2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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司会者:ここからは田久保を交えまして、対談に移りたいと思います。では田久保さん、よろしくお願いします。
田久保善彦氏(以下、田久保):山口さん、大変興味深いお話をありがとうございました。私からも少し、ご質問をさせていただければと思います。
まさに意味のイノベーションという話で、「意味を持たせた人たちが、これからの時代に勝っていくよね」みたいな話があったんですけども。
山口周氏(以下、山口):あとは、「役に立つ」でトップを取るかですね(笑)。
田久保:そうですね(笑)。例えばライカやヨーロッパの自動車のように、「意味があって役に立つもの」もしくは「意味があるんだけどあんまり役に立たない」という土俵で勝っている会社を見た時に、どうしてもヨーロッパの会社が多いなという気がしないでもないんです。
山口:わかります。
田久保:どういうケイパビリティがあると勝負しやすいのかお伺いしたくて。例えばさっきのカメラの話でも、僕もカメラ好きなんですけど、日本製のカメラって尋常ならざる機能じゃないですか(笑)。
山口:恐るべき高性能ですよね。シャッタースピードが1万分の1秒とかですからね。
田久保:それにも関わらず、相当腕が良くないと撮れないライカが売れて、誰でも写せるカメラはあんまり売れないようなことって……どういうケイパビリティによって、そういう意味のイノベーションができるか・できないか。山口さんは、どんなふうにお考えでいらっしゃいますか。
山口:さっきのマトリクスで言うと、ある意味ではヨーロッパの会社はまず、日本にやられたんですよね。「役に立つけど意味がない」というところに、例えばスイスの時計メーカーやヨーロッパのカメラメーカーが当時たくさんいて。そこに殴り込みをかけたのが日本のクオーツであり、ニコン、キヤノン、オリンパス。高性能かつ安価なカメラが、「意味はないけどものすごく役に立つ」というところで売れていったわけです。
結果、何が起こったかというと、ヨーロッパのカメラメーカーはほとんど潰れたわけですよね。あるいはスイスの時計メーカーも、最盛期は600社ぐらいあったと言われていますけれども、今だいたい60社ぐらいですから。9割は潰れてしまったわけですよね。ですから、ほとんどが「意味」のほうに移れずに脱落したことは、まず言っておかないといけないと思うんですね。
山口:その中でたまたまなのか、あるいは意識的になのか、日本のメーカーとは違う、顧客に選んでもらう理由を作ることに成功した会社。例えば「月に行った時計ですよ」というオメガですとか、「永遠に冒険心を失わない人のための時計」という、高貴な立場なんだけれども探検も失わない、ロレックスのブランドポジショニング。あとは航空機パイロット用の時計のブライトリングですとか。
極々少数の、たまたま元から持っていたヘリテージ(伝統)とか意味を、市場の文脈にうまく当てはめてブランディングすることに成功した会社だと思うんですね。
ポルシェも今でこそすごい好業績で、営業利益率が20パーセント近く出るような会社になってますけど、80年代には潰れかけていますからね。そのきっかけは、「フェアレディZだ、スカイラインだ」ということで、超高性能な日本車が出てきたことで。
あの当時からポルシェはある程度、意味的な市場を作れてはいたと思いますけれども。そういう意味の形成に関して言うと、まだ現時点よりぜんぜん甘かったと思うんですね。それで1回潰れかけてたってことで。
わかりやすく言うと身も蓋もないんですけど、これはブランディングの力だと思います。そのブランディングもフリルとか容姿のデザインではなくて、一橋大学の阿久津(聡)先生が言うところのコンテクスト・ブランディングですね。
今までの来歴や会社のトラディションなどに根ざした、バックグラウンドやコンテクストがしっかりある。そういうブランディングに長けているところが、意味を作るのに成功してる気がします。
田久保:なるほど、ありがとうございます。次が、「令和の価値観」と「昭和の価値観」という話があって。このオリンピックを見ていても、ずいぶんそれを感じるところがありました。スケボーなんか、みんなイヤホンをしながら乗るのが当たり前みたいな世界観の中で、若い人たちが本当にすごくがんばっている。
そのような価値観の差を考えた時に、山口さんのスライドの中に「新しい価値を生み出すにはアートが必要なんだ」という言葉があったんですよね。
山口:えぇ。
田久保:最近は「論理思考」、それから「デザイン思考」、最近だと「アート思考」みたいな、いろんな「○○思考」というのも言葉としては躍っていると思うんですけども。山口さんの本をよく読むと、別に論理思考が必要じゃないとは一言も書いておらず。
