研究畑の知見を活かし、組織課題を読み解くエキスパート
伊達洋駆氏(以下、伊達):みなさん、こんにちは。このセッションは、「アルバイト・パート採用のためのオウンドメディアリクルーティング」と題して、50分間お付き合いいただければと思います。私は株式会社ビジネスリサーチラボの伊達と申します。本日はもう1人、一緒にセッションをさせていただきます。
清村遙子氏(以下、清村):株式会社出前館の清村と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
伊達:本日は、アルバイト・パート採用に焦点を当ててお話をします。それぞれ何者なのかというところから始めましょうか。先に私から説明させていただきます。
私は、ビジネスリサーチラボという会社を経営しております。もともとは神戸大学大学院経営学研究科で研究活動を行っていたんですが、その途中でこの会社を立ち上げて現在に至っております。
アカデミックからビジネスに転じてきたという意味で、珍しいキャリアパスではないかと思います。ビジネスリサーチラボという会社は、アカデミックリサーチといったサービスのコンセプトを立てています。
そのコンセプトのもと、従業員の意識を調査する組織サーベイをしたり、組織の中に眠っている人事データを分析するといった、アナリティクス的な仕事もしています。
採用に関連するところですと、今年の2月に『オンライン採用』という本を出させていただいたり、数年前に『「最高の人材」が入社する採用の絶対ルール』という本を出させていただいたりしています。
『採用力検定®公式テキスト』も書きました。以上、簡単に自己紹介させていただきました。
昨対比で配達員が10倍に増えた「出前館」
伊達:続いて清村さん、自己紹介・会社紹介をお願いいたします。
清村:では私から少しご紹介させていただきます。清村と申しまして、出前館に入りましたのが3年半ほど前になります。
最初は、小さな新規事業を立ち上げるような上場企業におりまして。その後は修行のために、コンサルティングファームで新規事業やマーケティング周りのお仕事をしておりました。
それから1社目に戻るつもりだったんですけれども、その事業が売られてしまいまして。行くところに悩んで、リクルートで6年ほどSUUMOという不動産事業の事業企画などをやってまいりました。そのあと出前館へ入社して、今に至っております。
出前館は、最近は飲食の加盟店さんも2021年7月に8万店を超えまして、日本最大級のフードデリバリー企業になっております。出前館は、最近ご注目もいただいているんですが、実は今年第23期の少し古めの会社にはなっております。
もともとは自社でデリバリーのリソースを持っている飲食店さんのマッチングと、お客さまがオンラインで注文できるようなマーケットプレイス型。種類で言いますと、左側の自社配達のサービスをしておりました。
そこから4年ほど前に、右側のシェアリングデリバリーを始めました。飲食店さんのお料理の配達の代行をする事業で、飲食店さんからすると配達手段をシェアするという意味でシェアリングデリバリーと呼んでおります。
こちらで初めて、出前館として配達員を準備しております。時給制でお支払いするアルバイトの方と、1件あたりいくらという格好で業務委託として働いていただく方のハイブリッドとなっています。自社配達とシェアリングデリバリーの両方を、1つのマーケットの中で注文できることが出前館の特徴になっています。
今回はシェアリングデリバリーを中心にお話ししますと、配達員が昨対で10倍。GMV(Gross Merchandise Value / 流通取引総額)も6倍、加盟店さんも7.5倍と大きく成長を遂げております。
シェアリングデリバリーでは、やはりお客さまと加盟店さんと配達員のバランスが非常に重要です。どこかだけが崩れると、例えば配達員が少ないとせっかく飲食店さんがあっても、お客さまに(料理を)お届けするのが60~100分と非常に長くなってしまいます。
自社配達の時の出前館は、もともと組織構造としてもこういった配達部門は持っておりませんでしたので、シェアリングデリバリーを始めて、初めて実際に配達員の採用や育成を行ってまいりました。本日はこのあたりで、いろいろ悩みながら苦労したお話をさせていただきたいなと思っております。
コロナ禍による、日本のフードデリバリー市場への影響
伊達:ありがとうございます。昨対比の配達員数がすごい数値ですね。さまざまな試行錯誤の中で獲得した知識や学びをシェアしてください。
本日はオウンドメディアリクルーティングについて、しかもアルバイト・パート採用に関して、いかに情報発信をしていくのかというテーマで、対談形式にて進めさせていただきます。
主に実践に関連する知識は、清村さんからお話しいただいて、私はそのお話を考察したり、一般的な話と引き付けながらお伝えします。本日は5つのテーマがあるので、さっそく最初のテーマに入りたいと思います。
まずは、「アルバイト・パート採用は現在どのような状況にあるのか」です。清村さんから見えている世界についてお話しいただいた後、私が解説をします。清村さん、よろしくお願いします。
