味の素×出光×パイオニアによる、パネルセッション

多田洋祐氏(以下、多田):パネルディスカッションでは、2つのテーマに絞ってお話をさせていただきたいと思います。「DX関連組織の運営について」ということで、まずは「組織」、そのあとは「人材の抜擢・育成」についてディスカッションさせていただきたいと思います。

すでにQ&Aで少しご質問をいただいていますが、引き続きこのあとのパネルディスカッション中にも受け付けておりますので、後ほどの質疑応答で取り上げさせていただきたいと思っております。

さっそく組織についてですが、このあたりは語っても語り尽くせないと思います。まず、福士さまにおうかがいしたいと思います。すでにDX組織の規模も大きいなという印象もございます。

冒頭に社長のメッセージで、(社長と福士さまの)役割を分けていったというお話がございましたが、そこをもう少しおうかがいできますでしょうか。トップの強い意志が必要だというお話がある中、社長と福士さまの役割分担はどのように進められ、どう関わっていったのか、もう少し具体的にお話いただきたいと思います。

社長の一番のミッションは、変革を支え続けること

福士博司氏(以下、福士):スライドを用意してきました。

多田:ありがとうございます。

福士:組織論は多くあると思うのですが、通常はピラミッド組織ですよね。トップは上に君臨して、ボトムには一般社員がいますよね。それは言ってみれば平時、平常時の安定経営です。では、新しいかたちを目指す時にはどうやったらいいのか。実はこれは逆だと思っていまして。

あえてここに、「逆ピラミッド構造」と書いたのですが(笑)。ここでは社長は一番下にいて、「絶対あとには引けない」という意志を、社内はもちろんのこと社外にも出す。「この会社はこうやって変わるんだぞ」と言い続ける。すなわち、変革を支え続けるのが社長の一番のミッションだと思うんですよね。

例えば、私のような代表執行役副社長ですけども、いわゆる偉い人ですよね。だけど変革しようと思ったら、いろいろな抵抗に遭うわけですね。既存の組織はやっぱり日本型、縦型ですから、そこに水平軸で変革しようとすると横軸でぶつかるわけです。それでも「やっぱり変革をするんだ」とジャッジをして、(意志を)曲げないのが社長の役割ですよね。

それに支えられて、ある意味支え合って、変革をするのがCDO。CDOは個人ですので、組織的なサポートが必要です。「CDO CLUB Japan」のような一般的な社団法人もありますし、それなりのアドバイザーや大学の先生もいますから、そういう知恵を借りながら強力に推進していくのがCDOです。

このダブルレイヤーの上に乗っかって自分ごと化して、自由にとは言いませんけれども、責任を持ってやっていくのが一般の執行役以下だと思いますね。

多田:なるほど。「CDO CLUB Japan」に入ったりすることで、ここまでやってこられているのかと思います。

味の素のDXは「オペレーションの変革」から

多田:これだけの大きな組織の中で横串で入られて、どういうところから手を打ち、「これは効果的だった」「これは良くなかった」などを含めて、お聞かせ願えますか。

福士:今から振り返れば良かったと思うんですが、我々は名和(高司)先生の「DXn.0モデル」を拝借して、(スライドの)第1ステップを見ていただいたらわかりますように、オペレーションの変革から始めたんですね。

それまで味の素は、働き方改革や時短(勤務)などいろいろやっていたんですが、それはあくまでも会社というよりも「働き方の自己変革」ですよね。なので、DXをやる時に「1.0」からやろうじゃないかと。それはすなわち、会社の変革の始まりだよということにしまして。

オペレーション、これはいろんな機能がありますから。営業は営業、マーケティングはマーケティング、研究開発は研究開発、生産は生産と、それぞれのオペレーションで世界最先端のレベルを目指しています。

もちろん自分たちだけではできませんが、我々の場合はOXYGY株式会社というアドバイザー、伴走者をいただきまして、組織目標なり個人目標をきちんと明示するところから始めました。

多田:先ほど、社員のみなさまの「自分ごと化」とおっしゃっていましたけれども、そこにフォーカスをして、「みなさま自身の業務が変わるんだよ」という点からスタートされたんですね。

福士:そうですね。先ほど三枝さんもおっしゃったように、「それはDXの推進者の仕事でしょ? 現場は違うのね」ということじゃないんですね。

多田:なるほど。ありがとうございます。

DXを実際に体験することで、現場からも好評の声が

多田:今、三枝さまのお話がありましたので、続けて三枝さまにもおうかがいしたいと思います。「体感」から「共創」に移り、「自走」するというお話がありました。そのステップへと動かしていくのは、難易度が非常に高いことだと思います。どのように「体感」を推進していたのでしょうか?

三枝幸夫氏(以下、三枝):やはり情報が多い社会ですから、みなさんいろんなことを聞いていて、頭ではなんとなくイメージができる。でもやはり、実際にやるとなるとよくわからない。私が言っている「体感」とは「体験」のことなんです。実際にこうやってデジタルを使って、仕事のやり方を変えてみるという体験です。

例えば、先ほどの保全のグループで機械が故障しそうな時。今までだと、整備の計画を立てて手配し、工事をしようとなると、昔の図面を書庫から引きずり出してきた。「前回はどんなことをやったのかな?」みたいに。これを全部、データとしてコンピューターで蓄積すると。

そうすると、自動的に過去のいろんな不具合が出てきて、簡単に工事手配ができる。工事手配の伝票も出てきて、そのためのいろんな生産計画にまでつながっていく。これは使ってみると、急に「いいね」ってなるわけですね。

