2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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――なるほど。先ほど「自分に近い場所で宇宙飛行士が訓練を開始した」というお話もありましたが。内山さんは試験の後も、JAXAという「夢に近い場所」で働かれています。それは内山さんにとってよかったのか。それとも、もっと関係のない仕事のほうがよかったのか。それはいかがでしょうか?
内山崇氏(以下、内山):僕は近くで働けてよかったと思っています。その状況はむしろ、うれしかったですよね。(彼らの活躍を)もっとも近くで見られる“元受験生”だったので。宇宙飛行士になってしまうと忙しくて連絡が取りづらくなってしまうので、逐一報告というわけにはいかない。
忙しいというのもありますが、本当、自分に精一杯で。世界の猛者たちと一緒にものすごい訓練を受けますから、大変というのが大きいと思います。重責ですしね。そうすると僕が仲介者になれるんですよ。どれだけ3人(大西卓哉氏、油井亀美也氏の2名と、補欠で合格された金井宣茂氏)ががんばってるかを、みんなに伝えられる。
「こないだ出張の時に会って、こんな感じだったよ」みたいに、一緒に試験を受けたみんなが気にしてるところの間に入れるというのもあるし、自分自身で間近で見られるというのもありますし。それによってダイレクトに刺激を受けて、自分自身も「がんばろう」と。僕も同じ業界で、宇宙飛行士に物資を届ける宇宙船の仕事をしているので。
それはもう「負けないぞ」というつもりでがんばれるという意味では、一番近くにいて刺激を一番強く出してくれる方たちがいたので。がんばれるモチベーションをもらえたというところは大いにあったので、とてもよかったと思っています。
――ありがとうございます。先ほど、周囲の声に感情的になってしまうというお話がありました。内山さまが書かれた本『宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶』でも書かれてたとおり「次はどうするの」とか「宇宙飛行士をサポートする側に回ったんだね」とか。
言ってる本人はそんなに真面目に言ってないんだけども、受け手の側からするとすごく刺さる言葉というのは、いくつもあるなと思います。そういった時は、どのように対応していけばいいのでしょうか。
内山:そうなんですよね。「この一線より向こう側は、触れてはいけないところなんだろうな」ってすごく敏感に感じてくれる人と、そういうのに鈍感でぜんぜん悪気はなく「わかるよ!」みたいな感じで入ってくる人っているじゃないですか。
その人が嫌いとかそういうのじゃなくて、そういう人たちっていると思うんですけど。それら1個1個にイライラしたり言い返したりするのは、もう本当に意味がないというか。相手の問題というよりは、本当に自分自身の心の問題なんですよね。
それは自分の中でなんとかするしかないなと思ったんですね。そういう意味では「なかなか深い話ができない」というのも、同じような話なんですけど。どうしてもやっぱり「この一線はちょっと越えられたくないな」みたいなところは、ずっとありましたね。
――今の話にも関係してくるところかなと思うのですが、長年の夢に届かなかった人は、どうやってそこから立ち直っていけばいいのでしょうか? 内山さんの場合は「10年かけて、ようやくこの本が書けた」というお話でしたが。そちらにご意見をいただけますか。
内山:難しいところだと思いますね。僕が経てきた10年というのも、本を書いた理由でもあるんですよね。夢に対する自分の気持ちがちょっとずつ変わってきているのを感じつつあったんですけど、それが「なにを起点にしてどう変わってきたのか?」。
宇宙飛行士という夢に対する思いもそうなんですけど「どういう気持ちの変化があったのか?」というところも、ちゃんと客観的に真正面から振り返りたいな、と。そう思ったのが、本を書こうかなと思ったきっかけでもあったんです。
やっぱり、その気持ちの部分って難しいなと。僕の場合はすごく時間がかかって、10年後に本を書き始めることで、ようやく「自分としてこういうふうに対処してきたんだな」というのを振り返って総括した感じなので。