山口:僕は超大事だと思ってますからね(笑)。
田久保:コンビネーションしてください、という話なんですけども。じゃあ、アートが必要な時の能力は、どんなふうに高めていけるんだろうかとか。もしくは山口さんはどうやってそこを高めていったのかという部分は、聞いてくださってる方がすごく興味があるところじゃないかなと思うんですけども。いかがでしょうか。
山口:「美術作品を見ろ」というような一辺倒なことでは、ぜんぜんないと思うんです。だからアニメが好きな人であれば、アニメをたくさん見ることだと思います。やっぱり「ビジネスを通じて人の心を動かす」ことが求められていると思うんですね。
ですから、先ほどの時計やポルシェもそうですが、「死ぬほど欲しい」と思わせる、ある種の感情に訴えかけるものをビジネスで生み出していくことを考えた時に、人の感情が動くものにたくさん触れている人とそうでない人は違うと思うんですね。
人の心が動くものは何かと言ったら、もしかしたら音楽や美術作品もあるかもしれないですけども。ほかにも例えば、漫画とかアニメとか現代小説とかでも、むちゃくちゃ心揺さぶられるシーンがたくさんあるわけですよね。
ですから、自分がそういうものにたくさん触れることと、あと「自分のツボがどこにあるのか」っていうことだと思うんですね。
山口:僕は奈良にある中川政七商店という会社の社外取締役も務めていて、十三代目の中川政七さんといろいろと活動してるんですけども。彼が、「自分が本当にモチベーションを感じるものは何か」に気づいた時のエピソードがすごくおもしろいんです。
子どもと一緒に『ウルトラマン』の映画を見にいったらしいんです。当然(今の)子どもが見ているウルトラマンなので、僕らが見ていた世代のウルトラマンじゃなくて、新しいウルトラマンなんですね。ちなみに彼は、田久保さんと僕と慶応の同期なんだけど(笑)。
田久保:(笑)。
山口:そのウルトラマンが、敵があまりにも強くてボコボコにやられちゃった時に、(仲間が)助けにくるんですよ。その助けにくるウルトラマンが、いわゆるゾフィーとかセブンとか。
田久保:古いやつですね。
山口:古いウルトラマンが総勢で助けにきて、これがもうめちゃくちゃ強いらしいんですね。そこで不甲斐ないことに中川政七さん、子どもの前でわんわん泣いちゃったらしくて(笑)。それが自分の内面を考える、すごくいいきっかけになったと。
なんであの時あんなに泣いちゃったんだろうと思った時に、やっぱり本当に困っていて「助けてほしい」と思っている人のところに出ていって、ちゃんと実力があって助けられることが、自分が一番かっこいいと思うことなんだと発見したらしいんですね。中川政七商店は、「日本の工芸を元気にする!」というブランドステートメントを掲げているんですけども、それが元で出てきてるんですよ。
山口:それは高尚な文学作品やアート作品ではなくて、たまたま見にいった『ウルトラマン』がきっかけになって。でも、本当に心を揺さぶられた体験について、なぜだろうと考えた時に、そういう根源的なある種の「価値」に行き当たったそうなので。
田久保:なるほど。
山口:多くの人が心を動かしているものって、きっと良いはずなので。僕も自分の好きなものだけに狭くなりがちなので、ある意味でディシプリン(訓練)と思って……「観るべき映画リスト100」とか、「死ぬまでに聴くべきロックアルバム100」とかってあるじゃないですか。
本当はいやだなって思いますけど、ディシプリンだと思って、観たり聴いたりしてますよ。そこには、何かのヒントが絶対あるはずだと思って。これは10年以上ずっとやっていますね。けっこういやですけど(笑)。
田久保:なるほど。日常で何も感じない1日を終えてしまうのではなく、やっぱり何か非日常というか、強制的にでもいいから自分の価値観のままだと入ってこないようなものまで突っ込んでみた時に、魅力に感じるポイントを見出すことができるような。
山口:そうですね。あと、田久保さんがカメラをやられるんだったらわかると思うんですけど。僕がカメラをやろうと思っているのも、カメラで写真を撮る時って、外に目がいくじゃないですか。世の中にはたくさんきれいなものはあるんだけど、僕たちはすぐ頭の中の処理に入って仕事のことを考えたり、スマホを見たりしてしまう。
道元禅師の言葉で「編界不會蔵(へんかいかつてかくさず)」という言葉があって。真理は常に目の前に開かれているのに、それに気がつかないのは悟れないんじゃなくて、ただ単にあなたがブラインド(見えていない状態)だからだ、という教えがありますよね。
だから見る力をある種維持するために……僕は「世界にピンを刺す」と言ってますけれども、ある風景そのものを標本として取ってきて、自分の中にピンとして刺していく感覚がすごくあります。それでカメラをやっていますね。
