目標管理は“中身が空洞の箱”なので、何を入れるか?が自由

斉藤知明氏(以下、斉藤):さっき「Management By Objectives and Self-Control」という、ドラッカーによるマネジメントの定義のお話もありました。例えば、多様な人・異質な人が協働をする(必要がある)重要な環境が出てきました、と。

同質化だけじゃなくて、異質な人が協働してるほうが成果が出るといったことが多くなってきている、と。じゃあ多くなってきた中で、どうやったら異質な人たちがワークするのか? うまく枠組みを越えて、人と協働しながらワークするか?

ここで1つ(みなさんが)やってらっしゃる例として、評価基準だけ示す。例えば同じ営業さんだったら「1,000万円売ってる人のほうが、500万円売ってる人より偉いよね」って決めちゃう。この「結果の相対評価をするだけの組織」っていうのがあったと思うんです。

曽和利光氏(以下、曽和):これは、ちょっと誤解を与えた表現になったかもしれませんけど。僕のイメージでよく説明してるのは、例えばビジネスプランコンテストみたいなの。会社内でハッカソンとか、いろいろやってたりしますよね。

あれって「目標なんか立ててますか?」って話なんですが、立ててないじゃないですか。でも「市場性で見ますよ」とか「新規性で見ますよ」とか「今持ってるリソースがきちんと効率的に使われてるかで見ますよ」とかが評価基準で。それで、グランプリとか準グランプリとか決めてるじゃないですか。あれ、評価してますよね。

だから目標なんか決めなくても、みんなある程度、今言った「市場規模」だとか「成長性」だとか「新規性」とか「リソース使う」とか。今言っただけでも、4つ基準があるわけですけど。それを与えておいて、あとはみんながそれに向かってがんばったら、創造性って発揮されるんです。

もちろん、目標管理も悪くはないです。目標管理って、中身が空洞の箱なので「何を入れるか?」って自由なんです。だから、めちゃくちゃうまく使えば、目標管理制度で多様性を担保したりとか、ある種の創造性を担保するみたいなことだってできると思うんです。ただ、それはめちゃめちゃ複雑で難しいっていうことで。

僕が見てる限りにおいてはですけど、目標管理でそれをきっちりやってるところは、オペレーション上、あんまりないんじゃないか? と思います。目標管理が「ダメ」というわけじゃなくて、かなりマネージャーの成熟度とかレベル感が高くないと、完璧に目標管理をやるのは難しいんです。

「目標がない評価」なんていくらでもある

曽和:「だったら」っていう次善の策として、今言ったビジネスコンテスト形式というか評価基準といったもので。売上だけじゃなく、さっきの新規性みたいなものでもいいと思うんですけど、そういう基準を示しておいて目標はない、と。できるだけその基準でがんばってくれ、っていうような。

目標がない評価なんていくらでもあって。例えばこの間、オリンピックやってましたけど。100メートル走って「勝ったら金メダル」じゃないですか。

斉藤:そうですよね、速ければ速いほどいい。

曽和:そうです、目標管理じゃないですよね。「9秒70だったら金メダルです」とかではないじゃないですか。「勝ったら金メダル」ですよね。これが結果の相対評価なわけですね。そうしておけば、別に問題ないというか。

もちろん、目標管理をぜんぜん腐してるわけではないんですけど。現実問題、実務のところを見ていて、本当に目標ってバラバラだし、達成度もわからない。そのわからないものに、二重のハードルをかけてる。それは「なんだかわからないもの」になるわけですよね。であれば、評価基準を示す。これは明確にできますよね。

あとは結果の相対評価について、例えば評価基準が「法律」で、結果の相対評価をいっぱい繰り返すっていうのが「判例」みたいなもんですよね。判例を貯めていくことで、法律と判例の関係性みたいな感じで「だいたいこれくらいだったらSつけていいよね」「Aつけていいよね」とか、組織値として高まっていくみたいな。

こういうシンプルなやり方にしたほうがいいんじゃないですか、みたいな話になってるところが多いですね。

斉藤:過度にプロセスをマネジメントしようとすると、どんどん同質化が起きたりとか「こうやってください」っていうふうになって、個性が発揮されづらい環境が生まれてくる。

曽和:これも難しくて。例えば若い人ばっかりとか、事業としてアルバイト・パートが主力の会社っていうのもありますよね。そういう場合は個性を発揮してもらうことよりは、ものすごくマニュアルをきっちりさせて、オペレーション・エクセレンスして勝つみたいなのもあると思うんです。