なにか“こうすれば良い”というような答えがあるわけではないんですけど、僕の経験で言うと、まず「夢破れる」というのは、自分自身でコントロールできない部分があるじゃないですか。タイミングとか縁とか。あとは「本当に数が限られた人しかなれないものにチャレンジする」ってすばらしいことだと思うんですけど。でも、その場合、ほとんどの人が夢破れるわけですよ。
それってしょうがなくて。それは自分自身ががんばればなんとかなる領域と、あとは選ばれるかどうかという縁とか運とかの要素もあるので、自分ではコントロールしきれないですよね。「がんばり続ければなれるか?」というと、そうではないと思うんですよ。
だからやっぱり「コントロールできない部分」があることを理解した上で、それに対して「挑戦し続ける自分がどうあるべきか?」ということを、常に一歩引いて客観的に見られるような視点を持つというのは大事かなと思いますね。
――なるほど。客観的に見るために、例えば内山さんの場合ですと、本を書かれたりとか。自分の中から、1回外に出す? といった形でしょうか。
内山:総括ではなくて場面場面で言うと。僕は幸いにも、ほぼほぼ夢に近い「こうのとり」のフライトディレクタという仕事だったり、これまで世界でも作ったことのない宇宙船を手がけるということだったり、相当にワクワクすることに携わらせていただけていたので。それって、かなり夢に近いことだったんですよね。
だからそれは、僕の「自分自身を支える柱」だったなと思っています。言ってしまえば僕は“二股かけてた”んですよ。だから、もしも1個がだめでも自分としては軸があるような選択の仕方をしてきている。これは1つ、前提としてはあるんですけれども。それ自身にとにかく打ち込んで、今、自分がやれることを精一杯やろうと。すぐ横でがんばって訓練している宇宙飛行士候補者や、同じく夢破れた仲間たちに負けないように、自分もがんばろうという気持ちは常に持っていました。
それは夢を追うことにかなり近い「夢に併走している」という状況。「もう1つの夢」をしっかり走らせていたというのが、まず1つあったとは思います。「なにもなくなった」わけではなかったので。しっかりとそこは、バックアッププランじゃないですけど「もう1つの軸を持った上で、宇宙飛行士に挑戦していた」という、自分を支えられるもう1つの軸があったという意味では、大きかったのかなと思います。
夢を追う。しかも実現可能性が低い夢を追うのであれば、それはやっぱり二股でも三股でも、いくつでも。「これがだめだったら、これでがんばる」みたいなものは、やっぱり持っておくべきだろうとは思うんですよ。
人生そんな狭い、本当に一握りどころか「ちょっとの人しかなれない宇宙飛行士1本に、人生かけます!」みたいなのは、客観的に見るとリスキーすぎますよね。もちろん、がんばって挑戦するというのはいいと思うんですけど、やっぱり冷静に「あなたのかけてる勝負は妥当かどうか?」「勝ち目があるのか?」というところで、やっぱり1つ、一歩引いて自分を客観視する視点は持っておくべきだろうなとは思いますね。
挑戦するのはもちろん、僕はどんどん挑戦したほうがいいというタイプなんですが。それはやっぱり「賢く挑戦しないといけない」というか、客観的に自分を見られる視点は、ちゃんと持っておいたほうがいいですね。
――要は、チャレンジと無謀は違うみたいなことですよね。
内山:そうです。違いますね。
――なるほど。無謀なことをやり続けて、それ1本でやって失敗したら、もうどうにもならなくなるから。賢く「自分は今どこにいて、そしてなにを目指しているのか。これはもしかしたら無理かもしれないから、こっちという選択肢もあるよ」という可能性を自分に残しておく。
内山:はい。人生設計みたいなものだと思いますけれどね。
――そちらの人生設計に関連して、お伺いしたいことがありまして。なにかを諦めることに、適切なタイミングはあるのか? 例えば「30歳になったから」とか「10年やって芽が出なかったから」とか。または「もうやめたほうがいいよ」と誰かに言われたからとか、どのタイミングで夢を諦めるジャッジを自分に下せばいいのか? ってすごく難しいなと思っています。
