評価報酬制度以外でマネジメントしたほうがいい場合

斉藤知明氏(以下、斉藤):ではでは曽和さん。Q&Aにたくさん質問をいただいています。

曽和利光氏(以下、曽和):難しいものばっかりですよね(笑)。

斉藤:いやあ、そうなんですよ(笑)。

曽和:どれからいきましょうか?

斉藤:少しディスカッションの中で触れたものもあるかなと思いますので、そちらは少し省きながら進められればと思います。

「現役消防士です。既存の人事評価制度があるのですが、古い体質が色濃く残りやすい職種のため、全く反映されていない状態です。1年間に一度、人事評価シートの入力があり、そのシートを改善するためには自治体に投げかける必要があります。消防組織単体での人事評価制度の作成か、自治体にまで投げかけるか、ほかに方法があるか、悩んでいます。対応内容として案があれば教えてもらいたいです。」というご質問です。

曽和:やっぱりこういうエッセンシャルワーカーの方とか、あるいは会社の中でいうとバックオフィスにちょっと近いと思うんですけど。そもそも評価をしようと思っても、あいまいなものだらけですよね。営業職みたいにバシッと「1番から100番まで」ってならないようなものだったり。

あるいは、何も起こらないほうが幸せですよね。例えば「火事が起こらなかった」「予防できた」ってことのほうが幸せ。そういう方に対しては……ごめんなさい、質問に対してストレートに答えてないかもしれませんけど。

僕は評価に一喜一憂しないほうがいいというか。評価報酬制度以外のやり方で組織マネジメントしたほうがいいような気がしていてですね。例えばリクルートみたいな組織でも、人事ってみんな「普通」っていう評価なんですよ。僕も何十回と評価を受けましたけど「普通」以外の評価を、もらったことないんじゃないかなと思います。

なんですけど「いい仕事をしたらそれを褒め称える」とか。あるいは、仕事をアサインする時に「がんばってる人を新しい仕事・おもしろい仕事の最前線につけてあげる」とか、そういったことでやっていました。

それを無理やり、あいまいだったり差をつけにくいようなところに適用しちゃうと、むしろ問題が起こるような気がするんですよね。だから、これもマネージャーとしての言い訳かもしれないんですけど、評価に一喜一憂してモチベーションが上がった・下がったとかじゃなくて。「使命感とか責任感で、この仕事はやろう」みたいなことを僕は言ってました。

「大事な仕事をしてるんだから」みたいな感じで、別のところでモチベートするっていうんですかね。これ、ちょっと難しい問題でバシッと答えられないんですけど。ごめんなさい。

斉藤:難しいですよね。「組織に応じて、何を理想とするのか?」の差ってことなんでしょうね。ありがとうございます。

自律性のあるメンバーであるほど作っておくべき、目指す人材像

斉藤:「評価については目標管理制度の弊害を理解しましたが、ビジョンやパーパスと同様、中長期的な『目指す人財像』のようなものは、自律性や成熟度の高いメンバーの組織では不要・逆であれば必要、という認識で方向性としては合っているでしょうか?」という問いです。

曽和:「成熟度が高くないと目標管理制度はできない」みたいな話はしましたね。要は「拡散させたいのか、アラインしたいのか?」みたいな。「方向合わせしたいのか?」っていう、事業上の要請によると思うんです。

逆に自律性とか成熟度の高いメンバーであればあるほど、例えばリクルートはそういう人ばっかり採ってたんですね。だから、決めつけもすごく激しかったんですよ。理念の浸透だったり「こういうことしたらOK、こういうことしたらダメ」って、360度サーベイしょっちゅうやらされてた会社なんで。

Uniposさんみたいに、もうちょっとリアルタイムにできたほうがよかったな、という気はします。そうふうにいろんな評価にさらされて、自律性とかをめちゃくちゃ持ってる人たちが、それによって自分の「これは俺の趣味だったな」みたいなことを反省して、会社の役に立つ方向に修正してくってことなので。

このお話で(質問者の)意図どおりの回答かわからないですけど。成熟度が高い、自律性のあるメンバーであればあるほど、なんらかの「これ以降はOBラインよ」「勝手に向こうの山とか登っちゃダメだよ」みたいな感じの、目指す人材像とかっていうのは、作っとかないといけないと思うんですけどね。