そこは事業の状況とか、何が重要か? にもよるんですけど。斉藤さんがおっしゃってるのはたぶん、事業上で個人個人が創造性を発揮するのが大事な場合。そういった場合はそのとおりだと思います。だから目標管理は、むしろそういう場合はマイナスに働くこともあるでしょうね。

評価基準だけ示しておいたほうが、みんながいろいろウワーッ! とやる。でも目標管理にしちゃうと「この目標以外のことは評価されないよね」みたいな話になったりとか「これだけやっときゃいいんですね」とか。最後に終わった時には「言われたとおりに100やりましたよ」みたいな話になってるとか。

「100を決める」ってこと自体も、力を抜く原因になったりするわけですね。「100やったら来月は遊ぼうか」みたいな。けっこうリクルートとかでもありましたよ。3ヶ月ごとの営業目標を、2ヶ月で達成したら3ヶ月目は遊んでる人がいましたからね(笑)。

まあ別にそれはそれで、そういうのもおもしろいというか、いいんですけど。でも最大売上を出そうと思った時によかった制度か? っていうと、どうなんだろうなっていうふうには思いますね。

目標の明確化は、個人の行動を規定してしまう

斉藤:本当に何を達成したいか? っていうところで。「目標を規定すると、そこで人は規定されてしまう」っていうのが、一番ポイントになってくるのかなという気がしますね。

昨今それこそ「パーパス・マネジメント」とか、いわゆる「ビジョン・マネジメント」とかが、徐々に日本でも広がりを見せてきているのかなと思うんですけど。この時はもう、イノベーティブな人材・なにか創発性が必要な人材が、目標に縛られずにもっと上段の「会社における価値提供」を考えるという意味だと、引き上げるっていうのが必要になってくるんですかね。

曽和:それはちょっと似てる……っていったらパーパスの方に怒られちゃうかもしれないんですけど。評価基準だけ示して結果の相対評価をするって、パーパス・マネジメントっぽいんですよね。

要は、評価基準がパーパスなわけですよね。そこって抽象度が高くて「それが何」とはいってない。目標管理っていうのは達成度で見なきゃいけないので、これより具体的に(部下に対しての指示として)落とすじゃないですか。「何をどれぐらいやったら100ですよ」っていうように。

事業によってはよく働く場面もありますけれども、明確化しちゃうってことは個人の行動を規定しますよね。規定されたら、もともと持ってたオリジナリティが発揮されない場合もあるというか。オリジナリティというか、クリエイティビティが発揮されない場合もあるといういう感じです。

斉藤:難しいですね。プロセスに落とせば落とすほど、目標を詳細にすればするほど、たぶん本人たちからすると「何をすればいいか?」が明確になって動きやすい。一方で、クリエイティビティは損なわれやすい。

一番大きいものでいうとたぶんパーパスだったりだとか、OKRのムーンショットボールとか、そういうものにした時には創発性は出やすいんだけど、そこに対して「じゃあ何をすればいいか?」っていうのは、想像しづらい。

もともと自律性がない人に制度を与えても、たぶんうまくいかない

斉藤:そこで内的動機とか外的動機とか、心理的リアクタンスみたいな話が出てくるのかなと思ったんですけれども。ここはまさに「やりたい」って気持ちは、どうすれば引き出せるんですかね?。

曽和:これは評価の問題というよりは、どちらかというと人材開発とか育成かなと。だから「どんな方々を相手にする評価制度なんですか?」っていうのがすごく大事なんです。評価制度自体の良し悪しっていうのは、あまりないと思うんですね。

成熟度が高くて自律性が高い人だったら、評価はそういうふわっとしたものでやったほうがいい。そうじゃないような、あんまり自律性が高くなくて「どうしたらいいんですか?」って聞いてる人ばかり、若手とか新人さんばかりでやってるところでその制度を使ったら機能しない、という話だと思うので。

評価によって自律性を引き出すっていうのは、ちょっとややこしい言い方ですけど「自律性を押し留めてしまう制度」はあっても「引き出す制度」って、なかなかないんじゃないかなと。もともと持ってる自律性を邪魔しない制度っていうのは作れるような気がするんですけど、それでやる(引き出す)っていうのはなかなかないかなと。

育成と評価は表裏一体ですけども、どっちかというと育成課題。例えば、仕事のアサインの問題だったりとか。「彼はこういう価値観とかキャリア観を持ってるから、この仕事をアサインしたら自発性を発揮してくれるんじゃないか」と。興味あるものだったら、人って自発的に普通に動くわけですから、そういうアサインの問題だったりとか。

あるいは、それこそUniposさんがやっておられるような、認知とか表彰といった動機づけです。評価制度で報酬を決める、半期に一度とか節目のやつだけじゃなくて、日頃の、例えば「社内報で取り上げられた」とか。そういう取り組みの中でできていくような感じはしますね。