清村:はい、最初はサクサクいきましょう。かなり釈迦に説法なところもあると思いますけれども、競争環境が苦しくて大変ですよねというところを、フードデリバリーマーケットを中心にお話ししたいと思います。
まず1年半ほど前に、初めての緊急事態宣言が発令され、コロナのビフォーアフターで大きく市場環境が変わっています。コロナ以前ですと、日本のフードデリバリーマーケットはあまり育っていなかった。
お隣の韓国に行かれたことがある方は非常によくわかると思いますけど、街中でデリバリーの配達員がたくさん走っているのが見受けられると思います。1年半前までの日本は、そこまではなかったかなぁと。ただ、「ジャイロ」といわれるデリバリー用の3輪のバイクが何台か走ってるくらいだったと思います。
人材獲得競争の中、アルバイトとギグワーカーの採用に動く
清村:そこから大きくコロナ禍でマーケットを拡大しました。まず、お客さまの観点でも在宅勤務へシフトして、ご自宅での食事機会が非常に増えたわけです。もともとはピザやお寿司など「プチ晴れの日」に使うものが出前でしたけれども。
ある調査では、テレワーク中の食事でなんらかのデリバリーを頼まれた方が7割ということで、徐々に日常的に取り入れられるものになってきたことがお客さま側の変化だと思っています。
あとは飲食店さん側からしても、営業時間が短縮されたり自粛を要請される中、デリバリーであれば営業してもよしというところで、収益の底支えになっているといううれしいお声をいただくこともあります。そういったお客さまと加盟店さん双方の大きな変化がある中で、マーケットとしても非常に大きくなってきています。
従来は我々のアルバイトさんの採用ですと、通常の飲食店さんや自社配送の飲食店さんといったところが競争相手だったわけです。そこから、みなさんはよくご存知のようなUberさんですとか、いろんなプラットフォームがどんどん日本に進出しています。その中で椅子がいくつもあるわけではないので、応募者の奪い合いが激化している環境だと思います。
その中で出前館としては、従来どおりのアルバイトさんに加えて、「すきま時間に働きたいです」とか、「副業したい」といった新しいニーズを捉える上で、ギグワーカーと言われる方たちとのハイブリッドで、両方の採用に踏み出したという背景があります。
「すきま時間の活用」や「副業」といった求職者のニーズに着目
伊達:ありがとうございます。「出前館さんの事例が特殊で、そして、清村さんが優秀だから、自分たちは真似できない」となってしまうと、このセッションの意味が非常に薄れてしまうと思うんですね。
もちろん(視聴者の方々が)優秀じゃないという意味ではないんですが、少し考えてみていただきたいんですね。例えば労働人口の減少という大きな傾向がある中で、人材不足は多くの企業が深刻なレベルで直面する可能性のある問題です。
そうなると人材獲得競争が起こるわけですが、これは、どの業界でもやがて直面する未来ではないでしょうか。そういった未来に対して、幸か不幸かわかりませんけど、コロナ禍ということもあって、出前館さんは非常に大規模かつ急激に対応を迫られたと。みなさんがやがて未来で対応せざるを得ないことを、現在奮闘しておられるという前提で聞いていただくのがいいかなと思います。
その上で、全体としてアルバイト・パート採用がどうなっているのかをお話しいただいたんですが。フードデリバリーの業界だけではなくて、例えば個人消費に関連する業種については人材不足感が出てきているんですね。今年の7月の調査を見てみても、人材不足だと感じている人が増加している傾向があります。
今お話をおうかがいしていて、興味深いなと思ったのが、採用のターゲットをうまく設定しておられる点ですね。「自分たちがどういう層を採用していくのか」が非常にクリアであると。しかも切り口がおもしろい。ターゲットというと、何歳の人とか学生とか主婦という具合に属性で考えるのが一般的です。
ところが出前館では、属性よりもニーズでターゲットを設定していますよね。例えばすきま時間で働きたいとか副業したいといった、求職者のニーズを基にターゲットを設定しています。この興味深さだけでも存分に語れますが、時間もありますし、ここはテンポよく次にいければと思います。
清村:はい、次行きましょうか。
ギグワーカーのニーズを把握し、同業他社との差別化を図る
伊達:今は全体感のお話をしたんですが、ここからは具体的に、「どのような情報を発信していけばいいか」をお話ししていきましょう。
オウンドメディアリクルーティングを進めていく上では、ジョブディスクリプション、つまり求人票の質を高めていく必要があります。では、どういう情報を重視して出していけば、うまく応募者を獲得できるか。この点について、まずは清村さんからお話しいただきたいと思います。
清村:ありがとうございます。先ほど伊達さんから一通りお話しいただきましたけれども。やはり今後求職者の奪い合いといいますか、競争環境が激しくなる中で、どういうことが求められているのかをきちんと捉えながら、その方々に刺さるような情報提供が必要だなと思っています。
