2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
若宮 正子氏×山崎大助氏 対談 トークテーマ「既成概念にとらわれずに、クリエイティブに考える」(全1記事)
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司会者:お待たせいたしました。では続きまして、若宮さんと山崎先生の対談を進めていきたいと思います。実はお二人は2017年に対談をされて、記事にもなっているかと思うんですが、それ以来でしょうか?
山崎大助氏(以下、山崎):そうですね。あれはまさに「遅咲きエンジニア対談」という(笑)。
(一同笑)
司会者:実は若宮さんには、視聴者の方からも非常にご質問をいただいていて。この「TOKYO GEEK DAY」も、視聴者の方の年代を事前にアンケートで取らせていただいたんですが、なんと50歳以上の方が3割くらいを占めておりまして。やっぱり、若宮さんにパワーをもらいたい方が非常に多く来られたんじゃないかなと思います。ありがとうございます。
若宮さんも自分でExcelArtやアプリを作られて、それを世の中に出したことで、実際にAppleの方に呼ばれたりとか、今も政府の方とお仕事されていたりしますよね。ご自身の作品を世の中に公開することで、すごく世界が変わったなと思われることって何かございましたか。
若宮正子氏(以下、若宮):そうですね……なにしろ私、「プログラマー」って言われるのが一番弱いんですよね(笑)。
(一同笑)
若宮:「アマグラマー」って言ってるんですけど。
司会者:「アマグラマー」。プロじゃないってことですか?(笑)。
若宮:もともと個人的に、高齢者の交流サイトの「メロウ倶楽部」をやっていたり、それから「熱中小学校」という過疎地振興の仕事をしたり。
今一番大変なのが、とんでもないことなんですけど、デジタル庁というのができたんですね。そこのアドバイザリーボードができまして、偉い大学の先生がずらっと並んでるところに私が末席を汚しちゃってる(笑)。なんかもう、えらいことになったんですが。
一応、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を」というのが看板に出てますので。やっぱり「取り残されそうな年代の人が1人いないと」ということだと思うんですが。
それで、聞けば聞くほど日本のデジタル改革も大変で、荒海の中を小舟が出ていくのに一緒に乗っかって(笑)。でも、これからはそっちをがんばらないと、いつまでも電話とFAXの国ではいられませんから。そっちは一番、一生懸命やりたいと思ってます。
司会者:ありがとうございます。先ほども「時代に追いつくんじゃなくて、未来を先取りしていく」というお話があったと思うんですが、個人的に日本のデジタルの世界もそうなっていくと良いなと思ったりしています。
司会者:今の若宮さんのお話の中で、山崎先生は印象に残ったこととか何かございますか?
山崎:デジタル庁とかができたとしても、まだまだ変えなきゃいけないことってたくさんありますよね。特に、去年から小学校もプログラミングが始まりましたが、パソコンが整ってないとか、iPadも行き届いてないとか、結局格差が生まれてしまっているので。
若宮:本当にそうなんですよ。
山崎:そういうところからも少しずつ日本の改革をしていかないと、小学校でプログラミングを始めても、まったく意味のないことになってしまうので。
若宮:そうなんですよね。今、コロナで自宅待機になってる時でも、授業を送り出すほうの体制もまだ整ってなかったり、慣れていらっしゃらなかったりするし。家庭もネット環境とかいろいろあって、またそれぞれ大変で。だから、教育一つについてもそんなに大変なんですよね。
山崎:そうなんですよね。なので、そこで若宮さんが政府からいろいろ呼ばれて、大変なところを来ていただいているという(笑)。
