子どもがおもしろがるものを受け入れるコミュニケーション

川辺洋平氏(以下、川辺):一番話したいのは(『「勉強しなさい」より「一緒にゲームしない?」』の)第4章なんだけど(笑)、第3章もちょっと触れると182から183(ページ)あたり。コミュニケーションって大事だなと思って。「これやるぞ」とか、「1ページずつこのゲームをぜんぶやっていくぞ」みたいにリードしちゃったりすると、そうじゃないんだよなというのがありますよね。

あと、子どもっておしりに関することが大好きな時期があって。おしりとかうんちとかがおもしろすぎてたまらない時期があるんですよ。ちょっと下ネタに寄せると盛り上がるというか。小学生でもウケるんですけど(笑)。

でも、その時に子どもがおもしろいと思っているものを受け入れるというか、親も「おしりとか下品だからやめなさいよ」と言いながらもノってあげて。その(時の)子どもの提案とか子どもがやりたいことを混ぜ込んであげるのは、すごく大事かなと思いますね。

僕が雲の研究をした時も、部屋の中でただ雲を撮ることだけを決めて、どんなポーズで撮りたいかとか、どんなふうに自分が写りたいかとか、そのへんは子どもと話して作っていった。子どもも自分が満足した写真を撮ってもらえたという気持ちになるし、親の作品に出てくるだけのわが子にならないようにしたほうがいいと、すごく思ったんですね。

さっき岩田さんが自己紹介でも言っていたと思うんですけど、そのへんのフラットな関係は、大事だなと。

フラットな関係に持ち込んで、子どもと一緒に遊び、学ぶ

岩田拓真氏(以下、岩田):親子だとすごく難しいんですけどね。特に小さい時は1人だとできず、親がサポートしてあげる必要があることがたくさんあるじゃないですか。それだと、どうしてもフラットというより、管理する・されるじゃないですけど、上下方向に関係性ができやすい。

それでいくと、遊びって上下だと成り立たないので。いかにフラットな関係に持ち込んで、遊びのように学べるかだなと思っています。

川辺:そうですね。そのへんのことが190ページとかにも書いてあって、「一緒に考えよう」は195(ページ)とかにも書いてある。そのへんはひとまとめにすると、フラットに一緒になってやるのはいいという話ですよね。

第3章は他にも、203、204ページあたりの親子だけに閉じないようにするってことだったりとか、探究をする上で大事なことがいっぱい書いてあって。いざ探究したら「あ、そうそう。そうなんだよな」と後で思えることがたくさん載っている。

あと、子どものタイプ別がいろいろ載っていたのがすごくおもしろくて。親と子どもは一緒じゃないということが少しでもわかるといいかなと思います。

岩田:確かに。似ているタイプだと、別に親子だけじゃなくて、会社とかで部下や後輩を育てたり、支援する時も、指導やサポートがしやすいじゃないですか。こういうことに興味関心があるんだろうなとか、こうやったらがんばれるんだろうなとかが直感的にわかる。

(親子と言えど)ぜんぜん違う人間なので、性格や興味関心の方向が違うと、どうしてもぶつかるというか。それってなかなか気づきにくいですし。

川辺:そうなんですよ。シュタイナー(シュタイナー教育=哲学者ルドルフ・シュタイナーの唱えた教育理論)とかもそうですけど、その子のタイプがある。それと、ある年齢から、引っ込み思案だった子がすごくお調子者になるとか、やっぱり環境が人間を作るので、あるトリガーによって変わっていくところもあると思うんですね。

そういう意味では、216(ページ)みたいなのを一度頭に入れておきながら、子どもが今どういう状況で、どっちのタイプになっているのかに(親を)向かわせてあげるというのが、第3章では興味深かったところです。

あと、第4章はいっぱい話したくて。いったん21時なので5分ぐらい休憩を取って。

岩田:そうですね。さっきの川辺さんの探究の話とかももっとちゃんとお聞きしたいので、後でじっくろ話しましょう。でも、すごく細かく読んでいただいて、ありがとうございます。