斉藤:おもしろいですね。制度、明文律、規定されたものは自律性を狭めてしまうことはあっても、それによって広がるっていう制度、明文律はなかなかないっていう。

曽和:現実的に考えて、明文律っていうのは、なにかアラインメント(一直線に並べる、整列させる)するために作るじゃないですか。自律性を作り出す明文律・制度って言っちゃうと、いろんなものが入るので。「制度は自律性を必ず阻害する」とか、そんなことは言えないんですけど。

狭義の人事制度、明文律化したものっていうのは、社員の行動を方向合わせするためのものですから。原理的というか、定義的に考えて「そりゃ、自発性を促進するってなかなか難しいですよね」って、僕は思うんです。

ただ「自律性を阻害しない」ってことを、言い方を変えて「(自律性を)促進する」って言ったりすることはもちろんあります。でもそれは、実質・本質的には促進したわけじゃなくて、もともと持てる自律性っていうのを「邪魔しなかった。だから促進した」ってこと。

言ってることはなにかっていうと、もともと自律性がない人にその制度を与えても、たぶんうまくいかないということです。

「いい行動じゃん!」が、確実に肯定されるコミュニティ

斉藤:ありがとうございます。それではここで少し、Uniposのご紹介に移らせていただいた後、Q&Aでもっともっと深掘っていきたいなと思います。

あらためて、プロダクトとしてのUniposは「組織を変える行動を増やす」っていうコンセプトをとっています。それで、実際に何ができるサービスか? といいますと、オンライン上で、経営理念を体現する貢献だったり一人ひとりの行動に対して、感謝、称賛、激励、慰労の言葉をオープンに送り合うことができます。

それがみんなに共有されて、みんなが共感して「いいね!」するというサービスです。これで僕が実現したいことって、僕の自己紹介でも恥ずかしながら「自律的マネジメントがテーマです」みたいなことを書いているんですけれども…。

この中でも、自律な行動って偶発的に生まれるものだと考えてます。「制度があるから生まれた」「こういう場を用意したから生まれた」というよりも、どちらかというと偶発的に生まれた“よい行動”です。「これやったみたらいいんじゃないか?」っていうアイデアだったり着想だったり。

一方、そういう偶発的に生まれた行動って、誰かに「いらないよね」って言われたら、次からもうたぶんやらないんですよね。行動分析の観点でお伺いしたことがあるんですけども「行動自体を否定されると、次にその行動をとる確率は減少する。行動自体を肯定されると、次にその行動をとる確率は上昇する」というもの。

「いい行動じゃん!」って思った時に、それが確実に肯定されるコミュニティを作ってくことによって、その行動がどんどん増えていく。そしてそれをオープンな場所でやりとりすることによって、その偶発性が「こんな行動、こんな行動、こんな行動もいいかもね」って頭の中にインプットされることで、自分もやってみようという偶発性が起こりやすくなる環境作りを、僕らはUniposでお手伝いができるのではないかと思って。それで「組織を変える行動を増やすUnipos」というかたちで、オープンで送り合うコミュニティを運営しております。

僕らがこのUniposをご提供している中で、うまく活用いただいているマネジメント層の方に「毎日1分だけしていただいてること」があるんですよ。

Uniposで自分の部下だったりチームのメンバーといった「目が行き届かないといけない評価対象のメンバー」をフォローしておいていただくと、その人が感謝の投稿をした場合、ないし感謝をされた場合、自分に通知が届いたりですとか、後で追っかけて見ることができるようになっています。

これを「毎日1分でいいので見て、それに対して拍手する」っていう習慣を作っていただいています。そうすることによって、一人ひとりが取った行動への「ちゃんと認められてるんだな」「やっていいって思われてるんだな」という積み重ねが、次の行動が起こる偶発性を高めるのではないか? それが組織を変える行動を増やす、Uniposで実現したいことのメカニズムです。

特に、バックオフィスの方や、成果につながりづらい業務をされている方であればあるほど、それを実感する機会って少ないと思うんですよね。「行動してよかった」っていう、その「やってよかった」の実感を組織内で生み出すことのご支援として、できるだけシンプルに制度としてお届けしています。

今、導入企業は500社を超えまして。大手企業さんから中小・ベンチャーの企業さんまでご導入をいただいておりますので、ぜひご検討いただければと思います。

Uniposを活用したエンゲージメントの高い組織作り、組織風土改革の実践プロセスについての実践ウェビナーもご用意していますので、ご興味お持ちの方はお申し込みいただければと思います。