若宮:だけどね。この頃、学校や教育委員会に呼ばれてよく意見を聞かれるんですが、一番大事なのは「コンピュータは大事なんだよ、こういうのっておもしろいよ」と、先生が思って授業をやって、それが生徒に伝わることです。
「(デジタル化から)逃げ切ろうと思ってたら、なんでこの年で定年にならないうちにコンピュータと付き合わなきゃならない? 何の因果で……」なんて顔をされたら困るなという気はします。
山崎:今の最後の話、すごくわかりますね(笑)。世の中、年配の教員の方でパソコンがそこまでできない先生もいらっしゃいますよね。その中でプログラミングをやらなきゃいけなくなってるから、そこは日本の小学校教育としては課題ですよね。
中学校も今年から(プログラミングの授業が)始まってますから。来年、高校でもプログラミングが必修になっていくので。若い人たちがこれからちゃんと学ばなきゃいけないので、その環境をどうやって整備していくかですよね。
(プログラミング教育が)指導要領として文科省から出てますから、すごくカリキュラムとかはしっかりできてるんですよね。だけども、じゃあそれを全員が同じように先生として教えられるかというと、まだまだこれからなんだろうなとは思いますよね。
若宮:そうなんですよね。
若宮:プログラミングやコンピュータの一つ手前で、「情報」というのがすごく考え方が違って。エストニアに行ったという話があったんですが、エストニアに行って一番感じたのはそれなんですね。
例えば、自分の健康情報は自分が持ってるわけですね。お医者さんに行くでしょう、それでマイナンバーカードを「先生、これの中に健康情報入ってるから。僕を診察するのに必要だから見てください」なんですよね。私の情報ですから、自分の情報を自分で管理するということ。
だけど、この間もテレビで言ってたみたいに、「コロナでいざという時は保健所から連絡するから、住所と電話番号を言いなさい」って言っても、個人情報だから言わない。「もしかしてあなた、急に悪化して死んじゃうかもわからないんですよ」って言っても(個人情報を)言わない。だから、情報をどう扱うかとか。
山崎:確かに。日本って、例えば生年月日にしても住所にしても名前にしても隠すというか、そういうところはありますよね。もちろん、個人情報をあんまり出したくないっていうのはわかるんですが、ある程度必要な情報を出さなきゃいけないのもあるじゃないですか。
例えばソーシャルメディアでも、今はFacebookはみなさん本名でやってますし。だからたぶん、情報のリテラシーがまだそこまで日本国民のベースが揃ってない。
若宮:そうなんです。だから、やたらになんでも反対するか、気がつかないうちに(情報が)ダダ漏れしちゃってるか、どっちかになっちゃっている。
山崎:(笑)。
司会者:プログラミング教育がどんどん義務化していく中で、これから年配の方や自分たちも、プログラミングを覚えなきゃいけないというお話がありましたが、そういう中で若宮さんに視聴者の方から質問がきておりまして。
やっぱり年を重ねていくと、記憶力や身体機能がどんどん下がっていくのは仕方ないことかなと思うんですが、それに対しての付き合い方ってどうされてますか? というご質問をいただいてます。
若宮:身体機能のほうは立派に低下してまして、耳が遠くなったのと、それから指が効かなくなったんですね。だけど私、もともとおめでたくできてますから。指が10本もあるから。ブラインドタッチはできないけど、でも6本動きゃそれで十分じゃない?(笑)。
(一同笑)
若宮:だからブログラミングなんか、頭のほうがどっちみちついていけないんだから。もしかして1本指でも足りるのかもわかんない。というようなことで、残り物でうまく活用してます。
司会者:(笑)。今あるものでやっていくんですね。大事ですね。
若宮:だってね、先生。指が10本動かなくたってプログラミングってできますよね。
山崎:はい、できます! 間違いないです!