川辺:いやいや、本当にとてもすばらしい本です。

「ふだん使う言葉か、インパクトか」で悩んだ本のタイトル付け

岩田:さっき話していただいた、意外と子どもが自分で本を手に取って試すみたいな流れって、実は僕たちも教室で大事にしているので。それを、もっと意図してやれればよかったなと、改めて思ったんですけど。

反省としては、この本を手に取っていろいろ試してくれる子って、けっこう女の子が多いんですよ。それはたぶん、イラストの方向性がピンクだったりかわいく、女の子が好きそうな雰囲気だからなんだなというのがすごくあって。男の子が(手に取って)バンバンやる感じじゃないんだろうなと思いました。それもすごいおもしろかったですね。

川辺:これはこれで、何の反省も必要ない本だと思ってて。単純に著作を増やしていけばいいと思いますし、タイトルに「ゲーム」とあえて入れたことが、すごく僕としてはとっかかりやすくて。「勉強しなさい」って言いたくないという親の気持ちをすごく代弁してくれたと思いました。

岩田:ありがとうございます。いやー、このタイトルはすごく悩んだんですよ。『「勉強しなさい」より「一緒にゲームしない?」』は、「しなさい」より「一緒に○○しない?」という、対等感のある言葉じゃないですか。そこがいいなと思って、タイトルをつける時にすごく意識しました。

悩んだのは、「ゲーム」が、デジタルゲームとかを想起しすぎるとどうかなとか。実は僕たちはあんまり「ゲーム」って言葉をふだん教室では使わなくて。遊び、ですね。川辺さんもおっしゃってましたけど、「遊び」と「学び」というように捉えてるので。「一緒に遊ばない?」のほうがいいのかな。でも、やっぱり「ゲームしない?」のほうがインパクトは強いかな、とか。

かわいすぎないかとかも含めて、いろいろ悩んだんですけど。結果的に編集者の方と議論しながら、編集者の方に「これがいいんですよ」というのを通してもらって。「じゃあもうそれでいきましょう」って感じで決めて、本当によかったなと思いましたね。

川辺:確かに好き嫌いはあるかもしれないんですけど。結局、じゃあ子どもと家で過ごしている時間が一番長いのは誰だと考えて、こういうデザインにするという考え方もあると思うので。僕はこれが正解だと思います。

岩田:ありがとうございます。

川辺:偉そうにすみません(笑)。

子育てを通じてできる、親の探求

岩田:後半は、親としての探究とか、あと子育における探究とか、そういう具体的な事例みたいなところを話していけたらなと思うんですけど。うちの息子はまだ2歳9ヶ月くらいかな。

川辺:遊びのかたまり。

岩田:そうなんですよ。あれ、川辺さんのお子さんは今?

川辺:12歳と10歳ですね。

岩田:今回の本は、だいたい年中・年長さんぐらいから小学生ぐらいの保護者の方に向けて書いたものなので、うちの子はまだぜんぜん小さいんですけど。そのあたりの年齢から、だんだん年齢を上にあげて話をしていけたらなと思っています。

川辺さんには、さっき4歳ぐらいからのお話をお聞きしたんですけど、0歳から3歳ぐらいの時はどういうことをしていたのかとか、何を考えていたのかを聞いてみたいですね。

先にお話しすると、僕はもともと理系で、生物系のバックグラウンドなんですね。脳神経科学とかをやっていたので、子どもの生物としての発達にすごく関心があって。子どもの様子とかずっと観察していたんですよ。

生まれて3ヶ月とか半年くらいは、うちの子は言葉というか発話遊びですごくキャッキャ笑って、みたいな。「あー」とか、「うー」とか。でも、そうやって楽しんでる中で、出せる音が増えてくるんだなとか。本当にちょっとした遊びを繰り返す、同じことを繰り返して、普通にそれができるようになって、次に行ってみたいなのがすごく多くて。

