・テクノロジーが必要です。ビジネス側の人たちの中には、どうしてもその分野になると、「私たちはそこはわからないのでお願いしますよ」という感じになるケースが多くて。
「これを一緒に考えましょうよ」というのをやっていると、技術のほうの人がだんだんこっち(ビジネス側)になってきている感じなのかなと、感触として思っていました。
福士:あまりこういう機会で、本当のことが言えないこともあるんですけれども(笑)。デジタルをレバレッジにした新しいビジネスは、着眼点からしても切れ味からしても、今のところエッジが立っているのは、サイエンス系の方たちが考えたことが多いですね。これをよしとするかあしきとするかは別として、ファクトはだいたいそうですね。
というのは、やはりビジネスにはどうしてもしがらみがあるんですね。例えば、流通や広告など、人間と人間との関係、あるいは会社と会社の関係などといった、伝統的なビジネスの仕方があります。
ある意味乱暴な言い方をすると、新しいビジネスは(固定概念を)ぶった切って新たなバリューを消費者に直接訴えるようなことをしていくわけですよね。だからそこは、本当は破壊していかなきゃいけないということですね。
三枝:日本もダブルディグリーとか。MBAも持っているけれども、コンピューターサイエンスも勉強していく人たちがこれからどんどん増えてくる必要があるかなと思いますね。
福士:そういう意味では、石戸さんはもともとどういうご経歴だったのでしょうか? サイエンス系ですか?
石戸:学生の時は理工学部で光スイッチを作ってたんですが、学生時代にフリーペーパービジネスを友人と始めてしまって。その後はどっちかというと、社会に出てからはずっとビジネス側で。もしかしたら僕も、ビジネス・サイエンス両方というのもあるかもしれないんですが。
パイオニアのようにカーナビやカーオーディオなど30年ぐらい大きなマーケットでやっていると、ある種バリューチェーンがしっかりしているので。パイオニアにもけっこう感じるのが、垣根を超えるよりもしっかりバリューチェーンを回すところがあるという印象があって。ビジネス職にしろサイエンス職にしろ、バリューチェーンや課された役割をしっかり回す。
大きい組織になると、その後で垣根を越える人がなかなかいない印象です。その中でも、小さい組織とかを立ち上げた人は垣根を越える印象があるので。
三枝:当たり前のようにやっているということですね。
石戸:そうなんですよね。もちろん大小は関係ないかもしれないのですが。かつ、先ほど福士さんがおっしゃったパイオニアも、これまで新しいものを生んできた方々は、エンジニアが考えたアイデアが事業化したものが実際は過去にあったりします。
やはりそこは技術系が強いなと思いつつも、バリューチェーンがしっかりしているがゆえに垣根を越えづらいのかな、という点もあります。そういう風潮を「越権行為ではないよ」ということをうまくバランシングさせるのは、トライアンドエラーかなと思ったりはしております。
福士:関連して、質問していいですか?
多田:どうぞ。
福士:社会的課題を解決しないと企業の意味がないというのは、おそらく今後もますます重要になってきます。そういう意味では、パイオニアさんも出光さんも我々もそうで。その時にはたぶん、1社ではまったくできないという現実に気づくんですよね。
そうすると、それなりのエコシステムを他業種・他団体とやらないといけないという話になります。それがすなわち業界を再編することであり、社会のデジタル変革を進めることであり、壁を越えることだと思うんです。
その時に、「サイエンス系が良いのかビジネス系が良いのか」という議論があるとすると、これはやっぱり両方必要だと思うんですよね。規制のある社会ですし、テクノロジーの相性もある世界ですし、両方要るんだと思うんです。だから、どっちが最初だということではなくて、目的志向で行くとやはり双方必要だと思います。
多田:なるほど。
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