人の動かし方は3つある

斉藤:そうですよね。これは少し持論・経験則のほうになっちゃうかもしれないんですけれども。僕が目にしてしまうのが、目指す人材像がない人、ないしそれを作ることの(会社としての)支援がないと、自律的な人材こそ辞めていくなっていう感覚があって。

曽和:そうですね。結果論としては一緒だと思いますね。人は自由にすれば自律的になるか? っていうとそんなこともないというか。エーリヒ・フロムの『自由からの逃走』じゃないですけども、いくら有能な方だったりしても足が止まるだけだったりするんですよね。

「なんでもやっていいよ」って言われたら「なんでもやっていいって、本当なんでもやっていいんですか……?」みたいな感じで。「でも、本当に『なんでも』は、やっちゃダメですよね?」みたいな。そういう感じで、結局は止まると思うので。

目指す人材像とか、行動規範みたいなものですね。「GEバリュー」あらため「GEビリーフス」とかこれは成熟している人にこそ必要だと思います。

逆にもっと未成熟な方とか、自律的でない人には行動管理が必要になります。「何によるマネジメントか?」っていう話で、だいたい「人の動かし方は3つある」ってよく言われますけど。

行動を指摘して「こうしろ」ってマネジメントするのか。「こういうゴールに達成したらこんなインセンティブ与えますよ」っていう、まさに目標でやるのか。あとは「こういう文化・価値観で、あとは自律的に」ってやってもらうか。この3つぐらいに分かれている、って言われいます。

未成熟な方であればあるほど、マニュアルを作ってマネジメントするみたいな、アルバイト・パートのマネジメントに近い「行動の管理をする」というものが必要になっていきます。

「求める人物像」もあったらいいと思いますが、それがあったら未成熟な方々が動くか? っていうと、動かないと思うんですよ。「ステップ1はこれやれ。ステップ2はこれやれ」って、1から10まで形式化していくっていうのが、すごく重要だと思うんです。

多くの会社、特にベンチャー企業を見ていると、そのステップ2というか「行動を管理する」っていうところがポコンと抜けて、いきなりインセンティブ管理に持ってくところがあります。「自由、自己責任で。目標を達成したらインセンティブやるから、あとはがんばれ」って言っても、結局は足が止まって動かないようになるのは、その前段階の「型にはめられた経験」がないからだと思うんですね。

目標管理制度は使い方によっては万能だが、とにかく難しい

斉藤:その「目標でマネジメントする」「行動でマネジメントする」「ビジョンだったりカルチャーでマネジメントする」という3つがあった時に、目標でマネジメントする組織を想像してみると、いわゆる目標達成がそれで行われるのであれば、みんな心地よく働けるし。

まさにリクルートさんみたいに、目標があって「(3ヶ月の目標を)2ヶ月で達成したら、1ヶ月は自由に過ごせるんだ」という状態って、ある意味、すごく楽しい。やりがいに溢れてる状態だと思います。

一方で、これができない目標。すごく難しい目標でマネジメントされていたりすると、もうやる気も削がれていってできなくなっちゃって。自己肯定感も下がっていって、離職だったり生産性が落ちるってリスクが起こり得るのかなみたいなことは、すごく想像できました。

曽和:目標管理制度は使い方によっては、万能といえば万能です。でも、とにかく難しいですよね。同じぐらい(のレベルの能力・グレード)だったら同じ目標に合わせる、ってのも難しいですし。

ダブルスタンダードになっちゃうんですよ。評価上の目標と、本当に彼・彼女に期待してるレベル感っていうのを、2つ作らないといけないんですね、実際問題としては。そりゃそうですよね。グレードが同じだったら同じ目標で評価しないと、評価制度上はおかしいじゃないですか。「“期待の星”だからお前はここまでやれ」って目標管理制度に入ってるみたいな。「それって俺、損じゃないですか?」っていう話ですよね。

だから、ある人から見ると余裕でできちゃう目標になってたり、ある人から見たら手も届かない目標になっている。目標管理が評価制度になった時の目標は、そうなるべきだと思うんですよね。

ということは、日常的なマネジメントにおける目標っていうのは、別に作っておかなきゃいけなくて。「評価する時の目標は100だけど、俺はお前をすごく評価・期待してるから、お前は150がんばれよ」みたいな。そういう日々のコミュニケーション上の目標と、日々の仕事上の目標っていうのは、2つ作らなきゃいけないっていうのも、すごい難しいと思います。