後ほど触れますけれども、なぜ出前館を選んでくださってるのか、なぜ働きたいと思って働き続けてくださるのかという、実際の声を聞く調査をしています。やはり、その内容をジョブディスクリプションの中にしっかり組み込む必要があると思っています。
ギグワーカーと言われる方々のニーズは大きく2つあります。1つめの最大の理由はやはり十分な収入の機会があること。きちんと稼げることなんです。
もう1つが、すきま時間。ちょっとでも稼げることということで、いずれにしても時間あたりにいくら稼げるのかということが重要なわけです。ですので、黄色の枠で囲んでいますように、「配達1件最大1,400円」と書いています。ここで、しっかり稼げるプラットフォームであることをきちんとお伝えするようにしています。
あとは「すきま時間に働ける」ですとか、実際に働くまでのリードタイムですかね。登録から、実際に稼働が開始するまで3~4日でできますよということをお伝えしています。
あとは競合差別化というと表現があれですけれども。他のプラットフォームでは、すごく遠くまで配達することが嫌われますが、出前館の場合はそれが比較的少ないことをうたったりもしています。そういった、強みとして押し出せる可能性があるものをしっかりお伝えすることが大事かなと思っています。
採用における「ニーズとサプライのフィット」の重要性
伊達:実際の(出前館の求人)ページを見ながら解説していただくと、「なるほど」と思いますよね。この黄色のところ、めっちゃ目立ちますもんね。最初に目に入ります。
清村:ちょっといやらしいですけどね。
伊達:いえいえ。最初に目に入る箇所って大事ですよね。先ほどの話と同様に、ジョブディスクリプションを作成していく時もニーズに基づいて作成されており、ニーズの充足に関連する箇所が黄色くなっているわけですね。
採用に関する研究を見ていくと、応募者を獲得して自社に入ってもらうことを促す要因が明らかになっています。非常に大きな影響を及ぼす要因が、ニーズとサプライのフィットです。
ニーズとサプライのフィットとは何かというと、ニーズは求職者のニーズですね。例えばギグワーカーやアルバイトの方々が、いったいどういう働き方をしたいと思ってるのかというニーズです。
そのニーズに対して、企業が「うちなら、そのニーズを満たせますよ」とサプライ(提供物)伝えられれば、求職者は「あ、この会社行きたいな」「ここで働きたいな」と思うんですね。まさにニーズとサプライのフィットという原理原則が、ジョブディスクリプションの中に反映されているのかなと思いました。
ギグワーカーとアルバイトのニーズの違い
伊達:そんな中で、ちょっと確認をさせていただければと思います。今ギグワーカーの方々のジョブディスクリプションを中心に解説いただいたんですが、アルバイトの方々とのニーズの違いについて教えていただきたいです。
清村:ギグワーカーの方は繰り返しですけれども、きちんとした十分な収入機会があるかということと、あとはすきま時間に働けるかというところでした。
一方、アルバイトの方、時給制で働いていただける方は、もっと働く環境を大事にすると。もちろん安定的な収入も大事なんですけれども、一緒に働く方や店長に会いに行くといったような、心地よい職場環境が非常に重要ですね。
調査しましても、やはり辞める理由の一番は、誰かと合わなくなったという、環境に関わるものが一番でした。そこをしっかりサポートして、ニーズに合う情報を捉えて、ジョブディスクリプションでも活かしています。
環境もそうですし、きちんとした教育体制があることや、お仕事を通して自分がちゃんと成長できることが大事だと思いますので、そういったプロモーションのプログラムがあると。最終的には、社員登用があるといったニーズが大きく違うかなと思っています。
伊達:今のお話からもまた、未来を先取りしているなと感じる点があります。先ほど、出前館は人材獲得競争に先んじて直面しているとお話しました。
さらに、ギグワーカーとアルバイトを同時に獲得し、そしてマネジメントしている点も未来の先取りかもしれません。今ご説明いただいたとおり、ギグワーカーとアルバイトのニーズって違うわけですよね。
そういうふうに違う(ニーズを持つ)方々を同時に、広い意味でうまくモチベーションアップを図っている点で、参考になるお話でした。
求職者のニーズを的確に把握する方法
伊達:ニーズをきちんと理解した上で、情報を提供していくことが大事です。ただ、ニーズの理解が誤っていると、情報発信は大きく転んでしまいます。そう考えると、ニーズをいかに把握していくのかが大事になりますが、出前館においては、求職者のニーズをどのように把握されているんでしょうか。
清村:そうですね。非常にシンプルなので、みなさんもやってらっしゃると思いますけれど、弊社では、やっぱりきちんと働かれている方の声を聞くことだと思っています。
アルバイトの方に向けて定期的なES調査をしているのと、ギグワーカーの方々にも、大規模なアンケート調査と一部フォーカスグループインタビューをさせていただいています。
伊達:データに基づいてニーズを明らかにした上で、そのニーズにフィットする情報を提供されているんですね。