田久保:なるほど。なにかをフレーミングして切り出した時に、自分が何に興味があったからこういうフレーミングになったんだろうというのも、撮ったあとにいろいろ気がついたり。
山口:そうなんですよ。あとでまた教えられたりするところ、ありますよね。
田久保:回数を重ねて自分の感覚を学んでいくようなことが、アート力を鍛えるようなことになるのかもしれないですね。ありがとうございます。たくさん質問がきているので、私からはこれで最後にしたいなと思うんですけども。
田久保:私、山口さんのアートの話の新書を何冊か持っているんですが、本のなかであんまり、「コミュニティ」とか「ネットワーク」などに触れていなくて。
めちゃくちゃ頭のいい人は全部自分の中に持ち込めるのかなと。論理思考もできるしアートもできるし、いろんなものを頭の中にってこともあるのかもしれない。
一方で、やっぱりお友達の強い部分とうまくコラボレーションしたほうが、手っ取り早くレバレッジが効いたり可能性も広がるよね、みたいなことで。僕はなんとなく高校時代からサボり癖がついていて、すぐ友達に頼っちゃうんですけど(笑)。
山口:塾高生の悪い癖ですよね(笑)。
田久保:そうですね(笑)。そういう意味で、山口さんにとってネットワークやコミュニティの意味って、この「ニュータイプ」について考えた時に、どのように位置づけられているんですかね。
山口:僕の本の中にそこがあんまり出てこないのは、たぶん苦手意識があるからだと思うんですね。だから先ほどの「コンテンツを自分で仕入れる」ということほどは、真面目にやっていない気がしていて。
たぶんキャリアの志向性がもともと研究者肌というか、大学教員になりたかったというのが未だにある人間なので、そっち(ネットワークやコミュニティ)にいかなかったんだと思うんですけども。
一方で先ほど(第一部で)見ていただいた小林一三さん(阪急電鉄をはじめとする阪急東宝グループの創業者)は、完全なプロデューサーですから。彼みたいな方向でビジネスをやっていこうと思ったら、ネットワークとか人脈という社会資本は命ですよね。
その(人脈を)作るにあたって何がカギになるかというと……僕、人脈って3レイヤーに分けて考えないといけないと思っているんです。
これはネットワーク理論でもよく言われることですけれども、ファーストレイヤーはいわゆる「超近い人」。学生時代からずっと親友とか、場合によっては家族だとか。そういうネットワークがまず第1レイヤーでありますと。これがあんまりキャリアの開発には役に立たないのは、研究からわかっていると(笑)。
一方で「単なる知り合い」が第3レイヤー。僕はこの第3レイヤーも、そんなに役に立たないと個人的には思ってるんですね。それで、カギになるのが第2レイヤーの人。これはどういう仲間かと言うと「修羅場を一緒にくぐった人」なんですよ。
山口:僕、コンサルティング会社にいて、辛いプロジェクトもたくさんあったんです。やっぱりお互いに誠実に仕事に向き合った人は、ものすごくかけがえのない信頼関係を(結べる)。
だからグロービス(経営大学院)で言うと、教員の若杉(忠弘)さんなんか典型例なんですけれども(笑)。本当にもう、泥を一緒に食べたみたいな経験をしていますから。だから今でも「本当に困っているから助けてください」と言われれば、あらゆる仕事の優先順位を劣後させて駆けつけますね。逆に自分もずいぶん助けてもらったので。
なので、今ここで聞いてらっしゃる方に(言いたいのは)、単に名刺交換をした人や、知り合いの知り合いで紹介された人に、何か頼みごとができるかと言ったら、できないと思うんですね。信用の熱量は伝播するので。
例えば僕がものすごく信頼してる人から「この人の話をぜひ聞いてやってください」と言われれば、やっぱり同じ熱量でもって当たるわけですよね。
だから非常に熱量の高い楔(くさび)を、キャリアのどこかで打っておかないと。第3階層のレイヤーの人脈だけをいくら広げても(意味がない)。名刺をたくさん持ってるし、「あの人は俺知り合いだよ、名刺交換したことがある」とか言うけど、いざ連絡してみて何か頼めるのかというと、どうなのかなって。
その人がお金を持っていれば(相手も)動きますよ。でもお金を持っている関係でしか成立しないものって、本当に人脈って言えるのかな。お金の切れ目が縁の切れ目で。
田久保:ちょっと違いますね。
山口:うん、違う。だからお金の話を抜きにして、頼まれたら即答で「手伝いますよ」って言ってくれる人(がいる)というのは、結局(お互いに)どれだけ誠実に「あの人はやってくれる」って印象を仕事の中で残していくかなので。目の前の仕事に一生懸命取り組んで、信用の貯金をしていくのが、第一という気はしますよね。
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