こうやって遊ぶように伸びていくんだな、これが今ハマっている遊びで、学びとか成長につながっているんだなというのが、年齢のステージごとに(あって)。小さいうちって、最初は何もできないので、できるようになるのがすごく早いというか。

毎月のようにハマっていることが変わって、その度にできることが増えていくのが面白かったです。それが自分としては、こういう言い方するとあれですけど、家に実験というか観察対象がいるような感じで(笑)。それをすごく楽しんでやっているというのが一番、子育てを通じて探究しているなと思うことです。

子どもの存在が保護者のエネルギーの源になることを知った20代

岩田:川辺さんは、お子さんが0歳から3歳の時ってどんな探究をしていたんですか。さっきのこども哲学とかのもっと前に。

川辺:うーん、子どもが初めて産まれた時、僕25歳で。

岩田:若い。

川辺:そう。次の子が産まれた時、27歳だったんですよ。けっこう大きい広告代理店にいて、そのあと子どもが育つ間も、新しく立ち上がった出版社の執行役員をやったりしていて。自分のことでかなり精一杯な年齢だったんですね。

岩田:あぁ~。

川辺:会社ですごい量のタスクがある中、子どもと接する時間を作りたいから、タスク管理とかToDo管理の鬼みたいになってて。

岩田:なるほど(笑)。

川辺:なるべく自分が、子どもと接することができるように、どうすれば業務を効率化できるかとか。いつ業務の整理の時間をとれば、どれぐらい効率が上がるのかとか。本当にそういうことを探究していた時期もありますね。

岩田:うーん、おもしろい。

川辺:実際、自己管理のメソッドを作ったのも25~26歳の時だし。まずそういうところが子育てのスタートだったんですね。

岩田:へー、25歳だと、でも確かに。

川辺:うん。

岩田:僕は33歳ぐらいで子どもができたので。そういう意味だと、ぜんぜん状況が違いますね。

川辺:そうですね。子どものことにはすごく興味があって。教育学部も出たし。そういう活動がしたくて会社も辞めたんですけど。何というか、そういういっぱいいっぱいの状態の時って、むしろちっちゃい子がいるから仕事が投げ出せないんですよね。

この子のご飯代がみたいなことも含めて、働いていることがつながってくるので。子どもがどういうふうに発達していくかに関心を持つよりも、子どものいる状態が、どれぐらい保護者にとってエネルギーの源になっているのかを知ったというか。それはすごくよかったという共感がまず1個。

乳幼児の子育てで気づかされた、遊びと学びのつながり

岩田:じゃあ仕事への向き合い方とか、時間の過ごし方とかの意識が変わったのは大きかったですね?

川辺:うん。なので子どもが産まれて、中高生ならまだしも、ほっといてご飯ができあがったりするわけじゃないので。その全部を自分がすることが、必然的に自分をパワーアップさせてくれるというか。

岩田:いや、でもすごくそれはわかります。僕も、子どもができるまで妻にずっと「早く帰ってこい」「早く帰ってこい」と言われても、「いやちょっと仕事が長引いて」みたいなことが多かったんですけど。子どもが生まれてからぴたっと帰ってくるようになったんで。朝もけっこう早くに起きるようになったし。

時間に対する感覚が変わりました。子どもって想定できないことがたくさん起きるじゃないですか。きちっと予定どおりに動かなかったりするし。

川辺:そう。なんかそういうことが……。

岩田:意識変わりますよね。

川辺:今、岩田さんが言ったみたいなことが、まず親側に起こったという実感が。

岩田:うん、大きいですね。

川辺:0・1・2・3(歳は)(笑)。

岩田:(笑)。じゃあ、子どもと一緒にいろんな遊びを楽しんだりとかは、4歳頃から出てきた?