(一同笑)
若宮:だってほら。寝たきりで目だけしか動かない方も、目で合図して、それでもプログラミングしてらっしゃる。だから、本人が「やりたい」っていう気持ちが一番大事でしょう。
山崎:そのとおりですね。「これがやってみたい」という気持ちを、ただやればいいだけなんですよね。それを「プロみたいにすべてを上手にやる」って思うから、話がおかしくなってしまうので。自分がこれを作ってみたい、こんなのを書いてみたい。思い描いたものをただやればいいだけなんですよね。
若宮:おっしゃるとおりですよ。視覚障害で目の見えない方なんかはね、自分で音声で認識して、すごくITを活用してらっしゃるんですよね。ですから、避難指示でも何でも全部わかると。唯一ちょっと困るのが、ハザードマップが読めないけど、それ以外は全部わかるっておっしゃる。だから、本人がその気になればできるみたい(笑)。
山崎:若宮さんもそうですもんね。アートとかを作ってみようと思って、Excelが一番近道だと。それでExcelでやってみて、そしたらいろいろできるようになってきたっていうところが始まりですもんね。だからやっぱり、身近なアプリ、または何か自分が使えそうなもので実現していけば良いってことですよね。
若宮:そうなんです。
若宮:でも時々ね、コンピュータを教えてらっしゃる先生なんかが「うちの生徒は優秀なのがいまして。もうプログラミングは何通りもできるし、電子工学も数学もできるんです。だけど、『何を作ったらいいかわからなくなった。何も作りたくない』って言うんです。どうしたらいいですか」って言われて。
その時に言ったのはね、「じゃあ、誰かのために役に立つものを作って」。例えば本人じゃなくても、自分のお父さんとかお母さんとか、目の不自由なおばあさんに役に立つものを開発するところから始めたらどう? って。そしたら、本人も誰かのために何かしてあげられるし。
「ありがとうね。お前もずいぶん賢くなって、こんな孫がいてうれしい」って、おばあちゃんが喜ぶと、また自分もうれしいから。「いつも会って話をしてれば、おばあちゃんのニーズもよくわかるし、きっと良いものができるよ」ってよく言うんですけど。
山崎:たぶん今、若宮さんが今日のイベントで一番の答えを出してくれたんじゃないかと思ってて。プログラミングをやってて、「作りたいものがない」って言う人いるんですよね。プログラミング、せっかくなんでもできるのに……。
(プログラミングを)覚えて、たくさんなんでもできます。優秀です。だけど、「作れません」っていう人がいっぱいいるんですよね。そしたら、まさに今のが答えです。「誰かのためになるものを作ればいい」という話ですよね。
若宮:そうなんです。
若宮:5〜6年前だったかな。アプリの甲子園で優勝された方で、おじいちゃんが(町を)徘徊をして、いつもおばあちゃんが探すのに困ってるのを見てて。靴のかかとにセンサーを付けてどうこうとかってありましたけど、あれなんかもそうですよね。おばあちゃんが困ってるから、なんとかしたい。
司会者:まさにそれですね。
山崎:もう、それです(笑)。それ以外何もないです。
若宮:でね、作ってもらった人は喜ぶでしょ。「喜ばれる」っていうことが、次の開発につながっていくと思うんですよね。
司会者:喜んでもらえて、また何かを作りたいという意欲が高まって、「じゃあまた次もやってみようかな」というふうになっていきますよね。
若宮:学校でプログラミングを教えていて、いつも落第点を取って叱られてばかりいたら、次の開発には意欲が減っちゃうから。
山崎:確かにそうですね。学問としてというか、学校のプログラミング自体が「作る楽しさ」を教えずに、今のテスト勉強みたいにしてたら、嫌になっちゃう人がいっぱい出ちゃいますよね。作る楽しさを教えるっていうのが、これからのプログラミング教育の大事な部分なんじゃないかなというのを、まさに思いましたね。
司会者:確かに、おっしゃるとおりですね。
若宮:だから先生も、おそらくそういう動機で生徒さんに教えてらっしゃるんじゃないかって。そのへんを教えてください(笑)。
山崎:そうです(笑)。なので、基本的には学校の教え方とはちょっと違うんですね。まず作ることを楽しむことで、できるようになることを目的としてやっているので。「変数とは」「if文とは」っていうのは、あんまりやらないですね。とにかく作って、できてきたら「楽しいだろう?」みたいな(笑)。
とにかく楽しく学ばないと、プログラミングは絶対に無理だと思うので。若宮さんがおっしゃるとおり、プログラミング自体はスポーツに近いと思うんですよね。あとは絵を描くこととか、図工的な感じですかね。何かを工作して、できあがっていくのが楽しくて。
若宮:そうです、そうです。
山崎:そこでわからなければちょっと調べて、足して。それができて喜んで、「うわー楽しい」ってなるから、「もう一回作ろう」という気持ち(になるん)ですもんね。
若宮:ゲームアプリなんかもそうなんですが、結果がすぐ出るでしょ。特にこの頃、iPhoneアプリのSwiftUIを使ったんですが、「あら、赤の色強すぎるわね」「こんなに大きな字じゃここのところが……」とか、すぐ見えるようになってきて結果がすぐわかる。子どもってね、そういうのが好きみたい。
山崎:我々、子どもに近いですよ(笑)。
司会者:感性が子どもに近いという(笑)。
山崎:やっぱり、楽しいからがんばれたりしますよね。
若宮:そうなんです。
司会者:そういう無邪気さは、時には継続の秘訣になったりするんじゃないかなと思うので、「楽しい」は最強ですね。ありがとうございます。
司会者:本当に早いんですが、そろそろお時間も迫ってきています。「自分らしく生きる」「自分らしさ」を今回のテーマにしてるんですが、若宮さんが「今、自分らしいな」と思う瞬間はどういう時か、おうかがいして良いですか?