ここらへんがごっちゃになってしまっているケースがよくあります。目標管理制度の中で「期待してる人の目標は高く書いときました」みたいな。そういうのめちゃくちゃ多いんですよね。それは不満出るよな、って思ってます。

斉藤:「それ(高い目標)にちゃんと評価が連動して、お給料も連動する」ってなったら不満がなくなるけれども。その2つある「目標の公平さと達成度」、そのグレードに応じた公平さと達成度の“二重のハードル”のすり合わせが難しいっていうのが、まさにこのポイントだってことなんですね。

曽和:そうなんですよね。目標管理制度って、オペレーションしなきゃいけないところが多すぎるんですよね。だから理屈上はできても、例えば「じゃあ目標管理でこのグレードの人たちの目標一覧を見せてください」って言うと「この人めっちゃ大変そうですね」「この人めっちゃ楽そうじゃないですか」みたいなのが、やっぱり出てくるんですよね。それはダメですよね。同じグレードなのに評価基準が違うってことですから。

多くの会社が定義したがる「S評価とA評価の違い」

斉藤:いやあ、難しいですね。少し前の質問にも遡ることになるかもしれないですけど。どうしても主観が入る評価。5段階とかで評価をした場合、定量的に納得度を高く説明する方法ってあるんですかね?

曽和:これは、究極的にはそこまでないと思うんですけども。要は「SとAの違い」っていうのを、多くの会社は定義したがるんですね。「Aはこれぐらいのことをやった」「Sは甚だしかった」とか、そんな感じの定義になってくんで。

SSだったらどう、SSSだったらどう、みたいな感じで「予想を遥かに超える成果を上げた。SSS」みたいな。その予想を遥かに超える成果ってなんですか? みたいな(笑)。定義してるようで定義してない、みたいな感じなので。

よく言ってるのは、評価分布の割合だけ決めといて、上から順番に並べたら「お前は10位だったからA」とか「9位までに入ってたらSだったんだけど」みたいな。そんなふうにしか、説明ってできないと思うんですよね。

どこまでいっても、結局は相対評価というか。「(会社に)お金があって仕方なくて、みんなSになったって人件費は大丈夫です」みたいな会社じゃない限り、完璧な絶対評価を入れることって無理だと思うんです。

「原資は人件費としてある」って考えて「どっかで相対評価をしなきゃいけない」ってことであれば「なんで私はSじゃなくてAなの?」っていうのを、SとかAの定義で説明しきるのは無理で。「相対的にお前よりすごいやつがいたからだ。以上」って、これしかないんですよね。究極的に、相対評価をする場合の説明としては。

もちろん、フィードバックする時は「お前よりすごいやつがいたからだ。以上」なんて言い方はダメですけどね。その言い方は、置いといていただいたとして。

これと似てるなと思うのが、採用の時に「ダメな理由をフィードバックしろ」って考えがあるじゃないですか、世論の中で。学生も「お祈りメールが来た!」って、それをすごく酷いことのように言うんですけど。

例えば、リクルートの最終面接とかをずっとやってたんですけど、なんで落としたか? っていったら「採りたい人が他に100人いちゃったからなんだ」「あなたは100人の中に入れなかっただけで、すばらしいと思うし、150人採るんだったらぜったい欲しいんだけど」みたいな。

それって、納得いく説明かどうかですよね。でもそれが(不採用の)理由だったりするので、社内の評価でも同じだと思うんですよね。そこが難しいところ。どうせ相対評価しないといけないのに、「目標の達成度」って実は絶対評価的じゃないですか。だからここに矛盾というか、ハレーションを起こすポイントがあるんですよね。

「結果の相対評価だ」って言い切っちゃえばいいんですけど、その場合、目標管理制度っていうのが破綻するんですよね。「120パーセント達成したのにA」みたいな。

「でも120パーセント達成しましたよ。それだったら普通はSなんじゃないんですか?」「ごめん、目標が簡単だったんじゃない」とか「他の人もみんな120パーセント達成してんだよね」とか、そんな感じになるんですね。でも、それって本当“後出しジャンケン”ですよね。

「俺はいいと思ったんだけど、会社が……」

斉藤:まさに(スライドを指して)この「社内でパワーの強い人の部下ばかり評価される」。これが起こりやすいことですね。

曽和:最後はそういうあいまいな中で議論をして「ウチのこいつにこそ、Sを与えるべきだ!」みたいなディスカッションで勝っちゃった人が、Sを持って帰れた。でもメンバーにそれをどう説明するか? ですよね。Sを取ってこられたらいいんですけど、Aしか取ってこられない。そんな時に絶対に言っちゃいけないのは「俺はいいと思ったんだけど、会社が……」って、こういうふうに言うマネージャー。