川辺:それもあるし、今言ったのはワンサイドの親側の話で。反対側の子どもを見てて、不思議に思わずにいられないのは、子どもってとにかく遊ぶんですよ。

岩田:本当にそうですよね。

川辺:うん。なんで遊ぶんだろうと思ったことないですか? 岩田さん。

岩田:あー、いや。なんで遊ぶ……。でも、これもこの子にとっては遊びなんだというのはすごく思います。さっきの「あー」とか「うー」と言うだけだった遊びとか。最初は体が動かせないので、ひねったりとか、ちょっと揺れたりするのを、すごく楽しんでいたり。

ベッドで立ち上がって飛び跳ねたりとか。楽しくてどんどんやってたら、立てるようになってきたりとか。遊びであり、トレーニングというか、成長であり。こうやってつながっているんだなとすごく思いました。なんで遊ぶんだろうというより、あぁこうなってんだみたいな。

川辺:そうですね。

岩田:遊びと学びってつながるというかそもそも表裏一体なんだなと。切り離せるもんじゃないと本にも書いているのですが、乳幼児の成長について体感覚がなかったんです。5~6歳ぐらいから上は、ふだん仕事でいろんな子たちと触れあってて、遊びと学びのつながりのおもしろさとか大事さとかすごく実感していたんですけど。その前(5歳以下)が、僕にとってはブラックボックスでした。

あぁ、やっぱりそうだったんだというか。こういうことか、みたいなのがすごくわかっておもしろい。それがすごく楽しかったですね。まぁ、今もですけど。

乳幼児期は、子どもの遊びに親が驚く時期

川辺:なるほどね。僕の場合は、例えばそこに泥があったら、つい触りに行くとか。シャベルが置いてあったら、いったんつかむとか。大人だったら、何もせずその場でぼーっと突っ立っててもいいんだけど。何かしなきゃいけないのが、子どもなんで。

岩田:いや、本当すごいですよね~。

川辺:それってすごいことで。純粋に0・1・2・3(歳)は驚き続けるというか。なんで子どもってこうじっとしてないというか、何かしてしまうのかな、という。いたずらも含めて。あれはおもしろかったですね。

岩田:いやぁ、おもしろいですよね。最近なんかは、食べながらいたずらを(している )。要は食べないんですよね。

途中まで食べてるんですけど、ある程度まで来たら食べ物で遊び出すというか。しかもそれが悪いとわかっていて。わざとやってみることがすごく増えてきてて。なかなかこれが手強いんですよね。すごく頑固なタイプで負けないので、いたずらし続けるというか(笑)。

川辺:そうですよね。彼らにとっては、食べることもマストじゃないというか。

岩田:いや、そうですよね。遊びのほうが勝っちゃったりね。

川辺:(笑)。なので、本当に0・1・2・3(歳)は、子どもの遊びに(親が)驚くという時期だったかもしれないですね。

岩田:なるほどなぁ。おもしろい。その後、驚くところから変わったんですか?

川辺:言葉が出てくるのが。もちろん2語とか3語をしゃべるのは1歳とか2歳からできますけど、もう少し抽象的な概念を扱って話すようになるのが4歳とか5歳なんですよね。

ただ「なんで? なんで?」と聞くんじゃなくて、相手の言葉に対してまたさらに重ねて思ったことを言うみたいな。ちょっと高度なコミュニケーションが4~5歳なんです。

それを知りたいと思ったとか、少ない単語の中での子どもの不思議な表現の仕方。言葉。あれになんかすごく痺れて。こういうものをもっともっと聞ける遊びが、こども哲学なのかなと思ったのが、(うちの)子どもが3歳ぐらいの時かな。

でも、すぐにはNPO法人とかにできない。僕も素人で、ちょっとGoogleで検索したぐらいなんで。これなんか、もう少し地域の子どもとできないかなとか、繰り返していくうちに子どもが4歳になっちゃって。

あちこちでやるようになったのが4歳から5歳だったので、2年か3年ぐらいかけてさっきの活動につながっていった感じですかね。