若宮:コンピュータやプログラム以外でも、何か新しいことを発見できるとすごくうれしいんです。今まで気がつかなかったこととか、今まで知らなかったことを知るっていうのは。
人間ってね、歳を取ると髪の毛は抜けるし歯が抜ける人もいるし、友だちが亡くなるとか、喪失体験と言って、自分の持ってるものが減っちゃうの。みなさん、おじいちゃんやおばあちゃんに聞いてみてください。だけども、何かを勉強すると新しいものをゲットしてくるわけね。失うんではなくて、ゲットする。だからすごくうれしいし。
パソコン教室をやった時もそうなんですが、同じ年代の人が自分が今まで気がつかなかったことをできるようになったりすると、「先生、できましたわ」っておっしゃる時の目がキラキラ輝いてるんですね。やっぱり、ああいうのは大事だと思いました。
司会者:確かに、おっしゃるとおりですね。新しいことを知るとか、新しいことを学んでできるようになる楽しさって、何物にも代えられないものだなと思います。それを若い時だけじゃなくて、いつまで経っても続けられるのは、自分らしく生きていく秘訣になっていくんじゃないかなと、お話をうかがって思いました。
若宮:そうです。
若宮:ですから、大人だからこそプログラミングを勉強しなきゃいけないし、年寄りだからこそITの勉強をしなきゃいけないですよね。
山崎:はい(笑)。これ、2017年に一度対談した時も同じことをおっしゃってたんです。「歳を取ったからできないのではなくて、年齢が上であってもプログラミングはできるからどんどんやったほうがいい」って、若宮さんが言ってたんです。今も同じことをおっしゃってるんだなと思って、「うんうん」と思って聞いていました。
司会者:おっしゃるとおりですね。やっぱり新しいことをぜひ。
若宮:いくつになっても楽しいですよね。
山崎:楽しいですね!
司会者:今回もご年齢が高い方もけっこう聞いてらっしゃるので、ぜひこのお話を聞いて、勇気を持って新しいことにチャレンジする方が増えたら良いなと(笑)。
山崎:若宮さんはめちゃめちゃチャレンジするんですよ。
司会者:本当に。今聞いてるだけでも、そうだなっていうのは伝わってきます。
山崎:今日もfalconさんという方と対談があったんですが、やっぱりチャレンジして、どんどん次にいくような感覚って言うんですか。「考えて『どうしよう』って悩んでる暇があったら、とりあえずやっちゃいなよ」という人が多いような気がします。
若宮さんってそういう方ですもんね、「悩んでいてもどうしようもない。とにかくやりゃあいいんですよ」って、前に言ってましたから(笑)。
(一同笑)
山崎:悩んでること自体が時間のムダですもんね。
司会者:確かにそうですね。とにかく前進していくのは大事ですね。今回のテーマである「自分らしさ」を見つけていくこと対して、「見つからないよ」って悩んでいる方もけっこういらっしゃるんですが。
きっと、好きなこととか目の前のやりたいことをどんどんやっていけば、いつか「こういうのが私らしさだったんだな」と、わかる時がくるんじゃないかなと、この「TOKYO GEEK DAY」を通してすごく思いました。ありがとうございます。
では、もっといろいろ話聞きたいこともあるんですけれども。ちょっと名残惜しいんですが、お時間も迫ってまいりましたので、若宮さんとの対談を以上で終了としたいと思います。ご講演、そして対談の2本立てでやっていただきました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
(会場拍手)
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