我々がいくら言ってもなかなか信じないんですが、実際に担当の人が「デジタル部隊が来てこういうことをやってもらって、すごく便利になったよ」と言ってくれて、その噂が広まるのが一番効くなと思っているんですね。そういうところは見ているんですよね。

多田:どのように伝わるかまでを意識して、推進していくのがとても大事なんですね。

三枝:そのスピードを上げるためにWebセミナーをやって、本当に担当した人に出てきてもらって本音を言ってもらったりしています。

「人」中心で成長を考える、出光の組織運営

多田:これまで歴史ある企業さまで取り組まれてきたことで、組織運営における共通点、もしくは相違点などはございますか? お話しいただける範囲でかまいませんので、ご経験からお話いただけることがあればお願いいたします。

三枝:私がもともといたブリヂストンも、出光もそうなのですが、現場が優秀であるということ。現場が非常に高いクオリティで共創力を出している。そこがとても共通しています。マネジメントの上の人たちが「よし、こうしよう」と言うと、みんな「はい」と返事はしますが、心の底ではやろうと思っていないこともあるんですよね。

「部長がそう言ったって、俺のやり方があるんだ」と考えていることもあって(笑)。だからこそ、現場をどう変えていくかが重要です。そのためにWebセミナーだったり噂を(利用したり)、実際に現場に入り込んでその実績を広めたり、そんな取り組みをしていました。

多田:なるほど。各社さまの違いから、気を付けようと工夫されていることはございますでしょうか。

三枝:例えば、出光興産は創業以来、「人間尊重」という言葉も脈々と伝わっております。例えば製造業は「仕事の効率を上げて人員を減らしていこう」といった考え方になりがちなんですね。

出光の場合には人を大切にするので、もし効率が上がったならばその分のリソースをどこで活躍してもらおうかと、人の成長を考えます。あるいは、この人をどのように成長させようかという考え方を主軸に置いています。現代的でもあるかなとは感じます。

多田:ありがとうございます。

「CDOがいないほうが健全だろう」と考えた理由とは?

多田:私から石戸さまにご質問ですが、CDOという役割でIT企業から入社されて、直近でCDOという役割をなくしたという認識でよろしいんですよね。ぜひ、その背景をおうかがいさせていただけますか。

石戸亮氏(以下、石戸):僕は去年、先ほど福士さんもおっしゃっていた「CDO CLUB」に入っていろいろ勉強しながらだったんですが。各社CDOの目的とか役割とか立ち位置って違うとは思いますが、製造業の場合はパイオニアに限らず、「モノからコトへ」だったり、ここ10年20年でいろんなものをシフトしていかなきゃいけない状況にあるんです。

私がこれまで在籍した会社、SalesforceにしろGoogleにしろサイバーエージェントにしろ、CDOという存在はいないんです。社員が日々当たり前のようにデータを見ますし、デジタルやクラウド上で仕事をしてました。

あと、システムに関してもいろんなシームレスさがあったりとか。ビジネスに関しても、多くの製造業はBtoBtoX(ビジネスパートナーを介してサービスを提供すること)のビジネスモデルで、顧客と直接ビジネスや設定が得づらいスキームなんですが、これまでいた会社はBtoBにしろBtoCにしろ、やっぱりDirect to Consumerなので顧客の声も取れ、そこからサービス改善にも繋げやすかったわけです。

なので、CDOがいないほうが健全だろうなと思って私は入社しました。別に(会社を)辞めるつもりはないんですけれども、私のCDOとしての役割がなくなるほうが、会社としてあるべき姿だと思って日々やってきたのが、1つの大きな背景です。

先ほど写真をいくつかお見せしたかもしれないんですが、去年の4月に私は入って、今年の4月からCTOが主にソフトウェアエンジニアを中心としたサービス開発の責任者として参画しました。

「CDO」の役割を変えたパイオニア

石戸:我々でソフトウェアというと、組み込み型のソフトウェアなんですけどWebベースのソフトウェアはやっぱりこれからどんどん強化していかなきゃいけないところです。岩田(和宏)という、もともとスタートアップの経営、そのあとジャパンタクシーのCTOとして、ほぼゼロから150人ぐらいのエンジニア組織を作った人間が今年から参画してます。

彼がこの8月から「SaaSテクノロジーセンター」というものを作って、そこに数十人規模のWebベースのエンジニアやAI人財を採用や育成していっています。

また、楽天、ユニクロやLINEでずっとデータをやってきた保田(昌彦)という人間も今年から参画し、全社のデータ周りをリードしています。彼が8月からChief Data Officerなので、実はパイオニアはCDOがまだいるんです(笑)。私のChief Digital OfficerからChief Data Officerにバトンタッチみたいなかたちで。彼は本当にデータのプロですね。

それぞれスペシャリティがある人が入っていて。だから私もジェネラルに動くよりは、カスタマーにフォーカスした方がいいんじゃないかと、先々月ぐらいに社長と話したんですね。「今のパイオニアは待ったなしで変革期でベクトルは決まっているし、私が入社した時と比べ、各所に専門性(サービス開発、データ、ECなど)の高い方も参画してきたので、Chief Digital Officerはいらないんじゃないか」と。そしたら社長も「そうだね」と(笑)。

今のパイオニアにCDOが必要だとしたら、そのDは「データ」だと思います。パイオニアはこれまでBtoBtoXという小売やチャネルを挟むビジネスをしてきて、ダイレクトに(法人も個人も)顧客とビジネスしてきた経験が少ないので。「顧客(カスタマー)にフォーカスします」と言ってCDOをなくしたというか、変化をしていきました。そんな背景です。

多田:なるほど。