斉藤:これ、ダメですね(笑)。

曽和:実際はそうだと思うんですけど、それでも言っちゃダメですよね。

斉藤:それを言った時点で「この会社から離れたほうがいいよ」って言ってるようなもんですからね。

曽和:会社はわかりませんけど、とにかくマネージャーはたぶん軽蔑されちゃうでしょうね。「そう思うんだったら、もっと戦ってくれよ」って普通は思っちゃいますよね。

斉藤:思っちゃいますね。

曽和:でもそれは結局、相対評価をするのに「目標に対する達成度」みたいな絶対評価的なことで握ってるから、必然的に起こることだと思うんです。

まず行うべき「どんな組織を目指していければ成果が出るのか?」の定義

斉藤:ありがとうございます。今日はいろんなお話をいただきましたが、あらためて少し整理させていただくと。やっぱり人事・組織という領域でも、経験則とか持論によってコントロールされてる幅が非常に多い。特に日本においては。

それはまず「セオリーだけやっていればうまくいく」ってわけではないですけれども、どういう社会的な経験・セオリー・理論があるのか? っていうところを知った上で、持論を考えていくことが重要である。

その中で「僕らはどんな組織を目指していければ成果が出るのか?」という、この定義をまず行うべき。それこそ「同質型の組織なのか、異質補完型の組織なのか?」「何を生み出していきたいのか?」ということですね。

それに基づいて、理想、どういう人を評価すべきか? という「軸」。この軸を定義するのが評価制度であるし、その軸に沿って各々が行動しやすい仕組みを人事として作っていく必要あります。

自律型人材を育んでいくためには、モチベーションだったりいろんなアンチテーゼがありますよ、と。明確にされるのはいいんだけれども「ぐうの音も出ない」っていうことと「納得いくこと」は違うから。規定されちゃったりだとか、納得感が低いということがありました。

曽和:まとめていただいてありがとうございます。僕としては「これ、どうなんのかな?」と思いながらも、今日はなんの役割を果たせればいいと思って来たかというと「論点出し」っていうんですか。

でも、ぜんぜんなんにも結論を言ってないというか(笑)。「じゃあどうすればええねん!」については、考えなきゃいけないというか、個々の会社ごとに違うと思うので。むしろそれを「これだといい」っていうもの(正解)があると思っちゃって、自分のところの状況を考えずに導入するほうが、問題が起こりやすいと思うので。

だから、悩むことも必要だと思うんですよね。なので、今日も「この制度がいいぞ!」というよりも、たぶんすごいモヤモヤされたことが多いと思うんですよ。こういう問題があります、こういう問題があります、こういう問題があります……って論点ばっか出して「で、どうすんねん!」「ソリューションなしでいくんか!」みたいな話なんですけど。

ちょっと時間の問題もあったりとかですね、すみません。ソリューションは我々、それをコンサルティングで実はやってたりとかするのでご用命いただけると、というのもありますが(笑)。

今のは冗談ですけども。ただ、今言ったような論点をすべて潰していけば、結局は見えてくるとは思うんですよね。

斉藤:そこを刷り込んだ上で、その上での持論。じゃあ自分たちの組織はどうするのか? それこそ、規律を作れば作るほど、どうしても自律性は失われやすいっていう話もありました。でも、少なくすれば少なくするほど、自由度が高すぎて「何をすればいいのかわからない」っていう人たちも出てくるでしょう、と。このバランスの中で、自分たちは一番どこがいいか?

僕らFringe81自体も今、評価制度を大きく見直してる最中だったりするんですけれども。バリュー評価入れる・入れない、行動指針っていうところは規定すべきかどうなのか? というところも含めて、大きく議論してる最中だったりもします。

ぜひ、みなさんも議論されてみて「こういうふうにしていこうと思った」みたいなところもアンケートでご回答いただければ、曽和さんにもお届けします。

では、お時間もまいりましたので、本日のウェビナーはこちらで以上とさせていただきたいと思います。あらためて曽和さん、お時間いただきましてありがとうございました!

曽和:いえいえ、こちらこそすいません。拙い話で恐縮でございました。ありがとうございました。

斉藤:いや、めちゃくちゃおもしろかったです。

曽和:ありがとうございました。