内山:難しい。それは本当にケースバイケースだと思いますね。例えば「30歳までに」とか、自分の中にリミットを設けるというのは、賢いやり方だなと思いますね。それがないと、そもそもがんばれないじゃないですか。「永遠にがんばり続ける」なんてありえなくて。それってちゃんと本気で夢を目指してるのかな? という気もするし。
例えば「3年はがんばろう」とか「5年はがんばろう」とか。やっぱりそういうのって、大事だと思うんですね。近いところにゴールというか「ちっちゃいゴール」を置く。マイルストーンを置くみたいなのは大事だと思います。それはケースバイケースで、目指している夢によっても「3年にするのか、10年にするのか」みたいなところは変わるとは思いますけど。
だけど「そこまでは、ちょっとがんばってみよう」という意味で、モチベーションを維持してがんばってみるというのは、いい挑戦の仕方だと思いますね。
内山:ただ「諦める」時って、やっぱり「100か0か」じゃないと思うんです。僕も本で書いてますけど、僕の夢って「宇宙飛行士になること」とイコールではなかったと思っていて。結局は「宇宙飛行士になって、なにをやりたいか?」「なって自分として、なにを成し遂げたいか?」ということなんですよ。
「なって終わり!」じゃないですよね。つまんないというか。だって「宇宙飛行士になってどうすんの?」って話じゃないですか。だから「なってなにがしたかったのか?」を、突き詰める必要があって。なにがしたかったか? に対して「それは宇宙飛行士になることだけが手段なんですか?」というところを、僕は考えたんですよね。
もともと僕は宇宙飛行士になって「日本の有人宇宙開発を前に進めたい」と。「遅々として進まない宇宙開発」というところがあるので、特に有人宇宙開発の分野でがんばりたいなと思っていた。
でもそれって、実は今やってる仕事の延長でもある。「宇宙飛行士になることだけが、自分が本当にやりたかったことを達成するための手段ではないな」ということに気がついて。「むしろ今のポジションのほうががんばれるんじゃないか?」という、発想の転換というか。諦めるんじゃなくて「夢の実現方法を変える」っていうんですかね。
そういうかたちで、新たな夢を、まったく違う夢ではなくて実は関連している。「夢を別のかたちで実現する」という感じですかね。アナザールートを見つけたという感じで、自分の中で納得していった。
「あ、なるほどな」「自分のやりたかったことって、こうだよね」というところに気がついたというのが、本を書いたことによる成果でもあったなと思っています。
――ありがとうございます。では最後に、今まさに夢に挑戦している人、そして夢に破れてしまった人に対して、メッセージをいただけますでしょうか。
内山:はい。「挑戦するなら、とにかく『本気で挑戦すること』を心がけるべき」と、僕は思っています。
というのも僕の経験も踏まえて実感として言わせていただくと、本気で挑戦した結果は、それが当初の目標としていたゴールに達しなかったとしても、それを手に入れることができなかったとしても、本気で挑んだプロセス自体が必ず後で役に立つんですよ。
ただし「本気でちゃんとそれに立ち向かったかどうか?」がポイントなんですね。本気で、本当になりたいと思って、あらゆる手を尽くして努力し続けたら、めちゃくちゃたくさん得てるものがあるんですよね。
僕は本を書くことでそれに気がついたんですけど、やっぱり本気で挑戦した結果、得られるものがたくさんあって。それが自分を成長させてくれるんです。
それはやっぱり、本気でやった結果としてついてくるものなので。ぜひ、いろんな興味のあるもの、なりたいもの、夢を見つけたら、それに向かって本気であらゆることを考え尽くしてやり尽くして挑んでほしいなと思います。
それがたとえ、そのゴールに達しなかったとしても、たくさんのものをもたらしてくれるし、その後の人生を豊かにしてくれることだと思うので。
人生は短い。思い立ったときに挑戦する。そして何歳からでも挑戦し続けることを、僕はおすすめしたいです。そして自分もガンガン挑戦し続けていきたいと思っています。
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